第403話 収束する脅威3

 平原を集団で進む一団があった。

 先頭を走るのは、帝国騎士の一隊である。立派な体躯たいくの軍馬に乗って、一糸乱れぬ隊列で進んでいる。

 その後ろには、二頭引きの荷車が十台。こちらは一般的な馬を使っていて、軍馬と比べると、やや貧相であった。それぞれの荷台には、二名の人間が乗っている。

 そして、荷車を取り囲むように、作業服を着た人間たちが、競歩のように歩いていた。こちらは文字通り、徒歩である。

 彼らの移動速度に合わせるので、一団の進行速度は遅い。


「やっぱり、これはいいものですね」


 その一団のうち、三名が乗っている荷車があった。

 乗っている人物のうち一名は、女性の帝国騎士である。他には皮鎧かわよろいを装備した中年の男性。それから、ローブを着た若い女性だった。

 言葉を発したのは、皮鎧を着た男性だ。


「そっ、そうでしょうか?」

「うん」


 その人物は強面の男性で、膝の上へローブを着た者を乗せている。向かい合わせて座らせており、その者の胸へ顔を埋めていた。

 ローブを着た者は女性であった。体にピッタリとフィットした黒い全身服を着ている。小柄だが、大きな胸が特徴的である。

 サイズが合っていないのか、服がはち切れんばかりだ。


「………………」

「指輪のせいで感情が無くて、ちょっとつまらないですね」

「支配の指輪……。でしたか?」

「だいぶ前ですが、グラーツさんから頂きましてね」

「珍しい品ですね」

「帝都へ到着する頃には壊れるので、紋様師の手配を頼みます」

「畏まりました。〈凶刃〉様」


 女帝国騎士は、軽く頭を下げた。

 皮鎧を装備した男性が〈凶刃〉スカーフェイスで、ローブを着た女性がササラである。ギーファスを暗殺して、現在は逃走している最中だ。

 ザイザル率いる補給部隊へ身を隠し、一路帝都クリムゾンを目指す。


「〈凶刃〉様は、いつまでその男の姿を?」

「好みじゃないですか?」

「いえ、そういった話ではなく……」


 スカーフェイスは、ササラの胸から顔を上げて、女帝国騎士を見る。

 現在は、レジスタンスの幹部へ姿を変えている。これは、元死刑囚だった男性の姿だった。喧嘩けんかの話を持ち込んだときには、すでに入れ替わっていた。

 幻術系魔法の一つ、【イリュージョン・ミラー/幻影の鏡】である。初級に属する魔法なので、単純な幻影しか作り出せない。しかしながら、使い手によっては、人間の全身を作り出すことも可能だ。

 それでも触られたりすると、簡単にバレてしまう。今もササラの胸は、強面の顔を通り抜けている。

 傍から見ると、とても不気味であった。


「冗談ですよ。首都のベイノックで、悪事を働いたら戻します」

「悪事ですか?」

「捜査の目をくらますためです。逃走中と思わせます」

「なるほど。本物はどうしますか?」


 そこまで聞いた女帝国騎士は、荷台に置いてある二つのたるを見る。

 その中には、レジスタンスの幹部が入っている。一樽は元死刑囚で、もう一樽は欲望の塊の男性だ。

 まだ死んでいないようで、時おりカタカタと動いていた。


「私の顔の男は、ベイノックを離れてから殺してください」

「はい」

「もう一人は……。要らないですね」

「では、今のうちに殺しますか?」

「次に魔物が襲ってきたときでいいですよ。餌としてね」

「分かりました」


 この一団は現在、帝国軍が使っているルートを逆走中だった。

 危険な魔物や魔獣は、ローゼンクロイツ家が倒している。なので、道中は弱い敵しか現れない。

 それらは、先頭を進んでいる帝国騎士たちで対応が可能だ。


(部下たちは、よく働いてくれました。それに……)


 スカーフェイスは思い出す。

 「聖獣の翼」を始末した後は、部下が拉致していた幹部へ化けた。その後は部下からザイザルへ協力を仰がせて、警備を小屋から遠ざけた。帝国の冒険者を装った部下も、予定通りに、ファナシアや幹部連中を遠ざけてくれた。


