第384話 ルート侵攻完了1
※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、ニャンシーが追加されています。
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帝都クリムゾンへ戻ったテンガイは、自身の執務室で、部下へ指示を出していた。元聖女ソフィアから依頼された物資の不足分を送るためだ。
ローゼンクロイツ家がフレネードの洞窟へ向かえば向かうほど、補給線が伸びる。その対応も必要だった。
それにしても、味方すら欺く戦略は大したものだった。勇者アルフレッドの従者として、勇魔戦争のときも同じ作戦をやったと聞いた。参謀役も兼ねていたのだろう。しかも、ターラ王国の併合を見抜いている。
まさに、同レベルの頭脳を持つ逸材だった。
「その頃の私は、帝都から避難しておりましたがね」
当時のテンガイも子供だったが、ローゼンクロイツ家の姉妹が帝国軍を瓦解させたので避難していた。
何の力も持っていなかったが、先を見据えて、大賢者ドゥーラへ弟子入りした。それからはメキメキと頭角を現し、帝国軍師の地位まで上り詰めた。
「テンガイ様、陛下が至急来るようにと……」
「分かった」
すでにターラ王国の出来事は、皇帝ソルへ報告書を渡してある。
そこまで急ぎの話ではなく、基本的には一任されている。それに、ルインザードが先に伝えているだろう。呼ばれたのは、より詳しい内容を聞きたいのか。それとも、別の案件かと思われた。
別件については心当たりがある。そんなことを考えながら、皇帝がいる場所へ向かった。太陽が真上にある時間なので、向かう場所は決まっている。
その場所には、皇帝直属の近衛騎士が立っていた。
「陛下に呼ばれました。通してもらえますか?」
「はい。ルインザード様もいらしております」
「他には?」
「グラーツ様です」
「なるほど。では……」
近衛騎士が部屋の扉を開ける。
その部屋へテンガイが入っていくと、扉が閉められた。呼ばれた内容を察しているので、先ほどの人物たちの他に参加者はいないはずだ。
部屋の中では、食欲をそそる匂いが立ち込めている。会食の間と呼ばれる部屋で、ソルが配下と一緒に食事をする場所だった。
「来たか。座れ」
「はっ!」
部屋には長テーブルが設置され、ソルは奥の席へ座っている。その両隣には、四鬼将筆頭のルインザードとグラーツ財務尚書が座っていた。
テンガイは〈鬼神〉の隣へ移動して座る。周囲にも近衛騎士がいるが、座ったと同時に部屋の奥へ下がっていった。
「ターラ王国まで御苦労だったな」
「いえ。ちょっとした息抜きになりました」
「ぶひひ。息抜きですか。さすがは軍師殿ですなあ」
「グラーツ様も久しぶりですね」
「私も休暇を楽しみましたがね。ぶひひ」
「グラーツ、その演技は続けるのか?」
「常にやっておきませんと、意味がないのでございます」
「はははっ!」
皇帝ソルの会話に割って入るのは不敬だが、この場は無礼講である。
グラーツは休暇を用いて働いたのだ。見た目と違って忠義に厚い。
「それで陛下、グラーツ様がいるということは……」
「軍師殿から上がっていた技術開発についてだ」
「おお。財政に余裕が出ましたか?」
「ぶひひ。出てはいない。他から回したと言っておきましょう」
「他ですか? 思い当たるのは……」
「勘繰らないでいただきたい。ぶひひひひひ」
グラーツは財務尚書として、ソル帝国の財政を一手に担っている。
もちろんそれは、表の顔だった。デルヴィ侯爵と同様に、裏では汚い仕事もやっている。表へ出せない事案なのだろう。
それについては、口を挟んでも良いことはない。
「それにしても、技術開発と申されましてもなあ」
「書類は見ていただきましたか?」
「ぶひひ。主に食材の品種改良と書かれておりましたな」
