第440話 ベクトリア公国出立準備2

 ベクトリア公国に出発する前に、フォルトがやること。

 その一つは、身内とのデートである。バグバットとの面会を終えて数日後、カーミラを連れて、ガルド王が住まうドワーフの集落に向かっていた。

 今回の同行者は、アーシャとベルナティオである。

 さすがにスケルトン神輿みこしだと、移動に時間がかかる。ゆえに透明化の魔法を駆使して、空から近づいた。人数が少ないので往復する必要はない。

 また荷物があるため、大きな背負い袋を運んでいた。


「さて。この辺に作っておくかな」


 フォルトたちが着地した場所は、集落から五キロメートルほど離れている。

 特に目印になるものは無いが、自身の魔力を設置しておく。転移魔法を使うために必要で、転移先の目標となるのだ。

 いずれはドワーフの集落に、家か小屋が欲しい。


「フォルトさん、転移魔法って一人用だっけ?」

「魔法を受け入れれば、他の奴も転移させられるな」

「じゃあ帰りは楽だねっ!」

「うむ。だが一日に二人が限界だ」

「マジ?」

「魔力がごっそりと、な」


 フォルトは左手にめた指輪を見る。

 これは自身の力を隠すためのフェイクで、消費魔力軽減の指輪としてある。本当にあれば欲しいところだ。

 一人であれば、幽鬼の森から瓢箪ひょうたんの森まで転移できる。とはいえ消費量が物凄いため、魔人といえども枯渇寸前だった。

 実際に先日、転移先を設置するために行ってきたのだ。大婆の家の隣に小屋を建ててあるので、そちらを使うと伝えてある。

 

「きさま、フェブニスは元気だったか?」

「ははっ。泥まみれでゲッソリしてた」

「泥?」

「レティシアがやってた百人抜きだな。ご愁傷様……」


 ベルナティオの言ったフェブニスは、泥男の試練の続きをやらされていた。

 続きというように、レティシアが途中までやっていた試練だ。彼女はフォルトが幽鬼の森に連れていったので、泥男の核となる魔物が余ってしまった。

 大婆は暇潰しがてら、それを使って彼を鍛えていたのだ。


「御主人様、スケルトンを出してくださーい!」

「よし!」



【サモン・スケルトン/召喚・骸骨兵】



 フォルトが召喚した二体のスケルトンには、背負い袋を持たせた。

 本来ならもっと召喚して、スケルトン神輿に乗りたい。しかしながら台座が必要なため、今回は徒歩で向かう。

 原生林の中を進むが、ドワーフ族が踏み潰して作ったような道はある。しかも集落が近いので、魔物が弱いうえに少ない。

 チョンチョン程度であれば、ベルナティオの『剣風斬けんぷうざん』だけで十分だ。


「とりあえず三日間の滞在な」

「はあい!」

「初めてだから楽しみだわっ!」

「私もだな。ブロキュスの迷宮より先は来たことがない」


 フォルトは集落での予定を伝えながら、道なりに進んでいく。

 そして雑談をしながら歩いていると、ドワーフの集落に到着した。一度マリアンデールやルリシオンと訪れたことがあるので、入口は分かっている。

 現在は幽鬼の森から外に出たので、おっさんの姿だった。


「何じゃ何じゃ! また人間か?」

「おや? お主は見たことがあるのう」

「今回は魔族の姉妹はおらぬのか?」


 陽気な三人組の門衛だ。

 どうやら人間の顔は判別できるようで、フォルトを覚えていたようだ。ならばと前に進み出て、片手を挙げて挨拶する。

 もちろん、集落に入れられないスケルトンは送還した。


「久しぶりだな。ガルド王はいるか?」

「すまんのう。王は他の場所におる」

「また放浪か?」

「いんや。エルフの里じゃ」


 この門衛たちは、フォルトがガルド王の客人だと知っている。

 ヒドラの討伐が終わってから忙しく、色々と飛び回っているようだ。今回はエルフの里で、大族長会議が開かれているらしい。


「なら宿に泊まろう」

「ワハハハハッ! 三人も女を連れてお盛んじゃのう」

「ちょ!」

「六人組の人間が使った部屋が空いとるはずじゃ」

「………………。シュンたちか?」

「名前は知らぬ。とっくに出てったぞ」

「そうか」


 シュンたちがドワーフの集落に来訪することは、酔ったアルディスから聞いた。報酬で武具を製作するらしく、エウィ王国に帰還する前に訪れていた。出発は知らないが、鉢合わせにならなくて重畳である。

