第431話 フェリアスからの帰還2
ヒドラ討伐の宴が始まっている。所々で燃えるかがり火は、人物の顔がはっきりと分かるほど輝いていた。
三日三晩続くそれは、討伐作戦に従事したすべての戦士を労うものだ。戦場で散った戦士たちの弔いも含まれており、場所によっては慎ましく行われている。
そして、求愛の宴でもあった。
フェリアスの住人と言っても、身体の作りからして違うのだ。
(あれって……。さすがは蜥蜴なの、か?)
首を傾げたシュンは、周囲の家に入っていく蜥蜴人のカップルを眺める。
一応は他人から見られないように、そういった行為を行っているようだ。しかしながらどのカップルも、ものの五分程度で出てくる。
しかも別々の席に戻って、何事も無かったかのように振る舞っていた。
「よく分かんねぇぜ」
「シュンは何を見ているのかなぁ?」
「蜥蜴だよ蜥蜴。アルディスも興味あるだろ?」
「これだから男は……」
シュン率いる勇者候補チームは、料理を囲んで宴を楽しんでいた。
ぬかるんだ場所でどうかと思ったが、いま腰を下ろしている地面は精霊魔法で固められている。
集落の一部だけとはいえ、これは有難かった。
「悪い悪い。ほらアルディス、肉団子でいいか?」
「ありがと」
皿に野草を敷いて肉団子を置いたシュンは、アルディスに手渡す。
そしてエレーヌやラキシスにも、同様の行為を繰り返した。しかも渡した後は、彼女たちの
まさに流れるような作業で、一瞬たりとも空になる状況を作らない。
(良し! 腕は鈍ってねぇな。さっさと酔い潰して、他の女を漁りに行きてぇ。でもエレーヌはすぐに潰れるんだが、アルディスは泥酔までいかねぇよな)
シュンがエレーヌを抱いたときは、酒の力を借りている。
彼女は酒に弱く、それでいて限度を知らない。だからこそ簡単に落としたが、現在も変わらず弱いままだった。
アルディスの場合は酔ってからが長い。
「シュンも飲まないと!」
「もちろん飲んでるぜ。せっかくだし楽しまねぇとな」
シュンは自分のコップを手に取って、唇に湿り気を帯びさせる。
ちなみの中身は、水で薄めたエール酒だ。酒に弱いわけではなく、自分が酔わないためのありふれたテクニックである。
ちなみに相手から勧められた場合は、酒よりも前に料理を食べる。続けてチビチビと、少しずつ飲むことだ。
もしくは……。
「ノックス、飲んでっか?」
「まあね」
「なんだよ。空じゃねぇか。入れてやんよ」
「僕に接客しても……」
「ほれ。すぐに飲み干したら、ラキシスがほっぺにキスしてくれんぜ?」
「そっそんなことはしません!」
指名されたラキシスは抗議の声をあげるが、シュンは止まらない。
ノックスの手を握って、ラキシスの目前に差しだした。
「じゃあよ。手ならいいだろ?」
「そっそれぐらいなら……」
「なになに? 張り切っちゃうよ!」
「ノックスも男ねぇ」
「ふっ不潔れすよぉ」
「ノックスのいいとこ見てみたい! さぁ飲め!」
そう。ヘルプのホストに飲ませるのだ。
ホスト時代にはチームとなり、シラフの状態を維持した。酔うとどうしても意識が散漫になるので、女性客に細かい気遣いができなくなる。
今回はそういった趣旨ではないが、有効なテクニックには違いない。
(いい感じに盛り上がってきたな。後はドンドンと酒を飲ませりゃ楽勝よ。ノックスには悪いが、このままイジらせてもらうぜ)
不敵な笑みを浮かべたシュンは、ホストの本領を発揮する。女性陣は落とす必要がないので、場を盛り上げる話術だけで良い。
それを暫く続けていると、今まで参加していなかった人物が戻ってきた。
「くそっ! あと一人で十人抜きだったのによぉ」
「ギッシュ、何してたんだ?」
「あん? 腕相撲だよ。あのでっけぇリザードマンに負けたぜ」
ギッシュは
その先には、彼よりも一回り大きい蜥蜴人族がいた。両腕の筋肉を見せつけて、他の蜥蜴人族に力を誇示している。
あちらでも場が盛り上がっていた。