「はい。早急に取り掛かっていただきたい」
「それは指示しましたが、私のためではありますまい? ぶひひ」
グラーツは、でっぷりと肥えた体を揺さぶった。
お腹のあたりがブヨンブヨンと波を打っている。これだけ肥えているのだ。ソル帝国でも、有数の食通である。
そして、食べる量も多い。暴食の魔人と嘲笑する人もいる。
「はははっ! 陛下が御執心の者に必要なのでしょう」
「ルインザード様には分かりますか」
「うむ。あ奴はよく食べるな。グラーツ殿も真っ青になりますぞ」
ルインザードは、ターラ王国の首都ベイノックで開いた宴を思い出した。フォルトという高位の魔法使いは、取り付く島もなく食事を平らげていた。
「ぶひひ。例の異世界人ですな」
「今は協力的だと報告を受けている。間違いないな?」
「はい。不快にさせないよう、助言どおりに……」
「ほう。ランスがうまくやったか」
「皇子のほうが不快だったかと。申しわけないことをしました」
「ランスの気持ちなどどうでも良い。甘やかすつもりはないぞ」
「厳しいですね」
「異世界人の話をしろ! 帝国へ興味を引いたか?」
「まさにそれでございます」
迎賓館で出した料理の食材は、ソル帝国からわざわざ持ってきたものだ。エウィ王国ではお目にかかれない料理で、それを旨そうに食べていた。
帝都の宿舎でも、食事について興味を引けていた。ならば、食材から品種改良すれば良いと考えた。
現在までも行っているが、もっと予算をつぎ込んでやらせるのだ。
「だが……。食事ごときで、どうにかなる人物なのか?」
「そうですなあ。私でもなびきませんぞ。ぶひひ」
ソルの言葉は確認であったが、グラーツの言葉はフォルトを馬鹿にしている。確かに
それでも、テンガイの分析で目を付けたのは食材だった。もちろん、それ自体が狙いではない。狙いはもっと別にあった。
「ローゼンクロイツ家を名乗っていますが、相当な庶民派のようです」
「ほう。ならば、そのように扱えば良いのか?」
「駄目ですね。ローゼンクロイツ家として扱ってください」
「〈狂乱の女王〉と〈爆炎の
「フォルト殿は、周囲の女性を大切にしている様子です」
「なるほど。姉妹は家名に誇りを持っていたな」
「はい。色々と確定するまでは……」
フォルトと接触を持ったが、まだ不明な点は多い。しかしながら、今は最上級の扱いをしないと拙いだろう。
彼はローゼンクロイツ家の当主を名乗っている。そのことを、名家の令嬢姉妹が、二人とも認めているのだ。
下手にマリアンデールとルリシオンを怒らせて、ソル帝国へ攻撃を仕かけられても困る。勇魔戦争のときには、帝国軍が壊滅寸前まで追い込まれたのだ。せめて、現在の力が分かるまでは怒らせたくない。
そのためには、使えるものを何でも使う。
「ぶひひ。テーブルへ乗っている料理で十分な気がしますなあ」
「技術開発をやっていると理解させるのですよ」
「どういうことですかな?」
「帝国と敵対したら、大損だと分からせるのです」
「なるほど。そういった狙いが……」
「エウィ王国は、技術開発へ力を入れていません」
「古い体質の国だからな。グラーツ、帝国の技術力を理解させてやれ」
「ぶひひ。畏まりました」
フォルトのためにやることだが、技術開発は損にならない。実を結ばなくても、ソル帝国が発展する。
一石二鳥ではあるが、使う予算が大きくなった。
「グラーツ殿には朗報もあります」
「なんですかな?」
「ターラ王国の国庫をいただきます」
「ぶひひ。すばらしいですな。まさに朗報ですぞ」
「出費がかさみますがね。それ以上に取れますよ」
「仕方ありませんな。今は他に泣いてもらいましょう。ぶひひ」
もののついでだった。
ソフィアから依頼された物資について、テンガイはグラーツを納得させる。後はスタンピードさえ収束すれば、回収へ入れるだろう。それは分かっているようで、ブヒブヒと笑っていた。
