第425話 ガンジブル神殿の戦い2
シュンの上空へ跳びあがった体液
後ろにいたギッシュやアルディスすら跳び越えて、緩やかな放物線を描きながら石畳の上に落ちた。
この魔物の狙いは、勇者候補チームの後衛だった。
「避けろ!」
距離的にはアルディスが、体液喰らいの落下地点に一番近い。
もちろん後衛の三人も、ただ眺めているだけではなかった。前衛よりは視野が広くとれているので、シュンに言われるまでもなく散開しながら避けていた。
ただし、一つだけ誤算があった。
「きゃあああ!」
おそらく体液喰らいは、獲物を決めていたのだ。上空から落下しても止まらずに、迷いなくラキシスに向かって跳んだ。
最初にギッシュを攻撃したほどの速さは無い。しかしながら、レベル二十七の神官では避けられなかった。
魔物が突き出した剣殻で、彼女の右の太ももが貫かれてしまう。激痛で悲鳴を上げて、そのままもつれるように倒れた。
石畳を赤く染めるほどの血を、大量に流しながら……。
「ラキシス!」
シュンやギッシュだと、ラキシスの所まで数秒は必要だ。
その間に体液喰らいは、彼女から剣殻を引き抜いた。続いて
万事休すかと思いきや、二人の前を走るアルディスが追いついた。
「でやああああっ!」
「ギッ!」
怒りの形相を浮かべたアルディスは、全身に気を
しかる後に、体液喰らいの脇腹に強烈な一撃を決める。またそれだけでは終わらずに、軸足を変えて、後ろ回し蹴りを命中させた。
新鮮な体液を喰らいたかったのか、この二段攻撃は避けられなかったようだ。
「アルディス、よくやった!」
「さっさと治療しやがれっ!」
蹴り飛ばされた体液喰らいは、すぐに起き上がった。
ほとんどダメージは無いように見えるが、これで時間が稼げた。遅れて到着したシュンは、ギッシュと共に魔物と
そしてアルディスが、彼女を抱いて下がった。
「エレーヌ!」
「う、うん!」
【ヒール/治癒】
エレーヌが信仰系魔法で、ラキシスの傷口を塞ぐ。流れた血は多かったが、これで一先ずは安心だろう。
それにしても、体液喰らいは強い。ここはアルディスを後衛に置いて、ギッシュと二人で戦うほうが良い。
「アルディスは下がっとけ! ギッシュ!」
「分かってんよ。『
「ギッ?」
ギッシュが挑発系のスキルを使った。
知能の無い魔物や魔獣に対して効果は薄いが、それでも多少の気を引ける。先ほどはシュンが前に出てしまったが、本来の戦術に戻すことが寛容だろう。
「さあ来いや。次は俺がタイマンを張ってやんぜ!」
「ギギッ!」
挑発された体液喰らいが、ギッシュに襲いかかった。
彼はシュンより攻撃速度は遅く、防御力も低い。それでも圧倒的な体力で、多少の傷ならビクともしない。
「ク、クソッ! なんなんだ、このノミ野郎は!」
「ギッ! ギッ! ギッ!」
「うおっ! 危ねえ!」
シュンを傷つけた体液喰らいの三段攻撃。
ギッシュは野性的な感で致命傷を避けて、軽い攻撃なら当たるに任せている。とはいえ剣技が鋭いので、徐々に押され始めた。
「俺も加勢するぜ!」
「ホストは弱点でも探しやがれ!」
「なら任せるぞ!」
敵の観察に回れたシュンは、少しずつ分かってきた。
体液喰らいは、リーズリットが言ったように知能が無い。剣技は鋭いが、単純に死角や急所を狙っているだけだ。フェイントを織り交ぜるわけではないので、剣筋を理解すれば対処が可能だろう。
ラキシスを狙ったのも、勇者候補チームで一番弱いからだ。基本的には本能で動いており、まるで精密機械のように迷いが無い。
また食欲に負けるのか、ギッシュの流した血に目を向けている。時おり尖った口を傷口に突き出していた。
(ちっ。もっと見てから戦えば良かったな)
シュンは体液喰らいの動きに注意しながら、遺跡調査隊の戦いに目を向けた。
