第387話 ルート侵攻完了4

 元勇者チームの三人は、混成部隊が待機している場所へ戻った。その後は打ち合わせを経て、崖下から見えた森へ侵入していった。

 内容としては、元勇者チームが、森の脅威を対処する。それと同時にAランク冒険者チーム「聖獣の翼」を中心に、ルート上の屍骨しこつ戦士を倒す。他の者は後方で待機して、援護を担当する。

 下手に前へ出て、屍骨戦士と戦ってはならないという命令付きだった。邪魔になるうえ、確実に殺されてしまうからである。


「なあ、ハルベルト。シルキーさんたちは大丈夫かねえ?」


 そして、ボイルたち「聖獣の翼」は出撃した。他にも、Bランクの冒険者チームが続く。その後方では、混成部隊が待機中である。

 援護としては、信仰系魔法が使える神官を用意しておく。後は冒険者が後退するときに、投石などで屍骨戦士の動きを阻むぐらいか。

 相手は骸骨でもよろいを着用して、剣や盾も持っている。弓矢では効果がないと思って良いだろう。


「ボイルよお。化け物を心配しても始まらねえぞ」

「ハルベルト、あんなにも奇麗な化け物がいるか?」

「はははっ! れたのかよ。幼馴染おさななじみとしてうれしいぜえ」

「オメエはどうなんだよ。意中の奴はいねえのか?」

「俺か? 俺の趣味は知ってるだろ」

「「竜王の牙」のシルマリルか?」

「おうよ! あのエロチックな雰囲気がたまらねえ」

「やめとけやめとけ。分相応って言葉は知ってるだろ?」

「そりゃボイルもだろ。元勇者チームだぞ」

「オジンたちは女の話をしてる場合かあ!」


 ボイルとハルベルトが話していると、ササラが三人を指さして抗議の声を上げる。これから強力なアンデッドと戦うので、ちょっとしたミスが命取りになる。

 女性の話で、うつつを抜かしている場合ではない。


「俺は話に加わってねえぞ!」

「ハンクスも同じオジンだからね!」

「とんだとばっちりだぜ」

「はははっ! まあ、ササラとミゲルは前へ出るなよ」

「ボイルに言われなくても分かってるわよ! ねえ。ミゲル」

「もちろん出ませんよ。僕が敵う相手じゃないです」

「分かってんじゃねえか。俺らに任せとけ」

「私たちは、どうやって戦えばいいのかしら?」


 ササラとミゲルは、まだまだ新米冒険者だ。

 今回の道中では戦えているが、一般兵より少しマシな程度である。


「基本は俺とハルベルトへ支援魔法だな」

「その後は、ハンクスの後ろへ隠れて魔力を温存しとけよ」

「攻撃魔法は?」

「うーん。ササラの魔力じゃな」

「レベル三十のアンデッドだろ? ちとキツイな」


 ササラの初級火属性魔法では、屍骨戦士へダメージを与えられないだろう。大人しく、支援に徹してもらったほうが良い。


「僕はどうしましょう?」

「ミゲルは誘導と、他のチームの確認だ」

「誘導ですか?」

「五体もいるからな。他の冒険者も釣り出すが……」

「分かりました。アンデッドが固まらないようにですね」

「おう。横から攻撃されたくねえぜ」

「投石で気を引け。俺らに当てるなよ?」

「当てませんよ! これでもレンジャーですよ」

「見習いだ。おっと見えてきたな」