小国とはいえ、国庫には多くの金銭が眠っている。戦争で減っているが、それでも国が使う金銭なのだ。
渡す物資以上の回収が見込める。
「レジスタンスはどうなっておる?」
「スタンピードが終われば壊滅します。〈凶刃〉殿が動きますしね」
「やっと奴も動けるか」
「放っておいても自然消滅でしょうが、首を取ってくるでしょう」
「それで良い。また騒ぎだされても困る」
ソフィアは気付いていたが、レジスタンスの消滅は既定路線へ乗っている。それでも早いに越したことはない。
ソルが言ったとおり、数年後に息を吹き返されても困るのだ。もうターラ王国を、帝国領にするのだから。
ここまで話したところで、ルインザードが懐から紙を取り出した。
「陛下、先ほど早馬が参りましてな」
「早馬だと?」
「フォルト・ローゼンクロイツについてです」
「ほう。技術開発のときに話さないのは……」
「現在進行中ですからな。ビッグホーンを討伐したそうですぞ」
すでにフォルトたちは、フレネードの洞窟前へ到着している。
ビッグホーンが
その内容が、事細かく書かれている。
「報告では、エウィ王国でも確認できた話だな」
「はい。素材が出回っていますので、間違いないかと思われます」
「時期的に、〈剣聖〉がおらぬときだな?」
「そうなります。ローイン公爵の娘はいましたが……」
「ふむ。演技か?」
フォルトの浅はかな作戦など通用しないようだ。
ソル帝国は、エウィ王国の貴族から情報を仕入れている。ビッグホーンを倒したことは筒抜けだった。
しかも、時系列すら把握されている。昔の戦力と現在の戦力の差など、とっくに知られていた。国家の情報収集能力を、甘く見てはいけない。
「ですが陛下、ビッグホーンを相手に演技など無理ですぞ」
「確かにな。軍師殿はどう思う?」
「持っている魔法の種類によるかと思われます」
「なるほどな」
「確認できた魔法から察すると……」
「シルキーと同等か?」
「最低限と付けておきましょう」
「ははははっ! 上だと思うか?」
「はい。ローゼンクロイツ家の姉妹もおりますれば」
演技だと知られてしまったかはさておき、実力に下限が設けられてしまった。最低でも、シルキーと同等なのだ。もちろん、それ以上だと思われている。
だが、この程度のことは、
下限とはいえ、高位の魔法使いとして思われれば問題ない。
「グラーツ!」
「はっ!」
「半年後ぐらいか。エウィ王国で大事が起こる」
「では、奴も用済みですな」
「そ奴のぶんは、いつでも回せるようにしておけ!」
「魔族の貴族には
「ふん。物に変えれば良かろう。詳細は軍師殿と詰めろ」
「畏まりました」
これで話は終わりだった。
ソルがテーブルへ並べられた料理に手を付ける。それから、三人も食べ始めた。その中にあって、グラーツの顔が浮かない。出費がかさんでいるからだろう。当然、埋め合わせはするつもりだ。
テンガイは雑談を交えながら、フォルト以外の者たちの分析を伝える。〈剣聖〉は別格としても、周囲の女性たちも侮れない。これも、何らかの手を打たないと拙いだろう。強者が一人で戦況を変えられる世界なのだ。
それを踏まえた対応を協議しながら、ひと時の食事を楽しむのだった。
◇◇◇◇◇
フォルトたちは、フレネードの洞窟がある領域へ入った。
周囲に魔物はいない。すべて片付けていた。とはいえ、スタンピードが発生中である。倒しても倒しても、洞窟から湧き出ていた。
「さて……。キリがないな!」
「きさま、そんなことは分かりきっていただろう」
現在の位置は、フレネードの洞窟から離れている。
その中間地点と思われるあたりで、フォルトは上級の爆裂系魔法をぶっ放しておいた。当面は魔物が寄ってこないだろう。
その場所へ、ソル帝国の工兵部隊が、せっせと陣地を形成している。とはいえ、まともな
後は陣地を拠点として、洞窟の攻略を始めることになる。
