第395話 二度目の帰還1

 瓢箪ひょうたんの森に存在する泥男の沼。

 ダークエルフの里から半日ほど離れた場所にあり、普段は誰も近寄らない底なし沼だ。本当に底がないのかと問われても分からない。しかしながら、沼に入った者は、誰一人として浮き上がってこなかった。


「うぅ」


 沼の畔には、肌が黒い女性が立っていた。

 薄い橙色だいだいいろの長いツインテールを揺らしながら、前傾姿勢を取っている。両手には三日月剣を持ち、ゆっくりと胸元でクロスさせていった。

 すると、沼から泥が沸き上がる。


「オォォォ」


 泥は女性の身長より高くなったところで、少しずつ人の形へ変わっていく。

 そして、頭の部分には、目と鼻と口のような空洞ができる。人の形をしているが、人間とは似ても似つかない。

 溶けている人型のゴーレムに見える。まるで泥人形だ。体じゅうの泥は沼へ垂れているが、その形が崩れることはなかった。


「げ、限界よお」

「「オォォォ」」


 泥人形は五体も現れ、ゆっくりと前進してくる。膝まで沼に浸かっているが、何故か沈んでいかない。底なし沼にもかかわらずだ。

 それを見た女性が後ずさる。


「こ、ここで、わたしは死んじゃうのね」



【ヘル・フレイム/地獄の炎】



 女性が声を発した瞬間に、後方から男性の声が聞こえた。

 ハッとして振り向くと、小さな黒い炎が迫ってくる。突然のことだったが避ける必要はなく、ゆらゆらと揺れながら通り過ぎていった。

 目で追いたかったが、ホッとする気配を感じて動けない。それから数秒が数分に思えるほどの時間が過ぎると、後ろから物凄い熱気が襲ってきた。


「「グオォォォオ!」」

「きゃあ!」


 女性は頭を抱えて、その場に座り込んだ。

 恐る恐る後ろを見ると、泥人形が消えている。背中を襲った熱気もなくなり、少しだけ肌寒さを感じた。


「ふははははっ! 黒き一族のレティシアよ、迎えに来たぞ」


 レティシアと呼ばれた女性は、再び声のする方向を見た。

 視線の先には暗い森が広がっているが、木々の間から良く知った人物が現れた。黒いオーラ出し、いわゆる吸血鬼のコスプレのような服を着た小太りの中年男性だ。

 それは、フォルトであった。


「うふふふふ。よくぞ、わたしを見つけたわ。魔人王!」

「いや、魔人は内緒なんだが……」

「さあ、わたしを受け止めてえ!」

「え?」


 レティシアは三日月剣を放り出し、フォルトへ向かって走ってきた。

 両手を前に出しているので、飛びついて首に巻きつく気だろう。しかしながら、上空から何かが降ってきた。


「馬鹿もんがっ!」

「うきゃ!」


 レティシアは何かで殴られたように、頭から地面へ落ちた。

 それを見たフォルトは、地面の泥が跳ねたので後ろへ飛びのく。すると、後ろを飛んでいたカーミラが受け止めてくれた。


「御主人様、危ないですよお」

「なんじゃお主。こんな所まで来おって……」

「大婆か」


 上空から降ってきたのは、魔人パールのオーラをまとった大婆のソシエリーゼだ。レティシアを殴った格好で、フォルトへ顔を向けた。

 殴られたほうは、地面へ突っ伏しながら尻をあげている。ピクピクと体を震わせているので生きてはいるようだ。

 それに合わせて、近くの木の影からキャロルが走ってきた。


「御嬢様!」

「きゅう」

「キャロルも久しぶりだな」

「あ、フォルト様! お久しぶりです!」

「レティシアは大丈夫なのか?」

「はい! いつものことですので……」

「………………」

「御嬢様! いま治療を……」

「カーミラも見といてあげて」

「はあい!」


 キャロルはレティシア抱えて、泥の無い木々の近くへ連れていった。もちろん一緒に行きたかったが、大婆が近づいてきた。

 とりあえず、カーミラにも彼女の介抱をしてもらう。


「こんな所で何をやってたんだ?」

「試練じゃの」

「試練?」

「うむ。百人抜き試練じゃ!」


 泥人形は、マッドマンと呼ばれる泥男という魔物だ。