 ボイルたちが打ち合わせをしていると、前方に屍骨戦士を視認した。

 あちらはまだ気づいていないようだ。しかしながら、索敵範囲へ生命を持つ者が入れば、即座に探知されて襲ってくるだろう。

 ほとんどのアンデッドは、生物の生命力というべき波動のようなものを感知する。それを目標として襲ってくるのだ。

 ならば、この場所が境界線だった。


「さてと……。始めますかねえ」


 屍骨戦士は徘徊はいかいしていると聞いたが、等間隔で立っているようだ。

 一体の屍骨戦士を中心に、四方に四体配置されている。なんとなく人為的なものを感じるが、その原因は元勇者チームのほうだと思われる。

 ボイルは他の冒険者チームを見る。すると、手を上げて打ち合わせが終わった旨を伝えてきた。全部で七チームいる。

 二チームは交代要員だ。疲労がまったチームと交代する。または、脱落者が出れば介入する。


「ゆっくりとな……。ついてこい」


 まずは、ボイルだけが動きだす。

 ジリジリと近づいていき、屍骨戦士の索敵範囲を探る。手前にいる二体の左を担当するので、左斜めから進んでいった。

 そして、他の仲間は、距離が開かないように追いかける。


「カタカタ」

「この距離だぜ!」


 距離にして百メートルぐらいか。

 ボイルが近づいたところで、屍骨戦士が反応した。それ以上近づくと他の屍骨戦士も反応するので、急いで振り向いて、仲間がいる場所へ走った。

 それに釣られて、一体の屍骨戦士が追いかけてくる。


「よし! 少しずつ下がりながら戦うぞ」

「ボイル、最初は任せるぜ」

「ハンクス! ササラ! 支援魔法を寄越せ!」

「おう!」



【ホーリー・ウェポン/聖属性・武器付与】



 ハンクスは戦神オービスの神官なので、信仰系魔法を使って、ボイルの剣とハルベルトのやりへ聖属性を付与する。

 この魔法の効果によって、剣が青白く光り出した。


「はいっ!」



【ストレングス/筋力増加】



 ササラも身体強化魔法を使って、ボイルの筋力を増加する。

 これで、二つの支援魔法を受けた。


「行くぜ! 『鉄壁てっぺき』!」

「カタカタカタ」


 屍骨戦士は足が速い。

 あっという間に距離が縮まって、ボイルへ近づいてくる。受けた支援魔法は足りないが、戦っている間にもらえるだろう。

 まずは小手調べだ。


「カタカタ」

「おらあ!」


 上段から振り下ろされた屍骨戦士の剣を、ボイルも剣で受け止める。スキルの効果で防御力が上がって、体重が増加している。

 筋力増加魔法と合わさって、簡単に受け止めたかに見えた。


「カタカタカタ」

「なっ!」


 屍骨戦士は受け止められた剣をすぐに引いて、今度は二の腕を狙って突きを放ってきた。それに驚いたボイルは、体をねじってかわす。

 だが……。


「いてっ!」


 相手の攻撃が鋭かったのか、ボイルの二の腕に痛みが走った。

 それでも貫かれたわけではなく、剣がかすっただけのようだ。それにしても、骸骨兵と呼ばれるスケルトンとは、比べ物にならないほど強い。ハーフプレートの露出した部分を狙うなど、まるで熟練の戦士のような動きをする。