押されてはいるが、
それ以外にも後衛の前面に強者を置き、護衛のように守っている。これならばラキシスが狙われたような行動をされても、対処が容易だろう。
後はどうやって倒すかだが、シュンは相手の行動を思い出す。
「ノックス! ギッシュの左右に火球を撃て!」
そして何かを思いついたシュンは、ノックスに指示を飛ばした。
期待通りに体液喰らいが動くなら、この戦術で倒せると思われる。
「え?」
「当たらなくてもいいから連続で
「わ、分かった」
【ファイア・ボール/火球】
体液喰らいは左右に動きながら、ギッシュの急所を狙っている。ならば左右を火で囲めば、前後にしか動けなくなるはずだ。
本来なら、魔族のルリシオンが使った【ファイア・ウォール/炎の壁】が一番効果的だろう。しかしながら、ノックスには使えない。
それでもシュンの狙い通りに、動きを制限できた。
「ギッ? ギッ?」
「ギッシュ! いつものアレだ!」
いつものアレとは、ギッシュの猛攻撃のことだ。
所構わずグレートソードをぶん回して、相手を倒したり吹っ飛ばしたりする。フェリアスに来てからは洗練され、ほぼ命中する攻撃になっていた。
スキルでも何でもないが、シュンですら剣筋が読めない。
「命令すんなっ! うおおおおおっ!」
ギッシュに怒鳴られたが、シュンはラキシスが心配だった。
それは彼も同様のようで、文句を言いながらも指示に従った。とはいえ体液喰らいの剣技は鋭く、剣殻や盾殻で対応されてしまう。
「ギッ! ギッ! ギッ! ギッ! ギッ! ギッ!」
そして、ギッシュの猛攻が緩んでくる。
このような無茶苦茶な連続攻撃など、そう長く続かない。それを感じ取った体液喰らいは、後ろ向きに彼から離れて、一直線に跳んできた。
「それを待ってたぜ! ギッシュ、下がれ!」
「けっ!」
いつもはギッシュの体力が切れたときに、シュンやアルディスと入れ替わる。
今回もそれに倣った形だが、自身が持つ最強の防御スキルを発動した。
「聖神イシュリルよ、悪を通さぬ聖なる加護を! 『
シュンを中心に、不可視な
多大な集中力を使うが、このスキルは体液喰らいの攻撃を阻んだ。突き出された剣殻は上に逸れて、顔面からぶつかったのだ。
「ギョッ!」
「ギッシュ、俺に続け! 『
「やるじゃねえか! オラァ!」
完全に無防備となった体液喰らいに、シュンはスキルを使って斬り込んだ。
それでも、さすがと言うべきか。一撃目は盾甲で防がれてしまう。しかしながら二撃目で、剣殻が付いた腕を斬り落とした。
そこへ最後とばかりに、ギッシュがグレートソードを振り下ろした。まさに渾身の一撃というべき攻撃で、魔物の脳天をかち割るのだった。
「ギャ!」
「倒したのかよ?」
「動いてるが……。ノミだしな」
頭を潰されても動く昆虫は多い。
六本の足は動いているが、上半身はピクリとも動かない。もう脅威とは呼べないので、ノックスに焼いてもらえば良いだろう。
「ラキシス!」
シュンは急いで、石畳の上で倒れているラキシスのもとに走った。
彼女は石畳の上で横になっており、エレーヌの信仰系魔法を受けている最中だ。血は止まっていたが、まだ痛みはあるようだった。
「どうだ?」
「シュン様……」
「エレーヌ、初級で間に合うのか?」
「へ、平気だと思うよ。骨も無事みたい」
「なら良かった」
(本当に良かったぜ。ラキシスは捨てたくねえからな。それにしても、俺らもやればできんじゃねえか。リーズリットたちより早く終わらせたぜ)
そう思った矢先、遺跡調査隊が歓声を上げた。
シュンは目を伏せて舌打ちする。少しは余韻に浸らせてもらいたい。
「ちっ。あっちも終わったようだな」
「んなことより、俺を治療しろや」
「エレーヌ、やれるか?」