「ギーファスさんは、ボイルさんではないですからね」


 そして、スカーフェイスとギーファスの対決。

 信用しきっているので近づいたが、残念ながら、直前で気付かれてしまった。この点については、さすがは元ターラ王国の騎士団長である。

 それでも立ちあがって剣を抜く寸前に、喉笛へナイフを突き入れた。普通の暗殺者なら対応できただろうが、今回は相手が悪かった。

 喉笛を突いただけでは死亡しないが、ボイルを楽にさせた麻薬の原液は使っていない。別に敬意など払っていないのだ。

 大量出血で意識を失うまでは、目を見開きながら苦しんでいた。


「何か仰いましたか?」

「いえ……」


 最後は逃げ出そうとした幹部を気絶させて、逃走を図ったという流れである。その場で殺さなかったのは、死刑囚と共犯と思わせるためだ。

 なんとも呆気あっけない暗殺劇だった。


「うーん。やっぱりいいものですね」

「そっ、そうですか?」

「あの御仁とは、趣味が合わなそうですが……」

「どなたのことで?」

「貴女には関係ありません」

「はっ!」


 スカーフェイスは再び、ササラの胸へ顔を埋めた。

 支配の指輪のせいか、目を虚にして無表情のままだ。それでも体は正直で、たまにピクンと動く。それがまた欲情を誘った。

 それを女帝国騎士は、複雑な表情で見ている。同じ女性として、何か思うところがあるのだろう。しかしながら、帝国四鬼将へ意見するなどおこがましい。

 そして、荷車の先を進む帝国騎士が、遠くに魔物の集団を発見するのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトたちが担当する洞窟の入口。

