第384話 ルート侵攻完了1

※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、ニャンシーが追加されています。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220999346801/episodes/16816927862577193579

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 帝都クリムゾンへ戻ったテンガイは、自身の執務室で、部下へ指示を出していた。元聖女ソフィアから依頼された物資の不足分を送るためだ。

 ローゼンクロイツ家がフレネードの洞窟へ向かえば向かうほど、補給線が伸びる。その対応も必要だった。

 それにしても、味方すら欺く戦略は大したものだった。勇者アルフレッドの従者として、勇魔戦争のときも同じ作戦をやったと聞いた。参謀役も兼ねていたのだろう。しかも、ターラ王国の併合を見抜いている。

 まさに、同レベルの頭脳を持つ逸材だった。


「その頃の私は、帝都から避難しておりましたがね」


 当時のテンガイも子供だったが、ローゼンクロイツ家の姉妹が帝国軍を瓦解させたので避難していた。

 何の力も持っていなかったが、先を見据えて、大賢者ドゥーラへ弟子入りした。それからはメキメキと頭角を現し、帝国軍師の地位まで上り詰めた。


「テンガイ様、陛下が至急来るようにと……」

「分かった」


 すでにターラ王国の出来事は、皇帝ソルへ報告書を渡してある。

 そこまで急ぎの話ではなく、基本的には一任されている。それに、ルインザードが先に伝えているだろう。呼ばれたのは、より詳しい内容を聞きたいのか。それとも、別の案件かと思われた。

