第429話 堕落の種と福音の果実3

※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、ベルナティオが追加されています。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220999346801/episodes/16816927862577193579

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 ガンジブル神殿から離れたフォルトとカーミラは、遺跡調査隊や勇者候補チームが向かった小川とは正反対の場所で腰を下ろす。

 そしてすぐにルーチェを呼びだして、シェラやフィロと合流を果たした。もちろん彼女には、双竜山の森に帰ってもらった。

 現在は七つの月が頭上に輝いて、周囲は薄暗い闇に覆われている。それでも木の葉の隙間から月明かり指しているので、目を凝らせばそれなりに見えた。


「魔人様、大丈夫でしたか?」

「うむ。ドッと疲れが出たがな」

「フォルト様、遺跡調査隊はどうなりましたか?」

「無事に下がった。今頃は小川で手当てをしてるだろう」

「御主人様、みんなの顔を見て話すといいですよお」

「無理。カーミラの胸元から目を離せん」


 カーミラは『隠蔽いんぺい』を解いて、ボロいローブも着ていない。

 そのため、露出が最強の状態である。疲れきっているフォルトは、彼女の下乳まで露わな上半身にくぎ付けだった。

 幽鬼の森に帰れば、いつでも拝める。しかしながら、フェリアスに来てからは隠している時間が多いのだ。

 今のうちに、目に焼き付けておく。


「とりあえず、だ。予定がだいぶ狂ったな」

「もうあいつらとヒドラを戦わせるのは無理かなぁ」

「不自然さが出るか」

「それもありますけどぉ。マリとルリが倒しちゃったと思いまーす!」

「は?」

「こっちに向かってる気がしますよぉ」

「あ、あぁ……。そうかもしれんな」


 天使が現れてから、フォルトはあたふたしてしまった。

 そのときに、「早く戻ってこい」と祈った気がする。おそらくシモベのきずなで察知して、こちらに向かってると思われた。

 これは虫の知らせのようなもので、確実な通信手段ではない。とはいえ強く念じたので、感の鋭いマリアンデールとルリシオンなら気付いたか。


「まぁ面倒臭くなったしな」

「魔人様……」

「あ、ははっ。そ、それよりも天使はどうしようか?」


 天使については、ガンジブル神殿に近寄らなければ問題ないはずだ。

 今もインプたちが挑発している最中だが、それらとつながった魔力の糸は切れていない。神殿の敷地から出ているので、天使に襲われていないのだろう。

 ここで問題となるのが、天使を放置するか倒すかである。


(俺たちへの依頼はヒドラの討伐だし、天使は関係ないと言えば関係ない。神殿にも興味はないから、やはり放置がいいかな? でもなぁ)


 フォルトが気にしているのは、フェリアスとの関係だ。

 今回のヒドラ討伐で、友好は結べていると思われる。ここで天使を放置しても、関係にヒビが入るとは考えづらい。

 だが天使は、遺跡調査隊を攻撃している。

 その場面を見ていたが、まさに問答無用の攻撃だった。となると、フェリアス全体で討伐に動く可能性がある。


「最後と思って倒しておくか」

「あら魔人様、珍しいですわね」

「ふはははははっ! 恩は売れるときに売っておくのだ!」

「さすがは御主人様です!」


 フォルトは立ち上がり、拳を握って厨二病ちゅうにびょうを発症する。黒いオーラまで出してご満悦である。レティシアがいれば追従するだろう。

 とても褒められた内容ではないが、天使を討伐するメリットはある。ヒドラと共に倒しておけば、フェリアスはローゼンクロイツ家に感謝するはずだ。

 そうなれば、色々と無理を通すことも可能になる。


「もちろん俺はやらんがな!」

「ふふっ。ですが、私では勝てないと思いますわ」


 福音の果実を食べて天使になった人間。

 それは、レベル五十以上の勇者級に該当する。ならば、レベル三十八のシェラでは遠く及ばない。

 天使になりたてとも思えないので、レベルはもっと高いと推察される。精霊魔法を駆使して一撃で沈まないまでも、広場の天使に勝利するのは不可能だ。

 よって、シェラと戦わせるつもりはない。


「なら、マリとルリが来てからかな?」

「御主人様、私が倒しまーす!」

「カーミラが、か?」

「私は悪魔ですのでぇ。天使は殺しておきたいでーす!」


(さっきもカーミラがやるとか言ってたなぁ。有耶無耶うやむやにしていたが、悪魔としての使命でもあるのか? 危険が無いなら構わないのだが……)


