第418話 不実の代償6

※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、シェラが追加されています。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220999346801/episodes/16816927862577193579

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 蜥蜴とかげ人族の集落には、数軒の小屋が建てられた。

 その一つは、族長ブラジャの家だ。彼に頼み込まれたフォルトは、嫌々ながらも引き受けてしまった。

 働くのは召喚したブラウニーなので、宿舎の建て替えのついでだった。しかも面倒になったので、セレスに指揮権を渡した。


「結局、五軒ぐらい?」

「はい。族長の家の他に集会所なども……」

「まぁいいけど。ブラウニーたちは大変だったろうな」

「いえ。集会所と言っても、屋根があるだけですしね」

「なるほど。あれか……」


 フォルトとセレスは、その集会所へ向かっていた。彼女の言葉通り四方に柱が立ててあり、上に屋根が置かれているだけだ。

 柱は木の幹を魔法で削っただけである。屋根は丸太と板を組み立てて、雨漏りがしない程度のものだった。

 簡易的と言えば簡易的である。


(なんか、小学校の校庭にあった土俵みたいだな。しかも集会所と言いつつ、椅子やテーブルは無いか。さすがは蜥蜴人族だな)


 地面は精霊魔法で固めてあるので、一応は座れる。

 フォルトたちは魔法の服なので気にならないが、他の者はお尻が汚れるだろう。何か下に敷けるものでもあればマシか。

 もちろんそう思っただけで、こちらから用意する気はない。


「旦那さまには申しわけないですが……」

「どうした? セレス」

「ドワーフたちが手を加えたいと言っていました」

「は?」


 やはりブラウニーが建てた小屋などは、外観がみすぼらしい。

 それを集落にいたドワーフが、「ワシらが立派にしてやる!」と意気込んでいたらしい。ヒドラの件が終わったら、作業を始めるとの話だ。

 しかも、無償で行う。


「タダねえ。俺たちには、何かくれるのか?」

「石のメダルを頂きましたわ」

「え?」

「蜥蜴人族の友と言ったところでしょうか」

「………………」


 小屋を建てただけで、フォルトは蜥蜴人族の友人になった。

 ただし、友達といった対象ではない。今後はブラジャの集落から、精鋭の戦士隊を借りられる。

 原始的な部族が来訪者の行動に感謝して、集落の勇者たちを貸し出すといった物語が頭に浮かんだ。


(まあなんだ……。本当に原始的だよな。裏表がないと言うか、人間にだまされないか心配になるレベルだ。嫌いではないのだが……)


