第394話 姉妹の暇潰しと勇者候補の進む道3

※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、ソフィアが追加されています。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220999346801/episodes/16816927862577193579

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 蜥蜴とかげ人族。

 河原や湿地帯に集落を持つリザードマンだ。直立した蜥蜴で二足歩行をするが、人間とは似ても似つかない。

 フェリアスでは人馬族が抜けて五大部族となっており、その一翼を担っている。エウィ語を話せるが、聞き取りづらく片言だけだ。

 ノーナの話だと、主食は魚である。近年は不漁のため、人間の養殖技術に期待しているそうだ。

 熱烈とまではいかないが、それなりに歓迎されている。


「ボクにはキツイわ」


 シュン率いる勇者候補チームは、ノーナたちの水質調査隊と一緒に、蜥蜴人族の集落へ訪れていた。

 ここへ来る前にガンジブル神殿へ向かいたかったが、有翼人の神翼兵団団長ホルンと隊員のミリオンに止められた。

 その二人は、彼らが集落へ入ったのを確認してから帰っていった。それでも時折空を見ると、他の有翼人が飛んでいる。

 警戒されてるのだろう。


「俺もだ」


 シュンとアルディスは、集落を散歩している。

 ノーナたち研究員の護衛は、エウィ王国兵がやっている。契約上は道中の護衛だけにしたので、暇になっていたのだ。


「帰っていいかしら?」

「アルディスの気持ちは分かるぜ。俺も帰りたくなった」


 蜥蜴人族の文化は原始的で、家は三角形に組み立てた丸木に、草や大きな葉を乗せているだけだった。

 蜥蜴らしく、水分を含んだ地面で寝ても苦にならないようだ。ひるなどといった気持ちの悪い虫も、硬く厚い皮膚のおかげで被害はないらしい。

 獣人族の集落は人間の開拓村に近いが、ここまで酷くない。


「休める場所は、水の上にあるけどさあ」

「湿気と臭いだな。地面はぬかるんでるしよ」

「「はぁ……」」


(来客用の小屋があるだけマシか。でも寝苦しいし、こんな場所にいたら発狂しちまうぜ。まだ森の中で野営してたほうがいい)


 シュンとアルディスは、同時に溜息ためいきを吐く。

 他種族用の小屋を提供されたが、やはり快適とは程遠い。日本にいた頃に見たような川辺の家と近いが、造りは雑過ぎる。

 何本もの丸太を地面へ打ち込んで、小屋を置いただけだ。天井は草葉ではなく丸木だが、雨が降れば絶対に雨漏りするだろう。


「まあ帰るのは冗談だが、どうやって神殿に向かうかだな」

「立入禁止って知ってたら来てないわよ」

「まあな。でも、来ちまったしよ。見つからなきゃ平気さ」

「警戒されたんじゃない?」

「それが悩みの種だな」


 シュンは立入禁止の話を伝えていない。

 俺も知らなかったと誤魔化ごまかしている。近くに来てしまえば、後はどうとでもなるのだ。現に他のメンバーも文句を言っているが、ガンジブル神殿へ向かうことは反対されていない。


「あら。シュン様とアルディス様」


 シュンとアルディスが歩いていると、ノーナが声を掛けてきた。この集落の族長を交えて会議をしていたはずだが、どうやら終わったようだ。

 すでに集落へ来て二日ほど経過しており、研究員たちは水質調査を続けていた。その結果を踏まえた会議だったが、表情を見るかぎり、悪い結果かもしれない。


「やあ、ノーナさん。調査結果が出たって聞いたぜ」

「ええ。あまり良い結果ではなかったですわ」

「俺にはサッパリ分からないけどな。どんな結果だったんだ?」

「毒ですね」

「は?」


 不漁との因果関係は不明だが、魚を養殖するうえで、水質に問題があった。

 それは、毒である。人間や蜥蜴人族に害があるほどではないが、魚などには有害らしい。よって、養殖で使う水源が無いといった話だった。


「極微量ですが、養殖には使えませんね」

「へえ。なら移動するのか?」

「いえ。暫くはこの集落に滞在しますわ」

「あれ? 移動しないのか」

「水源が同じですから、他で調査しても同じ結果になりますね」


 周囲の川はルイーズ川から分かれた支川で、他の二カ所も同じだ。

 よって、原因についての対応を考えるらしい。


「えー。勘弁してよ」

「アルディス」

「だってさあ」

「すまねえな。ノーナさん」

「いえ。私も気持ちは同じですわ」


(男でもキツイ場所だ。女には無理があるぜ。だが、この集落に留まるのはラッキーだな。ガンジブル神殿へ向かう時間ができたってことだ)