 魔界の神である悪魔王の先兵が悪魔。

 そして、天界に住まう神々の先兵が天使。お互いは不倶戴天ふぐたいてんの敵同士として、神話の時代から争っている間柄だった。

 となると、カーミラの発言は本心なのだろう。


「まぁ余裕なんだろ?」

「確かめたいこともありますしねぇ」

「言えないことか?」

「大丈夫ですよぉ。知りたいのは、天使の中身でーす!」

「中身?」

「えへへ。ちょっとした確認でーす!」


 広場の天使は、フルプレートアーマーで全身を固めている。人型だということ以外は、正体がさっぱり分からない。

 カーミラからは、天使になった人間と聞いた。ならばとフォルトは、中身は人間だろうと思っていた。

 そのあたりのカラクリはよく分からないので、彼女に丸投げしてしまう。


「ま、まぁそこまで言うならいいけど……」

「やったぁ! ちゅ!」

「でへ」


 リリスのカーミラは、レベル百五十の上級悪魔。

 マリアンデールやルリシオンを天使にぶつけようと思ったが、はるかに上位の存在である。普通に考えれば、人間の勇者級でも太刀打ちできないだろう。

 気がかりとしては、彼女が本気で戦ったところを見たことがない。しかしながら過去に、吸血鬼の真祖バグバットと戦闘している。

 どうせ隠れながら観戦するので、もしも危ないようなら助ければ良い。そう思ったフォルトは、デレっとしながら再び座った。

 すると、フィロが指摘してきた。


「フォルト様、悪魔は拙いですよ」

「フェリアスでも駄目なのか?」

「本当ならインプも駄目ですって!」


 死霊術師と同様で、悪魔召喚士も人々に忌み嫌われている。

 それは、人間でもフェリアスの住人でも変わらない。しかもエルフの女王は、上級悪魔バフォメットの呪いで仮死状態だ。

 仮にカーミラが悪魔と知られれば、せっかくの友好関係にヒビが入るだろう。もちろんフォルトの正体を隠すためにも、この情報は秘匿する必要がある。

 そして天使を倒すとしても、問題が一つ浮上してくる。


「シュンたちが邪魔だな」

のぞき見するかもしれませんわね」

「やっぱりシェラもそう思うか?」

「はい。戦うのは彼らが撤退した後がいいですわ」

「俺も勝手なものだな。ヒドラと戦わせようとしてたのに……」

「御主人様、それは違いますよぉ」

「うん?」

「強者は弱者に何をしても構いませーん!」

「まぁそうなんだが……」


 現代人からすれば野蛮な話だが、世界の理でもある。

 フォルトもこの答えに行きついているので、カーミラの話には同意した。それでも自身は、他人に求めているものがあった。

 それは、人間の醜さとは真逆の八徳である。相手に求めるのだから、自身も与える必要があると考えていた。

 当然のようにそれは、求めたことに応えた相手だけだ。


(しかし、俺も変わったな。おっさんでも成長できるということか? まぁそれも身内との出会いがあったからだが……)


