第412話 盟約と世界の意志3

 アルバハードの地下迷宮を進むフォルトは、バグバットに案内されて、地下三層へ向かう階段を下りた。

 そこは天井が高く、地面から五メートルはあるだろう。所々に扉があって、地下に造られた住居のようにも見える。ここには、魔物がいないらしい。ちなみに地下一層だと、幽鬼の森と同じく、ゾンビやグールが徘徊はいかいしている。

 そして、二層には、レッサーヴァンパイアと呼ばれる下級吸血鬼が存在する。真祖のバグバットではなく、眷属けんぞくの吸血鬼に血を吸われると誕生するアンデッドだ。

 無断で侵入した者には、ご愁傷さまとしか言えない。


「誰か住んでるのか?」

「フェイクであるな。扉の先はわなばかりである」

「うぇ。吸血鬼でも住んでるのかと思った」

吾輩わがはいの一族は、すべて地上で生活しているのである」

「ほほう。でも、罠を外せば住めそうな気がするなあ」

「地下に住むのはお勧めしないのである」

「冗談だ。森に慣れてしまったしなあ」


 迷宮に引き籠るのは良いが、今やフォルトだけではないのだ。

 身内の数も増えて、しかも美少女ぞろい。地下の暮らしは彼女たちにとっても、精神衛生上良くはない。

 それに、こちらの世界へ召喚されてからは、ずっと森に住んでいる。心と体が休められる場所になっていて、他の場所に住もうとは思わない。

 そんなことを真面目に考えていると、バグバットが口を開く。


「そろそろ到着である」

「あの扉か?」

「で、あるな」


 どうやら、最深部へ到着したようだ。

 通路の先には、他の扉と違って、立派な装飾が施された扉が設置されている。両開きのようで、固く閉ざされていた。

 そして、バグバットは扉の前に立ち、懐から鍵を取り出した。


「豪華な扉だな」

「で、あるな。これもフェイクであるが……」

「へ?」

「では、戻るのである」

「手が込んでるなあ」


 フォルトは感心しながら、バグバットの後ろをついていく。

 豪華な扉の鍵を開けて、ここまで来た道を戻っているのだ。後から聞いた話だが、あの部屋へ入ると、骸骨将軍や屍骨しこつ戦士が待ち受けている。

 あそこが最深部だと思っていると、骨折り損のくたびれもうけになるだろう。


「お疲れであるな。ここが目的地である」

「やっとかあ。でも、他の扉と変わりないな」

「で、あるな」


 結局は、三層を半分ぐらい戻った場所だった。

 何度見ても、他の扉と変わり映えしない。実際のところ普通に開けると、部屋ではなく、壁が現れるだけだ。しかしながら、先ほどの豪華な扉の鍵を開けると、その壁が奥へ開く仕掛けである。

 そして、バグバットとフォルトが、部屋の中に入った。


「なんだあれ?」


 目的地の部屋は六十四平方メートル前後。公立小中学校の普通教室の広さだ。とはいえ、机や椅子などは無く、奥に光り輝く球体が浮いているだけだった。


「イービスであるな」

「イービス?」

「世界の意志イービスである」

「は?」

「こちらの世界は、イービスと呼ぶのである」

「なっ!」


 初耳だった。

 フォルトは日本が存在する世界と比較するために、「こちらの世界」といった言葉を使っていた。もちろん、カーミラやソフィアからも聞いていない。

 それについては、他の異世界人も同様だ。しかしながらバグバットは、「こちらの世界」の名称を口にした。

 これには驚いてしまった。


「世に知られていないのが不思議であるか?」

「あ、ああ……」

「天界の神々によって忘却させられたからである」

「ほう」


 神話戦争終結後、天界へ座した神々は、世界に魔法をかけた。

 それは、生きとし生ける者の記憶を改ざんする魔法だ。そのときからイービスは忘れ去られて、現在に至っている。


「でも、バグバットは知ってるよな?」

「吾輩はイービスの意思によって生まれたのである」

「ふむふむ」

「イービスってのは神様なのか?」

「世界の意志である。すなわち、世界は生きているのである」

「そっ、そういった解釈ね」

「分かるのであるか? フォルト殿は聡明そうめいであるな」

「日本じゃ創作物が多くてなあ」

「で、あるか」


 フォルトが持つ思考の一つはゲーム脳である。

 その思考は、様々な世界観を主体としたゲームで培われている。なので、バグバットの話は良く理解できる。

 おそらくだが、ノックスでも理解できる。他の異世界人だと、少々難しいかもしれない。とはいえ、あちらの世界は創作物があふれていたので、ある程度説明すれば理解するだろう。