 嫌と思っていても、集落に留まることは決定のようだ。

 ノーナは研究員だが平民なので、ポトフ男爵からの帰還命令がないと戻れない。伝令を出すそうだが、もともと一カ月程度の仕事で、その往復も時間がかかる。もし帰還命令が出たとしても、大して短縮にはならないだろう。

 それにシュンは、探索日数について考えていた。他の集落へ移動するときに戻らないつもりだったのだ。

 迷惑がかかるのは分かっていたので、この話は好都合だった。


「俺は口出しできねえしな」

「はい。王家直属の機関ですので……」

「んで、原因は分かってるのか?」

「蛇が持つような毒でしたわ」

「蛇?」

「族長はヒドラと言っていましたわね」

「ヒドラだと!」


 ルイーズ山脈の周辺には、ヒドラの巣が存在する。そこは毒の沼地になっており、川へ流れ出た可能性が高い。

 極微量との話なので、水で薄められたのだろう。なので、現在は害がない。しかしながら、このまま放置するのは危険だ。

 長期に渡れば、生態系や環境に影響を及ぼすと思われる。


「んじゃ、この辺の食べ物は食えねえのか?」

「人体に影響するほどの量ではないですわよ」

「でもなあ」

「気になるのでしたら、神官様に浄化をお願いすれば大丈夫ですわ」

「おっ! ラキシスに頼めばいいってことだな」

「はい」

「ならよ。養殖場も浄化すりゃいいんじゃね?」

「いえ……。無理でしょう」


 シュンの適当な思いつきなど、こんなものだ。

 儀式魔法でもないかぎり、広範囲に浄化するのは不可能である。それに、毎日食するものだ。

 個別でやっていたら、司祭や神官は倒れてしまう。


「ヒドラを倒すしかなさそうだな」

「族長もそう仰っておりました。ですが……」


 ヒドラなど、そうそう倒せる魔物ではない。

 推奨討伐レベルは、四十から五十以上だ。首の数で強さは変わるが、巣には何体も棲息せいそくしているだろう。

 蜥蜴人族だけで、どうにかなる問題ではなかった。


「エルフ族へ相談するとの話でしたわ」

「エルフ族ねえ」

「フェリアスの盟主ですからね」

「俺らには関係ないんだろ?」

「そうですわね。結果を持って帰るだけになるでしょう」

「分かった」


 ノーナは、一礼して離れていった。

 体の関係を持った間柄だが、それをまったく感じさせない女性だ。完全に遊びと割り切られているようだった。

 シュンにとっては、望ましい女性である。


「シュン?」

「なんだ」

「もしかして、ヒドラと戦うの?」


 シュンたちにとって、ヒドラは未知の魔物である。

 日本の伝承やゲームでの知識は多少あるが、同じ魔物かどうかは分からない。それでも、ノーナの話から察すると似ている。

 魔物については、ノックスに聞いたほうが良いだろう。


「レベルを上げるのも目的だからよ」

「そうね。ギッシュの反応が目に浮かぶわ」

「違えねえ。まあ、ノックスや蜥蜴人族に聞いてからだな」

「危険は避けてね!」

「エレーヌか?」

「そうよ」


 エレーヌは、戦い自体を怖がっている。アルディスは彼女を親友や友達と思っているので、その気持ちに応えていた。

 もちろんシュンは、それについて理解している。しかしながら、事あるごとに言われて鬱陶しくなる。


(俺は地位を手に入れている。ノーナなんかひざまずいてたしな。女なんて選び放題かもしれねえなあ。エレーヌは勿体もったいねえが、あまりうるせえのは御免だぜ)