 別件については心当たりがある。そんなことを考えながら、皇帝がいる場所へ向かった。太陽が真上にある時間なので、向かう場所は決まっている。

 その場所には、皇帝直属の近衛騎士が立っていた。


「陛下に呼ばれました。通してもらえますか?」

「はい。ルインザード様もいらしております」

「他には?」

「グラーツ様です」

「なるほど。では……」


 近衛騎士が部屋の扉を開ける。

 その部屋へテンガイが入っていくと、扉が閉められた。呼ばれた内容を察しているので、先ほどの人物たちの他に参加者はいないはずだ。

 部屋の中では、食欲をそそる匂いが立ち込めている。会食の間と呼ばれる部屋で、ソルが配下と一緒に食事をする場所だった。


「来たか。座れ」

「はっ!」


 部屋には長テーブルが設置され、ソルは奥の席へ座っている。その両隣には、四鬼将筆頭のルインザードとグラーツ財務尚書が座っていた。

 テンガイは〈鬼神〉の隣へ移動して座る。周囲にも近衛騎士がいるが、座ったと同時に部屋の奥へ下がっていった。


「ターラ王国まで御苦労だったな」

「いえ。ちょっとした息抜きになりました」

「ぶひひ。息抜きですか。さすがは軍師殿ですなあ」

「グラーツ様も久しぶりですね」

「私も休暇を楽しみましたがね。ぶひひ」

「グラーツ、その演技は続けるのか?」

「常にやっておきませんと、意味がないのでございます」

「はははっ!」


 皇帝ソルの会話に割って入るのは不敬だが、この場は無礼講である。

 グラーツは休暇を用いて働いたのだ。見た目と違って忠義に厚い。


「それで陛下、グラーツ様がいるということは……」

「軍師殿から上がっていた技術開発についてだ」

「おお。財政に余裕が出ましたか?」

「ぶひひ。出てはいない。他から回したと言っておきましょう」

「他ですか? 思い当たるのは……」

「勘繰らないでいただきたい。ぶひひひひひ」


 グラーツは財務尚書として、ソル帝国の財政を一手に担っている。

 もちろんそれは、表の顔だった。デルヴィ侯爵と同様に、裏では汚い仕事もやっている。表へ出せない事案なのだろう。

 それについては、口を挟んでも良いことはない。


「それにしても、技術開発と申されましてもなあ」

「書類は見ていただきましたか?」

「ぶひひ。主に食材の品種改良と書かれておりましたな」

「はい。早急に取り掛かっていただきたい」

「それは指示しましたが、私のためではありますまい? ぶひひ」


 グラーツは、でっぷりと肥えた体を揺さぶった。

 お腹のあたりがブヨンブヨンと波を打っている。これだけ肥えているのだ。ソル帝国でも、有数の食通である。

 そして、食べる量も多い。暴食の魔人と嘲笑する人もいる。


「はははっ! 陛下が御執心の者に必要なのでしょう」

「ルインザード様には分かりますか」

「うむ。あ奴はよく食べるな。グラーツ殿も真っ青になりますぞ」


 ルインザードは、ターラ王国の首都ベイノックで開いた宴を思い出した。フォルトという高位の魔法使いは、取り付く島もなく食事を平らげていた。


「ぶひひ。例の異世界人ですな」

「今は協力的だと報告を受けている。間違いないな?」

「はい。不快にさせないよう、助言どおりに……」

「ほう。ランスがうまくやったか」

「皇子のほうが不快だったかと。申しわけないことをしました」

「ランスの気持ちなどどうでも良い。甘やかすつもりはないぞ」

「厳しいですね」

「異世界人の話をしろ! 帝国へ興味を引いたか?」

「まさにそれでございます」


 迎賓館で出した料理の食材は、ソル帝国からわざわざ持ってきたものだ。エウィ王国ではお目にかかれない料理で、それを旨そうに食べていた。

 帝都の宿舎でも、食事について興味を引けていた。ならば、食材から品種改良すれば良いと考えた。

 現在までも行っているが、もっと予算をつぎ込んでやらせるのだ。


「だが……。食事ごときで、どうにかなる人物なのか?」

「そうですなあ。私でもなびきませんぞ。ぶひひ」


 ソルの言葉は確認であったが、グラーツの言葉はフォルトを馬鹿にしている。確かに揶揄やゆしたくなるだろう。

 それでも、テンガイの分析で目を付けたのは食材だった。もちろん、それ自体が狙いではない。狙いはもっと別にあった。


「ローゼンクロイツ家を名乗っていますが、相当な庶民派のようです」

「ほう。ならば、そのように扱えば良いのか?」

「駄目ですね。ローゼンクロイツ家として扱ってください」

「〈狂乱の女王〉と〈爆炎の薔薇ばら姫〉か」

「フォルト殿は、周囲の女性を大切にしている様子です」

「なるほど。姉妹は家名に誇りを持っていたな」

「はい。色々と確定するまでは……」


 フォルトと接触を持ったが、まだ不明な点は多い。しかしながら、今は最上級の扱いをしないと拙いだろう。

 彼はローゼンクロイツ家の当主を名乗っている。そのことを、名家の令嬢姉妹が、二人とも認めているのだ。

 下手にマリアンデールとルリシオンを怒らせて、ソル帝国へ攻撃を仕かけられても困る。勇魔戦争のときには、帝国軍が壊滅寸前まで追い込まれたのだ。せめて、現在の力が分かるまでは怒らせたくない。

 そのためには、使えるものを何でも使う。


「ぶひひ。テーブルへ乗っている料理で十分な気がしますなあ」

「技術開発をやっていると理解させるのですよ」

「どういうことですかな?」

「帝国と敵対したら、大損だと分からせるのです」

「なるほど。そういった狙いが……」

「エウィ王国は、技術開発へ力を入れていません」

「古い体質の国だからな。グラーツ、帝国の技術力を理解させてやれ」

「ぶひひ。畏まりました」


 フォルトのためにやることだが、技術開発は損にならない。実を結ばなくても、ソル帝国が発展する。

 一石二鳥ではあるが、使う予算が大きくなった。


「グラーツ殿には朗報もあります」

「なんですかな?」

「ターラ王国の国庫をいただきます」

「ぶひひ。すばらしいですな。まさに朗報ですぞ」

「出費がかさみますがね。それ以上に取れますよ」

「仕方ありませんな。今は他に泣いてもらいましょう。ぶひひ」


 もののついでだった。

 ソフィアから依頼された物資について、テンガイはグラーツを納得させる。後はスタンピードさえ収束すれば、回収へ入れるだろう。それは分かっているようで、ブヒブヒと笑っていた。