 とりあえず、宿をとれば良いか。


「あ、そうだ。ドライゼンって奴はどこにいる?」

じじいか。ガルド酒造所の近くじゃな」

「あぁ……」


 前回訪れたときに、マリアンデールとルリシオンに案内された鍛冶かじ工房。フォルトは鉄を打たせてもらったが、床に穴を開けたことを思い出す。

 時間が経っているので、もう怒られないだろう。


「カーミラは宿をとっといてくれ」

「はあい! 後で行きますねぇ」

「うむ。あ、コルチナの居場所も聞いといてくれ」

「分かりましたあ!」


 ドワーフの集落に来た目的は、武器製作とコルチナに会うためだ。背負い袋の中身は、天使が装備していた武具と大蜘蛛おおぐもの粘液である。

 武具は軽いのだが、やりは長いので袋から飛び出していた。


「何か凄い槍を持っとるのう」

「まあな。これから三日間は世話になる」

「用があれば何でも言ってくれ。門からは離れられんがの」

「「ワハハハハッ!」」


 要は用事を頼めないということだ。

 くだらないが、ちょっとだけ笑える。槍について突っ込んでこないのも、ドワーフ族らしく好感が持てた。

 カーミラと別れた三人は、ドライゼンの工房に向かう。アーシャがキョロキョロと周囲を眺めて、時おり驚いた表情を浮かべていた。

 そこでフォルトは、気になっていた質問をする。


「アーシャ、ドワーフはどうだ?」

蜥蜴とかげ人族の集落で見たけどねぇ。問題ないわよ?」

「そうか。おっさんに見えないか?」

「性的な目で見られないからね。大丈夫よ」

「なるほど」

「でも面白そうな種族だよねっ!」


 アーシャがなぜ、おっさんを嫌っていたかは聞いていた。歳の離れた中年教師に言い寄られたことが原因である。

 そしてドワーフ族は、ひげもじゃで酒樽さかだるのような体型だ。背は低いが、人間の中年に見えなくもない。しかしながら彼女は、別種族の人間として見られていた。

 フォルトの気にし過ぎだったようだ。


(作るのはカーミラの大鎌とティオの刀だ。天使の武具からいけると思うが、まぁ名工って言われてるし大丈夫、か?)


 可能かと問われれば可能である。

 ただし、現実的ではなく再利用できる分量は減ってしまう。ノウン・リングでの話なので一概には言えないが、おそらくは変わらないと思われた。となると、武具から抽出した分量で足りるかが問題となる。