「まあな。でも、帝国騎士も頑張ってるしなあ」
その工兵部隊を守るために、ソル帝国から派遣された帝国兵が、陣地に迫りくる魔物と戦っている。
専業の兵士なので、厳しい訓練や実力を上げることも仕事だ。中には、限界突破を終わらせた者もいる。
もちろん、指揮官の帝国騎士ザイザルも終わらせている。さすがは、ランス皇子へ付けられた騎士だ。
帝国は実力主義なので、階級が上がるごとに強いのだろう。
「フォルトさん! 休憩はどれぐらいするの?」
「暫く……。いや、明日まで!」
「ながっ! いつもどおり、腰が重いわねえ」
「軽くできないからな。声を聞かれたくないだろ?」
天幕で
帝国軍の駐屯地近くに建てた小屋でさえ漏れていた。しかも、これから続々と人間が入ってくるのだ。
さすがにフォルトでも、恥ずかしさが満点だった。
「当たり前っしょ。そんな趣味はないしぃ」
「俺もだ。でもなあ、離れた場所へ小屋を作れないしなあ」
「そうだね! あ……。帝国の人が来たよ」
「ちっ。天幕の前で休んでてくれ」
「はあい」
アーシャと楽しく話していると、ザイザルが近づいてきた。お目付け役も兼ねているので、フォルトたちと合流してからは頻繁に会っている。
面倒ではあるが、ベルナティオと一緒に相手をする。
「お休みのところ申しわけありませんな。〈剣聖〉殿も……」
「ふん。休憩中だ。手短にな」
「俺は魔力を回復しないとな。大きい魔法を使ってしまった」
「さすがはローゼンクロイツ家の当主様ですな」
「世辞はいい。それよりも、レジスタンスどもはまだなのか?」
これも当然の結果だが、フォルトたちのほうが先に到着した。
「斥候の報告では、もうすぐ隣の領域へ入ると聞いていますな」
「遅いな。さすがは囮……。んんっ!」
「きさま、その滑る口を塞いでやろうか?」
「い、いや、言葉を飾っても……。なあ、ザイザル殿」
「そうですな。我らは承知している話です」
ザイザルはテンガイから聞いている。
こちらへ向かっている部隊は囮であり、ソル帝国は本命のローゼンクロイツ家を支援する話になっていた。
実際に作戦が実って、陣地の形成も滞りもなく進めている最中である。
「そう言えば、帝国兵は戦わないと聞いたが?」
「仰せつかった任務は、工兵部隊と補給部隊の護衛ですな」
「だから戦っていると?」
「はい。突破されれば被害が出ますからな」
「なるほど。おかげで休憩ができている」
「我らは今まで戦っておりません。暫くはお休みくだされ」
「そうさせてもらう」
「では、次の補給部隊が到着したらお伝えします」
「頼む」
身内との会話は楽しいが、ザイザルは苦痛でしかない。その相手が離れていったので、ベルナティオと一緒に、身内が休んでいる場所へ戻る。
天幕へ入っても良いのだが、彼女たちと始めてしまう自信があった。そこで、休憩がてら会話を楽しむ。
「フォルト様、話は短かったようですね」
「うむ。あれぐらいなら構わないな」
「旦那様、カーミラさんは?」
「天幕の中にいるだろ」
「クウですよね。本人は?」
「ははっ。内緒にしてたからな。そろそろ話すか」
これも、闇ソフィアからの頼みだった。
カーミラの行動は、フレネードの洞窟へ到着してからが本番である。話しておいても良かったのだが、結構大がかりな内容なので黙っていた。
それでも、きっと喜んでくれるだろう。
「フレネードの洞窟は、目の前の山中にあるだろ?」
「はい」
「あの山の反対側に川があるのだ」
「あ……。私たちが休めるようにですか?」
「うむ。他にも用途はあるがな。風呂へ入りたいだろ?」
「もちろんです。体を拭くだけでは物足りませんしね」
(俺が風呂でイチャイチャしたいだけだけどな。小屋を作るのは簡単だが、そこへ向かうまでが大変だった。クウに感謝だな)
最近は
夜間の休憩時に変わって、フォルトも川へ行っていた。ブラウニーを召喚する必要があったからだ。召喚したあとは、カーミラへ任せていた。
