第415話 不実の代償3

※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、リリエラが追加されています。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220999346801/episodes/16816927862577193579

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 神翼兵団団長ホルン。

 茶髪のロングストレートで、白い翼を持つ若い女性である。ミスリルの装備で固めたその姿は、まるで神の使徒に見える。

 その人物が、フォルトの前に降り立ったが……。


「クローディアさま! 神翼兵団五十名、只今ただいま着任しました!」

「ホルン殿、ご苦労様です」


 そう。フォルトに会うつもりで、降りてきたわけではない。

 今回のヒドラ討伐は、エルフ族、蜥蜴とかげ人族、有翼人族がメインで行う。残りの獣人族とドワーフ族は、スタンピードの援軍で、ターラ王国に出払っている。

 もちろん、まるでいないわけではない。集合場所の集落には、何名か来ている。それでも人数は少なく、各戦士隊の支援が主な任務だろう。


「セレス、来て」

「はい。旦那様」

「あぁ……。小屋を建てていいかを……」

「んっ。もっとお触りになった後でもいいですよ?」

「い、いや……」


 そして、フォルトはセレスの桃をでる。彼女の提案は魅力的だが、それは小屋を建ててからでも良い。

 ホルンが来たことで、こちらの提案が後回しにされては困る。今も蜥蜴人の族長ブラジャと挨拶を交わしていた。


「クローディア様」

「あらセレス、どうしましたか?」

「小屋の建て替えはよろしいでしょうか?」

「構ワヌ。イヤ、是非オ願イシタイ!」

「で、では始めますね。旦那様!」

「近場の木を使うぞ」

「ヨロシク頼ム」


 どうやら許可が出たようだ。

 そこで早速フォルトは、ブラウニーを召喚する。



【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】



 召喚魔法を発動させると、フォルトの目の前に魔法陣が浮かんだ。

 ブラウニーはいつものように、五十体ほど召喚しておく。これぐらいいれば、小屋程度なら数時間で建ててしまう。

 周囲にどよめきが起こっているが、それは気にしないでおく。


「「おおっ!」」

「あんなにも召喚できるのか!」

「さすがはローゼンクロイツ家の当主だな」

「でも多すぎないか? あれでは魔力がもたないだろう」

「倒レル気配ハナイゾ」


 ブラウニー自体の召喚は、そこまでレベルを必要としない。

 召喚魔法を修めてレベル三十もあれば、誰でも召喚できる。ただし、召喚の代価は魔力だ。なので、複数召喚すると枯渇してしまう。

 さすがに五十体は出し過ぎなのだ。


「フォルト殿、大丈夫ですか?」

「これがあるからな!」


 クローディアの心配も何のその、フォルトは左手の指輪を見せた。

 男性用の指輪でゴツイ。しかしながら宝石はサファイアで、リングにはプラチナが使われている。

 高級品なので、女性から見れば眼福だろう。


「その指輪は?」

「消費魔力軽減の指輪だ!」

「なんですって!」


 クローディアは驚いているが、そんな魔道具は存在しない。

 これはソル帝国で売られていた指輪で、別に何の効果も無い。こういったときのために、カーミラが奪ってきていた。

 フォルトが日本で遊んでいたゲームでは、様々な装備品があった。着眼点としては良く、魔人の力をごまかすことに使える。


「寡聞に聞いたことがありませんが?」

「気にするな。世界は謎に満ちている」

「はい?」

「ではブラウニーたちよ。作業を開始せよ!」


 妙な言い回しで会話を逸らして、さっさと話題を変えた。

 そもそも魔法ですら、すべてが周知されているわけではない。秘蔵されている術式もあれば、研究で新たに生み出される術式もある。

 どんな魔道具が存在するかなど、誰にも分らないのだ。


「ではな。何かあったら、セレスに伝えてくれ」

「分かりましたわ」


 クローディアやブラジャたちが離れていった。

 とりあえずフェリアスのことなら、セレスにお任せである。エルフ族の中でも、ハイエルフという上位種。それなりに敬われている。

 そして、フォルトが振り向くと、まだ残っていた人物が声をかけてきた。


「おじさま、凄いですね!」

「え?」


 フォルトは聞き慣れない言葉に耳を疑った。

 確か一度だけ、そう呼ばれたことがあった気がする。それでも普段は「おっさん」で、アルディスやエレーヌからは「おじさん」だった。

 アーシャに至っては「エロオヤジ」である。


「おじさま、お久しぶりです。覚えておいででしょうか?」

「あ、ああ……。えっと、ホルン殿だったか?」

「はい!」


 ホルンの名前については、先ほどのクローディアたちの会話からだ。残念ながら、フォルトの記憶には残っていなかった。

 彼女の姿格好を、薄っすらと覚えていただけだ。


(有翼人か……。改めて近くで見ると、なかなかどうして。翼以外は人間と変わらないようだが、やっぱりカッコイイよなあ)