 シルキーから聞いていたが、戦ってみて強さがよく分かった。


「ボイル! てめえ!」

「カタカタ」


 屍骨戦士が突きを放った状態だったので、ハルベルトが剣をたたき落とそうとした。今はショートスピアをつないで、ロングスピアとして扱っている。

 分類としてはスケルトン系なので、突きは有効打にならないが、武器を落としてしまえば良い。

 そう考えた一撃だったが、それは甘かったようだ。


「うお!」


 ハルベルトの攻撃は、残念ながら盾で防がれてしまった。

 しかも防いだだけではなく、そのまま弾き返してくる。すばやいうえに、腕力もあるようだ。

 骨だけなので腕力と言って良いのか分からないが……。


「つ、強えぇ」

「ハンクス!」

「おう!」



【アンチ・イビル・プロテクション/対邪悪防御】



 ハンクスの信仰系魔法が、ハルベルトを包み込む。

 この魔法は、アンデッドや悪魔などの攻撃を和らげる効果がある。


「くらえっ! 『三連撃さんれんげき』!」


 ハルベルトのおかげで、ボイルは態勢を戻した。

 そして、左右と上段から計三回の斬撃を高速で打ち込む。同時に撃ち込んではいないが、普通の人間なら筋やけんが切れる動きだ。

 これなら、一撃ぐらいは当たるだろう。

 だがそれも……。


「カタカタカタ」


 すべて対応される。

 剣で弾かれ、盾で弾かれた。最後の一撃は躱されてしまう。さすがに三回も撃ち込んだので、最後の攻撃を躱されたときに態勢を崩してしまった。

 しかも屍骨戦士が、すでに剣を振り上げている。


「ボイル! 危ねえ!」

「ハルベルト!」


 屍骨戦士がボイルを狙って、剣を振り降ろした。しかしながら、彼のおかげで一端下がれたハルベルトが間へ入る。

 槍を二つに分離させて、それをクロスした状態で受け止めた。


「うおおぉぉ! 俺も『鉄壁てっぺき』だぜ!」


 ハルベルトも防御力を上げて、体重を増加させる。

 とにかく一撃が重いので、体重が軽いと体ごと弾かれそうだった。


「えいっ!」


 今度はハルベルトと屍骨戦士が、力比べに入ったときだった。

 斜め後ろから、石が飛んでくる。それは頭蓋を狙ったミゲルの攻撃だが、簡単に盾で弾かれた。それでも作戦通りに、気を引いたようだ。

 獲物と判断したのか、顔を向けていた。


「ハルベルトにも支援よ!」



【ストレングス/筋力増加】



 ハルベルトの膝が地面へ落ちてきたときを見計らって、ササラが身体強化魔法で支援する。同じようにハンクスも、対邪悪防御をボイルへ使った。

 これで前線の二人が、同じ強化魔法を受けたことになる。


「くそっ! これって勝てんのかよ? おらあ!」

「カタカタ」


 スキルを連続で使えないボイルは、ボヤキながら剣で攻撃する。単調な攻撃だが、そのおかげで屍骨戦士が後ろへ下がった。

 ハルベルトを助けるためだったが、うまくいったようだ。


「話してる暇なんてねえ! 来るぞ!」

「くそおお! 疲れを知らねえのか!」


 ボイルはさらにボヤいたが、アンデッドは疲れを感じない。後ろへ下がった屍骨戦士は、ボイルへ向かって駆け込んできた。

 このままでは勝ち目が皆無だった。人間は疲れを知っているのだ。それに、まだ一撃も与えていない。

 推奨討伐レベルは三十と聞いていたが、それ以上の強さに感じた。


「ハルベルト! 俺は一端任せるぜ」

