第439話 ベクトリア公国出立準備1

 時はシュン率いる勇者候補チームが、ドワーフの集落を出発した頃まで遡る。

 幽鬼の森で自堕落生活中だったフォルトは、テラスで難しい顔をしていた。隣には当然のようにカーミラを座らせて、対面のソフィアと酒を飲んでいる。

 真昼間だが、自堕落生活に昼も夜も無い。


「結構な量が送られてきたな」

「皆さんも飲みますし、すぐに無くなると思いますよ?」

「確かにな」


 フォルトは普通のワインを飲んでいるが、カーミラとソフィアは果実酒だ。

 これは帝国軍師テンガイから送られてきた酒で、盟友バグバットの執事が届けてくれた。数えたレイナスの話では、三百本はあるらしい。アルコール度数が低い甘めの酒なので、身内の全員が気に入っている。

 同時に大蜘蛛おおぐもの粘液も届いていた。


「フォルト様、返礼品はどうしますか?」

「あ……。それはバグバットに頼んどいた」

「もぅ。バグバット様に失礼ですよ?」

「と言っても、俺には何を返せばいいか分からなくてな」

「何を送ったのでしょうか?」

「陶器のグラスだそうだ」


 今回の贈物は、ローゼンクロイツ家に送られた貢物である。

 マリアンデールやルリシオンは、返礼の必要など無いと言っていた。しかしながらフォルトは、お返しと仕返しをする義理堅い昭和のおっさんだ。

 仕返しのほうは、魔人になったから可能なのだが……。


「ところでカーミラ、リゼット姫は受けてくれたようだな」

「すぐには無理だと言ってましたけどぉ」

「あいつらには伝えてないが、後は勝手にやるだろう」


 ギッシュとエレーヌの件は、リゼット姫から手紙が届いていた。

 ベクトリア公国行きをグリムに打診してあったが、宮廷会議が終わるまで保留されている。現在は終了しているため、その回答と共に、姫からの手紙が添えられていたのだ。管理下に置くと書かれていたので、二人に提案したとおりになる。

 またその件とは別に、フォルトが顔をしかめる内容も書かれてあった。


「御主人様、現実逃避してる場合じゃないですよぉ」

「フォルト様、もう一つの内容はどうするのですか?」

「そう。それなんだよな。何で俺が……」

「ついでだと思いまーす!」


 もう一つの内容とは、ベクトリア公国への使者を依頼するものだ。

 カーミラの言ったとおり公国に向かうので、もののついでなのかもしれない。とりあえずフォルトの頼みを聞いてくれたので、お返しと思えば良いか。

 リリエラが玩具のときに、郵便配達をしていたなと懐かしむ。


「ソフィアには分かるか?」

「手紙の内容だけですと、私には真意が読めませんね」

「なるほど」

「バグバット様のほうが情報をお持ちかと思います」

「だな。聞いてみよう」

「これから行かれるのでしたね?」

「うむ。他に聞きたいこともあったからな」


 結局グリムが回答を保留したので、バグバットの屋敷には行ってなかった。腰の重い人を待たせると、こうなるいう教訓にはなる。

 それはさておき、ソフィアが言ったとおりだ。


「では行ってくる。カーミラ」

「はあい! ご一緒しまーす!」


 今回はカーミラと二人だけで向かう。彼女の腰に手を回したフォルトは、どっこいしょとつぶやきながら一緒に立ち上がる。

 今は若者の姿なので、スキル『変化へんげ』を解いておっさんに戻った。

 そして飛行の魔法を使い、バグバットの屋敷を目指して飛び立つ。アルバハードは人間も住む自由都市なので、愛しの小悪魔は腕の中だ。


「久しぶりに森を出ますねぇ」

「まぁアルバハードが俺の庭ってところだな」


(バグバットとの盟約はアルバハードを一緒に守れ、だからな。そのためには領地を見て回る必要もあるのだが……。でへ)


