第401話 収束する脅威1

 元ターラ王国騎士団長ギーファスは、レジスタンスのリーダーである。

 そして、今回のスタンピードを収束させるために編成された混成部隊の現場指揮官も務めていた。フォルトも何度か会っている人物だ。

 信念は「騎士の剣は国民のために」。「騎士の盾も国民のために」。「騎士の命も国民のために」である。

 自身だけでなく他人にも厳しい人物だが、人望や信頼は厚い。


「えぇぇ……」


 そのギーファスが、何者かの手によって殺害された。

 一報をソフィアから聞いたフォルトは、面倒臭そうな表情を、さらにゆがめてしまう。せっかく幽鬼の森へ帰還する準備をしていた矢先の出来事だからだ。


「フォルト様、現状だと出発できないと思われます」

「や、やっぱりソフィアもそう思う?」

「はい。アルバハードとして仲裁した身ですからね」


 レジスタンスとソル帝国の戦闘を仲裁したのはアルバハードであり、領主バグバットの代理として、停戦交渉を委任されたのがフォルトである。

 その片方のトップが殺害されたので、無視はできない。


「だ、だが、帝国が殺したのか?」

「いえ。犯人は分かっていません」

「なら、放っておいてもいいんじゃないか?」

「そうもいかないですね。帝国が手を下したとすれば……」


(だあああぁぁぁっ! もうっ! 確かに帝国が犯人だった場合は、バグバットの面目が丸潰れだ。くそっ、この怒りは何へ発散すれば!)


 フォルトの憤怒が顔を出す。それと同時に、黒いオーラをまとった。

 帰還を邪魔され、あまつさえ、バグバットの顔に泥を塗りそうな出来事だ。犯人へ対しての怒りと共に、やり場のない怒りにも囚われそうだった。

 それを見たベルナティオが、号令を発した。


「おまえたち、今だっ!」

「えへへ」

「ピタ」

「っ!」

「はっ!」

「え、えいっ!」


 ベルナティオの号令の下、小悪魔とおっさん親衛隊が動きだす。

 まずカーミラが、フォルトの背中に抱きついた。それに合わせて、両腕へレイナスとアーシャ。両足へソフィアとセレスと、それぞれの部位へしがみついた。


「………………」

「ちっ。足りないようだな。ちゅ」


 そして、最後に、ベルナティオがフォルトへ口付けした。


「………………。でへ」


 憤怒に囚われそうだったフォルトから、黒いオーラが消えた。

 その後は小刻みに手足を動かして、女性の柔らかさを堪能している。これについては、ほとんど反射に近い状態だ。満員電車でやったら、確実に痴漢と疑われる。

 アーシャからは、「エロオヤジ」と声が聞こえた。


「「おぉ」」


 そして、フェブニスとダークエルフたちから、感嘆の声が漏れた。

 フォルトの黒いオーラを、大婆のオーラと重ね合わせたのかもしれない。「ああやって止めるのか」といった声が聞こえた。

 それらのオーラは、暴食の魔人ポロの魂と色欲の魔人パールの魂である。


「でへでへ。気持ちいい」

「正気に戻ったか。まったく、きさまときたら……」

「んんっ! しかし、凄い連携だな」

「きさまが連携を取れるようにと言ったのではないか」

「連携の意味が違う。あれ? 違わない? でへ」


 フォルトが戦闘を手伝わない理由は、おっさん親衛隊のレベルを上げるため。その他にもチームとして、連携を高めてもらうことも伝えてあった。

 強敵との戦いを想定した話だが、今の連携は息が合っていた。そういった意味で言えば、かなり洗練されている。

 もう、完璧ではなかろうか。


「では、フォルト様も落ちついたところで……」

「う、うむ。ソフィアはどうすればいいと思う?」

「まずは状況を把握して、両者の言い分を聞くことでしょうか」

「ちなみに、現状はどうなってる?」

「混乱していましたね。特にレジスタンスのほうが……」


 ソフィアとベルナティオは、撤収を伝えるために、帝国騎士ザイザルがいる帝国軍の駐留場所へ向かった。

 そして、話を始めたところで、一部のレジスタンスに取り囲まれたのだ。そのときに、ギーファスを殺害したのはソル帝国だと言っていた。とはいえ、物的証拠が無いため、大人数で詰め寄ってきたが正解か。