「相変わらず
「やっぱフェリアスは面白れぇぜ」
「そうかよ。それよりも飲んだのか?」
「一勝一杯って言うらしいぜ」
「は?」
「一人を倒せば、一杯飲むんだよ」
「へぇ」
「だから九杯は飲んだぜ!」
ギッシュもそれなりに酔っていた。九杯ぐらい問題ないだろうが、アルコールが入っているぶん機嫌が良いようだ。
これならば、前々から考えていた作戦に移行できる。
「ギッシュに任せたいことがあるんだがよ」
「ホストが俺にか?」
「ちとみんなを連れて、おっさんのところに行ってくれ」
「あん?」
「ついでに酒と料理を楽しんでくればいいさ」
自己満足の嫌がらせである。
シュン以外のメンバー全員を送ることで、女性に囲まれているフォルトの邪魔をさせるのだ。
もちろんこの程度で、今までの気は晴れない。事あるごとに邪魔をして、しかも不利益になるよう動くつもりだった。
「オメエは行かねぇのかよ?」
「俺は他の挨拶回りだぜ。一応は世話になったしな」
「ならボクもついていくよ」
「エレーヌが酔い過ぎだぜ。面倒を見てやれよ」
「あ……。そうだね」
「俺も後で行くさ。ソフィアさんと飲みたいからな」
「まぁいいぜ」
(酔っ払いもいるし、おっさんを困らせてこい。あぁでも……)
すでにエレーヌとノックスは酔っていた。二人を扱うだけでも迷惑になる。とはいえ、魔族の姉妹を怒らせると問題か。
さすがに殺し合いは避けたいシュンは、ギッシュとアルディスに
「
「ちっ。言われなくても分かってんよ」
「間違っても、小さい魔族とか言うなよ?」
「分かってるって言ってんだろ!」
「アルディスも気を付けろよ?」
「当たり前よ! ソフィアさんからは離れないわ」
「それでいい。結構な数を回るから、適当にやっててくれ」
シュンは立ち上がって、アルディスの肩を
挨拶回りは建前だが、それでも立場的にやる必要はあった。その中にはリーズリットも入っているので、エルフ族は後回しが良いか。
とりあえずは、蜥蜴人族の族長ブラジャが最初だ。
「はぁ……。蜥蜴でも挨拶はしとかねぇとな」
「そっそうだね。頑張って!」
シュンはアルディスの同情を引きつつ、この場を離れていく。
そして途中で見かけた蜥蜴人族から、ブラジャの居場所を聞いた。
「族長ナラ集落ノ中央ダ」
「またあそこか。死体は?」
「安心シロ。宴ノ前ニ、ルイーズ川ニ沈メタ」
戦士たちの死体をルイーズ川に沈める行為は、他種族では見られない風習だ。
ちなみにこの行為は、祖霊になった戦士たちを迎えるために行っている。
普通に考えれば、戦士たちの死体は魚の餌になってしまうだろう。しかしながら、蜥蜴人族には続きがあった。
死体を食べた魚は新たな命を産み、または他の生物に捕食されるだろう。
それらはいずれ、蜥蜴人族が食すことになる。となれば、祖霊に部族の居場所を示せるのだ。といった考え方で成り立っていた。
食物連鎖の延長から生まれた風習である。
「ありがとよ」
当然のようにシュンは、風習について問いかけていない。ブラジャの居場所さえ確認できれば良いので、さっさと歩きだす。
そして集落の中央へ近づくにつれ、表情を曇らせていった。
宴とは思えないほど厳かに酒を飲んでいるが、それとは別に、この世で一番嫌いな人物が見えたからだ。
「よぅ! おっさんも挨拶回りか?」
「うん? またシュンか……」
フォルトはカーミラとセレスを連れていた。
両手の華が
「またって何だよ? てっきり宿舎で飲んでるかと思ったぜ」
「そうしていたのだがな」
しかめっ面のフォルトは、首から下げた石のメダルを触っている。
吸血鬼のコスプレもそうだが、はっきり言ってセンスが無い。馬鹿にできる部分が多すぎて、逆にシュンは言葉が出なかった。
それにしても……。
(へへっ。何も言われないってことは、まだアルディスたちと会ってねぇな。じゃあ宿舎に戻っても、楽しい酒は飲めねぇと思うぜ? ざまぁみろ!)