 アルバハードはデルヴィ侯爵領よりも狭いので、数日も使えば領地を視察できる。もちろん一石二鳥を兼ねて、身内とのデートプランに入れてあった。

 それからもカーミラと会話していると、バグバットの屋敷に到着した。いつも世話になっている一流の執事に、これもいつもどおり食堂に案内された。

 さすがに分かっていらっしゃる。


「バグバットに菓子を渡してくれた?」

「はい。大層喜んでおりました」


 執事に手紙を届けてもらったときに、ダークエルフの菓子を渡してある。

 ヒドラ討伐の報酬としてネトラの実を入手したので、キャロルが作っていた。バグバットにお裾分けする約束をしてあり、気に入ってもらえたようだ。


「お時間がかかるようですので、ごゆっくりお待ちください」

「あぁ……。忙しいときに来てしまったか」

「旦那様は地下から戻っている最中でございます」

「イービスにでも会ってるのか?」

「別の件ですが、旦那様に直接お聞きください」


 どうやら執事も、イービスのことは聞いているようだ。

 絶対服従の呪いと同じで、真祖に血を吸われた吸血鬼は命令に逆らえない。もちろん一流の執事なので、それが無くても他人には話さないだろう。

 バグバットが戻ってくるまでは、軽めの料理が出される。すでに好みが把握されているため、どれもフォルトの好物ばかりだった。またカーミラとイチャイチャすると分かっているので、食堂は二人きりの空間にしてくれる。

 そして暫く待っていると、バグバットが食堂に入ってきた。


「おぉフォルト殿。よく来たのである」

「忙しいところ待たせてもらった」

「構わないのである」

「ところで……」


 バグバットに挨拶を済ませたところで、フォルトは奇妙なものを発見する。

 彼の後ろから、子供が顔を出したのだ。黄金色の髪をツインテールに決めた赤目の少女で、なんと骸骨のぬいぐるみを持っている。

 ニャンシーよりも小さく、五歳から七歳ぐらいだろう。マリアンデールのような大きなリボンを付けて、気品のある赤いドレスを着ている。

 子供は守備範囲外なので欲情することはないが、なんとも可愛らしい。


吾輩わがはいの娘である」

「は? 吸血鬼ってアンデッドだろ? 子供を作れないのでは?」

「で、あるが……」


 吸血鬼の真祖バグバットは、イービスの意思によって誕生している。

 また真祖の後継とするために、この少女が遅れて誕生したとの話だ。なので母親がおらずとも、娘と言えなくもない。

 そうなると、少女もアンデッドなわけだが……。


「なんか血色、と言っていいのか? 顔色がいいな」

「魔力を血の代わりにしてるのである」

「ほほう。名前は?」

「マウリーヤトルである。マーヤと呼んでほしいのである」

「マーヤちゃんね。よろしくな」

「ん」


 マーヤはバグバットの後ろから出てきて、フォルトのマントを握った。

 しかも離れようとせず、ずっと見上げている。


「これマーヤ。フォルト殿に失礼である」

「構わないとも。そっか、バグバットの娘かぁ」

「ん」

「歳はいくつかな?」

「んー。忘れた」


 言葉数は少ないが、ニャンシーのように騒がしくないところが良い。

 フォルトがマーヤの頭をでると、マントを離して足にしがみついてきた。完全に懐かれてしまったようだ。


「バグバット?」

「吾輩も数えていないのである」

「ま、まぁそうだよな。ところで、ずっと地下に?」

「で、あるな。たまに起きるのである」

「それが今、ね」

「小悪魔殿とは少しだけ因縁が……」

「私ですかぁ?」


 カーミラはマーヤの顔を見るが、何も思い出せないようで首を傾げている。

 続けてバグバットに目を向けたところで、ポンと手を合わせた。


「あの部屋にいた女の子かなぁ?」

「で、あるな」


 これはカーミラが、バグバットと戦ったときの話だ。

 屋敷の一部屋で本を読んでいる少女を、窓の外から発見した。もしも戦闘になったら、部屋にもつれこんで人質に取ろうとしたのだ。

 そのときの少女がマウリーヤトルである。


「ほう。そんな因縁がなぁ」

「バグバットちゃんに背後を取られちゃいましたあ!」

「無事で良かったな」

「ん」


 悪魔と真祖の戦いに巻き込まれたら、タダでは済まないだろう。

 再びフォルトがマーヤの頭を撫でると、小さな笑みを浮かべた。表情の乏しいところが、彼女の特徴である。


「では執事。マーヤを頼むのである」

「畏まりました。御嬢様、お部屋に戻りましょう」

「ん」


 マーヤは聞き分けが良いようで、素直に食堂から出ていった。バグバットの教育が行き届いているのだろう。

 とりあえず彼の料理が運ばれてくるまでは、雑談で時間を潰した。

 そして、本題に入る。


「で、本日は何用で参られたであるか?」

「二つほどあってな」


 一つ目は当然、ベクトリア公国に向かう件について。

 エウィ王国の使者として親書を届けるなら、公国行きを認めるとの話だ。リゼット姫からの依頼なので、それ自体は受けても良いとは考えている。とはいえ、絶対に何か思惑があると思われた。