「ふむふむ。戦闘にはなっていないのだな?」

「はい。ティオ様やレイナスさんが抑えてくれました」


 ソル帝国の騎士団は数が少ない。ほとんどが工兵部隊や補給部隊の非戦闘員だ。数的有利も手伝って、一時は勢いのまま、戦闘へ発展しそうだった。

 それを、ソフィアの護衛として付けたベルナティオが一喝したのだ。さすがに〈剣聖〉の威圧を受けては、彼らも動けなかった。

 レイナスもレベル四十に到達しているので、抑えるのに一役買っている。


「といったわけで、フォルト様を呼びに戻りました」


(絶対に帰るつもりだったが、さすがにこれは無理だな。それにしても、みんなには感謝だ。まあ、どうせ帝都で足止めになるしな)


 落ちついたことで、フォルトの思考に余裕が生まれた。

 幽鬼の森へ早く帰りたいが、数日ぐらいは良いだろう。バグバットの面目だけは、絶対に潰してはいけない。

 ソル帝国へ入れば、帝国軍師テンガイと合流する話になっている。帝都では、宿舎に泊まらされるのだ。

 これも同じく面目があるので、嫌でも受ける必要があった。


「すぐに行ったほうがいいのか?」

「はい。またいつ騒ぎになるか分かりません」

「なら行くか。ソフィアとティオは、一緒に来てくれ」

「はい」

「分かった」

「御主人様、行ってらっしゃあい!」


 他の身内とフェブニス隊を洞窟へ残し、帰還の準備を整えておいてもらう。これについては、やっておいても無駄にならない。

 カーミラも残すが、不測の事態への保険だ。そのあたりはツーカーの間柄なので、笑顔を向けて送り出してくれる。

 そして、フォルトはソフィアとベルナティオを連れて、外へを出た。


「なんだか騒がしいな」


 洞窟の前には、多くの冒険者たちやターラ王国兵がいる。

 何やらザワザワと騒がしいが、もしかしたら、ギーファスが殺害された件を知っているのかもしれない。

 それでも、間引きをやっている最中である。洞窟内へ入っていったり、魔物の死骸を搬出したりと忙しくしている。

 彼らとは話すことが無いので、さっさと拠点へ向かって下山する。


「冒険者たちは混乱してないようだな」

「この場を離れるわけにはいきませんからね」


 これは、管理者がいなくても、仕事が回ることと同じである。

 冒険者には、決められた役割がある。報酬も、冒険者ギルドから支払われる。ギーファスの部下ではないので、いなくても仕事に支障をきたすほどではない。

 ターラ王国兵は新兵が多いが、これも役割を続けているだけに過ぎない。上官の軍務尚書が来ていないので、成り行きを見守ってる状態だ。


「どうなるのだろうな」

「何かしらの手を打たないと拙いでしょうね」

「そうは言っても、俺たちには関係ないしなあ」

「これからの対応次第ですが、フォルト様は大丈夫ですよ」


 形式的には、ターラ王国の軍務尚書が、混成部隊のトップとなっている。

 ギーファスは元騎士団長としての実績があるので、現場指揮を執っていただけに過ぎない。

 そうなると、そちらへ指揮を戻すことになる。


「それならいいけどな」

「到着したら、オダルさんに関係者を集めてもらいましょう」

「誰だっけ?」

「冒険者ギルドマスターです」


 ターラ王国冒険者ギルドマスターのオダル。

 今回のスタンピードでは、半数以上の冒険者が参加している。レジスタンスへ所属している元冒険者も顔見知りのため、まとめ役として同行していた。

 ギーファス亡き今、事態を収拾できる人物だと思われる。


「そのあたりはソフィアへ任せる」

「はい」

「きさま、拠点が見えてきたぞ」


 三人が会話をしながら山を下ると、麓の先に拠点が見えた。

 周囲の魔物は掃討してあり、フレネードの洞窟も蓋をしている。そのため、安全に往来が可能となっている。

 今も多くの人間が行き交っている。報告や休憩を取りに拠点へ戻ったり、間引きをしている者たちと交代するために、洞窟へ向かったり。

 そして、行き違う者たちから、とある会話が聞こえた。その内容に顔をしかめたフォルトは、ゆっくりと拠点へ向かうのであった。



◇◇◇◇◇



 拠点へ到着したフォルトたちは、早速オダルへ依頼を出した。

 関係者を集めてもらう件だが、快く引き受けてくれた。ギルドマスターとしても、現状を放置できないだろう。

 そして三人は、作戦会議で使われる小屋で待つことにした。


「さて、どこへ座るか」

「一番奥でいいと思います」

「恥ずかしいな」

「ふふっ。アルバハードとしての参加ですからね」


 中央には机があり、左右に椅子が並んでいた。一番奥にも並んでいるので、フォルトはソフィアを伴って、そちらに座る。

 ベルナティオは護衛として、斜め後ろに立った。


「ソフィア、ティオ、聞いたか?」

「はい。「聖獣の翼」が全滅したようですね」

「確か……。Aランク冒険者チームだったよな?」

「そう言っていたな」


 フォルトは、「聖獣の翼」と面識があった。

 印象深かったのは、レジスタンスを停戦交渉の場へ引きずり出すときだ。それ以前にも、作戦会議などで顔を合わせていた。

 記憶に残っているのは、薄いピンク色の髪が特徴的な魔法使いの女性だった。特に話すことはなかったが、名前をササラと聞いていた。

 とはいえ、彼女の柔らかそうな二つのモノは、趣味と合致しなかった。なので、顔が可愛かったという印象しか残っていない。

 残念ながら、それ以外の面々は、まったく覚えていなかった。


勿体もったいないな」

「そっ、そうですか?」

「死体が残っていれば欲しいところだ」


 人間の死体は、魔界に住まう魔物の受肉に使える。

 召喚した状態が続くと、魔力が減っていく。しかしながら、受肉すれば、世界に定着して減らなくなる。眷属けんぞくにすれば要らないと聞いたが、長期に渡って使役する場合は必要だった。