 ホスト時代のシュンは、鬱陶しくなった時点で女性を捨てる。そろそろエレーヌを捨てても良いかもしれない。


「そうだな。危険は避けるさ」

「うん!」


 エレーヌの気持ちが離れているように、シュンの気持ちも離れ始めた。いや、そもそも体だけが目的だった。アルディスにしても、ラキシスにしても同じだ。

 それでもチームを組んでいるので、すぐに捨てることはできない。皆に自身の不貞を知られたくない。

 特にアルディスに知られれば、別れ話へ発展する可能性がある。まだ別れるつもりはないのだ。


「まあ戻ってからだな」

「そうね。ヒドラの件を教えないとね」


 当然のことだが、シュンの内心をアルディスは知らない。

 今はヒドラのことなどどうでも良い。勇者級も目指しているので、強い魔物と戦うのはやぶさかではない。

 もちろん死なない程度でだが……。


(そっちじゃねえんだけどな)


 それよりも、他に考えることができた。

 ガンジブル神殿へ向かう方法は当然として、エウィ王国へ帰った後のことだ。日本にいた頃と同様に、女性関係の整理について考える。

 そんな内心を隠したシュンは、アルディスと手をつないだ。それから仲間がいる小屋へ、ゆっくりと戻っていくのであった。



◇◇◇◇◇



 シェラはマリアンデールやルリシオンと一緒に、ガルド王の依頼で、ドワーフの鉱山調査隊の護衛を請け負った。

 先代王が目を付けていたという鉱山は、集落から北西に存在するという話だ。その近くには、ヒドラが巣を作っているらしい。

 自身のレベル上げも兼ねているので、気合が入ろうというものだ。


「シェラ! そっちへ行ったわよ!」


 原生林の奥地から、マリアンデールの声が聞こえた。

 シェラの魔力感知には、数匹の何かが近づいているのを確認した。


「土の精霊ノームよ!」



【アース・ホール/大地の穴】



 シェラは何かが飛び出した瞬間を狙って、ノームをでながら精霊魔法を使う。寄せてあげている胸の谷間から、チョコンと上半身が出ていた。

 ノームとは、手のひらサイズで小人のような土の精霊だ。小太りの男性のような姿をしているので、とても気に入っている。

 そして、魔法の効果で、視線の先にはポッカリと地面へ穴が空く。すると、そこへ三つの何かが突っ込んできて落ちた。


「シェラ、どうかしら?」

「ふふっ。確保ですわ」


 穴に何かを落とした後、マリアンデールが、木の上から飛び降りてきた。

 彼女には、シェラが何をやるかを伝えていない。とはいえ、ここ数日は、同じようなことをやっている。さすがに、穴へ落ちるほど間抜けではない。

 そして、二人は、地面へ空いた穴をのぞき込んだ。


「おおっ! 今日も大量じゃのう」

「まったくじゃ。いつも悪いのう」


 そこへ、護衛対象のドワーフたちが近づいてくる。

 穴の中では、三匹のボアが、岩に突き刺さっていた。間隔を開けて飛び出た鋭い岩に、頭や腹を貫かれて絶命している。


「私としては、人間を追い込みたいわ」

「マリ様なら、その場で殺してしまわれるのでは?」

「遊びよ遊び。あいつも色々と遊んでるしね」

「ふふっ。まじ……。旦那様は楽しそうですわ」


 シェラは、遠い国で遊んでいるフォルトを想像して、笑みを浮かべる。

 今頃は人間の実験体を使って、転移魔法の完成を目指している眷属けんぞくたちと遊んでいるだろう。

 それともおっさん親衛隊を侍らせて、でへでへとニヤけているか。


「ではドワーフの皆さま。解体をお願いしますわ」