 ここはバグバットに相談したいところだ。


「エルフの女王の件で動くのであるな?」

「うむ。やっと借りが返せそうだ」

「盟友に貸し借りは不要であるが……。お頼みするのである」

「だが使者と言われてもなぁ」

「吾輩にはエウィ王国から親書が届いたのである」

「エウィ王国から?」


 バグバットに届いた親書はフォルトについてだった。

 後見人を引き受けてもらった感謝と共に、帰還命令のおまけ付きだ。双竜山の森に向かわせてほしいと書かれていた。謝礼は帰還を確認した後に送るそうだ。

 これには思わず舌打ちして、渋い表情を浮かべてしまう。


「おそらくではあるが、これはリゼット姫の仕業である」

「何? 俺と友好を結びたいのはうそだったのか」

「逆であるな」

「うん? よく分からんのだが?」


 バグバットは今回の件で、フォルトの後見人を続けると主張する。

 エウィ王国は激怒するだろうが、それについては無視するらしい。外交関係が崩れても、リゼット姫の計らいで、後見人の期限が決められていない。落ち度は王国側として取り合うつもりはない。

 元々そのつもりだったが、姫のおかげで明確化されるようだ。


「これでフォルト殿は、アルバハードの所属である」

「なるほどな」

「盟友の件も、各国に宣言しやすくなるのである」

「ならリゼット姫は、俺をアルバハードの所属にさせたいのか?」

「で、あるな」

「カーミラは何か聞いてる?」

「信用してもらえるように頑張るって言ってましたぁ」

「そっそうか……」


 カーミラの言葉だと軽く感じるが、リゼット姫は味方のようだ。ならばと溜飲りゅういんを下げて、ワインを一口飲む。

 どうも姫の手のひらにいるようで、いまいち信用が置けない。


「そこでフォルト殿に提案である」

「何でも言ってくれ」

「アルバハードとして使者に立ってもらうのである」

「なるほど。確かにエウィ王国の使者は嫌だなぁ」

「はははっ! スタンピードの援軍のようであるな」


 ターラ王国でのフォルトの立ち位置。

 それは、エウィ王国からの援軍とアルバハードからの仲裁役だった。特に仲裁役のほうが絶大で、バグバットの存在感が察せられる。

 これがベクトリア公国でも使えるとなると、変な横やりが入らずに活動できるだろう。吸血鬼の真祖に喧嘩けんかを売る国は皆無である。

 三大国家が配慮する人物なのだから……。


「それは出発前に詰めるとして……。二つ目なんだがな」


 どちらかと言うと、二つ目が本命の相談だ。

 これは、フォルトの身内に関することである。ベクトリア公国に向かう前に確認しておきたかった。

 そしてバグバットに、イービスとの面会を打診したのだった。



◇◇◇◇◇



 バグバットに連れられたフォルトは、世界の意思イービスの前にいる。

 光り輝く球体の前に、フォルトの想像した麻呂巫女みこが椅子に座っていた。丈の短いはかまのおかげで、足を組むとチラリズムがそそられる。

 地べたに座って前屈みになり、その秘境を眺めていた。


「相変わらず締まりのない顔ですね」

「これもイービスが悪い」

「麻呂は悪くありません。自分の想像力を恥じなさい」

「ですよね」

「それで……。麻呂に何用ですか?」

「少し聞きたいことがあってな」