「おう!」


 さすがにボイルは下がった。

 そして、間にハルベルトが入って、防御に徹してくれる。先ほどのスキルで、集中力を大きく削ってしまったのだ。


「ミゲル! 他のチームは?」

「押されているようです!」

「ちっ。ササラはハンクスにも支援魔法だ!」

「はい!」


 オジンオジンと揶揄やゆしてくるが、ササラは戦闘になると素直だ。

 新人のミゲルと同様に、戦いを教えるために連れてきた。しかしながら、教えている余裕がない。

 最悪は撤退も視野へ入れながら、ボイルは勝つ方策を考える。


「だああっ! 考える余裕もねえ! ハンクスも手伝え!」

「少しだけだぞ?」

「それでもいい!」


 いつものようにボヤキにボヤキたいが、どうやらハルベルトが崩れそうだ。ボイルは交代するべく前へ出る。今回はハンクスも一緒である。

 そして、屍骨戦士と一進一退の攻防へ入るのだった。



◇◇◇◇◇



 崖から見えた森。

 その森へ入った元勇者チームの三人は、骸骨兵を倒しまくっていた。数は多くないが、とにかくすぐ現れる。


「魔力を温存したいのだけれど……」

「俺に任せておけ。スケルトンなど、スキルを使うまでもない」

「アイヤー、アンデッドウォリアーも来たぜえ」

「ちっ。『俺は速いおれははやい』」


 なんと骸骨兵に紛れて、一体の屍骨戦士も現れた。

 プロシネンがスキルを使って、無造作に間合いを詰める。


「カタカタ」

「ふん!」


 屍骨戦士に感情はない。

 無造作に近づかれても不思議に思わず、剣を振り上げてプロシネンを攻撃しようとする。しかしながら、その剣が振り下ろされることはなかった。

 剣を持った腕が、地面へ落ちたからだ。


「カタカタ」


 それでも、瞬時に動きだした。今度は盾でプロシネンを殴ろうとしてきたが、その腕も地面へ落ちた。

 人間ならば両腕が斬り落とされて、血が吹き出ていることだろう。


「滅びろ」


 そして、攻撃手段を失った屍骨戦士の首が宙へ飛ぶ。

 ボイルたちと違って、レベル五十以上の戦士は違う。スキルで上げたすばやさで、両腕を斬り落として首をねたのだ。聖剣だけでも、切れ味は抜群だった。

 最後は頭蓋を踏み砕いて、プロシネンは戦闘を終わりにした。


「さすがねえ」

「昔は何体も倒しただろ」

「そうねえ。でも……。確定かしら?」

「アイヤー、ホーンテッド・フォートレスだぜ」

「やっぱり? スケルトン系を生み出す要塞だわ」


 ホーンテッド・フォートレス。

 スケルトン系の上位アンデッドで、りつかれた要塞と呼ばれる。魔界に存在していので、召喚魔法でしか呼び出せない。

 しかも、このアンデッドは使い方が特殊だった。


「魔王スカーレットの置き土産?」

「どうだかな。何基も召喚してないだろ」

「こんな辺境だぜ。魔王軍は来てねえと思うぜえ」

「そうねえ。とにかく、私は魔力を温存するわね」

「分かった」


 憑りつかれた要塞の使い方は、拠点の防衛。

 スケルトン系のアンデッドを、ドンドン作り出して周囲を守る。勇魔戦争時には、ジグロードへの道と呼ばれる大トンネルの奥に設置されていた。他には、魔王城の近くである。

 推奨討伐レベルは不明。通常の魔物と違って、レベルを測定できない。倒すには、作り出されたアンデッドを倒しながら近づくしかない。シルキーの上級爆裂系魔法だと倒しきれないのだ。

