第413話 不実の代償1

 バグバットと盟友となったフォルトは、屋敷で一泊した。

 現在は応接室を借りて、ソフィアと一緒に、とある人物たちと会っていた。二度目の帰還から、だいぶ時間が経っている。

 数日前から、アルバハードで帰りを待っていたらしい。


「よお。やっと帰ってきたのかよ」

「引き籠りのオメエが、よくターラ王国まで行ったな!」

「ははっ。待たせてすまんな」

「なあに、いいってことよ。依頼料を弾んでくれりゃあな」


 とある人物たちとは、冒険者のシルビアとドボである。

 二度目の帰還のときに、カーミラが彼らを呼び寄せていた。依頼の報告を、直接フォルトに伝えたいと聞いている。

 その内容は悪魔崇拝者の件だった。


「どっこいしょっと」


 フォルトとソフィアは、シルビアとドボの対面に座った。

 それと同時に獣人族のメイドが入ってきて、四人分の茶を入れた。名前は聞いていないが、物静かな犬人族の女性だ。

 実のところ犬は、嗅覚の他に聴覚も高い。動物の中で一番とは言えないが、人間とは比べ物にならない。

 その特性のおかげか、タイミングの良い一流のメイドである。茶を入れたあとも気を利かせて、すぐさま応接室を出ていった。


「それにしてもオメエ……」

「どうした?」

「案内されたから来たけどねえ」

「ここって領主の屋敷だろ?」

「問題が?」

「アルバハードの領主だぜ? ヴァンパイアだろ!」


 シルビアとドボからすれば、フォルトは得体の知れない日本人。冒険者らしく依頼人を詮索してこないが、怪訝けげんな表情を浮かべていた。

 アルバハードの領主は、米国の映画でも有名な吸血鬼である。しかも、屋敷の中の応接室を借りている。

 彼女らからすると、さらに得体が知れなくなった。


「そう言えば俺のことって、エウィ王国ではどう言われてる?」

「グリム家に転がり込んだ異世界人ってところだねえ」

「高位の魔法使いとも聞いたな」

「没落した貴族家を名乗ってる変わり者ってのもあったよ」

「ふーん」

「だが一般には知られてねえ。情報屋の知り合いからな」


 フォルトのことは流れ始めているようだ。

 それでも、知名度は低いらしい。一般の国民は知らず、貴族から上位の兵士までといったところか。魔族の名家ローゼンクロイツではなく、どこかの没落貴族なのが気になったぐらいだ。

 少しばかりだが、うわさに悪意が加わっている気がする。


(まあ有名になりたくないから、その程度ならいいか。俺のことは表に出せないだろうしな。マリとルリが聞いたら怒り狂いそうだが……)


