第78話 少々戯言を許されたく(8月32日)
知った方に誕生日を聞かれた際に、私は冗談で二月三十日と答えるようにしている。
公文書や契約書などでこうしたことをやるわけには行かぬが、特に親しい者を除いては祝っていただくことに遠慮と負い目を感じてしまうためこれで躱してしまう。
気にすることはないと言われてしまいそうであるが、なに、私自身が他人の誕生日を覚えるのが苦手であり、お返しに困るというのが実情である。
ただ、これで困るのは鵜呑みにしてしまいそうになる人が時に出てくるということであり、精一杯に含みのある笑顔を向けても珍しいですねの一言で片づけられることがある。
現在の暦で二月が最大でも二九日までしかないことは常識と思っていたが、どうやらその認識を改めねばならぬらしい。
常識というのは、あるいは私が常識に囚われ過ぎていることを証明する物差しに過ぎないのかもしれない。
全く、これではファンタジーの幅も狭まり、文筆家としては小さくなってしまうではないか。
新型コロナウィルスのワクチン接種の二回目が明後日に迫りつつある。
一回目の摂取では腕が痛いというよりも上げられぬようになり、下半身に麻酔を打った時のような不思議体験を大いに楽しんだものである。
しかし、残念ながら無料の電波通信に繋がる体質にはならず、ゾンビ化もせず、何一つ変わらぬ日常を今のところ過ごしている。
それを幸せとするのが一個人としての私であり、ネタにならぬと嘆くのが小説家としての私であり、それでも何か書いてやろうと思うのがエッセイストとしての私である。
そこで何か奇想天外な副反応のネタを考えようとしたのであるが、それは終わらぬ夏休みの宿題のように一歩も進まずここまで来てしまった。
何とも常識の檻に囚われた虚しい話である。
考えてみると常識という言葉から解放された人間の夢想性というのは華やかなものがある。
デマとされた副反応の数々も、中には夢のあるお話もあり、中には実際に電波通信可能な小型機材を皮下注射するという実験も行われつつあるようだ。
不老不死を目指して水銀を飲んだ時代とは異なり、それを遺伝子工学の分野から取り組む研究者もいる。
私であればとんだ夢物語と片付けてしまいそうなことを、熱意をもって研究した末に何が待つのか興味は尽きない。
尽きぬものの、私の思考の幅はそれほどに狭いということだ。
それは地球が動いているはずがないと言った人々と、内容こそ違えで思考回路は変わらぬということでもある。
より柔軟に物を見る目を養わねばならぬだろう。
そのうえで自ら判断をする、この思考訓練を心がけたい。
幼少の頃、九月の一日が来なければよいと願いつつも叶わぬものと嘆いたこともあった。
しかし、それが現実となったゲームはバグと処理されてしまい、壊れた世界を漂うこととなる。
常識の外にある世界を覗き込む深みを知る今、その波打ち際を行くというのは危うくも愉しいものである。
【本日の出来事】
◎広島の被爆遺構 部分保存へ
「将来に禍根遺す」という被爆者団体の言葉が挙げられているが、この禍根は何を指すというのだろうか。
もし、それが被爆遺構の全面保存の不備を指すというのであれば、原子野となった大地を二度と使うことはできなくなり、広島という町は永遠に消えることとなっていた。
何を残し、どのように街をつくるのかという考えを、被爆者団体であればまだしも文屋がそのまま伝えるというのはいかがなものか。
両論併記に中庸は欠かせぬ要素である。
◎長崎国際大調査 モデルナ製コロナワクチン副反応 女性に多く発生
なるほどと思って記事を確認したところ、調査方法も対象の人数も示されぬものであったため、本記事の信憑性が著しく低下してしまった。
また、発症率について一回目はまだしも二回目は二パーセントの差を以って未成年の方が発症率が高いと締めている。
そのまま載せるのも結構だが、その対照群の人数などから検証を行うのが記事を書く上での筋ではないのか。
悪戯に数字を弄ぶのを止めねば、マスメディアはいずれ狼少年の名を背負うことになるだろう。
【食日記】
朝:大きなメンチカツ
昼:ちくわ天冷やしうどん、山葵おにぎり、野菜ジュース
夕:ゆで卵、大根と豚バラの甘煮、無水野菜カレー
他:おーいお茶
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