「どうかなさいましたか?」

「いや。ホルン殿は強そうだと思ってな」

「敬称は要りません! ホルンとお呼びください!」

「え? 兵団の団長だろ?」

「そうですが……。おじさまとは……」


 ホルンは何やらブツブツとつぶやいているが、少し顔が赤いようだ。

 そのとき、緑髪の有翼人男性が彼女を呼んだ。


「団長!」

「なっ、なんだミリオン! 今はおじさまと……」

「挨拶が済んだら、偵察の任務だろ!」

「あっ! そっ、そうですね。ではおじさま、また後ほど」


 話もそこそこに、ホルンは名残惜しそうに離れていった。

 フォルトはおじさまと呼ばれた関係で、体がむずかゆくなる。そういった呼び名は、バグバットの執事なら似合うだろう。


「ホルンか……。よく分からん女だな」

「本当に分からないのかしら?」

「マリ、何のことだ?」

「鈍感ね。好意を持たれてるわよ」

「は? 俺はおっさんだぞ」

「あはっ! そのおっさんが良いのではなくてえ?」

「ルリも何を言って……」


 フォルトは、自分が面体でモテないことは分かっている。

 ホルンと出会ったときは、本当にチラっとしか話していない。それだけで、小太りのおっさんに好意を寄せることなどあり得ない。

 イービスでは力にかれる女性が多いと聞いているが、その力も彼女には見せていない。ローゼンクロイツ家の当主としか認識していないはずだ。

 それに……。


「もう身内は増やさんと言っただろ?」

「ふふっ。律儀よねえ」

「私たちに気兼ねしないでいいわよお」

「してないぞ。もう十分に幸せだ」


 今でも、身内は多すぎるぐらいだった。

 確かにフォルトは、今後の人生を好きなように生きると決めている。とはいえ、何事も「そこそこで満足」が信条の一つだった。

 身内を減らすことは考えられないので、もう満足するべきである。


「御主人様、これからどうしますかあ?」

「うーむ。座れる場所も無いな」

「うふふふふ。〈黒き魔性の乙姫〉を御指名かしら?」

「は?」

「任されたわ! 来たれ、大地の王よ!」

「うおっ! 上位精霊か!」


 大地の上位精霊ベヒモス。

 地水火風といった四大精霊の一角で、巨獣の姿をした精霊である。存在自体がそのもので、この上位精霊がいなければ大地が存在しない。

 世界の意思がイービスならば、大地の意思はベヒモスと言っても過言ではない。

 しかし……。


「御主人様は、レティシアを過大評価しすぎでーす!」

「そっ、そうか」


 なんのことはない。

 レティシアが呼び出したのは、土の下級精霊ノームだ。しかしながら、ぬかるんだ地面を固められる。

 それにしても、身内には精霊魔法を使える女性が多い。この使い手を分散できることも、フォルトたちの強みであった。


「えっと……。レティシア?」

「キャロル! 水が飲みたいなあ」

「御嬢様、お菓子もありますよ」

うれしい! あーん」

「さっ、さすがだな!」


 フォルトには、それしか言えない。

 本当に、切り替えの早い女性である。とはいえ座れる場所を確保できたので、そこでくつろぐことにした。

 もちろん、どうくつろぐかは決まっている。


「カーミラ、膝枕を……」

「はあい!」


 フォルトは地面に寝転んで、カーミラの膝枕を堪能する。他の身内も適当に腰を下ろし、雑談に華を咲かせる。

 今回のヒドラ討伐は、フェリアスの戦士隊との共同作業だ。まだ作戦を聞いていないので、これから会議が行われるだろう。

 それらについては、建て替えさせている宿舎で休んでからだ。


「今更なんだが、誰かヒドラと戦ったことがあるか?」

「「………………」」

「セレスもか?」

「巣からは出ませんので、わざわざ戦いませんわ」

「なるほどな。カーミラは?」

「魔界にはいませんよお」

「ポロは?」

「(覚えてると思うか?)」

「はいはい。食料ね」


 暴食の魔人ポロは、食べられるものなら何でも食べていたが、食料に関しては覚えていない。よって、情報は得られない。