「旦那様の考えてることは分かります」

「う、うむ」

「ですが旦那様は、かなり好意的に見られていますよ」

「え?」

「女王様の件に介入されていますので……」


 エルフ族の女王ジュリエッタに掛けられた呪い。

 この件は、フェリアスの最重要案件である。フォルトが試みた呪いの解呪から始まった一連の出来事は、各種族の族長まで共有されている。

 ローゼンクロイツ家の名声もあるが、個人に対して好意的なのだ。


「俺がか?」

「はい。ブロキュスの迷宮を覚えていますか?」

「ティオを調教したな。でへ」

「そっ、そちらではなく」

「あ、ああ。ミノタウロスの討伐か」


 ブロキュスの迷宮には、マリアンデールとルリシオンの限界突破作業のために訪れた経緯がある。

 そこでセレスと出会っているが、同時にベルナティオが身内となった。


「私も色々と頼みましたね」

「ははっ。迷宮ありの退治とかな」

「嫌々ながらも引き受けてくださいました」

「まあ、エルフの里に行きたかったからな」

「目的はどうあれ、私たちは感謝していたのですよ」

「へ、へえ」


 あのときはフォルトたちの登場で、だいぶ被害が軽減されていた。

 迷宮蟻の女王を倒したり、五層にいたはぐれミノタウロスを討伐している。特に道中にいたスタインの部隊を助けたことが大きい。

 迷宮蟻の壁になっていた戦士たちが崩れそうだったのだ。もしも向かっていなければ、甚大な被害を受けていた。


「そんなこともあったなあ」

「他にもありますが……」

「なるほど。信頼を勝ち得ているのか」

「はい」

「俺は何もしてないけどなあ」

「ふふっ。自覚がないだけですね」


 フォルトは照れてしまう。

 こちらから友好を結ばなくても、すでにフェリアスが友好的だった。嫌々ながらも引き受けて、結果を出しているからだ。

 これについては、リゼット姫の御茶会で似たようなことを言った。「信用を得るには時間がかかる。だが、壊すのは一瞬だ」と。


「なら壊さないようにしないとな」

「ふふっ。そうしてください」


 フェリアスとの友好は望むところ。

 リゼット姫に伝えた教訓を、自分が活かさなくてどうするである。ならば、あの件は伝えたほうが良いだろう。


「ベクトリア公国の件は伝えたか?」

「クローディア様だけですが、余計なことでしたか?」

「いや。話す手間が省けた。さすがはセレス」

「妻ですから……」

「違う!」

「少しは惚気のろけさせてください!」

「ですよね」


 恋愛と結婚に憧れていたハイエルフ。

 セレスの願いは、身内にした責任としてかなえないといけない。彼女もソフィアに次いで、ターラ王国では頑張っていた。

 そこで腕を組んで惚気させていると、後ろから男性に呼び止められた。


「おっさん!」

「ちっ」


 出会いたくなかった人物だが、集落にいるのは知っている。

 フォルトは思わず、周囲に聞こえないよう舌打ちした。


「シュンか」

「ノックスもいるぜ」

「やあおっさん、久しぶりだね」

「う、うむ」


 心の狭いフォルトは、いまだに見捨てられたことを根に持っている。

 まだ持っているのかと思われるだろうが、こればかりは仕方ない。


(エレーヌやギッシュに手を貸すのって、これが原因か? まあ、俺は器が小さい。というか、シュンは何をやってるのだ?)


 いま目の前にいるシュンは、気持ち悪い笑みを浮べている。

 前日に会ったエレーヌが、勇者候補チームを抜けたいと言っていた。そうなると、彼はリーダーとして、チームメンバーをまとめられていない。

 しかも彼女は、恋人の一人なのだ。別れるための相談をされたことと等しい。まったくもって、馬鹿馬鹿しい話だった。

 彼に内緒で伝えにきたので、その話すら知らないのだ。


「プッ!」

「なっ、なんだよおっさん。気持ち悪い」

「い、いや。シュンも苦労してるのだなと……」

「まあな。フェリアスまで来てレベル上げだぜ」


(そういった話ではないのだが……。し、しかし笑ってはいかんな)


 すべてをぶちまけたい気分になったが、フォルトは控えておく。

 結局のところ、彼らの問題である。今なおくすぶるムカつきは止まらないが、一つの教訓を知っていた。

 口は災いの元である。


「そっ、そうか。おまえらも会議に参加か?」

「一応な。ってかおっさんは、何でいるんだよ?」

「ヒドラの討伐だな」

「おっさんがか? 倒せんのかよ?」

「さあな。俺が戦うわけじゃない」

「ちっ。魔族の姉妹か?」

「そんなところだ」


 おっさん親衛隊も戦うのだが、アーシャがいるので黙っておく。シュンより強いと知ったら、何を言われるか分からない。

 きっと彼らは、レベル上げの効率が悪いのだろう。同じ異世界人として、成長速度は同じなのだ。にもかかわらず、彼女に追い越されている。

 これについての情報は、フォルトが勝っていた。


(イービスの仕様を調べてないな? 一般兵のレベルが十五と聞いたが、レベルの上げ方が間違っているだけだ。それを基準にしてたら駄目だろうな)


