第416話 不実の代償4

 レイナスとアーシャが、人間の男性と会話している。

 その周囲には、他にも人間の男女がいた。セレスは鋭い目に変わって、彼女たちの対応を観察する。

 どうも和やかな雰囲気とは程遠い。時おり怒鳴り声も聞こえたが、彼女たちは軽くあしらっているようだ。


(もしかして、あれが旦那様の言っていたエウィ王国の勇者候補かしら? 私は面識がないのよね。ですが、アーシャからは最低男と聞いていますわ)


 セレスは、勇者候補チームのリーダーらしき人物を見る。

 確か血煙の傭兵団ようへいだんと戦う前に、双竜山の森へ訪れていた。しかしながらすぐに帰ったので、彼女は出会ってない。

 フォルトから、個人部屋に隠れるよう言われたからだ。彼が結成したおっさん親衛隊は、シュンたちに感化されて組まれたチームである。

 ぶつかることを想定しているのかは分からないが、極力情報を隠すと得意げに話していた。とはいえ蜥蜴とかげ人族の集落には、身内の全員が来ている。


「旦那様に報告したいところですが……」

「セレス様、お久しぶりです!」


 どうしたものかと悩んでいると、エルフの男女が近づいてきた。

 一人は自然神の神官で、セレスに懐いていた女性だ。


「あら、リーズリット。貴女もヒドラの討伐ですか?」

「わたしは別件です。それにしても……」

「どうかしましたか?」

「いえ。お奇麗な足に見惚みとれてしまいました」

「はぁ……。その調子では、結婚はまだですね?」


 エルフ族のしきたりで、異性との婚姻は義務である。

 ただでさえ子供が産まれない種族なので、数十年単位で夫婦を入れ替える。にもかかわらず、リーズリットは結婚していない。

 まだ若いということもあるが、彼女の性癖も問題だった。


「クローディア様からも言われ始めました」

「ならお相手は、そちらのガラテア殿で?」

「い、いえ。違います」

「でしたらなぜ、六番隊隊長の貴方が?」


 もう一人の男エルフは、〈風精〉のガラテア。

 エルフ族には、光闇地水火風を二つ名に持つ隊長がいる。そのうちの一人が六番隊隊長の彼で、世界樹やエルフの里を守護するに足る人物である。

 面体は若いが、寿命千年のうち五百年は生きている。さすがに長寿だけあって、勇者級の実力を持っていた。

 それでもエルフなので、ハイエルフのセレスのほうが偉い。


「リーズリットの補佐に付けられました」

「補佐? 役職は貴方のほうが……」

「別件に絡むことですが、前面には出るなと言われました」


 リーズリット率いる遺跡調査隊は、とある密命を帯びている。

 エウィ王国の勇者候補を護衛しながら、行動を監視することだ。とはいえ、遺跡調査隊から護衛依頼を出しているので、内容は逆になっていた。

 護衛を護衛するなど、シュンたちを馬鹿にしたような内容である。それを高圧的に教育といった形にして、彼らには知られないよう配慮していた。

 ガラテアの存在は、それらを補強するものだ。


「外交的なものですか」

「はい」

「ふふっ。ガラテア殿が出るのも分かりますね」


 この密命は、大族長会議の決定である。

 そうなると、リーズリットでは少々荷が重いか。ヒドラと遭遇する可能性があったので、里の守護者を出したのだ。

 ガラテアを前面に出さないのは、エルフ族の情報を隠蔽するためである。


「リーズリットも大変そうですね。彼らは問題児のようですし……」

「分かりますか?」

「旦那様と同郷の異世界人ですわ」

「旦那様とは?」

「ローゼンクロイツ家の当主さまですよ」

「羨ましいですね。当主様が……」


 リーズリットの最後の言葉は置いておいて、セレスは考える。

 勇者候補チームの中には、フォルトが玩具にした埋伏の毒が入っている。それらをどう扱うかは聞いていないが、愛しの主人の娯楽は奪えない。

 ならばとこの内容は二人に伝えず、任務を遂行するように指示する。


「ガラテア殿がいれば安心です。リーズリット、しっかりね」

「はい! ご期待に応えたいと思います!」

「ですがその前に、獲物の運搬をお願いしても?」

「我らも集落に戻るところでした。おい! おまえたち!」


 仕留めたボアの数が多いので、セレスたちだけでは苦労する。なので、人数のいる遺跡調査隊を使わせてもらう。

 それから、他の身内と集合した。