 カーミラも知らないことから、食料調達でも戦っていないようだ。


「なら情報収集だな」

「御主人様は、そういうことが好きですよねえ」

「ははっ。彼を知り己を知れば百戦あやうからずと言ってな」


 孫子で有名な兵法書の一節である。

 スポーツ戦略やビジネス書でも取りあげられる言葉だ。内容を細かく読んだことのないフォルトでも知っている。

 味方と敵の情報を把握しておけば、何度戦っても勝てる。といった意味に捉える人が大半だろう。


(まあ相手を知ることで、確実に負けると判断できるのも重要だ。要はこちらの力量を弁えて、どう対応するかだな。蘇生そせいの魔法は無いし、最悪だけは避けたい)


 逆立ちしても勝てない相手はいくらでもいる。

 それならそれで逃げるが勝ちでも良いのだ。もちろん策を練ることで勝てるなら、策を練れば良い。その判断をするためにも、相手の情報は必要なのだ。

 そして、蘇生の魔法。信仰系魔法にも存在しないので、死んだら終わりである。どんな状況下でも、身内を死なせることは絶対に避けたい。

 もともとフォルトはゲーム脳で考えることが多いので、こういった情報収集は大好きである。

 ならば、そのために動くのは問題ないのだ。


「戦うとしても、魔物の情報は必須だな」

「では旦那様、聞いてきましょうか?」

「いや。俺の楽しみの一つだ」

「なら旦那様が行かれますか?」

「うーん。セレス、クローディアを呼んできてくれ」


 クローディアなら、ヒドラの情報を持っている可能性が高い。

 先ほど別れたばかりだが、もうすでに腰が重い。


「ふふっ。では、レティシアとキャロルを連れていきますね」

「どうした?」

「ついでですが、フェリアスのエルフ族に紹介しておきますわ」

「なるほど。そのあたりは任せる」


 フェリアスとターラ王国の瓢箪ひょうたんの森は関係がある。

 姉妹都市ならぬ姉妹森とでもいうのだろう。ソル帝国が攻め込まず、関係を改善してきた理由の一つだ。

 フォルトとしては、挨拶回りなど苦痛でしかない。ダークエルフ族はフェリアスに存在しないので、セレスがうまいこと図らってくれるだろう。

 そして、懐から取り出した紙を、目を細めながらながめるのであった。



◇◇◇◇◇



 シュン率いる勇者候補チームは、ルイーズ川に沿って歩いている。現在は事前調査を終えて、蜥蜴人族の集落へ戻る途中だった。

 リーズリットの遺跡調査隊は、来るときと同様に、周囲を偵察している。すでに調査は終えているが、状況を再確認するそうだ。


「ちょっとシュン、いいの?」

「アルディス、もう決めたことだろ」

「そうだけどさあ」


 アルディスの話は、シュンが言ったように終わっている。

 あの洞穴で話し合って、ギッシュが勇者候補チームを抜けると決まった。ただしレベル三十八になって、エウィ王国へ帰還してからだ。

 今回のガンジブル神殿の調査も続ける。その代わり、もう引き留めないことが条件だった。

 レベルについては、フェリアスに来る前から話していた。彼にとって重要だったのは、後者の件である。

 いちいち引き留められて、不満が蓄積した結果があれだ。


(まあファインからも言われてるからな。貴族として上を目指すなら、ギッシュを切り捨てるしかねえ。自分から離れていくなら、面倒がなくていいぜ)


 貴族が使う人材として、ギッシュはふさわしくない。デルヴィ侯爵にとってのシュンやファインのように、側近として使えないのだ。

 もちろん捨て駒として、裏組織の人間や荒くれ者を雇うこともある。しかしながら彼は力を付けた勇者候補なので、そういった使い方はできない。


「でもよ。ギッシュも吹っ切れただろ」

「どうかしらね。今も近寄り難いけど……」

「集落に戻れば、機嫌も直るさ」

「だといいけどねえ」


(ギッシュも好き放題言いやがって! だが今後は、口を出してこねえだろ。もうすぐ仲間じゃなくなるんだからよお)