 仕様というとゲーム感覚になるが、それは置いておく。

 フォルトも手探りの状態だった。今でも同様だが、一般的に伝わっているレベルの上げ方は効率が悪い。

 それを疑問に思わないのは、慣例に沿っているからだと思われる。非効率でもレベルは上がるので、わざわざ検証していない。


「まあなんだ。元気でな」

「待て待て。まだ話は終わってねえ」


 フォルトは、シュンから距離を置きたかった。

 気軽に会話する仲ではない。しかしながら彼は、そう思っていないらしい。困ったものだが、いつになったら世界が違うと理解するのか。


「終わっただろ?」

「隣の奇麗なエルフを紹介してくれよ」

「セレスか?」

「いい名前だな。それにしても……」


 セレスは少しだけ会釈をして、すまし顔で押し黙っている。

 対してシュンは、ホストスマイルを浮べている。視線は彼女の太ももにくぎ付けだった。「履いてない」と思わせるほど短いスカートである。

 その視線を感じた彼女は、フォルトの後ろに隠れた。


「今度さ、エルフの里を案内してくれよ」

「お断りします」

「人間は立入禁止だっけ?」

「はい。侵入者は誰であろうと排除します」

「へぇ。おっさんは行ったんだろ?」

「ローゼンクロイツ家としてお招きしましたね」


 これについては、うそではない。

 フォルトはエルフの里の案内をセレスに頼んだが、クローディアの許可があったから入れたのだ。

 そのときは高位の魔法使いと伝わっており、許可の理由は、女王の呪いの解呪を試みてもらうためだった。


「よし終わったな。では達者でな」

「終わってねえよ!」

「なんだ? まだ話すことがあるのか?」

「いやよ。ソフィアさんに会わせろよ」

「………………」

「レイナスちゃんに断られてよ」

「うーん。シュン……」

「なんだよ」

「おまえはエウィ王国の貴族になったのだろ?」

「シュン・デルヴィ名誉男爵だ。忘れんな!」

「い、いや。はぁ……」


 フォルトは溜息ためいきを吐いた。

 アーシャも言っていたが、シュンは日本での成功に縛られて抜け出せない。とはいえ、それは仕方のないことかもしれない。


(まあ無理からぬことか? シュンは勇者候補だものな。やれやれ)


 シュンは召喚されてすぐに、勇者候補と認定された。訓練も城内の騎士たちと行っており、過保護に育てられたのだろう。

 魔の森でフォルトと再会した後も、うまく立ち回っていた。同じような勇者候補とチームを組んで、特に挫折することなくレベルを上げている。

 そして、デルヴィ侯爵に取り入って、貴族を名乗るまで至っていた。ホスト時代と同様に、今後も薔薇ばら色の人生なのかもしれない。

 イービスでも成功していると勘違いしている。


「何か言いたいことでもあんのか?」

「そうだな。では、シュン・デルヴィ名誉男爵殿」

「な、なんだよ急に……」

「我がローゼンクロイツ家は、魔族の名家である」

「はあ?」

「人間だけの世界ではないということだ」

「言ってる意味がサッパリ分かんねえ!」


 フォルト自身も、何を言っているのかサッパリ分からない。

 言い直すのも格好悪いので、ターゲットをノックスに変える。


「ノックスは分かるか?」

「おっさん……。悪いけど分かんないや」

「そっ、そうか」

「でも、今のおっさんは偉いんだろうね」

「偉くはないが……」

「シュン、礼儀を弁えろってさ」

「はあ?」


 多少の勘違いは置いておいて、ノックスは察しが良かった。

 フォルトはローゼンクロイツ家として、様々なお偉いさんと対等以上に接しているのだ。どちらかと言うと危険視されているが……。

 また個人として、吸血鬼の真祖バグバットと盟約を結んだ。そのような人物が、エウィ王国の名誉男爵ごときにめられてはいけない。

 この場にマリアンデールやルリシオンがいれば、足を踏まれるだろう。


「さすがはおっさんだぜ。くだらねえことを考えやがる」

「なに?」

「一緒に召喚された日本人同士だぜ。仲良くしようや」

「あのなあ」


 あきれ顔のフォルトは、シュンの思考を理解した。

 日本人という共通性を盾にして、おっさんを見下したいのだ。イービスに召喚された時点で、すでにマウントをとっている。それを、永遠に続けたい。

 目上の人間を馬鹿にする若者によく見られる傾向だった。


(確かに俺は引き籠りのおっさんだ。だが、馬鹿にするのも大概にしてもらいたい。と言ったところで無理だろうなあ)