 泥なので、普通に斬っても倒せない。斬っても斬っても、地面から吸い上げる泥で再生してしまうのだ。しかも、魔法や魔法の武器でも倒すのは困難である。

 これを倒すには、核となっている小さな本体を倒す必要がある。だがそれは、体の中を、頻繁に移動していた。


「倒すには、核を見極める目が必要じゃ」

「ほうほう。じゃあ、俺は倒せなかったのか?」

「お主はすべてを焼き尽くしたからのう。再生しておらぬじゃろ?」

「なるほど」


 フォルトが放った地獄の炎は、本体ごと倒したようだ。

 普通の炎であれば、表面をこんがりと焼くだけになる。ルリシオンの弾ける火弾でも駄目だろう。爆破された部分を再生されてしまう。

 マクスウェル種の熱量なら平気かもしれないが……。


「スタンピードはどうじゃ?」

「洞窟の間引きを始めてるところだな」


 フォルトは大婆へ、現状を話す。

 すでにフレネードの洞窟の間引きを始めており、中から魔物は湧き出てこない。とはいえ、スタンピードの元凶は対処していない。現在は元勇者チームが先行して、洞窟を進んでいる。

 後は時間の問題だと思われた。


「なるほどのう。もうすぐ収束じゃな」

「俺たちはやることがなくなってきた」

「ならば、フェブニスたちも戻ってこれるのう」

「まあ、幽鬼の森へ帰ってからになるけどな」

「ふむ」

「レティシアを連れていっていいか?」


 フォルトからすれば、もうレティシアを連れていきたい。それでも、スタンピードが収束して帰るときと言われていた。

 この試練をやるためだろう。


「試練は終わっておらぬ。まだ八十匹も残っとるのじゃ」


 大婆は、近くに置いてある籠を顎でしゃくる。

 その中には、泥男の核となる小さな昆虫型の魔物が入っている。大きさはテントウムシ程度で、沼へ投げ入れると泥男になるらしい。


「そこをなんとか……」

「まあいいじゃろ」

「おっ! うれしいが、いいのか?」

「暇潰しでやっておっただけじゃ」

「は?」

「だはははははっ! 当初の試練は終わっとるわい!」

「そっ、そういったところが、怖がられる原因だと思うぞ」


 フォルトの顔が引きつる。

 レティシアの限界突破を終わらせることが、当初の試練だったらしい。その後は大婆が自ら、レベル上げを手伝っていたそうだ。

 この百人抜き試練も同じである。老人の暇潰しで、大変な試練を受けていた。きっと、いや確実に、この理不尽さが怖がられている原因だろう。


「では、お言葉に甘えて連れていこう」

「なんじゃ、もう行くのかの?」

「うむ。他の身内が待ってるからな」

「ならば仕方ないのう。戻ってくるのは何時じゃ?」

「四日後の夜かな? 数時間もあれば着くし……」


 瓢箪の森へ滞在する気はないので、さっさと幽鬼の森へ戻るつもりだ。

 ほんの一カ月程度で終わらせるつもりが、すでに二カ月が経過している。当初の見積もりが甘かったようだ。

 それでも、おっさん親衛隊のレベル上げは順調だった。転移の術式も目途が立っている。あまり自堕落をやれていないが、なかなか有意義な旅になっていた。

 そして、フォルトは大婆と一緒に、レティシアとキャロルの所へ行く。


「キャロル、行くぞ」

「え? もう行かれるのですか?」

「うむ。何か持っていくものはあるか?」

「大抵のものは袋に入っています。着替えぐらいでしょうか」

「それぐらいならあっちにある」

「なら大丈夫です」

「カーミラはキャロルを抱えていけ」

「はあい!」


 レティシアはまだ伸びているが、キャロルは出発の準備を始めた。

 生活に入用なものは、幽鬼の森にある。着替えなど必要ない。それに専用の服は、リリエラが用意して戻っているはずだ。

 キャロルの分はまた用意するとして、当面は適当な服を渡せば良い。


(でへ。レティシア専用の服が楽しみだ。キャロルの分は、フィロと同じでいいかもしれんな。コルチナに増産させるとして……。おっとそうだった)