「う、うん。じゃあギッシュさん……」
「ホストがやれよ」
「俺はリーズリットの所に行ってくる」
ギッシュは体液喰らいとの戦闘で、体のそこかしこに傷を負っていた。にもかかわらずシュンは、その場から離れていった。
エレーヌに期待しているのは、自身の性処理と道具としての魔力タンクである。まだ彼女には、魔力が残っているはずだ。
「そういうところだよ」
「………………」
ギッシュが何かを
とにかく体液喰らいを排除したので、ガンジブル神殿の調査に入れるだろう。後は遺跡調査隊に先んじて、目的のアイテムを入手するだけだ。
そう思いながら空を見上げると、鳥のようなものを発見するのだった。
◇◇◇◇◇
フォルトはカーミラを抱えながら、ヒドラの巣の上空に到着した。
おっさん親衛隊は終始有利に戦っていたので、何も問題ないと判断したのだ。スキルの『
その状況から負けるほど、彼女たちは弱くない。
「ご主人様、リリエラは置いてきて良かったんですかあ?」
「うむ。マリとルリの戦闘は参考にならんだろ」
リリエラの護衛は、
ヒドラ戦が終了したら、双竜山の森に戻るように指示を出しておいた。
「さてと。魔族組は……」
「あそこでーす! でもなんか変ですねえ」
「変?」
目を細めたフォルトは、カーミラが指した場所を見る。
彼女が言ったとおり、確かに変だった。戦闘中といったわけでもなく、ヒドラが暴れた形跡も無い。とりあえず、魔族組は発見できた。
こちらに気付いたマリアンデールやルリシオンが手を振っている。シェラやフィロもいるようだ。ならば話を聞けば分かるので、急いで毒の沼地に下りた。
地面がドロドロしているので、飛行の魔法は解除しない。
「マリとルリは凄いな。跡形もなく消し飛ばしたのか?」
「ちょっと。それは嫌味かしら?」
「いなかったから倒してないわよお」
「あれ? 巣……だよな?」
「フィロ、フォルトに詳しく説明しなさい」
「は、はい!」
レンジャーとして大活躍中のフィロから、現状の説明を聞いた。
突如として消えた五本首のヒドラ。足跡もルイーズ山脈の手前で切れており、現在は神翼兵団の有翼人が探している。
そういった事情なので、フォルトの判断を仰ぎたいとの内容だった。
「ふーん。フィロに発見できないなら、誰が探しても無理だろう」
「そっ、そんなことはないですよ? 今も神翼兵団の人が……」
「マリ、沼の底には……」
「いないわよ」
マリアンデールに問いかけると、その程度のことは調べてあるらしい。
魔力探知を使えば、簡単に分かることだ。となると、巣の近辺にヒドラはいない。もちろんフォルトは、わざわざ探すつもりがない。
「なら有翼人が発見したらでいいだろう」
「当然ね」
「私たちも探す気はないわよお」
「うむ。撤収だな!」
魔族組の戦いが見られないのは残念だが、フォルトは
おっさん親衛隊の戦いも終わりに近づいているので、ローゼンクロイツ家としての役割は終わりである。
そう思ったところでシェラに顔を向けると、何かを言いたそうだった。
「シェラ、どうした?」
「戦士隊の一隊が負けたらしく……」
「へえ。全滅?」
「いえ。戦士隊を再編して挑むそうですわ」
「まぁヒドラは強いってことだな! あっはっはっ!」
身内の強さに
それでも作戦会議では甚大な被害が予想されていたので、ヒドラに敗北する隊が出ても不思議ではない。
その対応も決まっていたとおりなので、フォルトは笑って済ませる。
「今は自由を得て、ガンジブル神殿に向かっているようですわ」
「ガンジブル神殿?」
「魔人様と同郷の異世界人が……」
「あぁ、確かシュンたちが向かってたな」
(それも対応が決まっていたような? 作戦通りに動けば問題ないはずだ。それにしてもシュンたちは、ヒドラと戦わないのかな?)