 魔族を囲ったソル帝国とは違い、エウィ王国は魔族狩りを推奨している国だ。その敵対種族を身内にしているフォルトの情報は、今でも統制がとられている。

 家名についても、関係者だけに絞っているだろう。


「それじゃ、本題に入ろうか」

「裏情報だからね。心して聞きなよ」

「んっ。フォルト様……」

「オメエよお」


 フォルトはゴクリと唾を飲んで、ソフィアの太ももを触った。

 いつもの光景なのだが、そこはセクハラに厳しいアメリカ人のシルビアとドボだ。そういう人物だと分かってはいても、白い目を向けてくる。

 これには苦笑いを浮かべるしかない。


「あ、はは……。で?」

「まあいいよ。結論から言うとベクトリア公国だね」

「は?」


 シルビアは、同郷のフリッツから仕入れた情報を伝えてきた。

 名も無き神を信仰するカルト教団。それを支援しているベクトリア王。内情としては、フェリアスを三大国家から蹴落としたいという思惑等々。

 悪魔崇拝者の人数も、司祭に限れば十一人で合っている。


「どれも証拠は無えが、信憑性しんぴょうせいはあるよ」

「ほう。ソフィア、どう思う?」


 確かに、すべて合致すれば辻褄つじつまが合いそうだ。

 そこで、フォルトの頭脳として大活躍のソフィアに聞いてみる。


「ベクトリア王国は、エウィ王国の次に歴史がある国です」

「ふむふむ」

「三大国家に入れなかった不満はくすぶっていそうですね」

「なるほどなあ」

「ベクトリア公国を樹立したのも、それが原因かと思われます」

「うーん」


 ソフィアも信憑性が高いと見ているようだ。

 エルフの女王を害されれば、フェリアスは大混乱する。その隙を突き、亜人の国を排除して、人間の国だけで三大国家を組みたいと思われる。

 他の小国の中で、影響力が一番強いのはベクトリア王国だった。人間と亜人には確執があるので、その可能性は大いにある。


「三国会議で爆発がありましたね」

「テロか……。あれはベクトリア王の仕業か?」

「確証は無いですよ? ですが話を聞くかぎりでは……」

「ははっ。すべてつながるな」

「はい」


 三国会議の最終日。首脳宣言の最中に爆発が起きた。

 何人も犠牲になったようだが、あれは三国の影響力を低下させる行為だ。それに、大国同士の疑心暗鬼も狙える。

 当時の南方小国群は、エウィ王国から圧力を受けていた。他へ目を向けさせることも目的だっただろう。


「まあ、ベクトリア王や公国はどうでもいいがな」

「悪魔崇拝者ですよね」

「うむ」


 フォルトとしては、悪魔崇拝者を排除して、エルフの女王ジュリエッタを目覚めさせれば良いだけだ。

 これは、盟友となったバグバットへ借りを返すものだ。相手が分かった以上、なんとかする必要がある。

 それでも、すぐに動く気はない。なので、ソフィアメモに任せておく。


「ふふっ。例の件が片付いたら言いますね」

「そうしてくれ。頃合いを見てな」

「はい」


 例の件は言わずもがな。

 頃合いも分かっているようだ。ターラ王国から帰ってきたばかりで、すぐ例の件に取り掛かる。

 フォルトは精神的にギブアップ寸前なのだ。


「何の話か分かんねえが、今回の依頼は達成でいいね?」

「うむ。依頼料を渡してやれ、ソフィア」

「はい。ですが、シルビアさんにドボさん」

「なんだい?」

「どうした?」

「無駄遣いはしないでくださいね」

「「ぐっ!」」


 ソフィアの凄みのある笑顔に、シルビアとドボの顔が引きつる。

 相変わらず、賭け事に精を出しているようだ。しかしながら、いくら小言を言われても、二人の性格は治らないだろう。

 それを分かっているのも彼女らしいが……。


「毎度! 次の依頼はないかい?」

「悪いが、今のところないな」

「そうかい。それはちょうど良かったよ」

「うん? 俺の依頼は受けたくないのか?」

「いつでも受けてえけどよ」

「冒険者ギルドの依頼も受けねえといけねえんだよ」

「ああ。サボってるとか思われてるのか?」

「あんたの依頼は、ギルドを通してないからねえ」

「査定に響いてな。ランクを下げたくねえ」


 自由奔放に見えて、冒険者でも世知辛いようだ。

 シルビアとドボはCランクの冒険者で、ギルドでは中堅に位置する。仕事は山ほどあるのだが、フォルトの依頼を優先してやっていない。

 それを突っつかれているようだ。


「分かった。また依頼をするときは、ニャンシーを向かわせる」

「そうしてくれ」


 ここまで話したところで、フォルトはパンパンと手をたたく。

 一度やってみたかったのだが、それを合図に、獣人族のメイドが応接室に入ってきた。これには目に涙を浮かべて、天井を見上げたくなる。

 そしてメイドは、シルビアとドボを連れて部屋から出ていった。


「ふぅ。ベクトリア公国かあ」

「遠いですね。行かれるのですか?」

「行きたくないがな。暗殺者でも雇う?」


 金銭については、グラーツ財務尚書の息子アルカスから奪っている。彼は金銭管理ができないようで、何も変に思っていないようだ。

 カーミラのスキル『人形マリオネット』は、効果中の記憶が残らない。とはいえ、金銭が減っていることには変わりがない。少しは疑問に思うのが普通だろう。

 フォルトの中では、馬鹿息子として定着している。


「伝手がありませんし、証拠がないことには……」

「火のない所に煙は立たないという言葉があってだな」

「むぅ。フォルト様は、いつもそう言って……」

「ははっ。ふくれたソフィアが可愛いからさ」

「まあ……。ちゅ」

「でへ」


 実際のところフォルトは、悪魔崇拝者なら、無差別に殺して良いと考えている。

 それについては、聖神イシュリル神殿でも同様のことをやっていた。同じ六大神でも、暗黒神デュールの信者すら異教徒と認定している。

 悪魔崇拝者やカルト教団なら、確実に異端審問会で処分される。


(そういやデルヴィ侯爵は、ソフィアを諦めたのか? グリムのじいさんも手を焼いている男だ。何を考えているのか、さっぱり分からない)