 ノームのほほを撫でたシェラは、穴の底を隆起させる。

 するとドワーフたちは、岩に突き刺さっているボアの解体を始めた。これは、今日の晩飯になるのだ。

 血が流れ出しているので、血抜きの時間は短縮される。後は皮をいで、肉を切り出すだけだ。

 解体に参加しないドワーフは、野営の準備に入っていた。


「もうすぐ到着ですわよね?」

「あそこに見えるとがった山じゃな」


 ドワーフが指を差した先には、山頂が尖ったように見える山が見える。

 シェラと姉妹だけなら、すぐに到着できる。しかしながら、ドワーフを引き連れているので、もう一日は必要だろう。

 それに魔物の数が増えたようで、何度か襲撃を受けている。


「あの鉱山を今まで使わなかったのは、ヒドラのせいですか?」

「いんや。岩窟族の縄張りだった」

「だった?」

「うむ。どうやら住処を変えたようでな。いなくなったのじゃ」


 岩窟族は、岩石地帯や山岳部に住む亜人種だ。

 その姿は、岩ような硬い皮膚で覆われ、キラーエイプに似ている。それでも魔物ではなく、言語を理解して、独自の文化を持つ。

 亜人なのでフェリアスの住人になるが、蜥蜴人族と違って好戦的だ。そのため、主要な種族として認識されていない。


「一人もいないのですか?」

「きれいサッパリじゃな」

「荒らされたりは?」

「そういった報告はないの。いなくなって清々するわい」

「仲が悪いのですか?」

「そうじゃな。奴らは石を食うからのう」

「希少な鉱石まで食わせられんわ!」

「まあ、奴らじゃ掘れんじゃろ」

「それでも、鉄ぐらいは食ってるぞ」

「今のうちに確保じゃな」

「「ワハハハハハッ!」」


 希少な鉱石は地中の奥深くに眠っているため、岩窟族では掘り出せない。それらは手付かずだが、地表に近い部分の鉱石は食べられている。

 それらは、加工すれば商品になるのだ。ドワーフ族からすれば、どこかへ行ってもらって清々している。

 目指す鉱山を手中に収める好機と思っているようだ。


「マリ様、ルリ様」


 シェラはドワーフから離れて、マリアンデールとルリシオンへ声を掛ける。

 に落ちない部分があったからだ。


「ヒドラに襲われたのかしらね」

「で、あれば危険ですが……」

「私たちなら余裕だけどお。違う気がするわあ」


 ヒドラや他の魔物に襲われたなら、その痕跡が残るだろう。とはいえ、そういった話は出てこなかった。

 ならば、他に理由があると思われる。


「シェラは心配性ね。行けば分かるわ」

「そうですが……。ルリ様」

「何かしらあ?」

「確か……。北に魔族の集落があると仰っていましたよね?」

「私が殺した人馬族が言ってたわねえ」

「ふふっ。パパがいそうって話だったかしら?」


 フェリアスの北には、魔道国家ゼノリスの跡地がある。

 そこには、魔族が隠れ住んでいる集落があるらしい。統率しているのは、姉妹の父親であるジュノバかもしれない。


「人馬族を傘下へ収めて、岩窟族もかしらねえ」

「なら面白いことでも始めそうだわ」

「面白いことですか?」

「ふふっ。戦争よ」

「えっ!」


 シェラは驚いた。

 確かにジュノバが生きていれば、祖国奪還と復興を目指すと思われる。しかしながら、戦争まで発展するほどの人数が集まっているとは思えない。

 それに、旗頭が不在だ。あの人物の性格からして、魔族を統べようと思っていないだろう。統治の責任を魔王スカーレットに押し付け、その下で力を振るうといった二番手が好きだった人物だった。