 小国とはいえ、国庫には多くの金銭が眠っている。戦争で減っているが、それでも国が使う金銭なのだ。

 渡す物資以上の回収が見込める。


「レジスタンスはどうなっておる?」

「スタンピードが終われば壊滅します。〈凶刃〉殿が動きますしね」

「やっと奴も動けるか」

「放っておいても自然消滅でしょうが、首を取ってくるでしょう」

「それで良い。また騒ぎだされても困る」


 ソフィアは気付いていたが、レジスタンスの消滅は既定路線へ乗っている。それでも早いに越したことはない。

 ソルが言ったとおり、数年後に息を吹き返されても困るのだ。もうターラ王国を、帝国領にするのだから。

 ここまで話したところで、ルインザードが懐から紙を取り出した。


「陛下、先ほど早馬が参りましてな」

「早馬だと?」

「フォルト・ローゼンクロイツについてです」

「ほう。技術開発のときに話さないのは……」

「現在進行中ですからな。ビッグホーンを討伐したそうですぞ」


 すでにフォルトたちは、フレネードの洞窟前へ到着している。

 ビッグホーンが棲息せいそくする魔物の領域を突破したので、早馬が送られたのだ。あの高位の魔法使いが、戦闘へ参加したようだった。

 その内容が、事細かく書かれている。


「報告では、エウィ王国でも確認できた話だな」

「はい。素材が出回っていますので、間違いないかと思われます」

「時期的に、〈剣聖〉がおらぬときだな?」

「そうなります。ローイン公爵の娘はいましたが……」

「ふむ。演技か?」


 フォルトの浅はかな作戦など通用しないようだ。

 ソル帝国は、エウィ王国の貴族から情報を仕入れている。ビッグホーンを倒したことは筒抜けだった。

 しかも、時系列すら把握されている。昔の戦力と現在の戦力の差など、とっくに知られていた。国家の情報収集能力を、甘く見てはいけない。


「ですが陛下、ビッグホーンを相手に演技など無理ですぞ」

「確かにな。軍師殿はどう思う?」

「持っている魔法の種類によるかと思われます」

「なるほどな」

「確認できた魔法から察すると……」

「シルキーと同等か?」

「最低限と付けておきましょう」

「ははははっ! 上だと思うか?」

「はい。ローゼンクロイツ家の姉妹もおりますれば」


 演技だと知られてしまったかはさておき、実力に下限が設けられてしまった。最低でも、シルキーと同等なのだ。もちろん、それ以上だと思われている。

 だが、この程度のことは、頭脳明晰ずのうめいせきなソフィアは分かっている。それでもあえて、フォルトの好きにさせていた。要は人間としての範囲で収まれば良いのだ。

 下限とはいえ、高位の魔法使いとして思われれば問題ない。


「グラーツ!」

「はっ!」

「半年後ぐらいか。エウィ王国で大事が起こる」

「では、奴も用済みですな」

「そ奴のぶんは、いつでも回せるようにしておけ!」

「魔族の貴族には勿体もったいない金銭ですが……」

「ふん。物に変えれば良かろう。詳細は軍師殿と詰めろ」

「畏まりました」


 これで話は終わりだった。

 ソルがテーブルへ並べられた料理に手を付ける。それから、三人も食べ始めた。その中にあって、グラーツの顔が浮かない。出費がかさんでいるからだろう。当然、埋め合わせはするつもりだ。

 テンガイは雑談を交えながら、フォルト以外の者たちの分析を伝える。〈剣聖〉は別格としても、周囲の女性たちも侮れない。これも、何らかの手を打たないと拙いだろう。強者が一人で戦況を変えられる世界なのだ。

 それを踏まえた対応を協議しながら、ひと時の食事を楽しむのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトたちは、フレネードの洞窟がある領域へ入った。

 周囲に魔物はいない。すべて片付けていた。とはいえ、スタンピードが発生中である。倒しても倒しても、洞窟から湧き出ていた。


「さて……。キリがないな!」

「きさま、そんなことは分かりきっていただろう」


 現在の位置は、フレネードの洞窟から離れている。

 その中間地点と思われるあたりで、フォルトは上級の爆裂系魔法をぶっ放しておいた。当面は魔物が寄ってこないだろう。

 その場所へ、ソル帝国の工兵部隊が、せっせと陣地を形成している。とはいえ、まともなとりでなどを作る余裕はない。まずは周囲を柵で囲んで、簡易的なやぐらを建てている最中だった。