 ルーチェに受肉させたのは、その話をカーミラから聞く前だった。とはいえ、本来の姿は、骨と皮だけのデモンズリッチである。

 フォルトからすると、死体を受肉させて、良かったとも言える。やはり、周囲に咲く華は、重要なファクターなのだ。

 可愛い女性の死体は確保したい。


「私には何も言えません」

「すまんすまん。気を悪くしたなら謝る」

「あっ、フォルト様……」


 フォルトは、ソフィアの頭を優しくでた。

 人間の尊厳を気にしているのは分かっているが、そういった常識や倫理観については、答えを出していた。

 だからと言って、彼女を否定するつもりはない。


「まあ、ゾンビになるよりはマシではないか?」

「ティオ様?」


 ベルナティオは身内にしたときから、堕落の種が芽吹いている。

 そういったことには、関心が無くなっていた。


「バグバットもやってることだしな」

「確かにそうですが……。もぅ!」

「ははっ」


 これも、弱肉強食を表したものだ。

 真祖のバグバットに血を吸われると、吸血鬼化して眷属になる。その対象となるのは、生きた人間や亜人種だった。

 フォルトからすれば、生死の差だけだと思っている。またソフィアも、こちらの世界の住人なのだ。理解はしているので否定しない。

 それに、押し付けてもこない。


「きさま、誰か来たようだぞ」

「集まってきたか」


 そして、時間も進み、三十代前半の屈強そうな帝国騎士が入ってきた。

 帝国軍の部隊を指揮しているザイザルだ。他にも六人の護衛を連れてきた。これらも騎士階級の者たちで、用心深さがうかがえる。


「これはフォルト殿。何やら大変なことが起きましたな」

「まったくだ。もう帰るつもりだったのだがな」

「詳細はまだですが、ソフィア殿から聞いております」


 ソフィアが詳しく話す前に、レジスタンスが取り囲んだのだ。そういった事情のため、帰還するとしか伝えていない。まったくもって迷惑な話である。

 今からでも詳しく話したいところだが、続けてオダルが入ってきた。


「お待たせした。関係者を連れてきましたぞ」


 オダルは垂れ目で鼻が高い中年男性である。体格は中肉中背で、短く切ってある髪は薄い。元冒険者らしく、腕と足の筋肉が太い。

 その彼の連れてきたレジスタンスのうち、一人の女性を見たフォルトは、思わず目を見張った。


「え? ファナシアか?」

「………………。おまえか」


(こ、怖えぇ。別人だと思ったぞ。あんな、すべてを憎むような顔だったか? そう言えば、ギーファスの娘だっけ? なら分からなくもないが……)


 ファナシアの髪は乱れ、眉間にシワを寄せてピリピリしている。

 今にも暴走しそうな感じだ。肉親が殺害されたからなのか、それとも、別の要因があるのかは分からない。かなり、近寄りがたくなっている。

 レジスタンスたちも、腫れ物を触るかのように、少し距離を空けていた。


「レジスタンスとザイザル殿は、向かい合って座ってくれ」

「うむ」

「リーダーを殺したのはソル帝国だろ!」

「「そうだそうだ!」」

「証拠が無いだろ。とにかく座れ!」

「へいへい」


 ザイザルと護衛の騎士は、涼しい顔で席へ座った。

