第414話 不実の代償2

 フェリアスの原生林奥地。

 シュン率いる勇者候補一行は、草木を刈りながら、道無き道を進んでいる。足元も踏み潰されておらず、誰も通ったことのなさそうな場所だ。

 そして、一行の先頭では、シュンとギッシュが剣を振っている。人が通れる道を作り、往復ができるようにするためだ。

 リーズリットの遺跡調査隊は、半数以上が散開して、周辺の調査をしている。残っている者たちは、周囲を警戒しながら、地面や木を触っていた。


「リーズリットさんよ。方向は合ってんのか?」

「安心しろ。合っている」

「ホストよお。そんなに急がなくてもいいじゃねえか」

「なんだよ。真っ先に突撃するのはギッシュだろ?」

「うるせえよ」


 シュンは不満だった。

 魔物とも戦いたいのだが、散開している遺跡調査隊の面々が早期に発見して、戦闘を回避するように動いている。

 原生林に入ってからは、まだ一度も魔物と遭遇していない。


「魔物も出ねえぞ!」


 シュンは振り向いて、リーズリットに詰め寄る。

 だいたい数時間に一度は、同じ問答を繰り返していた。そのたびに相手をする彼女だが、いつも同様の答えが返ってくる。


「おまえはいったい、何を学んだのだ?」

「はあ?」

「戦おうと思うな。これだから人間は……」

「人間は関係ねえだろ!」

「フェリアスの住人は、わざわざ魔物と戦わん!」


 決まりきった答えであった。

 集落が脅威にさらされているわけでもなく、スタンピードが発生するわけでもない。魔物の素材を入手しても、現在は持って帰れない。その状態で危険な魔物と戦うフェリアスの住人は存在しない。