 フォルトはレティシアを見ながらほほを緩ませたところで、とある話を思い出した。今のうちに聞いておくべきだろう。


「なあ大婆、精霊界への行き方って分かるか?」

「精霊界じゃと?」

「レイナスの限界突破でな」


 レイナスが受けたレベル四十の限界突破は、精霊界へ赴いて、氷狼ひょうろうの祝福を受けること。しかしながら、その精霊界への行き方が分からない。

 セレスは、大婆なら知っている可能性があると言っていた。


「妖精の手伝いが必要じゃの」

「いるんだ……」


 妖精とは、人間と同じ形状をした生物である。

 透き通った羽と小さな体が特徴的だ。大きさは、手のひらサイズで小さい。普段は妖精界に存在するが、物質界で生活している妖精もいる。

 それらは自然豊かな場所を好み、人前に現れることは滅多にない。


「昔は瓢箪の森に住んでいたのじゃがの」

「今はいないのか?」

「うむ。気まぐれじゃから、適当な地を見つけては移動しておるの」

「場所は分かる?」

「残念じゃがの。またフラっと戻るかもしれぬ」

「それは困った」


(妖精は召喚できるリストに無いからなあ。探すしかないのか。何か手掛かりが欲しい。セレスも忘れてただけかもしれないし、他に聞ける奴らも……)


 セレスは、妖精のことを言い出さなかった。とはいえ、若いエルフなので、精霊界へ行くのに必要だと知らなかった可能性があった。

 フォルトが聞ける相手としては、バグバット、グリム、クローディアが候補に上がる。大穴だと、放浪癖があるガルド王か。


「まあ、色々と聞いてみる」

「そうじゃな」


 もう大婆へ聞く話はない。

 出発する気満々のフォルトは、視線を逸らしてレティシアを見る。すると、キャロルが立ちあがっていた。


「準備できたか?」

「はい。いつでも大丈夫です」

「レティシアは……」

「きゅう」


 まだレティシアは伸びていたが、フォルトが抱え上げる。それに合わせてカーミラが、キャロルを抱え上げた。

 空を飛ぶことは話してあるようだ。


「では大婆よ。またな」

「うむ。バレぬようにな」

「ははっ、それは慣れてる」


 大婆へ挨拶をしたフォルトは、『変化へんげ』で翼を出して、空へ飛びあがる。いつもの弾道ミサイルのようなスピードだ。後ろを見ると、カーミラが追いかけてくる。

 そして、大地に目を向け、瓢箪の形をした森を見るのだった。



◇◇◇◇◇



 幽鬼の森へ戻ったフォルトたちは、フェリアスへ行っていた身内と合流した。

 レティシアは、空の上で目を覚ましている。お約束のような厨二病ちゅうにびょう発言をして、アクロバティックな飛行をさせられた。


「うふふふふ。ここが、魔人王の居城ね!」

「だから、魔人とは隠しているのだ」

「えー。なら何にする?」

「い、いずれアーシャと決めてくれ」

「分かったわ!」


 フォルトの屋敷は、お化け屋敷のような外観である。

 レティシアの琴線に触れまくっていた。闇に生きるという設定の下、キャッキャとはしゃいでいる。

 付き合わされているキャロルが、哀れに思えた。


「ふーん。あの騒がしいのが、ダークエルフ族のレティシアね」


 フォルトはカーミラと一緒にテラスへ移動して、いつもの自分専用椅子へ座る。

 同じテーブルには、マリアンデールとリリエラがいる。ルリシオンはシェラとフィロを連れて、調理場へ入っていた。


「身内にしたから、よろしくやってくれ」

「ふふっ。それは構わないけどね」

「そっちはどうだった?」


 フォルトはフェリアスでの報告を、マリアンデールへ求めた。

 適当に暇を潰していたようで、ガルド王からの依頼を果たしたそうだ。ドワーフの調査隊を鉱山へ送り届け、何事もなく帰ってきた。シェラはレベルを上げており、現在は三十八になっている。