 父親の性格は、姉妹も分かっている。


「あのマザコンが生きていたのかしら?」

「パパが生きていたなら、可能性は高いわねえ」

「確認しますか?」

「するわけないじゃなあい」

「戦争は面白そうだけど、あいつから離れたくないしね」

「ですが……」


 フォルトと離れたくないのは同意だ。

 それでもシェラは、魔族の聖母と呼ばれていた暗黒神デュールの司祭だった。現在は堕落の種を食べて信仰系魔法が使えないとしても、魔族の身を案じている。

 少ない人数で戦争を起こすと、多大な犠牲が出るだろう。もし負ければ、また散りぢりになって逃げ出すことになる。


「シェラは逃亡中も、魔族を助けていたと言ってたわね」

「はい。あまり見つけられませんでしたが……」

「前にも言ったけど、もう十分よ。もうすぐ悪魔に変わるしね」

「そうでした」


 シェラの限界突破も近い。

 堕落の種が芽吹き、姉妹やベルナティオのように悪魔となる。司祭ではなくなったので、暗黒神デュールの教えも気にする必要はない。

 それに今は、「暗黒神の定める自由」ではない自由を手に入れている。今後は、気が向いたときに助ければ良いだろう。


「おーい! 調理をお願いしてもいいかね?」

「いいわよお」


 そこまで話したところで、ルリシオンがドワーフに呼ばれる。

 移動中は本格的な調理ができないので、簡単に調理できる鍋にしていた。具材は原生林なので困らない。野菜関係は、野草を使っている。

 もちろん荷物になるので、移動中に採らせていた。


「いやはや。我らだけでは、こうも旨い飯を食えん」

「そうじゃそうじゃ。助かるのう」

「酒を飲めんのが苦痛じゃな」

「言うな。酔っぱらって、魔物の腹に収まりたくないわい」

「飯の礼は帰ったらじゃな」

「おう! 酒をたらふく飲ませてやるぞ!」

「「ワハハハハハッ!」」


 陽気なドワーフたちは、危険な原生林の中でも同様だった。

 それにはシェラも、笑みを浮かべてしまう。フォルトと出会うまでは、悲痛な面持ちで、魔族狩りから逃げていた。

 きっと彼らは、同じような目に遭っても変わらないだろう。


「地質調査は時間がかかるのですか?」

「いんや。魔法を使うから、そこまで時間はかからん」

「三日もあれば済むのう」

「嬢ちゃんたちも、あまり時間はないのじゃろ?」

「多少は平気よ」


 まだ幽鬼の森へ戻るまで時間はある。マリアンデールとルリシオンは、暇潰しができているようだった。

 シェラもレベルを上げている。ドワーフの集落へ置いてきたリリエラやフィロも、うまくやっているだろう。


「あはっ! 周囲が安全なら、ヒドラを倒しちゃおうかしらあ」

「大きく出るのう。じゃが、ここまでの手際を見るとやれそうじゃな」

「当たり前ね。なんなら、今すぐに倒してきましょうか?」

「「そうしてくれるか!」」

「そうねえ。明日到着なら、シェラだけで護衛はやれそうだわあ」

「マリ様、ルリ様……」

「シェラは無理だと思うのかしら?」


 ヒドラの推奨討伐レベルは、四十から五十である。

 マリアンデールとルリシオンなら余裕で倒せる魔物だ。そんなことは、シェラにも分かっている。


「ヒドラの巣は毒の沼地ですわ」


 もちろんシェラも、レベルを上げるために倒したい。

 それでも、大恩のある姉妹を毒の沼地などへ連れていけない。もし巣を出て襲ってくれば、そのときに倒せば良い。


「ならやめとくわあ」

「毒の沼地じゃね。華麗に優雅に戦えないわね」

「ローゼンクロイツ家令嬢の慎みを忘れては駄目です」

「そうね。向こうから襲ってきたら倒しましょう」


 信仰系魔法が使えなくなったシェラでも、毒は問題ない。

 泥で服が汚れても、魔法の服なので汚れは落ちる。しかしながら、泥まみれで戦うことは、ローゼンクロイツ家の令嬢としてふさわしくない。


「ふぅ! 食った食った!」

「酒が飲みたいのう」

「持ってきておらんと言うとろうが!」

「口に出すから飲みたくなるのじゃ。黙っておれ!」


 姉妹をたきつけたことを忘れたように、ドワーフたちは横になった。

 ガルド王からは、ヒドラを倒す必要はないと言われている。調査隊のドワーフたちも聞いているはずだ。それでも先ほどは、本気のような表情で迫っていた。

 これには、ドワーフらしさが現れていて面白い。本気のようで本気ではない。その適当さ加減は、フォルトに通じるものがあった。


「マリ様、ルリ様。私は見回りをしてきますわ」

「よろしくね」

「ドワーフたちは、後片付けをしなさあい」

「「そっ、そうじゃったな!」」

「ふふっ」


 こちらは、鉱山調査隊の護衛として戦っている。

 細かい作業は、ドワーフの仕事なのだ。食事が終わって、すぐに寝かせるわけにはいかない。料理を作ったルリシオンに言われて、ドワーフたちは飛び起きた。

 それを横目に笑みを浮かべたシェラは、土の精霊ノームを撫でながら、原生林の中を歩き出すのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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