「アーシャさんが何か言われていたようですが?」

「くだらないことよ」

「あの様子だと、フォルト様に嫉妬してるだけですわね」

「そうそう。レイナス先輩の言ったとおり!」


 シュンという人間は、フォルトが近くにいるのかと問い詰めてきたらしい。

 セレスやレティシアとの関係も聞かれていた。それを不快に思ったレイナスが、適当にあしらったようだ。


「やれやれですわね。旦那様と同郷とは思えませんわ」

「そうでもないよ。あたしもシュンと同類だったからね」

「あら」

「まだあっちの世界から抜け出せないのよ」

「ノウン・リングでしたね。価値観の違いですか?」

「うん。ありゃ無理だわ」


 アーシャはとっくに、イービスの価値観に変わっている。しかしながらシュンは、日本でのそれから抜け出せていない。

 ホストとして成功したというプライドを捨てられないのだ。日本であれば、彼は人生を謳歌おうかしていた。しかもイケメンで、女性は選り取り見取りだ。

 だからこそフォルトという失敗者の近くに、女性が多く集まっていることを妬んでいた。彼女からしたら、もう馬鹿馬鹿しい話だった。

 イービスは日本と違って、過酷な環境下にある世界。いつまでも温いことを考えているようでは、先が知れるというものだ。


「リーズリットたちの苦労が察せられますね」

「あのエルフたちと知り合いなん?」

「はい。彼らの御守だそうですよ」

「きゃはっ! シュンってば超だっさーい!」


 アーシャは腹を抱えて笑っているが、セレスには一抹の不安があった。亜人の国フェリアスとしては、シュンを重要人物とみなしているのだ。

 そこで、レイナスに質問を投げかける。


「レイナスさんは、彼をどう見ますか?」

「あの男だけですか?」

「はい」

「人物評としては下の下ですわ。ですが……」

「何か気になりますか?」

「貴族としてなら面倒な人物ですわね」


 レイナスは質問の意図をんだのか、元ローイン家令嬢の顔で答えた。

 まずシュンは、デルヴィ家を名乗っていた。エウィ王国内では上位に位置する貴族家で、その影響力は他国にも及んでいる。

 そして、名誉男爵位を授爵していることから、侯爵家の分家として扱うつもりだろう。ならば手駒として、かなり重要視されている。

 本家の当主ハーラスの胸三寸だろうが、厄介な貴族になると思われる。


「そこまでですか?」

「ふふっ。私たち、いえフォルト様には関係ありませんわ」

「え?」

「あくまでも人間社会の中だけですわね」


 これはフォルトが、飯時の話題として挙げた内容だった。

 盟友となった吸血鬼の真祖バグバットは、「吾輩わがはいの中立性は人間への慈悲である」と言っていた。

 彼の真似をしながら笑っていたが、それが真実である。人間社会の権力など、人外の者たちには意味をなさないのだ。

 人間と穏便に付き合うため、相応の対応をしているだけだった。


(旦那様は、バグバット様と同様のお考えでしょう。ですが、フェリアスには無理な話ですわね。本当に困ったものです)


 フェリアスの住人は種族的な能力の差があったとしても、人外の者ではない。人間社会の権力は及ぶのだ。

 そうなると、シュンという存在の扱いが難しい。

 そんなことを考えていると、レティシアが我儘わがままを言い出した。


「帰っていい?」

「つまらない話だったかしら?」

「うふふふふ。深淵の覇王に呼ばれたわ」

「駄嬢様! 今は真面目な話をしているのです」

「駄嬢様じゃなあい! 宿舎でゴロゴロしたいの!」

「はぁ……。セレス様、フォルト様に知らせてきましょうか?」


 キャロルの提案は良いのだが、少し問題があった。

 いま戻っても、絶対に伝わらないのだ。


「旦那様は熟睡していますわ」

「え?」

「そう言えば、ベルフェゴウルを出していましたわね」

「あはっ! 頭が疲れたってさ!」


 フォルトは転移の魔法を覚えるため、暇があれば術式を眺めている。それだけでは習得できないが、まずは慣れるところからと言っていた。

 脳みそをフル回転させているので、大罪の悪魔ベルフェゴウルを使って、カーミラと惰眠を貪っている。

 ベルナティオとソフィアが狩りに参加していない理由でもあった。宿舎の周囲を見張り、近づく者たちの対応をしている。魔族組の三人はリリエラとフィロを連れて、別方面で狩りの最中だ。