 リリエラはフィロと戦闘訓練を積んでいるが、レベルはほとんど上がっていない。苦無や忍者刀を、多少扱えるようになった程度だ。


「危険はなかったようだな」

「それよりも、そっちはどうなのよ?」

「ほぼ終わりだな。もう一回戻るけど、すぐに帰ってくる」

「そう。なら、森で待っていたほうがいいわね」


 三日ほど彼女たちを貪って、フレネードの洞窟へ戻る。

 それから、すぐに帰るつもりなのだ。帰りは馬車で移動することになるので、半月を見ておけば良いだろう。

 フォルトとしては、空を飛んで帰りたい。だがそれをやると、外交上、バグバットの面目を潰してしまう。ソル帝国の領内では、監視と護衛を受け入れている。

 今回のような一時的な帰還なら、クウと入れ替わっても問題ない。しかしながら、おっさん親衛隊だけで、帝都に宿泊もないだろう。

 一緒に馬車で帰れば良いだけである。


「面倒臭いけど……」

「だいぶ頑張ってるじゃない」

「まあな」

「レベル上げはうまくいったようね」

「ははっ。微調整は必要だがな」

「十分よ。後はシェラと一緒に、北の平原を使えばいいわ」

「だな」


 アーシャのレベルは三十七で、ソフィアは三十六。セレスは確認していないが、もう四十になるだろう。

 どうせなら、全員まとめて限界突破作業へ入りたい。バラバラだと、まったく休めないことになるだろう。神託の内容によっては、分担作業にしても良い。

 そう思ったところで、フォルトはマリアンデールに、妖精のことを聞く。


「マリ、妖精って見たことある?」

「ないわ」

「即答か。知ってる奴に心当たりは?」

「エルフかドワーフじゃない?」

「そっか」

「貴方が出発したら、ガルドへ手紙を出しといてあげるわ」

「それは助かる。戻る前に、バグバットに会うから……」


 ガルド王には、マリアンデールからの手紙で十分だ。同時にバグバットから、エルフ族のクローディアへ手紙を出しておいてもらえば良いだろう。

 それに満足したフォルトは、リリエラへ視線を向ける。


「リリエラよ。服は完成したか?」

「完成してるっすよ」

「おっ! じゃあ、レティシアへ渡すとして……」

「フィロには渡してあるっす」

「もう着てるのか?」

「まだっすね。何も言わないと着ないと思うっす」

「なら、全員が戻ってから着させよう」


(レティシアは今すぐ着させるとして、フィロは全員がそろってからだな。アーシャも見たいはずだ。ティオもビックリするだろうしな)