 戦う術があっても、余程の準備をしなければ、必ず犠牲者が出てしまう。それに釣り合うだけのメリットが無いのだ。

 ローパー戦後には、「戦いを選んだことが間違い」だと教わっていた。


「俺らはレベルを上げに来たんだぜ!」

「だから護衛を受けたのだろ?」

「戦いがねえじゃねえか!」

「勘違いするな。不測の事態に対する依頼だ」

「それはいつだよ?」

「さあな。あいつが魔物を見逃したらじゃないか?」


 リーズリットはシュンを軽くあしらいながら、前方の太い木を見上げる。

 その枝には、男エルフが立っていた。


「進路を右へ変えろ。この先はアーマーゲーターの巣だ」

「道なんて変える必要はねえ! 俺らが倒してやんぜ!」

「リーズリット?」


 男エルフは何の話か分かっていないので、首を傾げている。とはいえ、彼が話に加わっても意味はない。

 リーズリットはピラピラと手を振りながら、シュンへ指示を出した。


「はぁ……。人間、右へ向かえ」

「なあ、真っすぐ行こうぜ」

「依頼人の言ったことが聞けないのか?」

「危険なんてねえからよ」

「ローパー戦の無様を繰り返したいのか?」

「安心しろよ。もう負けねえ」

「根拠がないな。決定は変えん!」

「ちっ」


 ガンジブル神殿に向かうには、真っすぐ進んだほうが早い。しかしながらシュンの提案は、すべて却下される。

 これでは不貞腐れたくなるが、すぐ後ろからアルディスに呼ばれた。


「ちょっとシュン。待ってよ」

「どうした? アルディス」

「少し休憩しない?」

「なんでだ?」

「エレーヌたちがもう……」


 シュンが後ろを振り返ると、後衛三人の息が上がっていた。エレーヌとラキシスは分かるが、ノックスまで苦しそうだ。

 どうしたものかとリーズリットを見ると、男エルフと会話していた。


「右へ向かうと洞穴がある。拠点にできそうだったぞ」

「そうか。魔物は?」

「何もいなかったな」

「なら人間、聞いていたな?」

「お、おう。じゃあ、みんな……」


 近くに休める場所があるらしい。ならば休憩は後回しにして、そこまで歩いたほうが良いだろう。

 そう思ったシュンは、仲間を激励しようとした。すると、ギッシュが被せるように話し出した。


「姉ちゃんよお。ちょっとだけ休ませろや」

「ギッシュ?」


 シュンは、ギッシュらしくない言葉に面を食らった。

 彼ならば気合論を出して、無理やりにでも歩かせるだろう。人間は疲れきっていても、多少は余裕を持たせているものだ。

 本当に駄目なら、その場でぶっ倒れるはずと考える男である。


「息を整えるぐらいでいいか?」

「なっ!」


 リーズリットも、まさかの対応をした。

 彼女なら洞穴まで一気に移動して、そこで休ませるものだと思っていた。魔物を避けて、遠回りで移動しているのだ。

 立ち止まっていれば、危険だと分かるだろう。


「たっ、助かります」

「う、うん。息が上がっちゃってさ」

「神の御力に頼るほどではありませんが……」

「ただし、座るなよ? 木に寄りかかるぐらいにしておけ」


 シュンは少しでも早く、ガンジブル神殿に行きたい。

 本来は魔物との遭遇も避けたいのだが、ギッシュやアルディスに配慮している。自身もレベルを上げたいので、少しは戦っても良しとしていた。

 だからこそチームリーダーとしてリーズリットに噛みついていたのだが、その配慮が伝わっていないようだ。

 これにはイラついてしまう。


「おいおい。こんな場所で休めってか?」

「いいじゃねえかよホスト。ちょっとだけだぜ」


(くそっ! こんな所でモタモタしてる場合じゃねえよ。さっさと俺の目的を果たせば、湿地帯からはおさらばできるぜ!)