 このあたりは専門でもないので、ドライゼンに聞くしかないだろう。


「何じゃ何じゃ? また人間かっ!」


 そして、ドライゼンの鍛冶工房に到着した。

 何となく見たことがあるような。ないような、といったドワーフが呼んでもいないのに出てきた。口調が門衛と同じなのは、種族的なものかもしれない。

 フォルトとしては、ガルド王以外のドワーフは同じに見える。


「えっと……。ドライゼンか?」

「はて? お前とはどこかで会ったか?」

「一度だけ工房を見学したな。だから会ったかもしれん」

「名前は?」

「フォルト・ローゼンクロイツだ」

「ローゼンクロイツ……。おぉ! ガルドの客人か?」

「うむ」


 ガルド王にとって、この集落のドワーフは家族ぐるみの付き合いだ。

 王になる前は、鍛冶職人で酒職人だった。放浪癖もあるため、集落を歩き回るのは日常茶飯事である。


「それで?」

「刀を二振と大鎌を一本。素材を渡すから作ってほしい」

「インゴットがあるのか?」

「いや。武具なんだが……」


 話に区切りが付いたので、フォルトは背負い袋を地面に下ろす。

 そしてドライゼンに見せたところ、驚愕きょうがくの表情を浮かべていた。髭で隠れてよく分からないが、目を見開いているのでそう思っただけだ。


「オリハルコンの武具ではないかっ!」

「天使を倒して入手したのだ」

「天使……。うーむ。ガルドが何か言っとったのう」

「すべて使っていいので頼めるか?」

「ワシの所の溶鉱炉じゃ駄目じゃな」


 オリハルコンは、神の鉱石と呼ばれている。

 レベル百五十のカーミラが使った闇属性魔法でも溶けていない。もしかすると、ルリシオンの火属性魔法でも無理かもしれない。

 ドライゼンは渋い表情をしていた。


「じゃあ無理なのか?」

「いんや。ドワーフ族の粋を集めた溶鉱炉がある」

「ほう」

「じゃが、ガルドが戻らんと駄目だな」

「分量は足りるか?」

「魔法を使うからほとんど使えるぞ?」

「さすが!」

「納品までの時間は?」

「二週間」

「馬鹿を言うな! 半年はもらう」

「わっ分かった」


 さすがは異世界と言ったところか。

 武器については、ベクトリア公国に旅立つ前には欲しかった。と言ってもフォルトは、日本での知識があるので無理だとも思っていた。

 刀の場合は最短で二週間程度、職人によっては半年から二年ほどか。世界が違うので当てはまるかは分からないが、ドライゼンは半年と言った。

 所詮は付け焼き刃の知識である。職人に任せる他は無い。


「誰が使うんじゃ?」

「ここにいるティオと……」

「御主人様、戻りましたあ!」


 タイミング良くカーミラが追いついた。

 本来の目的は、彼女の大鎌である。


「手を見せてみろ!」

「必要か?」

「うっ!」


 フォルトには分からないが、ベルナティオが何かをしたようだ。

 王国〈ナイトマスター〉アーロンと闘技場で対面したときに、覇気がどうたらと言っていたことを思い出した。気合みたいなものを発したのだろう。

 手を触られたくないと思われる。


「なっ名前から察すると……。まさか〈剣聖〉か?」

「そのとおりだが、名工とうたわれる御仁だ。私の刀を頼めるか?」

「………………。いいじゃろ。ワシが打ってやるわい!」

「よろしく頼む」

「大鎌は……」

「えへへ。お願いしますねぇ」

「うっ!」


 カーミラも何かをしたようだ。

 もちろん、フォルトには分からない。彼女はベルナティオより強いので、同様の何かを発したのだろう。

 やはり触られたくないと思われる。


「フォルトさん! あたしの武器は?」

「あぁ……。リリエラが頼んでいたはずだな」

「リリエラじゃと? あの人間の小娘も知り合いか?」

「俺の身内だ。連れの三人も、な」

「鉄扇じゃったな?」

「うむ」

「何とか作ったがな。まぁできてるぞ」

「やった! 使うのはあたしぃ」

「ちょっと待っとれ!」


 工房の奥に向かったドライゼンは、鉄扇を持って戻ってきた。

 開いて斬れるように依頼してあったが、素材をミスリルにしたようだ。模様などは描かれておらず、物凄くシンプルだった。


「では納品したぞ」

「前金はリリエラが払ったよな?」

「もらっとるな」

「カーミラ、残金を払っといてくれ」

「はあい! いくらですかぁ?」

「オリハルコンの余りをもらって良いのだろ?」

「すべて使っていいと言ったしな」

「なら相殺してやる。刀と大鎌も同様だ」

「マジかっ!」


 オリハルコンは、鉱山で採れない代物だ。

 今回のように天使から入手するか、たまに天界から落ちてくるらしい。落下地点など分からないので、超が無数に付くレアアイテムである。

 それを言い当てたドライゼンは、オリハルコンを打ったことがあるようだ。価値は非常に高いが、まるで出回らないわけでもないのだろう。

 ちなみに、ドワーフ族の宝物庫にも存在する。


「いやはや。久々に腕が鳴るわい!」

「後はどうすればいい?」

「柄の部分など色々と測らせてもらう」

「ならカーミラ、コルチナの居場所を教えてくれ」

「はあい! えっとですねぇ」


 武器については、二人が納得するまで注文を付ければ良い。時間がかかると思われるので、終わった後は宿に戻ってもらう。

 フォルトとアーシャは、コルチナの服飾工房に向かうつもりだ。

 ここからが、二人きりのデートになる。彼女はファッションが好きなので、服飾工房は楽しみにしていた。

 そしてもう一つの背負い袋を持ち、鍛冶工房から離れていくのだった。



◇◇◇◇◇



 ドワーフの集落は、鉱山の麓に存在する。

 裏手には岩肌が露わな大きな山がそびえ立っていた。集落から眺めると、鉱山の中腹に坑道が掘られているのが分かる。