 このような感じで和んでいると、一人の女性がレイナスに近づいてきた。


「あ、あの……」

「確かエレーヌさんでしたわね」

「そっ、そうです」

「何か用かしら?」

「え、えっと。獲物を縛るのを……」


 エレーヌの話を聞いたセレスは、周囲を見渡した。

 すると、リーズリット率いる遺跡調査隊の面々や勇者候補チームが、ボアを縛り上げている最中だった。

 おそらくは、シュンに言われたのだろう。レイナスに軽くあしらわれたことで、再び近づくのを避けたと思われる。しかしながら獲物については、こちらがやる仕事でもあった。


「あっ、そうですね! 私たちもやりませんと」

「ではみなさんに、ロープを渡します」


 キャロルが大きな荷物から、何本ものロープを取り出した。

 それを受け取ろうとしたセレスは、まだ何かを伝えようとして残っているエレーヌに気付いた。


「あちらへ戻られないのですか?」

「あ、いえ。えっと、ソフィア様も来ていらっしゃいますか?」

「ソフィアさん?」

「はい。聖女のときに面倒を見てもらったので……」


 どうやらエレーヌは、ソフィアと話したいようだ。

 それについては、特に断る理由はない。この女性は彼女が召喚した異世界人で、称号を剥奪はくだつされるまでは面倒を見ていたのだ。

 逆に断ると、彼らからの反感が強まるだろう。


「聞いてみますが、大丈夫だと思いますよ」

「た、助かります! 私が伺うので、お取次ぎをお願いします」

「貴女だけですか?」

「い、いえ。みんな行くと思いますけど……」

「別々に来るのかしら?」

「そっ、そうです!」

「まあ貴女たちも忙しいでしょうしね」


 特に変だと思わなかったが、エレーヌは「私」と強調していた。

 シュンとは違って、礼儀を弁えているところは好感が持てる。そのあたりはレイナスも同様のようで、少しだけ口角を上げていた。

 そして、セレスたちは全員で、ボアを縛りあげるのだった。



◇◇◇◇◇



 仕留めたボアは、全部で八匹。

 それらは木の棒でるして、両端を担いで運んでいる。もちろん運ぶのは、遺跡調査隊の獣人族と蜥蜴人族だ。

 ドワーフ族だと背が低いので、バランスが取れない。一応は三人いるので、交代要員として周囲に気を配っている。

 シュン率いる勇者候補チームは、遺跡調査隊の護衛という依頼を受けている。なので獲物は運ばずに、彼らがやっていた調査をやらされていた。

 川沿いの原生林近くで、地質を調べるのだ。


「変化を認識できれば及第点だ」


 リーズリットからは、このように言われている。

 人間は獣人族のような獣の特性を持ち合わせていない。当然だが一人では危険なので、野営のときのように、二人一組でやっていた。

 危険があった場合は、すぐに走って戻れば良い。


「ギ、ギッシュさんなら分かりますか?」

「ぬかるんでることしか分かんねえぜ」

「どういった変化なんでしょうね?」

「知らねえよ。原生林の奥地よりは乾いてるかもな」

「なるほど」


 最近のエレーヌは、ギッシュと組むことが多い。

 もちろんそれは、彼女が狙ってやっている。その努力が実ったのかどうかは分からないが、彼はチームを抜けることになった。

 そして、次の段階へ入る。


(まさかおじさんが来てるなんて……。私は運が良いのかしら? まだシュンとは別れてないけど、このチャンスは逃せないわ)