 フォルトという人物は、イービスに召喚されてから現在までで、かなり形作られている。その大きな要因は、カーミラとソフィアの存在だ。

 これは自覚しており、また喜ばしくもあった。


「御主人様?」

「ははっ。今回の件は、何かで埋め合わせしてやればいいか」

「御主人様らしいですねぇ」

「不満か?」

「違いまーす! ちょうどいい具合でーす!」

「よく分からんが、他の具合も確かめたいものだ」

「えへへ。集落に戻ってからですねぇ」

「そうしよう。なら、邪魔なシュンたちをどうするかな?」

「御主人様、二人が戻ってきたみたいですよお」


 ここまで話したところで、カーミラの魔力探知に反応あったようだ。予想が当たっていたらしく、二人の女性が原生林の奥から姿を現した。

 もちろんそれは、マリアンデールとルリシオンである。


「あら。急いで倒さなくても良かったかしら?」

「あはっ! 何事かと思ったわよお」


 さすがは魔族の身体能力か。

 三本首のヒドラがいた場所は、ガンジブル神殿から半日以上はかかるはず。だが、すでに倒してきたようだ。

 もしかしたら、悪魔の力を使ったのかもしれない。


「面倒臭くなったからな」

「ふふっ。どうせ見るべきものは無いわよ」

「さっさと焼き上げたわあ」

「普通にやったら時間がかかったけどね」

「悪魔の力は最高ねえ。ちょっとだけ森を焼いちゃったけどお」

「十分だ。誰にも見られてないだろ?」

「当然ね。でも、何があったのかしら?」


 マリアンデールとルリシオンは、天使が現れたことを知らない。

 そこでフォルトは、かいつまんで説明する。すると姉妹は納得したのか、腕を組みながら首を縦に振っていた。


「なら仕方ないわね」

「天使とは戦ったことがないわあ」

「ヒドラよりは楽しめそうね」

「いやいや。今回はカーミラが戦う」

「へぇ。そういえばカーミラの戦闘は見たことがないわね」

「観戦してもいいのかしらあ?」

「あぁ、済まんが……」


 この二人には、シュンたちを監視しながら撤退させてもらいたい。

 その件を伝えると、姉妹は不敵な笑みを浮かべた。


「いいわよ。あいつらの無様な姿で我慢してあげるわ」

「あはっ! 覗き見しようとしたら痛めつけていいかしらあ?」

「殺さない程度にな」

「ふふっ。私の命令を無視できる気概があるとは思えないわ」

「確かにねえ。まぁ安心して戦いなさあい」

「その代わり……。カーミラは私たちと模擬戦をしなさい!」


 カーミラは、身内の誰とも模擬戦をしたことがない。

 初期のレイナスが一度だけ戦ったが、あれは試験の一環だった。まるで相手にならずに、あっさりと勝っていた。

 ここらでレベル百五十の悪魔の実力を見たいということか。


「いいですよお。屋敷に帰ってからねぇ」

「差が知りたくなったか?」

「負けるのは分かってるわ。目標にしたいのよ」

「せっかく悪魔になったのだしね」

「御主人様、私もそろそろと思ってましたあ」

「そうなのか?」

「えへへ。魔人のシモベなら、天使ぐらい倒せないと駄目でーす!」

「天使ぐらいか……。ははっ。そうかもしれないなあ」


 いま天使が出てきたのだ。

 今後も出てこないとは限らない。ならば、戦えるのがフォルトとカーミラだけでは不安要素になってしまう。

 マリアンデールとルリシオンは、身内の中では抜きん出ている。それはベルナティオも同様だが、最大戦力として天使は撃退してもらいたい。

 「神々の敵対者」のシモベとして……。


「よし! なら朝まで休んで行動開始だ!」


 フォルトは寝転んで、カーミラの膝枕を堪能する。

 次にマリアンデールとルリシオンとシェラを近くに置いて、ゆっくりと目を閉じながら触りまくる。

 フィロだけはほほを赤らめながら、荷物に顔を埋めるのだった。



◇◇◇◇◇



 ガンジブル神殿前、早朝。

 広場の周囲では、今なおインプたちがフォルトの命令に従っている。これだけ長時間変化がなければ、天使が神殿の敷地から出ないのは確定だ。

 その小悪魔たちの隣に、カーミラが立っている。


(そろそろいいかなぁ?)


 深夜に決めた作戦通り、フォルトのシモベたちが行動を起こしていた。

 シュン率いる勇者候補チームや遺跡調査隊を、近くの小川から撤退させているだろう。爆発音が遠くなっているので、そろそろ天使と戦っても良い頃合いだ。

 爆発音とは、ルリシオンの弾ける火弾である。

 彼らを追い立てているわけではなく、彼女がイライラしているといった演技だ。これにより、ガンジブル神殿に戻れないように仕向けている。

 マリアンデールも同様の演技で、撤退に一役買っているはずだ。


「ごそごそ、よっと!」


 カーミラは空間に手を入れて、魔界にある自室から大鎌を取り出す。

 これは、魔界と物質界の往来を可能にする印と呼ばれる扉の応用だ。とはいえ、悪魔王に認められた上級悪魔にしかできない。

 フォルトには伝えていないが、彼女は魔界でも指折りの上級悪魔である。


「御主人様にアピールしよっと!」


 大鎌に寄りかかったカーミラは、お尻を突き出して少しだけ振る。

 後ろで見ているであろう主人のフォルトに向けて。少しでも前かがみになれてば下着が見えてしまうが、もう完全に見えただろう。

 その証拠に、いやらしい視線をお尻に感じる。


(えへへ。最高の御主人ですねぇ。本当にポロ様とは大違い!)