 こういった鉱山は大陸の各地に存在するが、フェリアスのそれは規模が大きい。他の国々だと、鉱石の埋蔵量が少なかったりする。


「こういう所は初めて来たよ!」

「佐渡の金山とかは?」

「行くわけないっしょ!」

「まぁそうだよな」


 フォルトは鉱山を眺めながら、アーシャと歩いている。最初はドワーフ族自体に興味があり、周囲の風景を楽しむ余裕が無かった。

 日本にも鉱山はあるが、閉山した場所が多い。彼女は町で遊ぶギャルなので、こういった場所とは無縁の女性だ。

 もちろんフォルトは引き籠りだったので、同様に無縁である。


「さて。ここか」

「結構広いのねぇ」


 コルチナの服飾工房。

 丸木で建てられた小屋が立ち並んで、そこかしこにドワーフが歩いている。木箱を苦も無く運んでいるので、中身は服かもしれない。

 その光景を二人で眺めていると、一人のドワーフに声をかけられた。どうやら女性のようで、髭が短くそろえられている。


「おや、人間かい?」

「リリエラが世話になったので、コルチナに会いたいのだが……」


 エウィ王国との人的交流が始まっていても、集落を訪れる人間は少ないようだ。物珍しいようで、常に人間かと言われる。

 そして、女性のドワーフは笑顔を見せた。


「リリエラちゃんの知り合いかい?」

「俺の身内だ」

「今日は来てないのかしら?」

「今回は連れてきていない」


 何やらリリエラを知っているようで、根掘り葉掘りと聞かれた。何度もお邪魔しているため、コルチナ以外からの面識もあるようだ。

 話し込んでも仕方ないので、会話を止めて案内をお願いした。


「色々と聞いて悪かったね。こっちだよ」

「うむ」


 周囲の小屋は、作業場と倉庫のようだ。

 扉は大きく開かれており、作業場では多くのドワーフが裁縫している。倉庫には木箱が積み上がっていた。

 その中で一際大きな小屋が、コルチナの作業場のようだ。


「姉さん、お客さんだよ!」

「はいよ!」


 女性のドワーフはコルチナを呼んで、そのまま去った。

 彼女も例に漏れず酒樽のような体型である。男女の判別は、髭と胸だけのような気がしないでもない。

 それはともかくとして、フォルトは挨拶をする。


「いつもリリエラが世話になってるな」

「おや? もしかしてマスターさんかい?」

「そうだ。フォルト・ローゼンクロイツという」

「わざわざ来てくれたのかい?」

「まあな。用事もあったし例の件も、な」


 例の件とは、服の量産についてである。

 アーシャのデザイン画から製作した服を、大量に売りたいそうだ。著作権法の無い世界なのに律儀である。とはいえ、それが気に入ったから訪れたのだ。


「この人間の娘は?」

「デザイン画を描いたアーシャだ」

「あんたがかい! へぇ……。他の服も良かったよ」

「へへっ! ちょっとハズいねぇ」


 アーシャはうつむいて照れている。

 特技を褒められたのがうれしいのだろう。


「いま着てる服も作ってみたいねぇ」

「そっそう? でもあたしがデザインしたわけじゃないしぃ」

「違うのかい?」

「俺たちは異世界人だ。あっちの世界でデザインされた服だな」

「なるほどねぇ。だから奇抜な服を?」

「ま、まあな」


(奇抜になる、のか? まぁイービスなら珍しいが……)


 アーシャの服は、日本でデザインされて生産された服である。

 露出の激しい服だが、コルチナの琴線に触れているようだ。自分で奇抜と言っているあたり、イービスでは特殊な感性をしている。


「量産は構わないぞ。売れるかは保証しかねるがな」

「助かるよ」

「それと大蜘蛛の粘液を持ってきた」

「素材の持ち込みかい?」

「いや。リリエラが世話になった礼だ」

「おやまぁ。あんたも律儀だねぇ」


 フォルトは背負い袋ごと、大蜘蛛の粘液を渡す。量的には大したことはないが、屋敷にはまだ大量に保管してある。

 そして、とある提案をした。


「で、ものは相談なのだが……」

「なんだい?」


(ここでコルチナを眠らせておくのは勿体もったいない。前々から考えていた計画のために口説き落としたいところだな。さて、俺にやれるかどうか……)


 フォルトの提案は、アルバハードに出店を勧める話だった。

 アーシャと会話するうちに、アルバハードをファッションの町にしたいと考えていたのだ。幽鬼の森から近いのため、いつでも店に行ける。

 一時期はクエストとして、リリエラにやらせようと思ったものだ。


「悪いけど集落からは出たくないねぇ」

「ふむ。もし店舗を構えたら、そこに卸せるか?」

「構わないよ。ガルドからも優先的にって言われてるからね」

「そうか。なら、もう少しだけ待ってくれ」

「はいよ」


 これで、デート以外の目的は達成できた。

 行き当たりばったり感しかないが、後はバグバットに話を通せば良いだろう。出店してもらえれば、晴れてアーシャがファッションを楽しめる。

 そう思って彼女の腰に手を回すと、面白いことを口走った。


「フォルトさんは店を出すの?」

「そのつもりだが、俺が経営するわけじゃない」

「じゃあさ、あたしが店員をやっていい?」

「は?」

「へへっ。一度はやってみたかったしぃ」


 確かにアーシャなら、カリスマ店員になれるだろう。

 逆にやっていなかったのかと疑問に思うほどだ。


「たまにならいいっしょ?」

「う、うむ」


 引き籠りを脱し始めたフォルトは、アーシャの提案に同意する。

 彼女の傍にいたいときは、一緒に店舗で遊べば良いのだ。となると、アルバハードに屋敷を持つのも有りかもしれない。


(まぁバグバットは領主だし、吸血鬼の配下もいるしな。でも……)