 この本来の入口から進んだ先には、広い通路がある。おっさん親衛隊とダークエルフたちが休憩所としている場所で、地図では赤い丸印が付いている場所だ。

 そこから奥では召喚したリビングアーマーが戦っているので、おっさん親衛隊は暇を持て余していた。

 レイナスとセレスは、ダークエルフたちと魔物の解体をやっている。さすがにアーシャは嫌がって、それに参加していない。


「やれやれだ。なかなか思うようにいかないな」

「フォルトさん、暇なんですけどお」

「奥の魔物と戦うか?」

「くつろいじゃうとねえ」

「だよな」


 元勇者チームへ借りを返すために、撤収の日取りが伸びてしまった。

 フォルトはソフィアとベルナティオを連れて、休憩所へ戻ってきた。現在は地面へ胡坐あぐらをかいて、カーミラを膝の上へ乗せている。

 細い腰へ手を回して、肩へほほを付けていた。


「にゃ。そこじゃ」


 カーミラの膝の上には、ニャンシーが座っている。

 つまり、三段重ねだ。耳裏のモフモフを頬で味わいながら、首元に指を当て、くように動かしていた。

 フォルトを見ないようにすれば、とても愛くるしい絵面である。


「ニャンシー」

「ゴロゴロ」

「ニャンシー」

「なっ、何じゃ主よ」


 ニャンシーは一息入れると、どうにも和んでしまうようだ。

 とても可愛らしいのだが、フォルトには聞きたいことがあった。


「元勇者チームが言ってた大穴の底は、どうなってる?」

「大空洞じゃな。壁には何本も道が伸びておる」

「そこからあふれてる感じか」

わらわが行ったときは、魔物がわんさかとおったのう」

「虫?」

「うむ。カサカサカサっとな」

「勘弁。寄生蜂は?」

「巣があるのじゃ」


 フォルトは早く終わらせたいがために、ニャンシーから情報を聞き出している。元勇者チームが知りたいことなど、すでに調査済みなのだ。まさに、ズルである。

 この場にプロシネンがいれば、無言のまま斬り掛かってくるだろう。


「ふむふむ。大型のボスみたいなのは?」

「センチピードが一番大きいのではないかの」

「なんだ。ボスはいないのか」

「きさま、そんな魔物がいたら洞窟が崩れるぞ」

「かもなあ」


 ゲームのように、最深部でボス戦とはならないようだ。

 ベルナティオが言ったとおりだ。大型のボスがいれば、他の魔物と戦闘になって、こんな入り組んだ洞窟など崩れるだろう。

 なぜそこにいたといった疑問も生まれる。広い道だけではないので、最初からそこに存在していないと不自然だ。


「なんか祭壇みたいなのは?」

「無かったのじゃ」

「それは良かった」


 やはり、ボスなど存在しない。

 祭壇でもあれば、何かのきっかけで現れる可能性があったかもしれない。しかしながら、可能性が潰れるのは良いことだ。

 別に倒したいとも思わない。


「なあ、ソフィア」

「はい」

「シルキーは、何をやろうとしてるんだ?」

「まずは大穴の底の調査。それから焼き払うつもりでしょう」

「だが、さすがに焼き払うのは無理があると思うぞ」

「ですので、フォルト様の協力が欲しいのでしょう」


(中級の火嵐で十分な気が……。俺が必要なのか? 寄生蜂の巣だけなら、そこまで強力な魔法は要らないような。それともまさか、全部焼き払う気か?)


 寄生蜂の巣を焼き払うのは簡単である。

 それだけなら、シルキーが一人でやれそうだ。狙いは、壁から伸びている道か。大空洞の魔物共々、通路の先まで焼き払いたいのかもしれない。

 だが、洞窟内のすべてを焼き払うのは不可能だ。


「協力って言ってもな」

「おそらくは儀式魔法でしょうね」

「【ディバイン・レイ/神聖なる一筋の光】のような?」

「そのとおりです」


 シルキーのスキル『写し鏡うつしかがみ』のことは、ルーチェから聞いている。ソフィアにも確認してあった。知っていると知られても問題はない。

 ならば、フォルトを入れた三人でやるつもりだろう。そうなると、かなりの大魔法になると思われる。

 洞窟内のすべてを焼き払うことも可能かもしれない。


「儀式魔法など使ったことはないぞ」

「詠唱が必要ですよ」

「うーん。アカシックレコードには……」

「(あるわけないだろう。魔人なら単独で使えるぞ)」

「左様ですかあ。ってポロ、ちょっと一つ聞いていいか?」

「(なんだ?)」

「おまえは何の種族だったんだ?」


 話はズレてしまったが、せっかくポロから話しかけられたのだ。教えてもらえるか分からないが、思い出したかのように聞いておく。

 フォルトとリドは人間、大婆はダークエルフ族、魔王スカーレットは魔族の形を取っている。

 この暴食の魔人も、何かしらの種族を形作っていたはずだ。


「(俺か? 俺に種族など無いぞ)」

「は?」

「(独立した個体で……。言っても分からんか)」

「サッパリだな」

「(ならば、妖人族とでも覚えておけ)」

「なんだそれ?」

「(父を同じくするものが、あと一体だけ存在する)」

「ふーん」

「(魔人の秘密ではないが、おのずと分かる。後は勝手に調べろ)」


 ポロの説明だと、さっぱり分からない。

 種族として考えないほうが良さそうだが、何となくイメージはできる。父という言葉から察すると、もしかしたら誰かに作られたものかもしれない。


(妖人族ねえ。妖……。妖怪? いやに日本風だな。こっちの世界は分からないことだらけだ。まあ、そのうち分かるならいいや)


「なら話を戻すとして……。ソフィア」

「はい」

「儀式魔法は困る!」

「詠唱は教えてもらえると思いますよ?」

「恥ずかしい」

「ぷっ! きっと、レティシアが喜ぶわよ」


 魔法の詠唱など、厨二病ちゅうにびょうの極みである。

 いい歳をしたおっさんが、口に出すのは恥ずかしい。それでもアーシャの言ったとおり、ネタとして覚えておくのは良いかもしれない。

 レティシアと遊ぶときに使えそうだ。


「だが、シルキーに怪しまれないか?」

「どうでしょう。私は儀式魔法を使ったことがないので……」

「なら、何か対案を用意しときたいな」

「対案ですか?」


(何もあっちの言ったことをやる必要はない。俺に協力させたいのだって、何かしらの思惑があるに違いない。いや、絶対にある)