「カーミラさん、緊張感が……」

「緊張なんてしなくていいですよお。シェラには攻撃させませーん!」

「魔法を撃つだけでいいのかしら?」

「私に当てちゃってもいいですよお」

「そっ、そんなことはできませんわ」

「ならせいぜい頑張って、天使に当ててくださいねぇ」

「わ、分かりましたわ」


 今回の戦闘は、シェラのレベル上げも兼ねている。

 せっかくの強敵なので、フォルトが提案したのだ。カーミラにとっては邪魔なだけだが、主人の希望は絶対にかなえたい。

 彼女もまだ弱いが、堕落の種を食べている。これも早く芽吹かせて、物質界で誕生する悪魔にしたいところだ。

 それも、主人が望んでいることなのだから。


「じゃあ行くねぇ」

「はい!」


 カーミラはフワッと浮いて、一気に天使との距離を詰める。

 まるで、体液らいのような速さだ。しかしながらガンジブル神殿の敷地に入った悪魔を、天使が見逃すはずがない。

 やりを引いて、彼女に向かって突き出した。


「悪魔殲滅せんめつ!」

「そのスキルは見たよお」


 天使の槍攻撃は『槍衝撃そうしょうげき』である。インパクトの瞬間に、衝撃波を出すスキルだ。つまり、当たらなければ発動しない。

 カーミラは浮き上がるように軌道を変えて、天使の頭上に出た。


「次はこっちの番ねぇ。えいっ!」

「ヌッ!」


 両手で大鎌を握ったカーミラは、真下にいる天使に振り下ろした。だがその強烈な一撃は、天使の槍によって防がれる。

 一瞬にして槍を引き戻して、頭上で大鎌を弾いたのだ。


「あれれ。やるねぇ、でも足元がお留守だよお」

「土の精霊ノームよ! 鋭い岩を突き出せ!」



【グランド・スパイク/大地・刺突】



 天使の立っている地面から、石で作られた突起物が十本ほど飛び出した。

 これはシェラの精霊魔法だが、同様の魔法が術式魔法にもある。中級の土属性魔法でも、彼女の魔力が低いため威力が低く数が少ない。

 ちなみにフォルトがやると、百本近く出せる。


「小賢シイ!」


 天使は槍を回しながら、カーミラ目がけて空を飛んだ。

 もちろん速攻で大鎌を引いて離れたが、石の突起物は止まらない。


「えへへ。いい魔法だねぇ」


 シェラの精霊魔法が、カーミラに当たる寸前。

 この悪魔もまた、天使を追って上空へ飛ぶ。とはいえあまり高く飛ぶと、主人のフォルトから見えなくなる。なので途中で止まって、突起物を大鎌で弾いた。

 そして、さらに上空の天使を見上げる。


「ご、ごめんなさい!」


 シェラの謝罪の声が聞こえたが、カーミラは片手をピラピラと振る。

 謝ってもらう必要などないからだ。たとえ命中したとしても、彼女にはほどんどダメージは無いのだから。


(それにしてもあいつ……。なんかやるのかなぁ?)


 上空の天使は体の向きを変えて、カーミラに視線を落とす。

 何やら魔力が増大しているが、とりあえず対処できるように身構えておく。


「目障リダ。マトメテ消エロ!」



【エンジェル・フェザー/天使の刺羽】



 天使の固有魔法だ。

 翼から羽根を飛ばす魔法だが、その形はたかである。何羽もの白い鷹が、カーミラとシェラに襲いかかった。


「芸が無いなあ」


 カーミラは天使とシェラとの射線上に移動して、大鎌を高速で回転させた。

 このときに、自身の魔力を大鎌に流す。そうすることで、レイナスの『魔法剣まほうけん』と同様の性質に変わる。

 この天使の魔法は、シェラの魔法と性質が違うのだ。

 彼女の精霊魔法は、石そのものを突起物にして飛ばしている。つまり、魔法でも物理攻撃に該当する。

 天使の魔法は、魔力の塊を飛ばしているのだ。

 これを弾くには、同じく魔力を込めたものでなければ無理である。


(まぁ魔法の武器なら、わざわざ魔力を流さなくてもいいんだけどねぇ)


 残念ながらカーミラの大鎌は、普通の鉄で作られている。

 こうやって対処が可能なので作っていなかったが、フォルトにおねだりするのも良いかもしれない。

 材料は手に入るのだから……。


「きゃあ!」

「大丈夫大丈夫。そこから動かないでねぇ」

「わ、分かりましたわ」

「適当に魔法を撃っといてぇ」

「はい! 水の精霊ウンディーネよ! 水の刃で敵を斬れ!」



【ウォーター・カッター/水刃】



 シェラが一番気に入っているのは、土の精霊ノームだ。

 それでも最初に仲良くなった精霊は、水の精霊ウンディーネだった。彼女の肩に現れた水の下級精霊は、空気中の水分で刃を作り出した。


「煩ワシイ!」

「じゃんじゃん撃っちゃえ!」

「はい!」


 天使の刺羽に負けじと、シェラは魔力の続くかぎり水刃を撃ち込む。だが、ほとんどダメージが通っていない。

 天使にとっては、インプの火弾と同様なのだろう。


「さぁて、こっちも終わりかなぁ?」


 カーミラの大鎌は、天使の魔法を弾ききった。

 軌道が変わるような魔法ではなく、直線で飛んできたからだ。何羽かは地面に降り注いだが、彼女の後ろにいるかぎりシェラは傷つかない。


(やっぱり弱いねぇ。じゃあ、そろそろ確認しますかあ)