シュンは内心を悟らせないように、いつものホストスマイルを浮かべる。
続けて視線を逸らし、近くの蜥蜴人族に声をかけた。
「よぉ。族長に会いたいんだけど?」
「人間ガ何ノ用……。コレハ、フォルト様」
「うむ。ブラジャ殿に取り次いでくれ」
「ハイ。今オ伝エシテキマス」
シュンは無視された。
蜥蜴人族は声をかけた当人ではなく、フォルトに頭を下げている。その後は
さすがに腹が立つというものだ。
「おっさん! 俺が先だぞ!」
「細かいことを言う。先に行って構わん」
「なんだと!」
「ですが旦那様、ブラジャ様にお時間を取らせるのも……」
「えへへ。一緒に行けばいいじゃないですかぁ」
口論に発展しそうだったが、カーミラとセレスに
女性陣に怒りをぶつけられないシュンは、渋々了承する。
「女に免じて一緒に行ってやるよ」
「免じられる覚えはないが、まぁいいだろう」
「うるせぇよ」
「コチラデス」
いちいち
この場の宴ではブラジャを中心に、他の蜥蜴人族が円を描いて座っている。案内されると、目前の円が割れた。
座りながら左右に移動しただけだが……。
そして、中心に移動する。
「フォルト殿、何用デコラレタ?」
ここでもシュンは無視されて、ブラジャはフォルトに話しかけた。
さすがに怒鳴りたくなったが、場の空気は分かるので黙っておく。しかしながら、挨拶をするだけである。さっさと終わらせたいのだ。
ならばと意識を向けさせるため、
◇◇◇◇◇
シュンが来ると思っていなかったフォルトは、相変わらずのおっさん思考で感心してしまった。若者なのに偉いな、というやつだ。
そして、この場に来た理由を思い返す。
(石のメダルをもらった友なら、葬儀の参列はメリットがある。友好関係の構築の一環だ。まぁいざとなれば、こいつらは肉盾になる。とはいえ……)
フォルトのカルマ値は、悪に傾いている。ターラ王国では冒険者やレジスタンスを肉盾に見立てたが、それと同様だった。
それでもヒドラとの戦闘を見て、蜥蜴人族をリスペクトしている。なので人間とは違って、無駄に消費しないつもりだ。
他の種族と共に、彼らとも友好を築いておく。
「フォルト殿、何用デコラレタ?」
「精鋭の戦士たちが亡くなったと聞いてな」
「ウム。部族ノタメニ誇リアル最後ヲ迎エタ」
「それに敬意を表してな。焼香をあげにきた」
「焼香トハ?」
フォルトは無神論者だったが、親戚などの葬式は仏式葬儀だった。と言っても、日本人は九割は同様である。
そこで焼香をあげに来たが、ブラジャは首を傾げた。
もちろん彼の疑問は分かっているので、その対応を口にする。
「俺は異世界人でな。それゆえ、俺のいた国の風習しか分からん」
「ナルホド」
「申しわけないが、風習の違いは勘弁してもらおう」
「問題ナイ。弔ウ気持チガ大切ダ」
「まぁ道具も違ったものになるが……」
焼香に使うものは、香木を砕いた粉末。
それを香炉に落として焼く行為が焼香である。また同時に、故人や仏様を拝むことも含まれていた。
こんな短時間で、香木など用意などできない。よってフォルトは、適当な木の表面を砕いて粉にしてあった。
それが入った袋と石で作製した皿を取り出して、ブラジャの手前に置く。
「コレハ?」
「本来なら香木を使うのだが……」
【イグニッション/発火】
フォルトはまず、魔法で皿の中心に火を起こす。
それから粉を指で摘まむ。同時に石のメダルを握って、粉を額におしいただく。続けてそれを火の中にくべて、最後は合唱して終わりにした。
宗派によって違いはあるが、概ね作法どおりと言えよう。
「「オォ……」」
「ホウ! 珍シイナ」
「イービ……。んんっ! こっちの世界ではな」
「友ニ弔ッテイタダケルトハ、祖霊モ感謝シテイルダロウ」
「であれば良いがな」
フォルトの行為に、蜥蜴人族たちが感嘆している。
これには恥ずかしさを覚えるが、今のうちにカーミラへ袋を渡す。彼女は悪魔でも、同様の行為を行ってくれた。祈っている先は、きっと悪魔王だろう。
その場合は、蜥蜴人族に不幸が起きそうだ。
これについては冗談だが、セレスも同じように焼香をあげた。
見様見真似にしては、器用にこなすものだ。
「時間を割いてもらって済まなかった」
「感謝スル」
「それで、シュンも挨拶に来たのだったな?」
「うっ!」
フォルトの言葉に、隣に座っていたシュンがうろたえている。
もしかしたら、本当にただの挨拶だったかもしれない。この勘が当たっているならば、先ほどの感心を返してもらいたいところだ。
それでも、気持ちの悪い笑みが変わらないのは大したものか。
「おっ俺も焼香にな!」
「だろうな。道具が作れなかったか?」
「おう! 悪いが借りるぜ」
「構わんが返さなくていいぞ」
「ちっ」
シュンは舌打ちしながらも、フォルトの真似をして焼香をあげた。しかしながら、どうも知識として持ち合わせていないようだ。
作法も知らないのか、動きがたどたどしい。
(まぁ俺も完璧じゃないが……。なぜ真似をする?)