 フォルトは、聖女を剥奪はくだつされたときのソフィアを思い返す。

 彼女を異教徒に認定して、デルヴィ侯爵の玩具となる姿が想像された。これには、顔をしかめてしまう。

 今でもまだ、彼女を狙っているのだろうか。


「さて、俺たちも幽鬼の森に帰るか」

「きゃ!」


 シルビアとドボのおかげで、悪魔崇拝者の情報が手に入った。

 それにしても、ベクトリア公国は遠い。これには憂鬱な気分になるが、幽鬼の森では、久々に身内が勢ぞろいする。

 そこでフォルトはソフィアを抱え上げて、応接室を出ていくのであった。



◇◇◇◇◇



 フォルトは『変化へんげ』で若い姿に変わって、おっさん親衛隊と一緒に、幽鬼の森を進んでいた。若者になるのも久々である。

 この森は瘴気しょうきと呼ばれる霧が立ち込めて、太陽の光を遮る。周囲の木々は枯れており、いかにもアンデッドが出現する森である。

 現在はスケルトン神輿みこしではなく、バイコーンを使っていた。相変わらず乗馬などできないので、ベルナティオの後ろに乗っている。

 なぜ神輿に乗らないのか。それは、いつかのデジャブであった。



【ターン・アンデッド/死者浄化】



 自然神の司祭も務めるセレスが、一行に群がってくるゾンビやグールを浄化している。初めて幽鬼の森に来たときには、シェラが同じことをやっていた。

 それでも消耗しないように、フォルトは血魔狼けつまろうを数十匹ほど召喚している。それらが討ち漏らしたアンデッドを浄化しているのだ。


「まあ、この森を歩くことはないしな」

「きさまは飛ぶからな」

「うむ。それにしても不気味な森だな」

「きさまの森だろ」

「そうなんだがな」


 くだらない会話をしながら進んでいるが、フォルトの口角は上がっていた。

 その理由は、カーミラにある。現在は先行して屋敷に戻り、とあることを準備している。それが楽しみで仕方ない。

 そして、妄想にふけっていると、アーシャが問いかけてきた。


「ねぇねぇフォルトさん。本当にヒドラを倒しに行くん?」

「ティオにおねだりされてな」

「おねだりとは何だ? 私ともデートしろ!」

「ヒドラの討伐がデートなのか?」

「二人で倒してみるのも一興だな!」

「はぁ……。俺はリリエラと後ろで待機だ」


(ティオの戦闘狂にも困ったものだ。でも、二人で倒すか。なんかカッコイイ……。いやいや、俺は戦闘狂じゃない! 彼女たちを見ながら……。でへ)