「イービスは使っていい名称なのか?」

「近しい者なら構わないのである」

「身内なら平気か」

「他に伝えたところで、理解し得ないのである」

「まあ、説明するのも面倒だしな」

「で、あるな」


 イービスの住人に伝えたところで、現在は知り得ない状態になっている。なので、頭の上にクエスチョンマークが浮かぶだろう。

 日本が存在する「あちらの世界」でも同じことだ。宇宙を含めたすべての世界を示した名称は無い。あったとしても、創作物の中で使われており、それを知らない人に理解させるのは億劫おっくうだ。

 ちなみにフォルトの記憶だと、「ノウン・スペース」が浮かんだ。


「ノウン・スペースって知ってるか?」

「(ソノ問イニ答エマショウ)」

「なにっ!」


 バグバットに問いかけると、フォルトの頭の中に声が響いた。

 それは、男性のようであり女性のようでもある。まるでポロと同様に、頭の中へ直接語りかけている。

 そして、周囲を見ると光り輝いていた球体が点灯していた。


「まさかイービスか?」

「(ソウデス)」

「目がチカチカするのだが……」


 点灯が速くて、球体を凝視すると目がくらんでしまう。

 なのでフォルトは、腕で目を隠した。


「(イービスヲ想像シナサイ)」

「想像?」

「(ケットシート同様)」

「ああ。だが、なぜそれを……」


 ここでフォルトは、ニャンシーのことを思い出した。しかしながら、なぜそれを例に出したか分からない。

 イービスは、彼女を眷属にしたことを知らないはずだ。


「(早クシナサイ)」

「分かった分かった」


 ニャンシーもそうだが、大罪の悪魔でも美少女を想像した。

 フォルトはその経験を活かして、脳内でイービスを創りあげた。すると球体の中から、人の形をした何かが飛び出してきた。


「もう大丈夫です」

「そっ、そうか」

「ですが、おまえの思考はどうなっているのですか?」

「え?」

「人の姿は良いのですが……」

「うひょ!」


 フォルトは、バグバットを忘れて奇声を上げた。

 球体から飛び出したのは、人間の女性だった。しかも、十八禁ゲームのような巫女みこ装束を着ている。

 白衣は首に掛けたひもから垂れ下がり、まるでブラジャーのように胸を覆って、腰帯で結ばれていた。肩から脇に掛けては、素肌が見えている。

 赤いはかまは、ミニスカートになっている。白いニーハイ型の足袋と草履を履いており、腕には長く垂れ下がった袖を付けていた。

 もちろん、それだけではない。


「麻呂がイービスです」

「麻呂……。我ながらなんとも言えん」


 日本人のような黒髪を腰まで伸ばしたイービスは、麻呂眉の女性であった。

 どこかの殿様ほど白くないが、麻呂メイクもしている。それでも、ニャンシーのような幼女でないのが幸いか。

 若く麗しい女性を想像できたようだ。


「フォルト殿……」

「あ……。すまんな、バグバット」

「構わないのであるが……」

「控えなさい」

「でへ」