 レジスタンスは不承不承で倣ったが、オダルへは一目置いている。まずは言われたとおりに、全員が椅子へ座った。その数は八人。ギーファスの娘ファナシアと、他の幹部連中である。

 その中には、フォルトの知っている人物も同席していた。彼女と一緒に瓢箪ひょうたんの森で捕虜にした五人のうちの二人で、復讐者ふくしゅうしゃの女性とファナシア大好きおじさんだ。残りの元死刑囚と欲望の塊は来ていない。

 それ以外では、冒険者のリーダーらしき体格の良い戦士が同席していた。


「やれやれね」

「まったく……。戻ってきたらこれだ。どうなっているのだ?」

「アイヤー、俺たちも詳しく聞きてえぜ」


 そして、プロシネン、シルキー、ギルの元勇者チームの面々も参加する。

 彼らは、フレネードの洞窟から戻ってきたばかりで、ギーファス殺害の関係者とは言えない。しかしながら、助言をもらえると期待したオダルが連れてきた。


「三人は私の隣へ座ってくれ」

「いいわよ」


 これで、参加者は全員だ。

 中央の机を挟んで、レジスタンスと帝国騎士たちが向かい合っている。奥には、オダルと元勇者チームの三人。

 そして、フォルトたちローゼンクロイツ家の三人だ。


「ローゼンクロイツ家が、状況の確認をしたいそうだ」

「状況だと? なんでテメエが!」

「「そうだそうだ!」」

「話が進まんから突っかかるな!」


 フォルトからするとさっさと始めてほしいが、いちいちレジスタンスが声を上げてくる。しかしながら、オダルに一喝された。

 さすがは、冒険者ギルドマスターである。冒険者は荒くれ者が多いが、それらをまとめ上げる器量は持っていた。

 彼によって静かになったところで、ソフィアが口を開く。


「アルバハードとして仲裁した手前、状況の確認をさせてください」

「いわれなき疑惑を受けている身。我らにも教えていただきたいですな」


 ソフィアの言葉に、ザイザルが乗っかる。

 ソル帝国としては、皇帝が停戦破りをしたと言われかねない。無実の罪を着せられていると主張して、これを払拭する必要があった。

 ローゼンクロイツ家としては、停戦条約が破られたのかを確認したい。状況が分からないことには判断もできない。

 そして、フォルトとしては、怠惰が顔を出す。


「ふあぁぁあ。面倒だから支配の魔法を使うぞ」

「やっ、やめなさい!」


 フォルトが欠伸をしながらとんでもないことを言い出したところで、シルキーから怒声が飛んだ。

 これには、ビックリしてしまう。


「だ、駄目なのか?」

「それは忌避される魔法です。使用は認めません!」

「忌避?」

「あなたは日本人でしょ? 人の権利と尊厳を踏みにじる気ですか!」

「あ、ああ……」


 これは、フォルトが悪かったか。

 日本人を持ち出されると痛い。民主主義国家の国民として、基本的人権を否定する支配は忌むべきもの。それは、カナダ人やイギリス人でも同じことだ。

 シルキーは、ソフィアと違って否定してくる。


(こっちの世界でも駄目だったな。大婆は自重しろとか言ってたし……。俺には関係ないと思ってるが、こいつらと争ってもなあ。これ以上の面倒事は御免だ)