これだから若者は、といった言葉が頭をよぎる。
おっさん臭さが満載なので口にしないが、そう言われても仕方ないと思った。冠婚葬祭の知識が皆無である。
しかもシュンは、聖神イシュリル神殿の神聖騎士だ。また福音の果実を食べて、天使に変わる人間だった。
仏式葬儀はどうかと思うが、日本人と言えばそれまでか。
色々と考えてしまったが、フォルトには関係ない話である。
「感謝ス、ル」
「気にすんな。こっちも長く滞在して悪いからよ」
「ウ、ム」
「はぁ……」
フォルトはシュンに対して
目上への礼儀がなっていないのは、今に始まったことではない。だからといって、相手は族長を務める人物である。
今度は親の顔が見てみたい、といった言葉が頭をよぎった。
他の蜥蜴人族は静まり返っている。彼らの表情は分からないが、絶対に感謝などしていないと思われた。
とりあえずは終わったようなので、身内と一緒に立ち上がる。
「ではまた何かあれば、な」
「宴ヲ楽シマレルガ良イ」
「っと、俺も行くぜ」
「………………」
フォルトはカーミラとセレスを連れて、ブラジャの下を去った。
シュンもついてくるが、同類と思われたくない。自然と速足になって、蜥蜴人族の囲いから離れた。
ついてくる者も同様だったが……。
「おっさん! 待てよ、おっさん!」
「まったく……。まだ何かあるのか?」
「いやよ。これから宿舎で飲むんだろ?」
「そのつもりだが……」
「そっか。ならせいぜい楽しめよ」
「へ?」
「はははっ! 今夜は楽しい宴になるぜ。じゃあな!」
シュンは訳の分からないことを言って、この場から離れていった。
やはりリーズリットから移した傷が、脳に達したのかもしれない。と思ったところで、カーミラとセレスに腕を引っ張られた。
微妙に違う二人の手の感触が、フォルトの
「でへ」
「御主人様、早く戻りましょうよぉ」
「そうですよ旦那様」
「だな。俺も久々に酔うとしよう」
「えへへ。火酒には気をつけてくださいねぇ」
「勘弁」
フォルトは『
ドワーフの集落で試した火酒は飲みたくないが、気分転換も必要だろう。最近はアグレッシブに動いて、頭脳も煙が吹きそうなほど使っていた。
屋敷に置いていない酒も試しておきたい。
(しかし、シュンの話が気になるな。なんであんなにテンションが高いんだ? 気持ちが悪いほどだ。何か企んでるのか?)