 イービスは、いつの間にか球体の前に置いてあった椅子へ腰かけた。

 彼女が足を組んだところで、フォルトも地面へ座る。もちろん前屈みになって、顔を上げている。狙いは一つだ。

 そして、一瞬だけ隣に視線を向けると、バグバットはひざまずいていた。


「世界の意志という割には小さいな」

「麻呂のすべてを見ると、おまえの精神が焼き切れます」

「だから一部だけで現れたと?」

「球体も同様です。麻呂は封印されているのです」

「ほほう。神々にか?」

「忌々しいですが仕方ありません」

「ふーん。これがアルバハードを守る理由かあ」

「で、あるな」


 バグバットは、この地にイービスが封印されているから守っているのだ。世界そのものなので、想像を絶する力を持っている。

 天界の神々の味方をするわけではないが、下手に封印を解くわけにはいかない。さりとて、誰かに渡すわけにもいかない。

 そういった理由とは別に、世界の意志として、今は守られることを望んでいた。ゆえに彼は、その意思に従っている。


「では答えましょう」

「うむ」

「ノウン・リングという世界があります」

「もしかして……」

「おまえのような異世界人が住む世界ですね」

「ほう」

「ノウン・リングは、イービスの複製です」

「へ?」

「つまり――――」


 フォルトが言ったノウン・スペースとは、地球を含めた既知の宇宙空間。しかしながら、ノウン・リングが正解らしい。

 そして、すべての世界の外には、世界を生み出す本来の神がいる。これが、創造神に該当する存在だ。

 その神が、イービスを複製して生み出した世界。ノウン・リングの地球と呼ばれる惑星上で、人間に楽園を築かせていた。


「俺はコピーされた世界から来たということか?」

つながりがあるので召喚できます」

「なるほどなあ。じゃあ帰れないのは?」

「名前の件は知っていますね?」

「あっちの世界から断ち切ったと聞いている」

「それと、もう一つあります」

「なんだ?」

「イービスから複製された世界へ送るのを禁止されています」


 イービスも、本来の神から生まれた世界である。

 ノウン・リングでは、人間を使った実験を行っているそうだ。どういった文明を持ち、どういった道を歩むのか。それを見守って、記録としている。

 オリジナルの世界から生物を迎え入れると、イレギュラー的な存在となって邪魔になる。だからこそ、一方通行なのだ。

 たとえ、ノウン・リングから召喚された人間でも……。


「ふーん」

「そもそもおまえは、ノウン・リングに戻りたくないのでは?」

「うむ。それと、おまえではない。フォルトと呼べ」

「傲慢ですね。麻呂は世界の意志、世界そのものですよ?」

「知らん。礼儀の問題だ」

「分かりました。でしたらフォルト」

「なんだ?」

「神々の話は早すぎます。もっと世界を良く知るのです」


(これ以上は話すつもりがないと見える。勝手に話してただけだが……。でも、もっと世界を知れと言われてもな。別のことなら知りたい)