 シュンは、ギッシュに言われたことを根に持っている。

 今まで仲間へ向けていたものは、彼の言ったように「上っ面」なのだ。男性陣は、敵と戦うための盾や矛。女性陣は、性欲処理の道具。

 それを調子よく扱って、つなぎ止めているだけだった。


「そう言えば、魔物に負けてもレベルは上がるんだな」

「ローパーね。ボクは三十五になったわ」

「俺も三十五だぜ」

「わ、私は三十になったよ」

「二十七になりました」

「僕は限界突破がまだだよ」


 負けても上がったのか。

 リーズリットたちの加勢があっても倒したからなのか。それは定かではないが、レベルも三十台の半分だ。

 あと三つばかり上げれば、エウィ王国へ帰還できる。


「ギ、ギッシュさんは……」

「エレーヌ、今は話しかけねえほうがいい」

「そっ、そうね」


 ギッシュも、ローパー戦で上がっているだろう。勇者候補チームでは一番レベルが高いので、シュンよりも上か。

 それにしてもエレーヌは、彼に近寄り過ぎだ。洞穴での話し合いが終わっても、何やら会話していた。

 その内容は分からない。しかしながら突き放されていたので、チームに引き留めようとしたか機嫌を直すように言ったのだろう。

 これには、少しばかりイラッとした。


(やっぱ、こいつも駄目だな。俺をイラつかせる女なんて要らねえぜ。まあ最後にはらませてやんよ。その後は、ノックスにでもヤらせるか)