 湿地帯というように、この場の地面もぬかるんでいる。

 シュンはそこまで疲れていないので、休むよりは移動してしまいたいと思った。それでもリーズリットが許可を出した関係で、全員が休憩に入ってしまった。


「ちっ。分かったよ」


 シュンは頭をきながら、女性陣の近くへ移動した。

 どうせ休むなら、彼女たちの近くが良い。


「どうだ?」

「ボクは平気だよ。後で筋肉マッサージがしたいけどね!」

「俺がしてやるよ」

「だーめ。エレーヌにしてもらうよ」

「わ、私が先ですよ?」


 やはり、ギッシュやノックスのような男くさい奴らとは違う。シュンは女性と話していたほうが和むのだ。

 これには、先ほどまでのイライラが消えていく。


「そっ、そうか。ラキシスの信仰系魔法じゃ駄目なのか?」

「こういったのは、魔法に頼らないほうがいいのよ」

「そうらしいですわ。ですが緊急のときは……」

「今は緊急だろ?」

「魔物がいないのに? 休むのは少しだけだからさ!」

「ま、まあな」


 確かに魔物はいないが、シュンの恋人たちなので肯定してほしかった。

 信仰系魔法で疲れを取ってしまえば、さっさと洞穴に向かえる。いや、それよりも先に進めるだろう。

 そんなことを考え、再び不満を持ちながら暫く休憩していると、リーズリットが出発の合図を出した。


「よし、もういいだろ。次は洞穴で休め!」

「へいへい。みんな、行くぞ!」


 少しは休んだことで、息も整えられたようだ。

 水や携帯食料を含んだことで、体力が多少は戻っている。先ほどとは打って変わって、進行速度が速くなった。

 洞穴までは数時間を要したが、途中で休憩を取ることなく到着した。そこでシュンは、リーズリットに声をかける。


「ふぅ。やっと着いたぜ」

「あいつが言ったように、魔物の気配はないようだ」

「中はどうなってっかな?」

「魔物と戦いたいのだろ? 調べてこい」

「ちっ。分かったよ」


 洞穴は盛り上がった地面から、下へ続くように掘られていた。

 人工的というよりは、大きな獣が掘ったような穴だ。人が何名か入れるほどで、ビッグベアかそれに近い魔物の巣だったかもしれない。

 まずはシュンとギッシュで、洞穴の中をのぞく。


「何かいるか?」

「いねえな。確かに拠点にできるだろうぜ」

「雨風はしのげそうだな。リーズリット!」


 特に危険がないようなので、シュンはリーズリットへ報告する。

 その彼女は、他の遺跡調査隊を散開させていた。


「あいつらは休まないのか?」

「まだ平気だぞ。周辺を調べてもらう」

「慎重なことだな」

「まったく……。ほら、休める奴らは休め!」


 リーズリットはあきれ顔で、息を切らしていた仲間に声をかける。

 エレーヌやラキシスは、「本格的な休憩が取れるのは助かる」とでも言いたげな顔だ。他の仲間も、思い思いに洞穴の中へ入っていった。

 するとギッシュだけが残って、彼女に問いかけた。


「姉ちゃんよお。装備を変えてえんだが?」

「なんだ? わたしの言ってた話が理解できたのか?」

「まあな。こんな靴じゃ駄目だぜ」

「靴だと?」

「あん? ホストは分かってねえのか」

「何をだよ?」

「だからよお」


 リーズリットが言った「何の準備もしないで戦うな」の答えだ。

 シュンたちは全員、今までの装備で探索に臨んでいた。通常の地形なら良いが、湿地帯には適した装備がある。


「その人間が言ったとおりだぞ」

「は?」

「情報を収集し、適した道具をそろえることが重要だ」

「身に染みてんよ」


 それらを準備していない勇者候補チーム一行は、歩くだけでも多大な疲労を感じている。それが戦闘になればなおの事、普段通りに戦えないのは当然だった。

 ギッシュ自身は、最初のローパー戦で理解していた。リーズリットは、「装備を含めたすべての道具を揃えろ」と言っていたのだ。

 彼女に言われた「ド素人」という言葉が思い出される。


「そういうことかよ」

「あいつらが疲れてんのも、装備のせいだぜ」

「へえ」

「姉ちゃんよ、装備はどうすりゃいいんだ?」

「周囲を調べたら撤収する。集落で揃えろ」

「おう」


 ギッシュは、自慢のリーゼントを整えながらうなずいた。しかしながらシュンは、リーズリットの言葉に納得しない。


「撤収だと? ガンジブル神殿は目の前じゃねえか!」

「おまえは何を聞いていたのだ? 事前調査だと言っただろう」

「ここまで来て帰るのかよ!」

「周囲の調査はもうすぐ終わる。本格的な探索は次だ!」

「なに言ってやがる!」

「ちょ、ちょっとシュン!」


 シュンは怒声を上げて、リーズリットに詰め寄った。

 すると、声を聞いたアルディスが、洞穴から出てきて止める。休憩を始めていた他の仲間もビックリして戻ってきた。

 彼からしてみれば、目的地までもうすぐなのだ。実際の場所はまだ把握していないが、すぐ近くまで来たのだ。

 男エルフや獣人族たちが調べれば、すぐに判明するだろう。


「場所はさっき報告を受けた」

「なら行こうぜ」

「準備が足りない」

「準備だと!」


 やはり男エルフは、ガンジブル神殿を発見していた。

 そのための偵察で、他の散開している獣人族も同様だ。しかしながら準備や事前といった言葉ばかりが返されて、シュンは頭にきている。そんな遠回りでは、いつまで経っても神殿に辿たどり着かないだろう。