 フォルトは人間嫌いが根深いので、とにかく邪推してしまう。

 外へ出て人と話せるようになっても、こればかりは変わらない。シルキーが提示することをやれば、さまざまな情報を知られてしまうだろう。

 具体的に何が知られるかは分からないが……。


「ソフィア、ちょっと耳を貸して」

「はい」

「ふっ」

「ぁっ。フォルト様!」

「じょ、冗談だ。えっと、ゴニョゴニョ」


 お約束の攻撃にひるんだソフィアへ耳打ちする。カーミラもニャンシーを離して、体を預けて聞いていた。

 フォルトは女性の甘い香りに包まれたので、ニヤけた笑みを浮かべてしまう。


「でへ。どう?」

「危険は無いのですか?」

「今のままならあるな。だが、不自然さを残したくない」

「一考しましょうか」

「えへへ。面白そうですねえ」

「ちょっと、あたしも教えてよ!」

「そうだな。私にも教えろ」

「分かった分かった。こっちへ来い」


 耳打ちに次ぐ耳打ちで、アーシャとベルナティオを取り残してしまった。

 そこで、近くへ呼び寄せて仲間へ加える。


「どうだ?」

「きゃはっ! フォルトさんも大胆よねえ」

「そこは、日本人ならではってことで!」

「私の出番はないようだな」

「今回はな。まあ、みんなの誘導を頼む」


 アーシャも概要を把握したことで、楽しそうに笑っている。ベルナティオは腕を組みながら、残念そうな表情へ変わった。

 フォルトの案は、ソフィアの言ったとおり危険だ。それでも修正を加えることで、とても楽な方法へと変わった。

 後は明日、実行へ移すだけだ。


「ニャンシー、帰っていいぞ」

「分かったのじゃ。それにしても、魔人は恐ろしいのう」

「ははっ」


 ニャンシーがブルっと震えてから、魔界へと消えていった。

 山の裏へ建てた小屋の破壊は終わっており、ルーチェは先に双竜山の森へ帰っている。転移の魔法を完成させた褒美として、暫くは好きなことをやってもらう。

 そうは言っても、大好きな魔道具の研究をやるだろう。


「では、飯を食って寝るか」

「はあい! 用意しますねえ」

「あたしも手伝うわ」


 カーミラとアーシャは立ちあがって、レイナスとセレスを呼びに行った。このうちの三人は料理が得意なので、運び込んである食材で旨い飯を作ってもらう。

 その後は料理を食べながら、細かい打ち合わせを終わらせておく。もちろん、フェブニスやダークエルフ族にも聞かせておいた。

 そして、フォルトは宣言通り、翌日の昼前まで惰眠を貪った。


「フォルト様、起きてください」

「むにゃむにゃ」

「もうそろそろ行きますよ」

「後五分だけ……」

「それは、私のセリフです。ちゅ」

「んんっ! 目が覚めた」


 さすがに洞窟内はダークエルフ族がいるので、夜の情事はおあずけだった。それでも身内に添い寝をしてもらって、目覚めは爽やかである。

 ソフィアに起こしてもらったフォルトは、ゆっくりと体を起こした。


「準備するから待ってて」

「はい」

「カーミラはついてきて」

「はあい!」


 フォルトは手始めに、カーミラ連れて洞窟の奥へと向かった。奥と言っても、リビングアーマーが戦っている場所までは行かない。

 そして、数分後、二人は準備を終わらせて戻った。


「では行くとするか」

「はい。お姉さんが待っていると思います」


 フォルトは、洞窟へ残る身内とフェブニスたちへ挨拶して出発した。

 昨日と同様に、ソフィアとベルナティオを連れていく。外へ出ると、太陽が真上に昇っていた。シルキーへ言ったように、朝一番で起きるのは無理である。

 まだ眠たそうな目を擦りながら、山を下って、元勇者チームと待ち合わせている小屋へ向かった。


「待たせたか?」

「いえ。いま来たところですぞ」


 小屋へ入ると、元勇者チームの三人と冒険者ギルドマスターが待っていた。

 フォルトたちが来たことで、それぞれ椅子へ座ろうとしている。オダルからは、社交辞令を言われてしまった。