 エレーヌも、勇者候補チームを抜けるつもりだった。

 本来であればエウィ王国に戻ってから、ギッシュをフォルトのところへ向かわようとしていた。

 彼女は、それについていく予定だったのだ。しかしながら、そのおじさんが近くにいる。ならば、今のうちに話を通しておくほうが得策である。


「そういやよ。聖女さんも来てんだろ?」

「うん。会わせてもらえるように言っておいたわ」

「やるじゃねえか。ホストとはえらい違いだぜ」

「あ、ありがとう」


 エレーヌは本命のフォルトと話すために、まずはソフィアと会う。

 この順番を間違えると、レイナスたちから嫌われる可能性があった。シュンが高圧的だったからだ。

 彼女たちは、そのことに不快感を示してた。その証拠に礼儀正しく接したら、彼女たちは微笑んでいた。


「でもよ、あんな言い方はねえよな」

「そっ、そうだよね」


 すぐに戻らなかったエレーヌは、シュンは問い詰められた。

 もちろん、「ソフィアがいるか尋ねただけ」と答えてある。しかしながら、「俺に黙って聞くな!」と怒鳴られた。


「ギ、ギッシュさんは、ソフィア様を気に入ってるのよね?」

「ああん? まあ色々と世話になったからよ」

「なら一緒に会わない?」

「みんなと行けばいいだろうが……」

「駄目だよ。ギッシュさんのことは伝えたほうがいいよ?」

「ああ。確かにホストたちがいると話しづれえな」

「でしょ?」


 ソフィアとは、シュンと別口で話したほうが良い。だからこそ怒鳴られたときに、アポイントの件は伝えていない。

 これは、ギッシュのためではない。やはり、自分のためである。それでも関係が無いとは言えないので、二人で面会したほうが好都合だった。


(おじさんを頼るように、ギッシュさんを誘導しないとね。じゃないと、私ひとりじゃ無理だわ。後はアルディスを誘えるように……)


 エレーヌの暴走は止まらない。

 これも、シュンの不実が招いた結果である。とはいえ彼女は、そこまで深く考えていない。とにかく、身の安全を図ることが第一だった。

 ただし彼女は内気なので、ギッシュのように言葉や態度に出せない。よって、秘密裏になっている。

 この暴走は、まだ誰にも知られていない。


「そっ、そろそろ交代しよ?」

「んだな」


 エレーヌとギッシュは調査を終えて、シュンたちと交代するべく、ルイーズ川沿いまで戻った。

 それから同様のことを数回ほど続けると、蜥蜴人族の集落が見えてきた。


「やっと到着だな」

「そっ、そうね」


 さすがにここまで近づけば、周囲の調査は不要である。

 勇者候補チームは全員で、川沿いを歩いていた。


「ねえ、シュン」

「エレーヌ、さっきは悪かったな」

「き、気にしてないよ。そうじゃなくてね」

「どうした?」

「え、えっと。なんか集落が変わってない?」


 エレーヌはギッシュと同様に、シュンを見限っている。

 いまさら謝られても関係ないのだ。逆にそのままで、彼から別れを告げてもらえれば万々歳である。

 それにしても、集落の様子が変だった。


「あれ? あんな小屋なんてあったか?」

「だよね。何軒も建ってるよ」

「なんか……。どっかで見たような小屋だな」


 集落にあった小屋は、いま見えるような建物ではない。簡素な造りで、雨漏りがしそうな小屋だった。

 それが事前調査から帰ってみれば、まともな小屋が何軒も建っている。これには他の仲間も、自分の目を疑っていた。

 リーズリットや遺跡調査隊の面々も首を傾げている。


「フォルト様は断りきれなかったようですわね」

「ついでじゃない? フォルトさんが動くわけじゃないしぃ」


 エレーヌの耳に、レイナスとアーシャの会話が入ってきた。

 シュンたちには聞こえていないようだが、あの小屋はフォルトが建てたようだ。しかも彼は、頼まれれば断れない性格らしい。

 これは良い情報だった。


(そう言えば森の屋敷や小屋は、おじさんが建てたって聞いたわ。日本じゃ何カ月もかかるよね? え? あれ全部?)