今回の作戦会議は、ほぼセレスに任せていた。
うろ覚えだが、ヒドラが迫ってきたら撤退する作戦だったと記憶している。伝令も向かっているはずなので、フォルトが気にしなくても良い。
それよりも、シュンたちの実力のほうが気になった。ヒドラと戦わないなら確かめようもないが、新しいスキルを覚えているかもしれない。
これについてはアルディスやエレーヌから聞くより、彼らの戦いぶりを見たほうが早いだろう。百聞は一見に如かずである。
それでもまずは、身内にも意見を聞く。
「カーミラはどう思う?」
「御主人様の好きにすればいいと思いますよお」
「ははっ。マリとルリは?」
「成長は期待できないわよ? でも無様な姿は見たいわね」
「お姉ちゃんだけ玩具を手に入れてズルいと思うわあ」
「ああんっ! もちろんルリちゃんと共同だわ!」
確かにマリアンデールは、ラフレシア戦で勇者候補チームと共にいた。
その話もベッドの上で聞いており、彼女からすれば玩具のようだった。魔族としても、人間の不幸は蜜の味といったところか。
「シェラは?」
「魔人様にお任せしますわ」
「率直な意見は?」
「マリ様とルリ様の暇を潰せれば、と思いますわね」
「なるほど。フィロは……」
「私に決定権はないですよ?」
「いや。ちょっと後ろを向いて尻を振ってくれ」
「嫌ですよ!」
フィロのバニーガール衣装は目立っている。天然の
要求もおっさんらしいが、彼女が嫌ならば仕方ない。どうせ幽鬼の森に帰れば、いくらでも拝める。
からかうのはこれぐらいにして、まずは結論を出す。
「なら行くとしようか」
「いいのかしら?」
「二体はローゼンクロイツ家が引き受けたしな」
「五本首じゃないわよお?」
「ははっ。マリとルリは暴れたいのだろ?」
「三本首なら別にいいわ」
「シェラのレベル上げにはなるけどねえ」
この姉妹は、五本首のヒドラだから引き受けた感がある。ならば、レベル三十八のシェラを鍛えたほうが良いか。
そのあたりは、移動しながら決める。シュンたちが戦うようなら、こそこそと隠れて
作戦は念入りに、その場の行動は臨機応変に、だ。
「とりあえず臭いから移動。シェラ、どっちに行けばいい?」
「南東ですわね。ルイーズ山脈の麓と聞きましたわ」
「ならスケルトン
「フォルト様、スケルトンはお勧めできません」
フィロから駄目だしされた。
ぬかるんでいる湿地帯では滑ってしまう。彼女に指揮権を渡したスケルトンも、動きが鈍く転んだようだ。
「ちっ。ならアラクネだな」
「フォルト様、生物は毒で死にますよ?」
フォルトとカーミラ以外は水膜を張っているが、召喚した魔物は一瞬にして周囲の毒に侵される。『
飛行の魔法の効果が切れるまでは、フワフワと飛んでおく。
そして、移動を開始した。
「湿地帯……嫌い」
「御主人様は可愛いですねえ」
「と、ところでルリ、ヒドラはどの辺にいるんだ?」
「知らないわあ」
「御主人様、カーミラちゃんが見てきまーす!」
「よろしく!」
フォルトの腕から、カーミラの柔らかな感触が無くなる。
とても名残惜しいが、『
五本首のヒドラを探しにいったという神翼兵団の隊員だ。
「えっと、ローゼンクロイツ家の当主様ですか?」
「うむ」
「五本首のヒドラについて報告致します!」
結論から言えば、残念ながら発見できなったようだ。ルイーズ山脈に入った形跡も無く、山中にもいなかった。
また深い霧が発生したので、それ以上の捜索は諦めたらしい。
「以上になります!」
「なら五本首はどうする? 放置で構わないか?」
「申し訳ありません。私では判断できません」
「ふむ。ならば、クローディア殿かブラジャ殿に判断を仰いでくれ」
「分かりました」
「ちなみにだが、ローゼンクロイツ家は探すつもりがない!」
「あ、併せて伝えておきます!」
念には念を入れておく。
どのような判断になろうとも、ローゼンクロイツ家がヒドラの捜索に加わることはない。発見してから、改めて討伐の依頼を出してもらう。
「そういえば負けた隊は、どれぐらいで再戦するんだ?」
「明日になるかと思います」
「まぁすぐには無理か。ならば移動中のヒドラは対処しよう」