 結構待たせたかもしれない。


「寝過ぎじゃないかしら?」

「そうか? まあ頭はスッキリしてるから平気だ」


 今回は、レジスタンスのファナシアやソル帝国のザイザルもいない。なので、とりあえず元勇者チームの対面の席へ座った。

 そして、フォルトが、シルキーへ問いかける。


「で、俺に何をさせたいのだ?」

「まずは召喚魔法で、大穴の底を調べてほしいの」

「底までが深いのだったな。それで?」

「寄生蜂を確認できたら、儀式魔法に参加してもらうわ」

「儀式か……。俺はやったことがないぞ」

「詳しい打ち合わせは、大穴に着いてからよ」


 ソフィアから聞いたとおり、儀式魔法を使うようだ。シルキーだけでは使えない魔法なので、フォルトを加えることで発動させる。

 内容としては、上級の火属性魔法【インフェルノ/業火】を使うことで、大穴の底を一気に焼き払う。


(上級だと? 禁呪ではないのか)


 この魔法は、中級の火属性魔法【ファイア・ストーム/火嵐】の上位にあたる。相当な範囲を焼き尽くすため、寄生蜂もろとも、魔物を倒せるだろう。

 その話をシルキーから聞いたフォルトは、一つ疑問ができた。


「だが、おまえは上級の爆裂系魔法が使えるだろ」

「残念だけど、単独では業火を使えないわ」

「単独で使えるのは一種類だけか?」

「それは教えられないわ。貴方は使えるのかしら?」

「俺も教えられんなあ」


 フォルトの考えていたとおり、シルキーには何か思惑があるようだ。

 まったくもって面倒な話である。協力を頼んでおきながら、腹の探り合いなどされても困る。教えてくれないなら、こちらも教えられない。

 ソフィアとベルナティオは黙っている。任せてくれているようだ。


「シルキー、いい加減にしろ」

「アイヤー、さっさと終わらせようぜ」

「あら、御免なさいね」

「協力させたいのではないのか?」

「冗談よ。貴方と話すとこうなってしまうわ」


 プロシネンとギルが止めに入る。

 どうやら腹の探り合いは、シルキーの独断専行のようだ。さすがは、元勇者チームの魔法使いと褒めて良いのか。はたまたけなせば良いのか……。

 フォルトとしては、勘弁してもらいたい。


「このまま帰ってもいいのだぞ」

「ふふっ。素直に言うと、合体魔法を使いたいのよ」

「合体魔法だと?」


 合体魔法。

 属性の違う魔法を組み合わせることで、性質や威力を変えるものだ。例えば火属性魔法と風属性魔法を合体させることで、もっと広範囲に炎を広げられる。


「竜巻をお願いしたいわね。使ったという情報は入っているわ」

「ちっ。あのときか。なら、業火のほうは?」

「使えないと言ったのはうそ。私が使うわ」


 瓢箪ひょうたんの森が、帝国軍に襲われたときの話だ。

 この軍は偽装したレジスタンスだったので、リーダーのギーファスか幹部連中にでも聞いていたのだろう。

 情報の拡散とは恐ろしい。一回使っただけでも、それが広まってしまう。


(貴重な情報だな。上級の火属性魔法も使えるのか。それに合体魔法。禁呪じゃないのは……。おっと時間か)


「そろそろか」

「はい?」

「いや……」


 フォルトとシルキーの会話が止まったところで、とあることが起きた。小屋の中のテーブルや椅子が、カタカタと動きだしたのだ。

 それは、小さな振動だった。それでも徐々に大きくなって、体が感じるほどの揺れへと変わった。


「地震だと!」

「拙い! テーブルの下へ!」

「急げ!」


 小屋の中にいる者が全員、テーブルの下へ潜り込んだ。

 フォルトは、先に潜り込んだソフィアとベルナティオの背中へ覆いかぶさった。元勇者チームの三人とオダルも、頭を抱えながら潜り込んだ。

 そして、数分後、何事もなく揺れが収まったのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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