 ちなみにカーミラは、幽鬼の森に帰らせた。

 おそらく時間がかかるのと、バグバットの盟友フォルト以外は面会ができない。また他にも大事な目的もあるので、その準備に取り掛かってもらう。

 そちらも楽しみだが、まずはイービスに質問した。


「限界突破について聞きたいのだが……。構わないか?」

「知能がある生物に課している制約ですね」

「制約か。まぁ突破しないとレベルが上がらんしな」

「それで?」

「俺は疑問に思ってなあ」


 フォルトの疑問。

 限界突破の神託は神々から受けるのだが、内容は様々である。しかしながら、本当にそうなのか。

 天界の神々と自然神は別の存在でも、同じように神託は受けられるのだ。これが疑問の正体で、神託とは有って無いようなものではないだろうか。

 イービスも制約と言っていることから、より疑問は深まった。もしかしたら、限界突破の内容を選択できるのではないのかと……。


「なかなか面白い発想ですね」

「的外れだったか?」

「いえ。間違いではありません」

「ほう」

「この制約は創造神が定め、麻呂が実行しています」

「ほほう。ならばイービスなら選べると?」

「残念ながら麻呂は封印されています」

「いま神託を受けられているのは?」

「代行しているのが天界の神々と自然神です」

「なるほど」


 フォルトの疑問は的を射ていたようだ。

 要は身内の限界突破を同じにする、もしくは近い場所で終わらせたい。結果が先にきた疑問であり、ダメ元で聞いただけである。

 それでも希望はあったようだ。


「なら選ばせてくれるか?」

「………………」

「駄目、か」


 フォルトの頼み事など、世界の意思イービスがかなえる必要はない。聞くのはタダなので聞いてみたが、はっきり言って無理な話だろう。

 もっと大きな事柄を成す勇者であれば、神々は願いを叶えるかもしれない。しかしながら個人的なものであり、世界からすれば取るに足らない内容だ。

 とりあえずイービスが細い足を組み替えたので、目に焼き付けておく。


「答える前に、フォルトに伝えておきます」

「何だ?」

「イービスには三つの禁忌があります」


 イービスで定められた禁忌とは、大規模移動技術・大規模遠距離通信技術・遺伝子技術の確立である。

 これらは不要とされ、確立されれば世界の崩壊を招く。


「ふむふむ。何となく分かる気がするな」

「ですか?」

「どれも人間には必要だっただけどな」

「負の面が大きく、知能のある生物には過ぎたるものです」

「なるほど」


 どれも生活には欠かせない技術だが、確かに負の面は大きい。

 これらについては、例を挙げればキリが無い。とはいえ一つだけ言えることは、人間の手に余る技術だろう。

 特に神が存在する世界では、遺伝子技術など神々の領域である。ノウン・リングでも、宗教上の見解では否定的だった。


「ちなみになんだが……。許容範囲は?」

「あります。おいそれと確立するものでもありません」


 例えば移動技術の確立では、馬車は平気で飛行機が駄目といった具合だ。

 魔法での移動技術も問題なく、科学技術の発展を抑止する禁忌と思われた。


(まぁ俺が期待してる技術発展なんて、そんな大層なものじゃないしな。パソコンは残念だけど、他は旨い飯が食べたいとかだし……)