 彼女からの依頼を破棄して、単独で向かっても良いとすら思い始めた。


「ホストよお。俺ですら帰ったほうがいいと思ってるぜ」

「神殿は目の前だぞ!」

「だからよお。オメエはなんで神殿にこだわるんだよ?」

「ぐっ、それはだな……」

「リーダーとしてしっかりしろや!」

「なんだと!」


 ギッシュが、シュンを大喝する。

 彼は元暴走族の総長で、夜叉やしゃ連合愚連隊というチームをまとめていた。その経験から、ガンジブル神殿の探索よりも、仲間の命を大事にしろと言っている。

 彼らのような不良が信じられるのは、集まった仲間だけなのだ。


「なあホスト、このまま進んで仲間を殺す気かよ」

「んなわけねえだろ!」


 シュンはカチンときた。

 彼とて、今まで一緒に戦ってきた勇者候補チームの仲間。さすがに言い過ぎだ。苦言を通り越して暴言である。

 元々ギッシュの言葉は乱暴だが、これには頭に血が上ってしまった。

 そして、言ってはならない言葉を吐いてしまう。


「ならギッシュだけ帰れっ! 俺らは行くからよ!」

「ちょっとシュン!」

「駄目ですよ!」

「言い過ぎだと思うよ」

「………………」


 他の仲間が止めるのも当然だった。

 もちろん、この発言に対するギッシュの答えを知っているのだ。だからこそ止めているのだが、時すでに遅かった。


「そうかよ。どうせ俺はチームを抜けるからよお」


 ギッシュは限界だった。

 彼を世話した騎士に相談して、レベル四十までは一緒に戦うと決めていた。確かにフェリアスでは、予定通りにレベルが上がっている。それでも、シュンという人物を見限っていた。

 チームをまとめるだけなら良いが、命を預けるのに値しないのだ。ガンジブル神殿に向かうことも、自分の都合だけで誘ったと気付いている。


「ふざけんな!」

「テメエは上っ面だけだぜ。調子がいいんだよ!」

「うるせえ!」

「仲間のことなんて考えてねえだろ?」

「ギッシュに言われたくねえ!」

「俺はテメエよか見てんぜ。さっきもよお!」

「やめんかっ!」


 口論に発展したところで、リーズリットが喧嘩けんかを止める。

 ここは集落と違って、魔物の領域なのだ。安全を重視して避けているが、大声を出していれば襲われてしまう。


「決定は変えん! 周囲を偵察したら撤収だ!」

「ちっ」


 リーズリットは「話は終わり」とばかりに、勇者候補チームの近くから離れていった。まさに、問答無用である。

 ギッシュは水を差されたとでも言いたげに、シュンから背を向けて洞穴へ向かう。それを見ていた仲間は、腫れ物を触りたくないようだ。

 そして数分後、エレーヌが恐る恐るシュンに近づいてきた。


「シュ、シュン。神殿にはまた来るし、今は戻ろう?」

「エレーヌ……」

「喧嘩は良くないよ? 洞穴へ行こう……ね?」

「そうだな。みんなも休もうぜ!」


 エレーヌは、頭を冷やせと言っているのだろう。

 ギッシュに言われたことは図星だった。今回の探索は、すべて自分のためだ。リーズリットに止められなければ、取っ組み合いの喧嘩に発展した。


(ちっ。俺としたことが……。ちと最近、ギスギスしすぎてんな。ったく、ギッシュもまた病気を発症しやがって! だが、俺から謝らねえと駄目なの……か?)