 後は陣地を拠点として、洞窟の攻略を始めることになる。


「まあな。でも、帝国騎士も頑張ってるしなあ」


 その工兵部隊を守るために、ソル帝国から派遣された帝国兵が、陣地に迫りくる魔物と戦っている。

 専業の兵士なので、厳しい訓練や実力を上げることも仕事だ。中には、限界突破を終わらせた者もいる。

 もちろん、指揮官の帝国騎士ザイザルも終わらせている。さすがは、ランス皇子へ付けられた騎士だ。

 帝国は実力主義なので、階級が上がるごとに強いのだろう。


「フォルトさん! 休憩はどれぐらいするの?」

「暫く……。いや、明日まで!」

「ながっ! いつもどおり、腰が重いわねえ」

「軽くできないからな。声を聞かれたくないだろ?」


 天幕で嬌声きょうせいを遮ることは不可能である。

 帝国軍の駐屯地近くに建てた小屋でさえ漏れていた。しかも、これから続々と人間が入ってくるのだ。

 さすがにフォルトでも、恥ずかしさが満点だった。


「当たり前っしょ。そんな趣味はないしぃ」

「俺もだ。でもなあ、離れた場所へ小屋を作れないしなあ」

「そうだね! あ……。帝国の人が来たよ」

「ちっ。天幕の前で休んでてくれ」

「はあい」


 アーシャと楽しく話していると、ザイザルが近づいてきた。お目付け役も兼ねているので、フォルトたちと合流してからは頻繁に会っている。

 面倒ではあるが、ベルナティオと一緒に相手をする。


「お休みのところ申しわけありませんな。〈剣聖〉殿も……」

「ふん。休憩中だ。手短にな」

「俺は魔力を回復しないとな。大きい魔法を使ってしまった」

「さすがはローゼンクロイツ家の当主様ですな」

「世辞はいい。それよりも、レジスタンスどもはまだなのか?」


 これも当然の結果だが、フォルトたちのほうが先に到着した。

 おとりルートを進んでいる混成部隊は、きっと苦戦しているはずだ。玉突きのように、魔物を送り込んだのだから……。


「斥候の報告では、もうすぐ隣の領域へ入ると聞いていますな」

「遅いな。さすがは囮……。んんっ!」

「きさま、その滑る口を塞いでやろうか?」

「い、いや、言葉を飾っても……。なあ、ザイザル殿」

「そうですな。我らは承知している話です」


 ザイザルはテンガイから聞いている。

 こちらへ向かっている部隊は囮であり、ソル帝国は本命のローゼンクロイツ家を支援する話になっていた。

 実際に作戦が実って、陣地の形成も滞りもなく進めている最中である。


「そう言えば、帝国兵は戦わないと聞いたが?」

「仰せつかった任務は、工兵部隊と補給部隊の護衛ですな」

「だから戦っていると?」

「はい。突破されれば被害が出ますからな」

「なるほど。おかげで休憩ができている」

「我らは今まで戦っておりません。暫くはお休みくだされ」

「そうさせてもらう」

「では、次の補給部隊が到着したらお伝えします」

「頼む」


 身内との会話は楽しいが、ザイザルは苦痛でしかない。その相手が離れていったので、ベルナティオと一緒に、身内が休んでいる場所へ戻る。

 天幕へ入っても良いのだが、彼女たちと始めてしまう自信があった。そこで、休憩がてら会話を楽しむ。


「フォルト様、話は短かったようですね」

「うむ。あれぐらいなら構わないな」

「旦那様、カーミラさんは?」

「天幕の中にいるだろ」

「クウですよね。本人は?」

「ははっ。内緒にしてたからな。そろそろ話すか」


 これも、闇ソフィアからの頼みだった。

 カーミラの行動は、フレネードの洞窟へ到着してからが本番である。話しておいても良かったのだが、結構大がかりな内容なので黙っていた。

 それでも、きっと喜んでくれるだろう。


「フレネードの洞窟は、目の前の山中にあるだろ?」

「はい」

「あの山の反対側に川があるのだ」

「あ……。私たちが休めるようにですか?」

「うむ。他にも用途はあるがな。風呂へ入りたいだろ?」

「もちろんです。体を拭くだけでは物足りませんしね」


(俺が風呂でイチャイチャしたいだけだけどな。小屋を作るのは簡単だが、そこへ向かうまでが大変だった。クウに感謝だな)