 要塞だけあって、防御力はトップクラスのアンデッドである。


「何体ぐらい生産されてるのかしら?」

「さあな。俺たちだけだし、あまりにも多いとアウトだ」

「骸骨兵が少ないようだけど?」

「アイヤー、召喚されたばかりか?」

「それなら助かるけど……。要塞は誰が召喚したのかしら?」

「設置型も考えられるぜえ」

「今頃作動したのかしらねえ」


 設置型魔法陣とは、あらかじめ条件を設定しておくことで発動させる魔法陣だ。召喚術師がいない場合は、これが原因と考えられる。

 それにしても、要塞の近くには、骸骨兵がウジャウジャといるはずだ。しかしながら、道中では思っていたほど多くない。

 ギルの言ったとおり召喚されたばかりであれば、この状況もうなずける。


「知らん。行けば分かる」

「ふふっ。それなら行きましょうか」


 そして、ギルを先頭に森を進む。骸骨兵であれば投石だけで倒せるので、拾っておいた石を投げつけて頭蓋を砕いている。

 スキルを使わずとも、コントロールだけで十分だった。


「おっと、見えてきたぜえ」


 崖の上から見えた森には、盛り上がった場所があった。そこへ到着した元勇者チームの三人は、あまり近づかずに要塞を眺める。

 横長の建物だ。高さは二十メートル、横幅は五十メートルもある。高さだけ考えれば、札幌さっぽろ市の時計台と同じぐらいだ。

 要塞は壁から柱に至るまで、すべてが骨である。周囲には死霊のレイスが、フワフワと浮いていた。

 入口からは、骸骨兵が出てきている。


「アイヤー、骨だらけだぜ」

「屍骨戦士の他には?」

「弓持ちにつえ持ちに、頭蓋骨が飛んでるな。骨だけの馬もいやがる」

「弱いほう?」

「ああ。あの中じゃ、屍骨戦士が一番強いぜえ」


 憑りつかれた要塞は、とにかく骨に関するアンデッドばかりを作り出す。

 一番多いのは骸骨兵だが、他にも結構な種類がいた。死霊は要塞自体の特殊能力のようなもので、遠くへ離れることはない。


「召喚されたばかりで、間違いないようだな」

「強い骨がいなくて助かるぜえ」

「召喚術師は中にいるのかしら?」

「分からん。今なら侵入は簡単だ」

「そうね。私の準備はいいわよ」

「アイヤー、俺が釣り出すぜえ」

「開始よ!」


 シルキーの合図でギルが走り出した。

 木々を避けながら、憑りつかれた要塞まで一気に走り抜けた。もちろん、途中にいた骸骨兵は無視している。

 これらは、狙いどおりに追いかけてきた。要塞前にいる多種多様な骸骨も、どんどんと群がってくる。ざっと二百体といったところだ。

 その中には数体の屍骨戦士がおり、盾を構えながら向かってきた。要塞の上には、スケルトン・アーチャーと呼ばれる弓持ちの骸骨兵。

 それから、スケルトン・メイジと呼ばれる杖持ちの骸骨兵がいる。


「もっと集まれ……」


 ギルは立ち止まって、腰を落としている。ハッキリ言って戦う気がなく、いつでも走り出せる態勢だ。

 まともに相手をしたら、体力が尽きてしまう。


「プロシネン! 任せた!」


 要塞の屋上にいた弓持ちの骸骨兵から、矢が飛んでくる。

 それを合図に、ギルは走り出した。もちろん戻るのではなく、要塞に沿って左へ走り出した。アンデッドは、ギルの生命力しか探知していない。

 そのため、後を追いかけてきた。


「「カタカタカタ」」

「アイヤー、遅れるなよ? 骸骨ちゃんたち!」

「「カタカタカタ」」


 ギルはつかず離れずの距離を保ちながら走る。

 これで要塞前の敵は、すべていなくなった。残っているのは、弓持ちの骸骨兵と杖持ちの骸骨兵だ。


「シルキー、行くぞ!」

「ええ!」


 そして、プロシネンとシルキーが走り出す。敵がいなくなったので、一気に要塞内部へ入るのだ。それでも近づくと、矢と魔法が飛んでくる。

 矢はプロシネンが剣で叩き落とす。飛んでくる魔法は、初級の無属性魔法なので大した威力はない。

 これは当たるに任せて、入口まで駆け抜けていった。


「入った。シルキー!」

「ええ。始めるわ」


 憑りつかれた要塞の内部は広く、天井には骸骨で作られたシャンデリアがり下げられている。

 前方と左右へ通路が伸びており、その先には魔法陣が描かれていた。これで骸骨が作り出されるのだ。

 なので、要塞内部にも敵がいる。やはり骸骨兵が多いが、数体の屍骨戦士もいた。外からは、死霊が壁を通り抜けてくる。

 それらを迎撃するために、プロシネンは聖剣を構えた。