 客商売のホストだっただけに、シュンは頭を下げることなら慣れている。

 それでもこちらから謝るのは、プライドが許さない。誰が聞いても悪いのはギッシュだろう。唯我独尊にも困ったものだ。

 そんなことを考えながら、エレーヌに背を向けて洞穴へ向かった。

 暗い笑みを浮べている彼女に気付かないまま……。



◇◇◇◇◇



 フォルトは出発までの二日間をギリギリまで使って、屋敷で惰眠を貪った。

 テラスすら出ずに、寝室と風呂と食堂だけの移動である。身内をとっかえひっかえして、とにかく彼女たちの成分補給をすることに注力した。

 そして、肌も艶々になり、目的地の蜥蜴とかげ人族の集落へ向かっている。現在はスケルトン神輿みこしに乗って、カーミラの膝枕を堪能しながら進んでいた。

 他の身内用にも召喚してあるが、歩く者は歩き、乗る者は乗っていた。こちらはギスギスした雰囲気には程遠く、桜が満開になったような華やかさがある。


「御主人様! 魔人の秘密って、大したことないですねえ」

「そうか?」


 身内の全員には、バグバットから聞いた話をすべて伝えてある。

 厳選と言っても、フォルトは身内に対して隠し事はしない。する場合は忘れているかサプライズを兼ねるときだ。

 当然のようにイービスの存在も伝えて、全員で共有してある。とはいえ、それらの話を聞いて驚いたのは、ソフィアやセレスといった頭脳派メンバーだけだった。

 その中にはレイナスやシェラ、そして意外にも、リリエラが入っている。


「アーシャはもっと驚くかと思ったがなあ」

「そう? ノウン・リングとかよく分からないしぃ」

「ふーん」


 こんな感じである。

 話が壮大すぎて、マリアンデールとルリシオンですら、興味を持たなかった。

 これはベルナティオも同様で、「だから何だ?」と首を傾げていた。頭が悪いわけではなく、物事を深く考えない女性たちだ。

 厨二病ちゅうにびょうのレティシアに至っては、設定の一つにしていた。


「フィロとキャロルは、誰にも言うなよ?」

「大婆様は知っているのですよね?」

「バグバットから聞けと言ったのは大婆だしな」

「なら言えませんよ」

「わ、私は言えなくされています」

「ははっ。そうだったな」


 準身内枠の二人も安心だ。

 キャロルはしっかり者で、大婆に対して、かなり忖度そんたくしている。フィロの場合は、フォルトから絶対服従の呪いを受けている。

 命令を追加するだけで済んだ。


「さてと、ここからは歩きかな?」

「そうですねえ。スケルトンは怒られると思いますよお」

「いずれ周知してもらうとして、今は……。とう!」


 フォルトはカーミラの膝枕から体を起こして、地面へ向かってダイブする。

 それに続いて彼女が胸に飛び込んできたので、受け止めて地面へ置いた。当然のように、他の身内も忘れない。

 悪い手でサワサワと触りながら、彼女たちを抱いて下ろす。こういったことには、怠惰が働かないのだ。

 そして、露出の多い身内が、ボロいローブをまとったとき……。


「「止マレ!」」

「何者ダ!」


 そこへ、武器を持った何十人かの蜥蜴人族が姿を現した。彼らの領域に入ったことで、警戒網に引っかかったのだろう。

 今回はローゼンクロイツ家総出で来たので、かなりの大所帯である。小隊には届いていないが、どこかの軍隊と間違われても不思議はない。

 フォルトが驚かなかったのは、魔力探知で知っていたからだ。


「あ、ああ……。セレス、頼む」

「はい、旦那様」

「エルフ族カ!」

「そうですわ。私たちは―――――」


 エルフ族は、フェリアスの盟主。

 ここは、セレスに任せておけば良いだろう。しかも彼女が出るだけで、蜥蜴人族の警戒が緩んでいる。

 疑うことを知らないわけではないので、亜人の国におけるエルフ族の地位が察せられる。

 笑顔も漏れているので、良好に話が進んでいた。


「フィロ、仕入れた荷物は?」

「持ちました。後で皆さんに配りますね」

「要らないと思うがなあ」

「フェリアスの森をめてはいけませんよ?」

「舐めてはいないが、まあ任せる」


 途中で宿泊した獣人族の集落で、フィロは様々なものを買っていた。

 金銭の管理はソフィアに任せているので、いくら使ったかは把握していない。足りなくなったら伝えてもらって、カーミラに奪わせるだけだ。


「フィロ、私も持つっす!」

「じゃあリリエラ、一袋持ってね」

「リリエラは……」

「いいんす、マスター。フィロとは友達っす!」


(聞いてはいたが、二人は仲が良いようだな。人間ではなく兎人うさぎびと族を選ぶあたり、さすがはリリエラだ)