 最近は眷属けんぞくのクウが大活躍だった。

 夜間の休憩時に変わって、フォルトも川へ行っていた。ブラウニーを召喚する必要があったからだ。召喚したあとは、カーミラへ任せていた。

 サタンも召喚しておいたので、魔物は近寄ってこない。


「さすがは御主人様です!」

「アーシャ、似てない」

「へへっ。で、どうやって向かうの?」

「レジスタンスどもが到着してからだが……」


 混成部隊が到着した後は、フレネードの洞窟を攻略することになる。

 そのときに、魔法で消えて向うのだ。拠点には、何食わぬ顔でドッペルゲンガーを置いておく。フォルトとおっさん親衛隊は休憩中と思うだろう。

 必死に攻略するつもりは毛頭ない。


「仕方がありませんわね。楽しみは後に取っておきますわ」

「そう言うな。レイナスを触るぐらいはできるぞ」

「んあっ! さっ、最近は御無沙汰ですので……」

「まあなあ。俺も我慢の限界だが、もう少しの辛抱だ」

「そうですわね。待ち遠しいですわ」

「それより、神託は受けたのだろ?」

「はい。セレスさんにやってもらいましたわ」


 レイナスは、レベル三十九だった。

 それが、ビッグホーンを倒したときに上がっていた。目標であったレベル四十に到達したのだ。しかしながら、限界突破の作業が必要になる。

 それを終わらせないと、堕落の種は芽吹かない。


「神託の内容は?」

「それが……」

「ん?」

氷狼ひょうろうの祝福を受けよ。と言われましたわ」

「はい?」


 よく分からない内容に、フォルトの目が点になる。

 何のことやらサッパリだ。言葉から察すると、氷狼はフェンリルのことを指している。祝福は恩恵だろう。戦闘ではないのかもしれない。

 とりあえず、セレスへ聞けば分かる話だ。


「旦那様。精霊界へ赴き、氷狼に会うのです」

「精霊界……。召喚した氷狼では駄目か?」

「駄目です」

「うーむ」


 フォルトたちの住む世界は、物質界と呼ばれる。人間や亜人種、または魔物といった、多種多様な生物が存在する世界だ。

 そして、悪魔が存在する世界を魔界と呼ぶ。それと同様に、精霊が存在する世界が精霊界であった。

 召喚魔法を使えば、精霊界から精霊を呼び出すことが可能。世界をつなげて、物質界へ召喚するわけだ。

 今回は、逆のことになるだろう。レイナスを精霊界へ送り出す必要がある。しかしながら、そんな魔法は知らない。

 アカシックレコードにもないので、残念ながらポロは知らない。


「行き方は?」

「大婆様なら知ってるかもしれませんね」

「おっ! なら、後で聞きにいくか」

「聞いても時間が取れません。終わってからでも良いのでは?」

「確かになあ。精霊界とかよく分からないしな」

「それに、レイナスさんが一人で赴く必要があります」

「なにっ!」


 なんと、レイナスが一人で精霊界へ向かうらしい。

 さすがは、レベル四十の限界突破である。ワイバーンの討伐よりも、難易度が高いようだ。それにしても、一緒に行けないのは困ってしまう。

 もしも命に係わる危険にさらされた場合、フォルトの力で救出できない。


「それはキツイな。死ぬ可能性は?」

「もちろんありますよ。ですが、自然神の神託ですわ」

「うーむ。せめて、危険を感じた時点で戻れればいいけどな」

「フォルト様、私なら大丈夫ですわ」


 過保護にしないと決めていたが、やはり過保護になってしまう。

 それを分かっているレイナスが、フォルトへ寄り添った。


「まあ、大婆と話してからだな」

「はい。ですが、達成すれば悪魔になれますわ」

「もっと楽なものにしてくれればいいのに……。なあ、レイナス」

「それでは、限界突破にならないと思いますわよ?」

「そうか? アーシャは楽だったぞ」

「そっ、それは……。どうなのでしょうね?」


 フォルトとレイナスは、天幕から少し離れた場所で、ソフィアと会話しているアーシャを眺める。

 悩みなどないようで、とても楽しそうだ。その屈託のない笑顔を見ると、なんとなく限界突破が楽だったのを納得できる。

 これといった理由はないが、本当になんとなくだ。


「アーシャの神託は……。暗黒神、暗黒神……」

「デュールですわね。シェラさんが担当をしましたわ」

「それだ。アーシャは誰とでも仲良くなれそうだしな」

「相手が天界の神々でもですか?」

「さあな。だが、身内は全員俺のもの。神だろうがやらん!」

「私も離れませんわ。ムニュ」

「でへ。やっぱりやろう」

「はい!」


 フォルトはレイナスの柔らかさに負けて、一緒に天幕へ入った。そこにはドッペルカーミラのクウが座っていたが、聖剣ロゼを持たせて追い出してしまう。

 それにしても、精霊界へ赴くなど話が壮大になってきた。しかも、一人で行かせることになる。

 それに対しての不安は隠せないが、今はレベル四十の達成祝いを、二人だけで楽しむのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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