 シュンは言葉という武器で、フォルトをねじ伏せようと躍起なのだ。諭そうとするとムキになって反論してくるだろう。

 自覚はないかもしれないが、立場が逆転していると感じたのかもしれない。確立していた優位性を捨てられない本能が、そうさせる。

 おっさんより上という立場を守りたいのだ。


「無理だな。いい加減、そういった意識は捨てろ」

「そんなもん、とっくに捨ててるぜ」

「そうは聞こえんがな」

「まあよ。おっさんを拾わなかったのは謝るからよ」


 そういった話ではないのだが、相変わらず調子の良いことだ。何度か聞いている謝罪だが、誠意がなく言葉は軽い。

 やはりフォルトは、シュンが嫌いである。手のひら返しは当たり前で、人間の醜さをふんだんに詰め込んだ人物だった。


「やれやれ。許可は出すから、今後は気をつけろ」

「今後があるのか? ヒドラで死ぬんじゃね?」

「言ってろ。マリやルリの強さは知ってるだろ」

「ちっ。んじゃ、会議が終わったら行くぜ」


 シュンとノックスは、フォルトから離れていった。

 近くの集会場には、すでに参加者が集まっている。ターラ王国での作戦会議を思い出すが、あれからすると人数が少ない。

 とりあえずはセレスの細い腰に手を回して、先ほどの話は棚に上げておく。それにしても、言葉では若者の彼に勝てる気がしない。

 そんなことを思いながら、クローディアのところへ向かうのだった。



◇◇◇◇◇



 ヒドラ討伐の作戦会議は、全員が地べたに座るなか進められた。

 各種族の戦士隊から隊長クラスが参加しており、進行役はクローディアが受け持っていた。もちろん、集落の族長ブラジャも参加している。

 ローゼンクロイツ家からは、フォルトとセレス。勇者候補チームからは、シュンとノックスが参加だった。


「あのシュンという人間は子供ですか?」

「うむ」


 セレスからは、辛辣な言葉が飛んだ。聞いているのはフォルトだけなので、彼女の言葉に相槌あいずちを打つ。

 会議自体は、とっくに終わっている。前日にクローディアから、ヒドラの情報を詳しく聞いていた。なので、その脅威は分かっている。

 現在は彼女を連れて、宿舎に戻っている最中だった。


「速射で額を射抜きそうになりましたよ」


 セレスは腰に下げている矢筒を触っている。

 あの至近距離であれば、シュンは射貫かれたことも知らずに死ぬだろう。フォルトのことを想っての話だろうが、堕落の種でも芽吹き始めたか。

 そういった点も含めて、彼は何も分かっていない。


(そうだなあ。俺と同じおっさん……。あのオーガ顔の騎士なら、シュンを殴り飛ばしているだろうな。日本とは違うのだよ)