 フォルトは近づいたアーシャの生足を見る。

 健康的な小麦色の足で、スカートも短い。色欲がたかぶってすぐさま襲いたいが、見るだけでも満足できる。

 それが、チラリズムの追求。そのためのエロ装備なのだ。


「エロオヤジ、あたしも後ろで待機したいなあ」

「いや、駄目だろ。おっさん親衛隊からアーシャが抜けるのは痛い」

「あはっ! 一応は戦力になってるのかなあ?」

「なってるぞ。なあ、ティオ」

「うむ。良いチームだ。ソフィアも魔法の腕を上げてるしな」

「まあ」


 アーシャの後ろに乗っているソフィアが、ほほを赤らめた。

 今は他人がいないので、最強のビキニビスチェを拝める。しかしながら、それを見られて赤らめたのではない。

 〈剣聖〉ベルナティオに褒められたからだろう。こと戦闘に限れば、彼女は人間の最高戦力だ。その人物と一緒に戦い、認めてもらったのだ。

 これには、うれしさと恥ずかしさが込み上がったのだろう。


「フォルト様、見えてきましたわ!」

「おっ! やっと到着か……。でへ」


 セレスを護衛していたレイナスから声が飛んできた。

 帰るまでが遠足というように、幽鬼の森の屋敷へ帰るまでが今回の旅だ。その締めとして、フォルトたちを出迎える女性たちがいた。


「やっと帰ってきたわねえ」

「ちょっと、遅いわよ! 待ちくたびれたわ」

「魔人様、お帰りなさいませ」

「マスター、テラスで休むっす!」

「うふふふふ。死の支配者が帰ってきたわ!」


 森から出た庭では、屋敷に残っていた身内が出迎えてくれた。

 マリアンデールとルリシオン、そしてシェラの魔族組。今は戦闘訓練に精を出しているリリエラ。一番新しい身内で、ダークエルフ族の厨二病ちゅうにびょうレティシアだ。

 そして、彼女たちの後ろに隠れている二人の女性がいた。


「御主人様! 準備させましたよお」

「カ、カーミラ様! 押さないでくださいよ!」

「うぅぅ。ティオ……」

「おおっ!」


 二人の準身内が、カーミラによって押し出された。

 キャロルの服装は、エロメイド服とでも名付ければ良いか。白と黒で統一されたメイド服で、胸元が盛り上がって谷間が見える。

 しま模様のニーハイソックスを履いて、スカートは極端に短い。前屈みになれば、確実に下着が見えることだろう。

 そして、フィロはまんまである。そう、黒のバニーガールだ。兎人うさぎびと族の戦闘服とでも称すれば良いか。いや、駄目か。

 なんとも際どい股間で、ちょっとでもズレると大変なことになる。黒の網タイツと丸見えの背中が、オヤジ心をつかんで離さない。頭には天然の兎耳があり、お尻には尻尾を模したボンボンが付いている。