 エレーヌは「どんな魔法を掛ければ」と思った。とはいえフォルトは、高位の魔法使いである。

 あの小屋は、彼の力なのだろう。


「よく分かんねえけど、さっさと休みてえぜ」

「そっ、そうだけど、ソフィア様には会わないの?」

「もちろん会うぜ。休むのはそれからだ!」

「わ、私は疲れちゃったわ」

「なら先に休んどけよ。俺らは挨拶してくんぜ」


 シュンをうまく誘導できたエレーヌは、ギッシュのほうを向く。すると、いつものように舌打ちしている。

 それでも先ほどの話は覚えているようで、少しだけうなずいていた。


「エレーヌは休むの? じゃあボクも先に休むね!」

「アルディスもか。まあ後で会ってこいよ」

「そうするねえ」

「おうホスト。俺も先に休むぜ」

「好きにしろ」


 そして、集落に到着して早々。レイナスにソフィアの居場所を聞いたシュンは、ノックスとラキシスを連れて向かった。

 残ったエレーヌは、自分たちが使っている小屋へ戻った。一緒にいるのは、ギッシュとアルディスだ。


「さすがに疲れちゃったよねえ」

「う、うん。ねえアルディス?」

「なあに?」

「えっと、後で話があるんだけど……」

「今でもいいよ?」

「あ……。後がいいかな」

「そう? ならボクは寝るよ」


 なかなか切り出せないエレーヌは、床の上に座った。

 シュンとの関係を伝えるのは、かなり勇気がいる。アルディスに伝えるのが先か、それとも誘ってチームを抜けるほうが先かを迷う。

 そして暫く休んでいると、シュンたちが戻ってきた。


「シュ、シュン、どうだった?」

「またにしてくれってよ。なんか忙しいようだぜ」

「そっ、そうなんだ」

「まあ一眠りしたら、また行ってみるぜ」


 おそらくは追い返されただけだろう。

 シュンはアポイントを取っていないので、急に押しかけたようなものだ。たとえ貴族になったとしても、名誉男爵では一番下である。

 相手のソフィアは、宮廷魔術師グリムの孫娘。貴族ではないが、格上の家柄だ。レイナスも廃嫡されたとはいえ、ローイン家の令嬢だった。

 しかもフォルトは、ローゼンクロイツ家を名乗っている。魔族の貴族については分からないが、あのマリアンデールとルリシオンの家だ。

 はっきり言えば、今までの行動は失礼に当たる。だからこそエレーヌは、礼儀を弁えて接したのだ。


「みんなは寝るの?」

「そうですね。聖神イシュリルに祈りをささげたら寝ます」

「集落で見張りは要らないよね。僕も寝るよ」


 事前調査が体に堪えたのか、全員が体を休めるようだ。

 アルディスは、深い眠りに入っているようだった。彼女に対してはまだ決めかねているので、今は寝かせておいたほうが良い。

 そしてエレーヌは、ソフィアと面会することにした。とはいえ、シュンたちが追い返された後だ。

 そこで、小屋を出る言い訳を考えた。


(どうしよう。今すぐに行くのは不自然よね? でも……。何かないかしら? えっと……。あっ! そうだわ!)


「寝ていいのかな? リーズリットさんたちは?」

「ああ。悪いけど、ちょっと聞いてきてくれねえか?」

「わ、私が?」

「少し休んだだろ? いいじゃねえか」

「い、いいけど……。どこにいるんだろ?」

「さあな。集落にはいるだろ」

「さっ、探してみるね」

「よろしくな」


 シュンが素っ気ない。しかしながら、これは良い口実になる。

 エレーヌがギッシュのほうを向くと、それを察したのか立ち上がっていた。


「おう。俺は鍛錬してくんぜ」

「元気な奴だな。好きにしろ」


 ギッシュに対して冷たいシュンは、それだけいうと寝転がった。

 そして、エレーヌとギッシュは同時に小屋を出た。ソフィアの居場所は、先ほどの会話で分かっている。

 リーズリットの件は後回しにして、先にその場所へ向かった。


「賢者よお」

「な、なに? ギッシュさん」

「オメエもチームを抜ける気だろ?」

「え?」

「こんな手の込んだことをしやがってよお」

「………………」

「まあ気づいてるのは俺だけだろうぜ」


 さすがにギッシュは気づいたようだ。

 あからさま過ぎたのだろう。彼を気遣ってと言えば聞こえは良い。それでも好意をもっていないかぎり、ここまで親身になる必要はないのだ。


「そっ、そうよ。悪い? 私も必死なのよ!」

「別に悪かねえよ。戦いを怖がってるしな」

「え?」

「決めるのは自分だぜ」

「………………」

「巻き込むなと言いてえが、オメエの話も分かるからよ」

「ギッシュさん……」

「だがよ。不義理だけは働くんじゃねえぞ」


 硬派のギッシュは、仲間に伝えてから抜けろと言っている。しかしながら、エレーヌの性格では難しい話だった。

 それがやれるなら、秘密裏に動いていない。


「私は……」

「まあオメエの性格じゃ無理か」

「っ!」

「しょうがねえなあ。俺が悪者になってやんよ」

「え?」

「俺が誘ったことにしてやろうってんだ!」

「………………」

「だが俺は戦いまくるからよお。賢者を誘うのは変か?」

「ぷっ!」


 ギッシュが男気を見せているが、最後が締まらない。戦いを怖がっているエレーヌを、彼が誘うのは不自然すぎるのだ。

 これには思わず笑ってしまった。


「ちっ。協力してやるから、何か考えろ!」

「はい!」


 シュンもギッシュのように、エレーヌ自身を見てほしかった。

 とはいえ、もう後戻りはできない。


(ギッシュさんが味方になってくれたわ。なら全部話すべきよね? でもシュンと付き合ってると伝えるのは……)


 ギッシュは義理を重要視するツッパリだ。

 ここで隠し事をすると、彼の言ったように不義理となる。もちろん分かっているが、アルディスへ伝えるのと同様に勇気がいる。

 そのことにエレーヌが迷っていると、目的地に到着してしまうのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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