 フォルトは、フィロ用の服を思い浮かべる。

 特に凝ってるデザインではないが、アーシャは期待しているだろう。それに、ベルナティオの友人だ。

 ならば、後回しにしたほうが楽しみが増える。


「御主人様、レティシアは着せちゃいますかあ?」

「もちろんだ! でへ」

「じゃあじゃあ。連れてきますねえ」

「頼む」


 さすがはカーミラだ。フォルトの考えを読んでいる。

 レティシアはキャロルと一緒に、敷地内のどこかへ消えていた。とはいえ、見るべき場所は、聖なる泉ぐらいだ。

 そこへ向かえば見つけられるだろう。


「リリエラは、個人部屋を教えて服を渡しておけ」

「分かったっす!」


 フォルトの屋敷は、幽鬼の森でも双竜山の森でも、部屋が余りまくっている。

 レティシアはキャロルと同室を希望するだろうが、個人部屋として、一部屋を充てがっておく。きっと喜んでくれるだろう。

 そして、リリエラは屋敷の入口へ向かっていった。


「なんだか、色々と様になってきたわね」

「そうか? おっさんでも成長してるのかね?」

「ふふっ。頼もしいわよ」

「マリからそう言われると照れるな」

「今日はレティシアの相手をするのでしょ?」

「ああ。明日はマリとルリで、明後日はリリエラとシェラだ」

「はぁ……。色欲は相変わらずだわ」

「これは変わらない。成分の補充だ」


 相変わらずのフォルトだが、これだけのために、カーミラと戻ってきた。おっさんには、温もりが必要なのだ。

 そして、屋敷の中からは、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。


「腹が減ったな」

「そろそろ出来上がってると思うわ」

「んじゃ、食堂へ行くか」


 フォルトが腹を擦りながら空を見上げると、太陽が沈むところだった。

 どうやら、夕食の時間になったようだ。マリアンデールを連れて食堂へ向かうと、フィロがせっせと料理を運んでいた。

 テーブルの上には、今まで見たこともない料理が並べられている。ルリシオンも、料理の腕を上げていた。


「フォルトぉ。お待ちどうさまあ」

「旨そうだ。そして待ちきれん」

「あはっ! これでも食べてなさあい」

「むぐっ!」


 ルリシオンが調理場から出てきて、フォルトの口へ、食前肉を大雑把に入れた。これを食べている間に、料理を運ぶのを終わらせる。

 シェラもワインを持ってきて、木で作ったコップへ注いでくれた。


「シェラ、カーミラたちを呼んできてくれ」

「はい、魔人様」


 すでに、レティシアの着替えは終わっているだろう。

 フォルトは肉をみちぎる。それから椅子をまたいで、体ごと反対側へ向いた。とても行儀が悪いが、食堂の入口を凝視する。

 すると、肌も露わな黒き一族の女性が入ってきた。


「うひょ!」

「うふふふふ。わたしの本来の姿を見て平伏するがいいわ!」

「へへぇ!」


 フォルトはレティシアに言われるがまま、背もたれに腕を置いて頭を下げる。

 肌も露わというように、ハッキリ言って、水着のようなものだった。ビキニとスイムウェアを足して割ったような感じである。

 ワインレッドと橙色を基調としたブラは、小さな胸を隠している。バックベルトは腰へ向かって、パンツと一体となっていた。

 胸から股間の際どいところまでは、菱形ひしがたに開いている。おへそが丸出しだ。もちろん、背中も丸出しである。

 肩にはふっくらとしたアームカバーを付けていた。


(いいじゃないか、いいじゃないか!)


 足はガーター付きのニーハイストッキングで、靴は厚底のショートブーツだ。

 付属品として、腰へ巻くドレスのスカートのようなものを付けていた。しかしながら、前は開いており、パンツを隠せていない。


「なんか、余計なものが付いてるような?」

「うふふふふ。だから、本来の姿なのよ!」

「そっ、そうか……」


 そして、腰には漆黒の翼が付いている。

 生えているのではなく、付けているのだ。頭にも角を付けており、コスプレ感が満載だった。最初に出会ったときも付けていたが、翼は当時より凝っている。

 鳥の羽でも使ったのだろう。蝙蝠こうもりのような翼ではなくて、からすのような翼に見える。何気に、手先が器用なのかもしれない。

 服をなんと呼称すれば良いか迷っていたが、エロ悪魔セット弐式と名付けた。ちなみに初代は、カーミラの服だ。


(それにしても、裁縫技術は高いんだな。コルチナだからか? でも、ルリだってストッキングだしなあ。一般的なデザインはアレだが……)


 こういった裁縫技術は、エウィ王国から流れている。

 勇者召喚で呼び出した異世界人の持ち物を、参考にしているのだ。基本的には機密情報だが、既得権益を獲得した後には流している。

 魔法的な素材を使った独自の裁縫技術もある関係で、模倣も可能だと推察する。それでも、製作者は限られるだろう。

 高級品になるので、一般に出回っているのは、こちらの世界独自のものだ。


「駄嬢様! そんな服は早く脱いでください!」

「駄嬢様じゃなあい! もう脱ぐ気はないわよ?」

「大婆様へ何と言えば……」

「あっ、ご飯ができてるわ! 隣へ座るね!」

「でへ」


 話を変えるのが得意なレティシアは、フォルトの隣へ座ってきた。

 いつもはカーミラが座る場所だが、今回は譲ったようだ。椅子を持ってきて、反対側へ座っている。これには、「できた女房」といった言葉を思い出す。

 キャロルは斜め前の席だ。なぜそこかは決まっている。


「キャロル、食べさせて!」

「はいはい」

「あーん!」

「「はぁ……」」


 キャロルがいないと、何もできないのがレティシアだ。

 その光景を見ている他の身内は、フォルトを見て溜息ためいきを吐いた。同類だと思ったのだろう。

 彼女も今までにいなかったタイプの女性だが、自堕落人間が増えたとでも言いたげだった。人間ではなく、魔人とダークエルフだが……。

 そして、騒がしい食事を始めるのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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