 こちらの世界では、人権など無いに等しい。

 それでも、支配や魅了の魔法については、国法で重罪となっていた。これは人権というよりも、王族が貴族を縛るためである。もちろん、平民も同様だ。

 そして、フォルトからすると、元勇者チームと事を構えるのは避けたい。関わりたくなかったが、この場に来ているなら仕方ない。

 無難にやり過ごすのが得策だろう。


「分かった、分かった。使うのはやめてやる」

「フォルト様?」

「すまんな、ソフィア。続けてくれ」


 ここはいつもどおり、ソフィアへ任せるほうが良い。そう思ったフォルトは、冷や汗をかきながら、ドッシリと椅子へ座っておく。

 シルキーは、何事も無かったかのように前を向いていた。こちらがアッサリと引いたことで、サッサと引いたのだろう。思いは同じなのかもしれない。

 そんな中、一人の女性が怒鳴ってきた。


「私へやったように、早くやりなさいよ!」

「は?」

「無実と言うなら、魔法を受け入れられるはずよ!」


 なんと、ファナシアがあおってくる。

 今にも暴走しそうな感じだったが、ここで暴走した。確かにフォルトは、四人の捕虜共々、支配の魔法を使ったことがある。

 瓢箪の森へ火を放った犯人を吐かせ、大義名分についての本音を聞き出していたのだ。支配されている間の記憶は残るので、効果を思い出したのだろう。

 だがそれについても、シルキーが許さない。


「貴女もですか。違った場合は責任を取れますか?」

「責任ですって?」

「ええ。謝るだけでは済みませんよ」

「その男には、責任を取ってもらって無いわ!」

「え?」


 フォルトへ飛び火した。

 いや、これは自業自得というものだ。全員が、白い眼を向けてくる。ファナシアの話だけを聞けば、無理やり犯したと思われているだろう。

 それについては否定したいところだ。


「つ、使わんと言っただろ」

「使いなさいよ!」

「ちょ、ちょっとファナシアちゃん!」

「落ち着いて!」


 暴走したファナシアを、レジスタンスの面々が止めに入る。

 このままでは話が一向に進まないばかりか、フォルトかザイザルに飛び掛かりそうな勢いがあった。

 もちろんそれは、〈剣聖〉ベルナティオと〈蒼獅子あおじし〉プロシネンが許さない。血の海にならないまでも、軽くあしらわれる。

 そのうえ、先に手を出したことを責められるのだ。


「ファナシアさん、いい加減にしてください!」

「ソフィア?」

「まずは状況を知らないと、何も判断できませんよ」

「支配の魔法で口を割らせれば分かる話よ!」

「それは、最後の手段ですね」


 珍しく怒鳴ったソフィアが、ファナシアをいさめる。

 まずは捜査活動を行って、容疑者を割り出すのが先だろう。もし支配魔法を使うなら、その人物に対して使うべきである。

 彼女の話には、元勇者チームが同意した。


「ソフィアちゃんが正しいわよ」

「当然だな。まずは状況を聞いてからだ」

「アイヤー、詳しく頼むぜ」

「ちっ」


(ふぅ。ソフィアのおかげで、俺は蚊帳の外へ行けたぞ。ターラ王国へ来てからは大活躍してもらってるし、アレ以外で何かやってあげねば……)


 アレとは、アレである。

 それは身内へ平等にやっているので、別のことで感謝を伝えたくなった。今すぐには無理だろうが、必ずどこかで労るのだ。

 そんなことを考えながら、フォルトは事の成り行きを見守るのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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