「ガードする。急げ!」

「スキル、『写し鏡うつしかがみ』!」


 シルキーがスキルを発動すると、まぶしいぐらいに全身が光る。

 そして、光は体を飛び出して女性を形作った。『写し鏡うつしかがみ』とは、もう一人の自分を作り出すスキルなのだ。


「私はシルキー」

「私もシルキー」

「始めるわ」

「始めましょう」


 スキルを使ったのは、会話するためではない。

 もう一人のシルキーは、同じ装備を持っていた。これは本当の装備ではなく、スキルによって生み出された光が形作ったものだ。

 二人とも古めかしい杖を持っているが、それを床へ突き立てた。


「「聖神イシュリルよ」」

「我らが願い」

「我らの思い」

「「聞き届けたまえ」」


 二人のシルキーが始めたのは儀式である。一人では発動できない魔法を行使するため、数人で儀式を執り行うのだ。それを二人でやり始めた。

 儀式魔法には、長い詠唱が必要である。


「ふん!」


 儀式魔法を準備している間は無防備である。そのためのプロシネンだが、敵は待つことなどしない。当然のように群がってきた。

 それらを、圧倒的な速さで殲滅せんめつする。骸骨兵なら一振りで砕けるし、聖剣であれば死霊も斬れる。しかしながら、数が多い。

 屍骨戦士も数体を同時に相手すれば、先ほどのようにはいかない。息も上がり始めてきた。


「まだか!」

「我が命は信仰として」

「我が力は慈悲として」

ささげる者なり」

「与える者なり」

「急げ!」


 残念ながら、まだ終わらないようだ。

 それでもあと少しで終わるのを、プロシネンは知っている。これならば、なんとか持ちこたえられそうだ。

 そう考えた瞬間、憑りつかれた要塞が震えた。


「オオオォォォオオオッ!」

「なっ! なんだ?」


 それは地震というほどは揺れていない、小さな振動だった。

 プロシネンは戦いながら、周囲を見る。すると、前方の魔法陣が光り出して、今まで見たこともない骸骨の騎士が現れた。

 身長は二メートルほどある。全身を包む黒いフルプレートを着て、赤いマントを付けていた。片手には、大剣を持っている。


「ちっ。どうする? 強そうだぞ」


 シルキーを見ると、ギリギリ間に合いそうではある。それでも、名称すら分からない骸骨の騎士だ。どんな特殊能力を持っているか知れたものではない。

 そして、減っているが敵は残っている。同時に攻撃されるのは面白くない。今も二体の屍骨戦士を相手に戦っている最中だった。


「撤退か?」

「オオォォオオッ!」


 骸骨の騎士が、プロシネンに気づいたようだ。大剣を肩へ担いで、のっそりと歩いてきた。鈍重そうに見えるが、こればかりは戦ってみないと分からない。

 そして、また何かが現れたようだった。しかしながら、それを確認することができない。向かってくる騎士は大きく、マントが邪魔して良く見えなかった。

 もしかしたら、召喚術師かもしれない。


「シルキー! 召喚術師……」

「聖なる光が正道を照らす」

「聖なる光が邪道を滅ぼす」

「「広範囲浄化魔法」」

「間に合ったか。ならば……」


 どうやら、シルキーの儀式が間に合ったようだ。

 そして、骸骨の騎士は目の前である。大剣を振り上げようとしていた。そこで、プロシネンも屍骨戦士をほふって、聖剣を振り上げた。



【ディバイン・レイ/神聖なる一筋の光】



 シルキーの儀式魔法が発動すると、天から一筋の細い光が差してくる。その光は憑りつかれた要塞を貫いて、床へ突き立てた杖へ当たった。

 それからは、光がドンドンと広がっていった。光は要塞を包み込み、さらには森全体を包み込むほどの光へと広がった。


「うおおおおっ! 聖剣フォーティファイド! 解放!」


 それに合わせてプロシネンが、聖剣フォーティファイドを振り下ろす。すると、六本の太い光の刃が前方へ発射された。

 その光の刃は周囲の敵を砕き、憑りつかれた要塞の壁を切り裂いて突き抜けた。しかしながら、正面の一本だけは、骸骨の騎士に受け止められていた。


「オオオオォォォオオオッ!」


 憑りつかれた要塞が震える。

 それと同時に、光が森を完全に包み込んだ。

 そして、天空から圧倒的な衝撃が落ちてきたのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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