 人間の女性状態になったイービスなら、隅々まで知りたい。

 それはさておき、フォルトはターラ王国まで出向いたが、基本的には引き籠りが性に合っている。なので、世界を知れと言われても困る。

 しかも、命令を聞くつもりはない。


「俺は怠惰だ。知るつもりはない」

「構いませんよ。時間は無限にある魔人ですからね」


 イービスはすまし顔だ。まるで、予定通りだと言いたげだった。

 そして、フォルトとの会話は終わりとばかりに、バグバットと向き合った。


「バグバット、フォルトが盟友になるそうですね」

「はい。イービスには、盟約の立会人をお願いするのである」

「分かりました。それでは、盟約の儀式を始めます」


 フォルトは、神の秘密など知りに来たのではない。

 バグバットと盟友になるため、盟約を結びに来たのだ。世界の意志イービスの存在には驚いたが、本来の目的を終わらせて帰りたい。

 そんなことを思いながら、彼と盟約を結ぶのだった。



◇◇◇◇◇



 アルバハードの地下迷宮から戻ったフォルトは、バグバットと様々な話を終わらせて、身内の待つ部屋へ入った。そのときに、手紙を一通受け取っている。

 長時間地下へ潜っていたので、ベッドの上では、アーシャが寝息を立てていた。他の身内も休息を取っており、いつも元気なベルナティオが出迎えてくれた。

 さすがにカーミラは、まだ戻っていない。


「ふぅ。疲れた」

「きさまはいつも疲れているな」

「話が壮大過ぎてな。それよりも……」


 フォルトたちには、大部屋が用意されている。

 バグバットの計らいだが、フォルトはベルナティオを連れて、フカフカのソファーへ腰を下ろした。

 対面にはソフィアとセレスが座って、レイナスは茶の準備をしている。


「さて、話すべきことは多いのだが……」


 バグバットと盟約を結んだという内容以外は、すべて表に出せない話だ。彼も盟約に関わることが終わってから、内容を精査すれば良いと言っていた。

 それでもフォルトは、すべてを伝えるつもりだった。しかしながら全員を集めてから話したほうが、二度手間を避けられる。


「そんなわけで、幽鬼の森に帰ってからだな」

「そうですね。ですがフォルト様」

「なんだ? ソフィア」

「バグバット様と盟約を結んだのは……」

「何か拙かったか?」

「いえ。凄いなと思いまして」

「そうか?」

「そうですよ」


 バグバットは、常に中立を貫く。なので他者に対して、そこまで踏み込むのはあり得ないと思われていた。

 もちろんソフィアもそう思っていたが、それとは別に、フォルトまで踏み込んでいる。これには、二重に驚いたようだ。

 彼女と出会った頃からの行動を考えると、さもありなんであった。


「確かに旦那様であれば、少しは距離を置くと思いましたわ」

「まあなあ。だが俺も、色々と考えたのさ」

「帝国軍師の話ですか?」

「それもある。あるが、バグバットにかれたのが一番だな」

「少し妬けちゃいますね」

「ははっ。男女は違うさ。なあ、レイナス」

「そうですわね。友情を越えた友情ですわ」

「おっ! うまいこと言うね」


 茶の準備が終わったレイナスが、テーブルに全員分のティーカップを並べる。

 そして、優雅に茶を注いで、フォルトの隣へ座った。先に隣へ座っているベルナティオと同様に、彼女の太ももへ悪い手が伸びる。


「あんっ!」

「でへ。そうだ。レイナスに聞きたいことがあった」

「知っていることでしたら、なんでも答えますわ」

「エウィ王国の貴族は、どう動くと思う?」


 フォルトがバグバットの盟友となれば、アーシャの件に介入すると言っていた。

 つまりそれは、エウィ王国に対して、異世界人の扱いに口を挟むことだ。国王のエインリッヒ九世や貴族などは黙っていないと思われる。

 貴族社会に詳しいレイナスの話を聞いておきたい。


「異世界人は、エウィ王国の切り札ですわ」

「だな」

「ですが、盟友になるのがバグバット様ですわね」

「うむ」

「対応は二分されますわ。力のある貴族が、どちらを選ぶかですわね」

「なるほどなあ」


 レイナスの伝えたいことは、ローイン公爵とデルヴィ侯爵についてだ。

 この二人がどう考えるかで、他の貴族たちは選択を迫られる。どちらもエウィ王国の有力貴族であり、お互いで派閥を持っている。

 その人数は拮抗きっこうしていて、現状だとどう転ぶか分からない。


「レイナスはどう見る?」

「グリム家次第だと思われますわ」

「へえ」

「グリム様に好意的な貴族は、デルヴィ侯爵へ流れますわね」

「その話だと、デルヴィ侯爵は俺をかばうと?」

「はい。ローイン公爵は処分を主張しますわ」


 レイナスが言うには、鍵はグリム家だそうだ。

 ローイン公爵はレイナスの父親なので、その考えは手に取るように分かる。王国貴族のなんたるかを実践する人物で、確実に国法に従うはずだ。

 反対にデルヴィ侯爵は、自らの利益を追求して動く。そうなると、アルバハードと対立することは避ける。

 もちろんフォルトを使って、利益を上げたい人物である。これも、確実に擁護へ回るだろう。


「グリム家かあ。ソフィア、どうなの?」

御爺様おじいさまは擁護に回りますね。そうなると、問題は王家です」

「王様かあ」

「いえ、王家です」

「違うのか?」

「ハイド王子とリゼット姫ですね」

「王子は知らんが、リゼット姫かあ」


(俺を裏切らないなら、リゼット姫は擁護に回る。だが、王子はよく分からんなあ。会ったこともないし、何を考えているかも分からん)