「本当ですか!」
「うむ。条件はあるが……」
自由になったヒドラを対処するのは問題ない。魔族組の戦闘は観戦するつもりだったので、それが五本首か三本首かの差だ。
問題があるとすれば、邪魔が入らないかどうかである。ヒドラに敗北した隊は他に割り振ってもらい、決して近寄らないでもらいたい。
それを有翼人の女性に伝えて、フォルトたちは移動を再開した。
「フィロは斥候を頼む。何かあれば知らせてくれ」
「分かりました」
ガンジブル神殿への詳細な道筋は分からない。
ここは土地勘のあるフィロの出番だろう。だいたいの位置さえ分かっていれば、レンジャーの彼女なら発見できる。
そして暫く進んでいると、カーミラが戻ってきた。
「御主人様! 見つけましたよお」
カーミラはフォルトの首に巻き付いて、そのまま腕の中に納まった。
三本首のヒドラは、移動中に魔物を捕食して腹を膨らませたようだ。ガンジブル神殿に向かう途中で、ぐっすりとお休み中らしい。
「開けた場所ってあるの?」
「やっぱり神殿かなあ。開けてると思いますよお」
「シュンたちはいた?」
「遠くからなので見えませーん!」
フォルトたちは知らないが、勇者候補チームは体液喰らいと戦闘中だった。伝令も向かっている最中なので、今からガンジブル神殿に向かえば撤退しているか。
とりあえずヒドラと戦うとしても、場所が開けていたほうが観戦できる。また戦士隊も森に被害を出さないように、そういった場所に誘い込んでいた。
「ははっ。なら神殿で迎え撃つか」
「はあい!」
「いいわよ。どうせすぐに片付くわ」
「あはっ! 全力で燃やそうかしらねえ」
「おいおい。シェラのレベル上げもあるぞ」
「大丈夫よ。後ろからガンガン攻めなさい」
「はい。頑張りますわ」
(まぁシェラなら、マリやルリと連携はとれるだろう。レティシアのように危なっかしくないしな。そういえば、あっちは終わる頃か……)
フォルトはおっさん親衛隊に思いをはせる。
支援はしなかったので、考察通りならレベルが上がっているだろう。レティシアだけ遅れ気味だが、幽鬼の森に帰れば調整できる。
ここらでレイナスに追いつかせて、限界突破の神託を受けたいところだ。
「御主人様、もうすぐですねえ」
「分かるか? さすがはカーミラ」
「えへへ。カーミラちゃんも魔界で鼻が高いですよお」
物質界で堕落の種を芽吹かせるのは難しい。
レベル四十の英雄級になれる人間はほとんどいないので、かなりハードルが高い。それを、フォルトの身内の数だけ芽吹かせられるのだ。
魔界の神である悪魔王からすれば、カーミラは優秀な人材だろう。
そう考えたフォルトは、思わず笑ってしまう。
「ははっ。御褒美をもらわないとな」
「悪魔王次第なのでえ。期待はしてませーん!」
「さすがは魔界の神。ブラック中のブラックだな」
「フォルト様! 戻りました」
カーミラや身内との会話は楽しいので、時間を忘れて移動したようだ。
フィロが偵察から戻って、ガンジブル神殿の位置を知らせてきた。
「誰かいた?」
「遺跡調査隊が残ってましたね」
「撤退してないのか?」
「なにか口論をしてました。内容までは聞いていません」
「ふーん」
(どうせシュンだろ。同じ日本人として恥ずかしい。撤退の伝令が届いたなら、文句を言わずに撤退しろと言いたいが……)
フェリアスでは、困ったちゃんになっているシュンだ。
そういった評判はセレスから聞いているので、おそらくは当たっているだろう。とはいえ、勇者候補チームの実力を測るチャンスか。
「御主人様! 面白い作戦を思いつきましたあ!」
「おっ! さすがはカーミラ。採用だな」
「まだ何も言ってませーん!」
「そうだった。ならみんな集まってくれ」
カーミラに対して甘々のフォルトは、この場にいる全員を集めた。
次に円陣を組んで座り、額を寄せて彼女の作戦を聞く。まるで、悪巧みをしている集団のようだ。
そして、満場一致で決まった作戦を開始するのだった。
――――――――――
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