 ソル帝国四鬼将筆頭〈鬼神〉ルインザードのことだ。何度かお目にかかったが、紳士のように見えて、中身はベルナティオ。

 いつも彼女は「フォルトに手を出すなら斬る」と言っているが、彼は皇帝ソルが馬鹿にされれば斬ってしまうだろう。

 そういった観点からすると、シュンの言動はいただけない。確実に殴り飛ばされれて、目上への礼儀をたたきこまれる。

 ちなみに彼女がそういった相手を斬っていないのは、〈剣聖〉の風格で、相手を委縮させていたからだ。


「本当に面倒な奴だな」

「旦那様は、あの人間を殺さないのですか?」

「さらに面倒事が増えると言ったはずだが?」

「聞きましたが、他にも理由がありそうですね」

「ははっ。苦手意識かな」


 苦手意識というものは、なかなか拭えない。

 日本にいた頃の差は、歴然としていた。若者のシュンは、フォルトのコンプレックスを映し出す鏡と言って良い。性格も相まって、手を出しづらいのだ。

 人間を見限った堕ちた魔人でも、やはり一歩引いてしまう。もちろん面倒事も増えるので、彼を殺すところまで至れない。

 精神的なものは時間が必要か。


「フェリアスでの評判は悪いそうですよ」

「へえ。クローディアから?」

「はい」


 シュンは大族長たちの間で、エウィ王国の面倒な貴族と思われている。

 そして、勇者候補チームの担当になったリーズリットからも、良い報告は上がっていない。仲間との喧嘩けんかが絶えず、我儘わがままが多かったらしい。

 討伐隊に参加したことから、そちらについては感謝されている。しかしながら大族長たちに嫌われては、その評価も帳消しだろう。


「本当に何をやっているのやら……」

「気になりますか?」

「いや、まったく。運命の女神がいるなら殺したい」

「ふふっ。私と旦那様の出会いは運命ですよ」

「そっ、そうだな!」


 イービスの澄ました麻呂顔が、フォルトの脳裏にチラチラと浮かぶ。

 どちらかと言うと聖神イシュリルのほうが怪しいが、いずれ問いただしたほうが良さそうだ。

 そんなことを考えていると、身内が休んでいる宿舎に到着した。


「みんなはいるかな? って……。あれ?」


 宿舎に設置したテラスには、ソフィアとレイナスが座っていた。

 それとは別に人間の男女三人が、テラスから離れていった。フォルトとは反対方向へ向かったので、顔などは分からない。

 女性は一人だったが、シェラのように白衣を着ていた。男性の二人は、どこかで見たことのあるよろいを装備していた。


「人間のようですわね」

「シュンたちの他にもいるのか?」

「クローディア様からは聞いていませんが……」


 あの三人については、あれこれと考えても始まらない。

 ソフィアに聞けば済む話なので、フォルトは速足でテラスに向かった。


「あらフォルト様。作戦会議は終わりましたか?」

「うむ。それよりも、だ」

「ふふっ。彼女たちですね?」

「そっ、そうだ。何だあいつらは?」

「王立技術開発研究所のノーナさんです」

「お、王立? 技術?」


 エウィ王国が運営する技術開発研究所。

 魚の養殖技術を提供するため、蜥蜴人の集落に訪れていた。先ほどの女性が研究員のノーナで、二人の男性は護衛の王国兵だ。

 なにやらソフィアがいると知って、挨拶に来ただけである。


「養殖ねえ」

「フェリアスとの人的交流を拡大させたのは御爺様おじいさまです」

「グリムの爺さんか。だからソフィアに……」

「はい。私が視察に来たと思われたようですね」

「なるほどな」


 ノーナの水質調査隊は、フォルトのことを知らされていない。

 ローゼンクロイツ家については、レイナスがうまくフォローしたようだ。グリム家の客将という立場を使って、それ以上聞くなと脅した。


「脅したのか?」

「平民が貴族の秘密を知っても良いことはありませんわ」

「ノーナとやらは平民なのか?」

「彼女の上司は貴族ですが、職員は平民ですわね」

「なるほど」


 レイナスの話は暗黙の了解なので、ノーナは何も聞かなかった。

 国王や貴族しか知らない話を平民が聞いたら、最悪は始末されるだろう。


「あれ? マリとルリは……」

「リリエラを鍛えるついでと言って、また狩りに行きましたわ」

「ふむふむ。他のみんなは宿舎の中か?」

「そうですわね」


 フェリアスには、人間の魔族狩りがいない。なので魔族組は、これを機に遊んでいるようだ。

 確かに彼女たちは、この地に来るとアグレッシブだった。ついこの間も、ラフレシアを討伐している。


「ならレイナス。これからシュンたちが来ると思う」

「ちっ」

「あっはっはっ!」


 レイナスの舌打ちが、そのままシュンに対する印象だ。

 フォルトが見せるような嫌な表情になるところが笑える。非常にレアな顔だが、ここまで彼女が嫌う人間もなかなかいない。


「ではみんなには、宿舎で待つように伝えてきますね」

「セレスに任せる。終わったら、みんなで飯にしよう」

「はい! それまでは休んでおきますね」


 セレスがフォルトの意図を酌んで、宿舎の中に入った。

 いま残っている身内を見られると、根掘り葉掘り聞かれる。もちろん自分はソフィアとの面会に同席するので、それで時間が延びても嫌だった。

 簡潔に終わらせて、いつもの甘く華やかな空間を作りたい。

 誰にも邪魔されない身内だけの空間を……。


「というわけでソフィア。まだ休めないが……」

「構いませんよ。少し説教しないといけないようですね」

「ほどほどにな。ティオとレイナスも同席してくれ」

「気軽に触っていいからな?」

「師匠、ズルいですわ! 私もフォルト様の横に立ちますわね」

「い、いや。どちらかはソフィアの隣にな」

「「むぅ」」


 ベルナティオとレイナスが、同時にふくれたところが可愛い。

 これから来るのはシュン、ノックス、アルディスだ。ソフィアとの関係を知られていないようなので、触りたくなったら触るつもりだった。


「ローブはしっかりと着ておきませんとね」

「うむ。ソフィアの素肌は俺のものだ」

「まあ……。ちゅ」

「でへ」


 今の行為を見られたら、シュンが大騒ぎしそうだ。

 それもまた楽しいかもしれない。もしもソフィアを諦めていたら、存分に見せつけても良いだろう。そんなことを考えたフォルトは、彼女の隣に座る。

 そして今のうちに、彼女の太ももへ悪い手を伸ばすのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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