「フィロ、おまえ……」

「ティオ、見ないで……」

「あははははっ! いや、似合うぞ! 最高だな!」

「ティオ!」


 フィロは、馬上で笑っているベルナティオの足をポカポカと殴る。さすがは親友といったところで、感動の再会が、笑いの再会になったようだ。

 それにしても、エロ女侍セットの親友は初めて見るはずだ。とはいえ、それがおかしいと思えないほど、自身の姿が恥ずかしいのだろう。


「フォ、フォルト様、お帰りなさいませ」

「ははっ。キャロルも元気そうだなあ」


 フォルトはバイコーンを下りて、キャロルの文句を聞く。

 言いたいことは分かる。だが、仕方ないのだ。


「この服はどうかと思います!」

「メイド服だし、言うほど変でもないだろ?」

「露出が多すぎます!」

「じゃあ、フィロと同じにする?」

「嫌です!」


 フォルトとしては、バニーガールが二人でも構わない。

 それでも、メイド服はえるものがある。メイド喫茶に通う男たちの気持ちがよく分かった。しかも、ダークエルフ族のメイドだ。

 女性のアバターを弄るのが好きなので、意味もなく首を縦に振ってしまう。


「御主人様がイヤらしい目をしてます!」

「カーミラ風に言えば、ここは地獄だな!」

「えへへ。リリスの血がたぎりますね」

「ははっ。俺もたぎる」


 フォルトは、カーミラの笑顔に撃沈しそうになる。

 そして、彼女を伴って、マリアンデールとルリシオンの近くに移動した。


「飯はできてる?」

「仕込み中よお。レイナスちゃんが帰ってきたし、借りるわねえ」

「うむ。なら、テラスで休もうか」

「ふふっ。何か話すことでもあるのかしら?」

「あるな。詳しくは飯を食べながらだが……」

「私たちに関係があるのは聞いておくわ」

「そうだな」


 フォルトはバイコーンを送還して、カーミラとマリアンデールを連れてテラスに向かった。いつものように自分専用椅子に座り、愛しの小悪魔を隣に置く。

 他の身内も思い思いに、別のテーブルへ移動した。


「そう言えば貴方、ガルドからの手紙を受け取ったわ」

「内容はヒドラか?」

「よく分かったわね」

「クローディアからの手紙に書かれてた」

「あら、念入りなことね」


 マリアンデール宛ての手紙は、吸血鬼の執事が届けてくれたそうだ。

 彼らの一族は、幽鬼の森でアンデッドに襲われない。


「どうしたほうがいいかしら?」

「ははっ。全員で討伐に向かう」

「え?」

「驚くのも無理はないがな」

「ふーん。そこまでフェリアスと友好を結びたいのかしら?」

「まあな」


 マリアンデールは、フォルトがフェリアスとの友好を願っているのを知っている。それが、シモベのきずなというものだ。

 だからこそガルド王の依頼も受けてきたし、討伐隊には配慮していた。


「でもあそこは、毒の沼地よ?」

「なんとかなるものなのか?」

「毒ならシェラの精霊魔法でね。問題は沼地ってことよ」

「なるほど。なら、セレスでも大丈夫か」


 毒とはいえ沼なので、水分が混じっている。

 水の精霊の力を借りれば、無効化や解毒ができるそうだ。解毒については、自然神の司祭セレスも可能である。

 フォルトたちが過剰戦力と言われる部分の一つだろう。力という暴力もさることながら、こういった補助の部分まで隙がない。

 シュン率いる勇者候補チームにレンジャーはいないが、彼女がエルフ族なので、その役割も可能だった。

 沼地については、戦闘すれば汚れるといった話だ。泥んこ遊びをした子供のようになるだろう。


「フェリアスの戦士隊と合同作業になるようだな」

「そうね。一週間後に、蜥蜴とかげ人族の集落へ集まるらしいわ」

「一週間か。ここからだと?」

「五日ってところね」

「うぇ。二日しか休めないのか」


 フォルトたちはギリギリのタイミングで、屋敷に戻ってきたようだ。

 もう少し遅ければ、ヒドラの討伐に参加しなくても良かったかもしれない。これには残念そうな表情をする半面、イービスの顔が思い浮かんだ。


(イービスかあ。世界の意思とか言ってたな。俺たちにヒドラの討伐をさせるのも意思とか言わないよな? まあ神様じゃないし運命なんて……)


「貴方、どうしたのかしら?」

「いや。なんでもない」

「でも、宿を提供させたわ」

「宿?」

「さすがに野営は嫌よ。獣人族の集落にね」

「そっか。まあ人間じゃなきゃいいか」

「依頼を受けたらって話だけど、ガルドが手配してるはずよ」

「なるほど。気が利くなあ」


 フォルトが依頼を受けるかは不明だった。しかしながら、マリアンデールは手紙の返信をしてあった。

 しかも、どちらを選んでも良いように、彼の都合に合わせている。手紙の内容は分からないが、おそらく命令口調で書かれていることだろう。

 ローゼンクロイツ家の名声恐るべしであった。


「レティシア、来て!」


 そして、フォルトはレティシアを呼ぶ。

 彼女は他のテーブルで、キャロルに甘えているところだった。


「うふふふふ。死の支配者が、わたしに何の用かしら?」

「支配してない」

「えー、これも駄目なの? 何がいいのよお!」

「吸血鬼の盟友なんてどうだ?」

「駄目ね」

「………………」


 やはりレティシアは、フォルトを王などの支配者で呼びたいらしい。

 関係が対等な盟友では、残念ながら彼女の琴線に触れない。


「まあいい。レティシアもおっさん親衛隊な」

「え?」

「人数を六人にするのだ」

「嫌よ。ベッドでゴロゴロしたいもん!」

「御嬢様、フォルト様の話は良案ですよ?」


 ここで、メイド服を着たキャロルが口を挟んできた。

 レティシアを鍛えるためにも、おっさん親衛隊に入ったほうが良いとのことだ。大婆からも言われているようだった。


「良案じゃなあい!」

「そう言えば、大婆様がたまに来るそうですよ?」

「えっ!」

「サボりがバレたら試練ですね」

「うぅ。分かったわよ!」

「えっと……。キャロル?」


 フォルトは聞き捨てならない話を聞いた。大婆が瓢箪ひょうたんの森を出て、レティシアの様子をうかがいにくる。

 ソシエリーゼは魔人の魂が入る器の守り人なので、森から出ないと聞いていた。それを変えるのだろうか。


「(うそです。こうでも言わないと……)」

「(そ、そっか。キャロルも大変だな)」


 キャロルの苦労が察せられる。

 両手で目を覆っているレティシアを尻目に、フォルトへ耳打ちするほどだ。それにしても、相変わらず扱いに慣れている。

 これで、おっさん親衛隊が増強された。


「詳しい話は、飯を食べながらにしようか」

「そうですね! 御主人様とマッタリしまーす!」

「ふふっ。なら、ルリちゃんを手伝ってくるわ」

「うぅぅ。試練はいやぁ……」

「ははっ」


 フォルト立ち上がって、自分の世界へ閉じこもったレティシアの頭をでる。おそらく、両手で隠れた目の焦点は合っていないだろう。

 そして、周囲へ目を向けると、アーシャがにやけながら近づいてきた。彼女に任せれば、この黒き一族は元気になるだろう。

 他にも、華やかなテーブルばかりだ。その一つ一つをカーミラと回りながら、夕飯の準備が終わるのを待つのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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