 頼ってばかりで申しわけない。

 思わず手で顔を覆ったフォルトは、自分の駄目さ加減に嫌気が差す。断られる可能性もあるのだ。

 それにしても、かなり図々しい話だった。

 

「どうしたの?」

「い、いや。何でもない」

「じゃあデートの続きしよ?」

「コルチナ、悪いがお前が作った服を見せてもらえるか?」

「売り物じゃないけどねぇ」


 これも、アーシャとのデートである。

 大まかな話を済ませたフォルトは、コルチナに連れられて倉庫に向かう。ハンガーに掛かった服が並んでおり、二人で一緒に見て回った。

 試着室は無いが、積み上がった木箱の後ろで着替えられる。


「あ、コルチナ。試着していいか?」

「あんたがかい?」

「アーシャだ!」

「冗談だよ。でも汚したら買い取ってもらうからね?」

「うっ! 分かった。他にも服があるなら……」

「エルフに売りたい服があってね。見てもらえるかい?」

「いいよぉ」


 そう言ったアーシャは、嬉しそうに服を選んでいる。

 気に入った服は左手に垂らして、いまいちなのは戻していた。


「閉まってある服もハンガーに掛けといてあげるよ」

「よろぉ!」


 フォルトはコルチナが見えなくなったところで、アーシャが持ち切れない服を受け取る。続けて周囲をキョロキョロしながら、木箱の裏手に回った。

 その後はもちろん、彼女と着せ替えを楽しむ。さすがに行為は始められないが、アバターを目に焼き付けるのだ。

 それにしても、様々な服がある。これらはコルチナの趣味らしいが、今まで渡したデザインから発想を得て、新しく製作していた。


「ねぇフォルトさん、超ヤバいんだけどっ!」

「何か拙いのか?」

「まさかファッションが楽しめるなんてねぇ」

「ははっ。そっちのヤバいか」


 デザイン自体はシンプルである。

 アーシャの趣味からは遠そうだ。とはいえ彼女は何着も服を替えて、満面の笑みを浮かべている。

 もちろんフォルトは、別の意味で楽しい。


「アルバハードをファッションの町にかぁ」

「単なる思い付きだ。でも、そうなればいいな」

「うんっ! だからフォルトさんって好き! ちゅ!」

「でへでへ」


 着替え途中のアーシャに口付けされて、フォルトのほほが緩む。

 彼女に限らず、こうやって身内に愛情を返すことも必要だ。永遠に一緒にいるのだから、彼女たちに見捨てられたくない。


「もっと肩を出したいけど……。フォルトさん!」

「何だ?」

「追加の服を持ってきてね!」


 小箱の裏手から出たフォルトは、コルチナが戻っているのを確認した。

 エルフ族に売ると言っていた服もそうだが、まだまだ試着を楽しめそうだ。


「これで全部か?」

「そうだねぇ。改善点があるなら言っとくれよ?」

「さすがに全部は無理だな。アーシャが気に入った服でいいか?」

「助かるねぇ。私は作業してるから、後で声をかけとくれ」


 それからもフォルトは、ギャルの生着替えを目に焼き付ける。

 エルフ族用の服は、エロ仕様シンプルエルフセットより露出が少なかった。さすがに丈の短い服は、まだ抵抗があるのかもしれない。

 ただし、そういったものは慣れだと思われる。いずれエルフ族の女性は、生足が拝めるようにしたいところだ。


「でへ」

「何を考えているのやら……」

「んんっ! さてアーシャ、欲しい服はあったか?」

「まだいいわ。改良したときにするぅ」

「確かにそうだな。んじゃコルチナに伝えて……」

「次はどこに行くん?」

「俺の知ってる所は酒造所だ」

「じゃあ少し戻るのね?」

「うむ。前は試飲したが、今回は中を見せてもらうか」


 フォルトは帝都クリムゾンで、調味料の研究所を訪れたことを思い出す。

 アポイントを取っていないが、ガルド王の名前を出せば平気かもしれない。もし見学できなくても、それもデートの内だ。

 二人は試着した服を戻して、コルチナの作業場に戻る。

 そして改善点を伝えた後は、ガルド酒造所に向かうのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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