 王位継承権一位のハイド王子は発言力が高い。

 逆にリゼット姫の発言力は皆無である。しかしながら、最近ではエインリッヒ九世に意見を上げており、その内容が通っている。

 それを貴族たちは、快く思っていない。


「そうなると、先が不透明になりますわね」

「やれやれだな」

「人間の国は面倒ですわね」

「あっはっはっ! セレスから見ればそうだろうなあ」


 エルフ族。いや、フェリアスから見れば、人間社会は滑稽に見えている。彼らは常に団結しており、腹の探り合いなどしないのだ。

 人間の醜さを知っているフォルトは、素直な感想を述べたセレスに笑ってしまう。だからこそ、亜人の国には友好的だった。

 そうなると、別れ際にバグバットから渡された手紙の内容が問題になる。


「まあ、エウィ王国については分かった」

「フォルト様はどうするおつもりですか?」

「どうもしない。俺よりは、バグバットが動くしな」

「御爺様にはお伝えしておきます」

「頼む。それよりも、だ」


 フォルトは語尾を強くして、懐から手紙を取り出す。

 そして、茶を飲みながらテーブルの上に置いた。


「その手紙は?」

「クローディアからだ」

「まあ。フェリアスで何かあったのですか?」

「うむ。ヒドラの討伐を手伝ってほしいそうだ」

「ヒドラだと!」

「うおっ! ティオ、どうした?」


 隣で気持ち良さそうにしていたベルナティオが声を上げる。

 それに驚いたフォルトは、危うく茶をこぼしそうになった。


「腕が鳴るな。もちろん、討伐に行くのだろう?」

「い、いや。幽鬼の森でゆっくりするぞ」

「駄目だ。レベルを上げる良い機会だぞ!」

「レ、レベルか……。だが上げてきたばかりだろ?」

「こういったチャンスは逃したくないと言っただろ」


 フェリアスには好意的だが、ターラ王国から帰ってきたばかりだ。

 フォルトとしては、幽鬼の森へ引き籠って、屋敷で自堕落生活に入りたかった。とはいえ、ベルナティオが許してくれないようだ。

 そこでセレスへ目を向けると、期待に満ちた顔をしていた。


「はぁ……。俺の自堕落は知ってるだろ?」

「ですが、旦那様に直接依頼するほどですよ?」

「知らん!」

「ふふっ。心にもない言葉だと分かっていますわ」

「………………」


 フェリアスは、ターラ王国のレジスタンスとは違う。

 フォルトの中で、エルフ族は正義である。ドワーフ族のガルド王には、今まで世話をかけている。獣人族も嫌いではない。

 有翼人はよく分からないが……。


「ティオとセレスの望みだし、もう少し頑張るか」

「さすがは旦那様ですわ!」

「ははっ。依頼料もネトラの実だしな」


 キャロルが所望していたネトラの実。

 要はバナナだが、イービスでは希少な果物だ。フェリアスでも栽培していたが、依頼料として提示されていた。

 依頼を受けなくても、バグバットの口利きなのでもらえるだろう。それでも報酬としてもらうほうが、後々の取引がうまくいく。


「だが、おっさん親衛隊だけで倒せないものか?」

「一体なら問題ないが、ヒドラの巣と書いてあるぞ」

「何体もいるのでしょう。でなければ、旦那様に依頼しないはずです」

「なるほど。でも面倒だなあ……。でへ」


 そこまで言ったところで、フォルトの後頭部に、柔らかな刺激が加わった。今しがた帰ってきたのだろう。透明化で消えているところが可愛い。

 よくツボを心得ている。


「えへへ。マリとルリを連れていけばいいでーす!」

「だな。俺の出番は極力減らして……」


 カーミラが、透明化を解除して姿を現した。とはいえ、誰も驚いていない。

 当たり前であった。おっさん親衛隊は成長しているのだ。ベルナティオを別にしても、ソフィアでさえ、魔力探知で分かっていた。

 これにはフォルトも笑みを浮べる。


「ローゼンクロイツ家総出で行くかあ」

「えへへ。面白そうですねえ。リリエラもですかあ?」

「うむ。ヒドラの巣と言っても、他に魔物がいるだろう?」

「レベル上げですね! でも厳しそうですよお?」

「まあ、俺が近くにいよう」

「なら安心ですね!」


 リリエラのレベルは低い。

 ヒドラの巣の近くに棲息せいそくする魔物は強いだろう。それでもフォルトとカーミラがいれば、確実に安全な狩りをさせられる。

 みんなの戦いぶりを見るのも経験になるはずだ。


「俺もアグレッシブになったな」

「気のせいです。普通は森に引き籠りませんので……」

「ははっ。ソフィアのツッコミが痛い」

「す、すみません。冗談のつもりが……」

「俺も冗談だ。まあ動くのはスケルトンだしな」

神輿みこしで移動ですね」

「うむ。俺は意地でも楽をする!」


 フォルトは宣言する。

 まるで褒められない内容だが、それには全員が笑い出した。行動的になったと言っても、結局は召喚魔法に頼るのだ。

 ターラ王国での大地震が思い出される。今から思い返せば、自身が楽をするために、結局は動いてしまった。

 そして、今でも寝ているアーシャへ目を向ける。ヒドラの討伐へ向かうと知れば、どういう反応を見せるだろうか。

 そんなことを考えながら、苦笑いを浮かべるのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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