 天使の攻撃をしのいだカーミラは、一気に天使に迫る。

 すると、また槍を突き出して攻撃してきた。


「悪魔殲滅!」

「それはもういいや。あんたの正体を教えて欲しいなあ」

「ッ!」


 カーミラは槍の攻撃を軽く避けて、一瞬にして後ろを取る。

 そして天使の首に、大鎌の先端を掛けた。意思はあるようなので、この状態から情報を引き出すのが目的だ。


「言葉は分かるかなぁ?」

「良カロウ。我ハ勇者ガンジブル。貴様ノ名ハ?」

「私? カーミラちゃんだよ」

「偉大ナル一柱ニ弓引ク者ニ死ヲ!」


 天使は振り向きざまに槍を突き出した。

 会話には持っていけないようだ。まったく融通が利かないと、カーミラは思う。と同時に、その場で一回転して槍を避ける。


「ッ!」

「そんな遅い動きで、よく攻撃しようと思ったねぇ」


 回転した遠心力を使って、大鎌は天使の首をね上空に飛ばした。それと同時に胴体は力を失ったかのように、地面へ落ちていく。

 そして頭部がカーミラの前を通過するとき。

 フルフェイスマスクから光る目を見て、彼女は勝ち誇った邪悪な笑みを浮かべた。とはいえまだ確認できていないので、頭部を追いかけて地面に下りる。


「キ、貴様……」

「えへへ。まだ生きてるんですねぇ」

輪廻りんねニ戻ッタラ、必ズ消滅サセテヤル」

「ふーん。中身は無いんだねぇ」

「偉大ナル一柱ノ御業ダ」

「そっかそっか。なら、あんたが天使になれた理由を教えて欲しいなぁ」

「偉大ナル一柱ニ認メラレタカラダ」


 カーミラは座りながら無表情となって、天使に顔を近づけた。

 この勘違いした人間の勇者に、最後の言葉を贈るために……。


「あんたが天使になれた理由はね。悪魔があんたを選ばなかったからだよ。神様はいつもハズレを引くの。お、わ、か、り?」


 カーミラの言葉は残酷だ。

 だが、真実でもある。堕落の種が芽吹くのはレベル四十以上。福音の果実はレベル五十以上、だ。

 つまり、天使より先に悪魔にできる。

 勇者ガンジブルは、悪魔の眼鏡に叶わなかったのだ。


「ナンダト!」

「えへへ。もう十分でーす! 目障りだから消滅してねぇ」



【ダーク・フレア/闇の激炎】



 バグバットにも放ったことのあるカーミラ得意の闇属性魔法だ。

 天使の頭部と胴体を巻き込んだ爆発が起こり、黒い炎で包みこんだ。吸血鬼の真祖は耐えきっていたが、勇者ガンジブルでは無理のようだ。


「我ガ意思ハ受け継ガレテイル」


 フルフェイスマスクから覗く目の光が消えて、天使の輪っかが消滅した。

 その最後の言葉を聞いたカーミラは、口角を上げて舌なめずりする。


「弱い悪魔に用は無いの。あんたも……。あいつもね」


 カーミラは振り返り、右手で横ピースを決めて腰を突き出す。

 それを見たフォルトは立ち上がり、腕を前に伸ばして親指を立てた。まさに、圧巻の勝利である。

 これが、レベル百五十の悪魔の力だった。


(御主人様は色々と甘々ですからねぇ。まぁソフィアのせいだけど……。でも、今が一番楽しいなあ。これが永遠に続けばいいよね!)


「この後は御主人様に抱いてもらってぇ。それからリゼット姫かな?」


 大鎌を空間に入れたカーミラは、フワフワと浮かんで自分の居場所に戻る。

 フェリアスの件が片付いたら、リゼット姫の所へ向かうことになるだろう。ギッシュとエレーヌについてだが、それ以外にも目的がある。


「御主人様は、そのままでいいですよお」

「どうした?」

「なんでもありませーん!」


 フォルトを悪に堕とすカーミラと善に引き戻すソフィア。それもまた楽しく、今の状態が一番好きだった。

 そして最愛の魔人のため、永遠に悪の部分を担当しようと誓うのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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