そして宿舎に近づくと、バーベキューの光景が見えてきた。
同時にフォルトは一言だけ
「やられた」
そう。お呼びでない者たちが参加しているのだ。
そのうちの一人は自慢のリーゼントを整えて、フォルトに視線を向けていた。他にも四人ほどいる。
これはすべて、勇者候補チームの面々だった。
「おっさん! 邪魔してんぜ」
「おじさん、差し入れを持ってきたわよ!」
「あ、あの。お世話になりますわ」
「私は横になるのれぇ。気にしないでくらさいねぇ」
「おっさんさ、王様ゲームでもしない?」
しかも、二人ほど出来上がっている。
エレーヌは無害そうだが、ノックスは大学サークルのノリだった。とはいえ相手をしているのは、複雑な表情のソフィアである。
しっかり者なので、問題は起きていないようだ。
「御主人様! どうしますかあ?」
「本当に子供みたいな人間ですわ」
「うーむ」
カーミラは笑顔でも、セレスは頬を膨らませた。当然のように嫌な表情に変わったフォルトは、シュンに悪態をつきたかった。
それでも逆に考えると、絶対服従の玩具にした二人が来ているのは幸いである。今回は諦めかけていた能力情報の収集ができそうだ。
(まぁいい。適当に相手をして、お帰り願えばいいだけだ。それよりも、仕返しをどうしようかなぁ。やって良いのはやられる覚悟がある奴だけ、だったか?)
フォルトは悪い顔に変わった。覚悟をもっていたかは知らないが、やられたらやり返すのは基本である。
察しの良いカーミラは大喜びで、頬に口づけをしてきた。
「御主人様が最高の顔になりましたあ! ちゅ!」
「そっそうか?」
「えへへ。悪戯なら任せてくださーい!」
「ならカーミラからも意見を聞くか」
「はあい!」
身内だけでバーベキューと決めていたが、鉄板などは無い。
魔法で穴を掘って火をつけ、周囲に石を並べただけだ。要は食材に串を刺して、穴の底の炎で焼いているだけだった。
それは何カ所か作られており、それぞれで輪になっていた。とりあえずカーミラとセレスは、別の輪に向かわせる。
一人になったフォルトは、勇者候補チームの輪に入った。ソフィアもいるので、当然のように隣へ座る。
「フォルト様……」
「ははっ。ご苦労様」
「いえ」
いつものようにイチャイチャしたいが、ここでもフォルトは控えておく。
まだまだソフィアとの関係を、シュンに知られるわけにはいかないからだ。引っ張れるだけ引っ張るつもりである。
そして、ギッシュに視線を移す。
「まったく……。シュンに言われてきたのか?」
「それもあるがよ。神殿じゃ世話になったようだしな」
「まぁ死ななくて何よりだ」
「いずれ借りは返すぜ」
ツッパリへの貸しは返ってこないのが通例だが、それは置いておく。
ギッシュは怪我が酷く、治療には時間がかかったらしい。
天使が現れたときは、フォルトもバタバタと忙しくしていたので、シュンとアルディス以外には目を向けてなかった。
世話をしたつもりはないが、彼は感謝しているようだ。
「アルディスのレベルは三十五、だったか?」
「そうね。でもリキッド・イーターとの戦闘で上がったわ」
「ほう」
「シュンと同じで三十六になったから、もうちょっとね!」
「もうちょっと?」
「三十八で王国に帰るのよ」
「ほうほう」
なぜ英雄級まで目指さないのか分からない。
それはともかくとして、もうすぐシュンたちがフェリアスから消えるようだ。フォルトは幽鬼の森に帰るので関係ないが、さらに遠くへ離れるのは幸いだ。
こういった予定を聞くと、素直な笑みがこぼれてしまう。
(酒が入ってるからか、ペラペラとよく
「ノックスは眠そうだな」
「ちょ、ちょっとね。酒が回ってきちゃったかな?」
「王様ゲームが何とか……」
「やりたいけど、ちょっとだけ寝ようかな」
「ちょっとで済めば良いがな」
「一時間ぐらいで起こしてよ。飯も食べたいからさ」
「俺に言うな!」
「な、なら私が起こしますわ」
おずおずと手を挙げたラキシスが、フォルトを上目遣いで見る。
どうも影が薄いのか、あまり気にならない女性だ。大きな二つのものを持っているので、趣味に刺さらないことも原因である。
ついでに、聖神イシュリルの神官だからか。
「まぁ任せる。そっちでもう寝てる女もな」
「エレーヌさん……。分かりましたわ」
勇者候補チームは、単独でも宴を楽しんでいたようだ。
これならすぐに泥酔させて、さっさとお帰り願えるだろう。ギッシュは酒に強そうだが、いくらでもやりようはある。
そしてフォルトは、今のうちに質問攻めをするのだった。
――――――――――
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