 聖神イシュリルでもないかぎり、シュンの心の内は読めないし聞こえない。下衆な考えが表に出ないように、いつものホストスマイルで隠す。

 貴族として上を目指していれば、ノーナのように女性に困ることはない。アルディスやラキシスがいるので、性欲処理も問題ない。

 ホスト時代も同様で、女性を捨てるときは、かなりえげつなかった。


「シュ、シュン、どうかした?」

「いや。なんでもねえよ」

「そう? ところでさ」

「なんだ?」

「この音って何かな?」


 蜥蜴人族の集落まで後少しだが、ルイーズ川沿いの原生林のほうが騒がしい。

 よく見ると犬人族の男性が、いつもの手信号を送っていた。そこで、それが解読できるリーズリットに問いかける。


「リーズリット! なんかあったのか?」

「危険はない。誰かが狩りをしているようだ」

「狩り?」

「集落には、各種族の戦士隊が集まっている頃合いだ」

「ああ、飯の調達か?」

「そんなところだ」


 ガンジブル神殿には、ヒドラを討伐する戦士隊と同時に向かう。

 この魔物を引きつけている間に、神殿の調査を始めるのだ。なので蜥蜴人族の集落が、集合場所になっている。

 人が集まれば、食料も必要だろう。


「だが、この音はいったい……」

「おい。追い立てられた獣が出てくるぞ」

「何?」

「ふふっ。逃がすと怒られそうだ」

「じゃあ……。みんな!」

「あと一分後だ!」


 犬人族の手信号が変わった。

 リーズリットの遺跡調査隊は、広がるように移動を開始する。獲物を取り囲むつもりだろう。ならば、シュンたちの役割は決まっている。

 飛び出してきた獲物を狩るのだ。


「来るぞ!」

「よっしゃ! 俺が狩り尽くしてやんぜ!」

「アルディス、ギッシュが倒し損ねた奴をやるぞ」

「いいよ」

「テメエらの出番なんてねえ!」

「「ブゴオッ!」」


 ギスギスしていた勇者候補チームだが、いつもどおりに行動できた。

 そして、原生林から飛び出してきたのはボアだ。いのししであるが、日本のそれよりも大きい。しかも、三匹もいる。

 それにしてもすばやい。ギッシュに突進してきたボアたちは速度を落とさずに、直前で一気に曲がった。


「リーズリット! 任せる!」

「クソ! この野郎!」

「ブギィッ!」


 一匹をギッシュが仕留めて、残りの二匹は遺跡調査隊が倒した。

 そのうちの一匹は、リーズリットが弓で射殺していた。もう一匹は、獣人族が押さえている。

 後者には蜥蜴人族やドワーフ族も群がって、生け捕りにしたようだ。


「まだ来るぞ!」

「なにっ!」

「「ブゴッ!」」

「ちょっと多いよ!」


 次に飛び出してきたのもボアだが、なんと五匹もいる。

 これらもすばやく、勢いを殺さずに急に曲がった。それでも遺跡調査隊の囲みからは出られずに、その中をグルグルと走っている。

 そして、先ほどまで聞こえていた音の正体が分かる。クラシカルな音楽として、周囲に響き渡った。


「音楽だと!」

「シュン! また何かが出てくるよ!」

「ちっ。リーズリット!」

「おまえたちは、これから出てくるのを仕留めろ!」


 ノックスが、魔力探知を使ったのだろう。

 とりあえず今いるボアは、遺跡調査隊に任せる。シュンたちはリーズリットが言ったように、これから出てくる獲物を警戒する。

 すると、二つの影が飛び出してきた。


「たあっ!」



【ウインド・カッター/風刃】



「はあっ! 『魔法閃まほうせん』!」


 シュンが確認したのは、ボアではなく人間だった。獣人族と間違わなかったのは、よく見知っている人物たちだからだ。

 その女性たちは原生林から飛び出した瞬間に、魔法とスキルの連携で、ボアを仕留めていた。

 しかもスキルを使った女性は、連続で発動させて数匹を倒している。


「ちょっ! なんでアーシャとレイナスがいるんだよ!」


 シュンがビックリするのも無理はない。

 他の仲間も目を丸くしている。この場にいないだろうと思っていた人物たちだ。それが突然、ボアに続いて飛び出してきた。

 それは、アーシャも同様だった。


「げっ! なんでシュンがいるのよっ!」

「アーシャ、後にしなさい!」


 驚いたのはアーシャだけで、レイナスは冷静だった。

 走り回っているボアたちは、まだ捕獲していない。彼女の声を聞いたシュンも、まずは獲物を倒すことに専念する。

 リーズリットの調査隊も冷静で、包囲を縮めて逃げ場所を狭めていった。


「ふぅ」


 そして、すべてのボアを仕留めた。

 そのほとんどは、レイナスの遠距離攻撃だ。すばやいボアの行動をアーシャが風属性魔法で阻害して、スキルの『魔法閃まほうせん』で次々に倒していた。

 次点でリーズリットか。弓の腕前がすばらしく、さすがはエルフ族だった。遺跡調査隊の面々も大活躍だ。

 勇者候補チームは、ギッシュとアルディスが一匹ずつ。ノックスやエレーヌは魔法を使って、二人で一匹を倒していた。

 シュンはボアの動きに翻弄され、追いかけまわすだけになった。ラキシスは残念ながら、獣など狩ったことがない。

 それにしても……。


「この音楽はアーシャかよ」

「そうだよ。聞いたことあるっしょ?」

「あるけどよお」


 音の正体は、アーシャの腕輪から流れていた音楽だった。

 音響の腕輪というらしい。とはいえ、音楽を鳴らしながら獲物を狩るとは、わけが分からなかった。

 そのあたりも聞きたかったが、ルイーズ川の上流から女性が歩いてくる。


「レイナスさん、獲物が来ないようだけど?」

「ここで倒してしまいましたわ」

「あら、準備していましたのに……」


 次に現れたのは、初めて見るエルフ族の女性だ。

 リーズリットとは違って、太ももまでバッチリ見える。ちょっと座り込めば、確実にのぞけるだろう。

 どうやらボアを追い立てて、左右から狙い撃ちするつもりだったようだ。その証拠に川の下流からは、肌の黒い二人のエルフ族が歩いてきた。


「わたしがいなくても良かったと思うのよ!」

「御嬢様、これも狩りの訓練ですよ」

「だってぇ。もう帰ってもいい?」

「駄目です。獲物を持って帰るのも狩りですよ」

「キャロルのいじわるぅ」


 この二人の女性も初対面になる。

 それに対してシュンは、ホストスマイルが崩れてしまう。怒りか嫉妬か。そういった感情が入り交じった難しい表情になった。

 見知った二人がいるならば、きっとフォルトもいるのだろう。


「ちっ。アーシャ! なんでここにいるんだよ!」

「ちょっ、なに怒鳴ってんのよっ!」


 シュンは同じ質問を繰り返したが、今の感情をそのまま乗せてしまった。

 アーシャに指摘されて、またもや冷静さを欠いたとハッとなる。しかしながら、問い詰めないわけにはいかない。

 それにしても、周囲の情報量が多すぎる。怒鳴ってしまったが、まずは簡単な説明を求めることにするのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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