 これについてはフォルトの勘違いだが、身内が喜んでいるなら構わない。

 実際のところは互いの境遇が結んだ仲で、フィロが人間だとしても変わらない。とはいえリリエラは身内なので、そのあたりの差は関係ない。

 それから温かい目で二人を見ていると、話が終わったセレス近づいてきた。


「旦那様、話がまとまりましたわ」

「そうか。なら行くか」

「コチラデス」


 蜥蜴人族はフォルトたちの周囲に散って、護衛になったようだ。一人は前方へ走っていったので、伝令役を引き受けたのだろう。

 ローゼンクロイツ家が来ることは知らされており、どういった人物たちなのかも、大まかに伝えられていた。すばやいガルド王に感謝である。

 そして、半日ほどで、蜥蜴人族の集落へ到着した。そこには、様々な種族が集まっている。

 周囲を見渡すと、エルフ族やドワーフ族が大勢いた。空を見上げると、有翼人も飛んでいる。

 獣人族もいるが、人数が少ないようだ。


「貴方、もっと引き寄せなさい」

「そうよお。優雅にねえ」


 密着して優雅とは分からないが、集落へ来るまでに、マリアンデールとルリシオンから注文が入っていた。

 身内の隊列も指示されて、前方を固めるはおっさん親衛隊だ。ローゼンクロイツ家として、相応の威厳を出さないといけないらしい。

 フォルトは「相手は蜥蜴だろ」と思うが、彼らは人の顔を見分ける。フェリアスを形成する種族の一つなので、上下関係を理解させたいと言っていた。

 姉妹が望むなら、そうすることに文句はない。


「フォルト殿、お待ちしておりましたわ」


 伝令は先に到着しており、フォルトたちは出迎えられた。

 ほとんどが蜥蜴人族だが、一人のエルフ族が混じっていた。しかも、見たことのある女エルフである。


「おまえは……。こんな所に来ていいのか?」

「バグバット様は?」

「い、いや。来るわけないだろう」

「そっ、そうですわね! やはり私がアルバハードに……」


 出迎えてくれたのは、女王の名代クローディアだった。

 実質フェリアスで二番目に偉い人物なので、この場に来てることは驚きだ。きっとバグバットに会うため、職権を乱用しているのだろう。

 話すのは久々だったが、相変わらず彼にゾッコンのようだった。最後の言葉が気にかかるが、フォルトとしては宿舎で休みたい。


「宿舎ですか? あちらになりますわ」

「え?」


 これも、いつかのデジャブか。

 クローディアの指した宿舎は、近くに建っている。しかしながら蜥蜴人族の家は、はっきり言って原始的なのだ。

 一応は小屋になっているが、どう見ても隙間が多い。フォルトは入るまでもなく、室内の状態が想像できた。

 これにはアーシャが近寄ってきて、一言だけつぶやいた。


「フォルトさんが何とかしてくれるっしょ!」

「あ、ああ……」

「フォルト殿、どうかされましたか?」

「い、いや。宿舎を建て替えたいのだが構わないか?」


 以前はブラウニーを召喚して、フロッグマンを退治している間に建てさせた。

 今回も同じようにしたいが、やはり聞いておく必要がある。もしも駄目だった場合は、蜥蜴人族の集落を出て、原生林の中に小屋を建てることになるだろう。


「宿舎をですか?」

「あんな場所で休めるか!」

「当然よ」

「いくら蜥蜴人族でも配慮が足りないわねえ」

「しょ、少々お待ちください。ブラジャ様!」


 マリアンデールとルリシオンの名声は高いので、クローディアが少しあたふたしている。すぐさま近くの蜥蜴人族に近づいていった。

 おそらくは族長だろうが、思わず吹き出しそうになる名前だ。しかしながらフォルトは、蜥蜴や男に興味がない。

 とりあえず回答が返ってくるまでは、両隣の桃を触ったおく。ゴシックのロングスカートでも、手のひらに伝わる感触は最高だ。


「んっ! まったく貴方は……」

「あはっ! がっつかれるのは悪くないわよお」

「さて、どうなることやら……」


 クローディアの性格は置いておいても、女王の名代が出張っている。

 今回のヒドラ討伐は、かなり力を入れているのだろう。各種族から、精鋭が集まっているようだ。魔力が高い者が、チラホラといる。

 フォルトとしては、簡単に終わるものだと思っていた。おっさん親衛隊は、ビッグホーンを倒している。ならば、ヒドラなどものの数ではないだろう。

 そんなことを考えていると、空から一人の女性が舞い降りるのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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