 人間の技術発展に期待しているフォルトには、歯がゆいところだった。

 それでも自身の信条は、「ほどほどで満足」。禁忌に触れるようなら諦めたほうが良い。適度に発展してもらうだけで満足である。

 君子危うきに近寄らず、だ。


「んで?」

「これらを管理するのが竜王なのです」

「ほほう」

「今は休眠期で寝ていますね」

「………………」

「起こしてきてください」

「なっ!」


 竜王は摂理の守護者と呼ばれている。

 世界の法則を守護しており、禁忌を犯せば竜王が牙をく。現在は熟睡中だが、その目覚まし時計役に、フォルトが選ばれてしまった。


「フォルトの希望からすると簡単な内容です」

「いや。寝ているのを起こされると気分が悪いだろ?」

「関係ありません」

「ちっ。起こすだけでいいのか?」

「麻呂は起こしてもらうだけで結構です」

「言い方が妙だな」

「引き受けなければ話は無かったことになります」

「………………」


 フォルトは目を泳がせて、隣に控えるバグバットを見る。

 すると、難しい表情で顔を上げた。


「竜王を刺激するのは問題である」

「寝過ぎです。力ずくでも起きてもらいます」

「で、あるか。ならばフォルト殿」

「その先は聞きたくないな」

「お任せするのである」

「だああっ!」


 奇声をあげたフォルトは、両手で頭を抱えた。

 こればかりは、イービスからの依頼を受けるしかない。身内の限界突破が楽になるのだから、天秤てんびんにかけるまでもないだろう。

 それが分かっているだけに、子供のようにふてくされてしまう。


「仕方ない。だが場所はどこだ?」

「ベクトリア公国の南にある山岳地帯である」

「なら、ちょっと足を伸ばすだけか?」

「竜の領域である。襲われる可能性は高いのである」

「………………」

「とはいえ、パロパロ殿に協力を仰げば良いのである」

「確か……」


 サザーランド魔導国女王パロパロ。

 フォルトの知識では、超天才魔法使いと認識している。また改良した延体の法を完成させて、少女の姿だと聞いていた。

 残念ながら他の話は、耳に入っていない。


「竜王の盟約者であるな」

「なるほど。俺で協力が仰げるのか?」

「はははっ! フォルト殿はアルバハードからの使者である」

「おっ! そうだったそうだった」

「吾輩が手紙を認めておくのである」

「よろしく!」


 竜王の件は、フォルトの疑問から発展した流れだ。

 イービスとバグバットが示し合わせているわけはない。


「起こし方は?」

「任せます。起きれば良いのです」

「わっ分かった」

「ならば限界突破の件を叶えましょう」

「楽なのがいいが、身内の限界突破を合わせてくれ」

「………………。一人はもう受けていますね」

「レイナスだな。確か精霊界でフェンリルの祝福とか?」

「では他の者たちも、精霊界での祝福とします」

「いや。精霊界も面倒なんだが?」

「一度決まった者は変えられません」

「ちっ。じゃあそれでいい」


 これで、フォルトの希望は叶った。しかしながら天界の神々ではなく、自然神からの神託を受ける必要がある。

 天界の神々は、イービスを封印した相手だ。代行と言っても、それらを制御できるものではないらしい。

 ある意味では敵対関係なのだ。


「話はそれだけですか?」

「んー。じゃあ俺の運命に介入するな」

「はて? 道は示せますが、運命に介入などできません」

「そっそうか……」

「何か思い当たることでもあるのですか?」

「あり過ぎるから言っただけだ」

「思い過ごしです。では下がりなさい」

「はいはい」

「また来ると良いでしょう」


 もうイービスに用は無いので、地下迷宮から出ることにする。

 来訪についてはバグバットも同様なので、盟友として許可されたようだ。今後も疑問点が浮かべば、色々と聞けそうだ。

 そして、地下迷宮の帰り道で……。


「フォルト殿、出発はいつであるか?」

「もう少し時間がかかる」

「で、あるか。吾輩のほうも時間が欲しいのである」

「どれぐらい?」

「二週間ぐらいは待ってほしいのである」

「なら俺も合わせる」


 フォルトは出発前にやることがある。

 それについて思いをせながら、途中で足を止めた。


「どうしたのであるか?」

「ふふん。俺は帰る」

「で、あるか。何かあれば連絡を寄こすのである」

「そうしよう。ではまたな」


 それだけ言ったフォルトは、最近覚えた魔法を使う。

 まだ一度も使っていないので、少しだけドキドキしている。



【テレポーテーション/転移】



 そう。フォルトは転移魔法を習得したのだ。

 セーフティが組み込まれた術式なので、発動に失敗すれば転移しない。だが初回とはいえ、一瞬にして風景が切り替わった。

 どうやら成功したようだ。


「「きゃあ!」」


 そう。最初に転移する場所は決めていたのだ。

 フォルトの周囲には、白い霧で包まれていた。女性の声も響いて、カーミラの準備が整っていたようだ。


「御主人様! 待ってましたあ」

「フォルト様、お待ちしておりましたわ。ピタ」

「ちょっとフォルトさん! いきなり現れるんじゃないわよ!」


 そう。転移した場所は屋敷の風呂場だ。

 カーミラが何人か集めて、すでに湯浴みをしていた。位置的にも良く、フォルトは湯船の中に転移していた。

 両隣にはカーミラとレイナスが浸かっており、アーシャも湯船に足を浸けたところだった。湯けむりの先にはソフィアやセレス、レティシアもいるようだ。

 全員が柔肌を見せており、フォルトはほほの筋肉が緩みまくった。


「フォ、フォルト様。いつもと変わらない気もしますが……」

「旦那様、もうちょっと後でしたら私の前でしたのに……」

「うふふふふ。スケベ大王はどこにでも現れるようね」

「ふははははは! さあもっと寄れ!」

「きさま! 遅れてしまったではないか!」

「ティオも来い! と言いたいが、タオルを持ってきて」


 カーミラが集めた女性は、おっさん親衛隊の面々だった。

 時間がずれていれば、魔族組の三人が拝めたか。とりあえず全裸はいただけないので、風呂に遅れたベルナティオに全員分のタオルを要求する。

 それにしてもいきなり湯船の中なので、服を着ていたことに後悔した。今後は脱いでから転移したほうが良さそうだ。

 そんなくだらないことを思いながら、湯船でれた服を脱ぐのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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