サタンも召喚しておいたので、魔物は近寄ってこない。
「さすがは御主人様です!」
「アーシャ、似てない」
「へへっ。で、どうやって向かうの?」
「レジスタンスどもが到着してからだが……」
混成部隊が到着した後は、フレネードの洞窟を攻略することになる。
そのときに、魔法で消えて向うのだ。拠点には、何食わぬ顔でドッペルゲンガーを置いておく。フォルトとおっさん親衛隊は休憩中と思うだろう。
必死に攻略するつもりは毛頭ない。
「仕方がありませんわね。楽しみは後に取っておきますわ」
「そう言うな。レイナスを触るぐらいはできるぞ」
「んあっ! さっ、最近は御無沙汰ですので……」
「まあなあ。俺も我慢の限界だが、もう少しの辛抱だ」
「そうですわね。待ち遠しいですわ」
「それより、神託は受けたのだろ?」
「はい。セレスさんにやってもらいましたわ」
レイナスは、レベル三十九だった。
それが、ビッグホーンを倒したときに上がっていた。目標であったレベル四十に到達したのだ。しかしながら、限界突破の作業が必要になる。
それを終わらせないと、堕落の種は芽吹かない。
「神託の内容は?」
「それが……」
「ん?」
「
「はい?」
よく分からない内容に、フォルトの目が点になる。
何のことやらサッパリだ。言葉から察すると、氷狼はフェンリルのことを指している。祝福は恩恵だろう。戦闘ではないのかもしれない。
とりあえず、セレスへ聞けば分かる話だ。
「旦那様。精霊界へ赴き、氷狼に会うのです」
「精霊界……。召喚した氷狼では駄目か?」
「駄目です」
「うーむ」
フォルトたちの住む世界は、物質界と呼ばれる。人間や亜人種、または魔物といった、多種多様な生物が存在する世界だ。
そして、悪魔が存在する世界を魔界と呼ぶ。それと同様に、精霊が存在する世界が精霊界であった。
召喚魔法を使えば、精霊界から精霊を呼び出すことが可能。世界を
今回は、逆のことになるだろう。レイナスを精霊界へ送り出す必要がある。しかしながら、そんな魔法は知らない。
アカシックレコードにもないので、残念ながらポロは知らない。
「行き方は?」
「大婆様なら知ってるかもしれませんね」
「おっ! なら、後で聞きにいくか」
「聞いても時間が取れません。終わってからでも良いのでは?」
「確かになあ。精霊界とかよく分からないしな」
「それに、レイナスさんが一人で赴く必要があります」
「なにっ!」
なんと、レイナスが一人で精霊界へ向かうらしい。
さすがは、レベル四十の限界突破である。ワイバーンの討伐よりも、難易度が高いようだ。それにしても、一緒に行けないのは困ってしまう。
もしも命に係わる危険に
「それはキツイな。死ぬ可能性は?」
「もちろんありますよ。ですが、自然神の神託ですわ」
「うーむ。せめて、危険を感じた時点で戻れればいいけどな」
「フォルト様、私なら大丈夫ですわ」
過保護にしないと決めていたが、やはり過保護になってしまう。
それを分かっているレイナスが、フォルトへ寄り添った。
「まあ、大婆と話してからだな」
「はい。ですが、達成すれば悪魔になれますわ」
「もっと楽なものにしてくれればいいのに……。なあ、レイナス」
「それでは、限界突破にならないと思いますわよ?」
「そうか? アーシャは楽だったぞ」
「そっ、それは……。どうなのでしょうね?」
フォルトとレイナスは、天幕から少し離れた場所で、ソフィアと会話しているアーシャを眺める。
悩みなどないようで、とても楽しそうだ。その屈託のない笑顔を見ると、なんとなく限界突破が楽だったのを納得できる。
これといった理由はないが、本当になんとなくだ。
「アーシャの神託は……。暗黒神、暗黒神……」
「デュールですわね。シェラさんが担当をしましたわ」
「それだ。アーシャは誰とでも仲良くなれそうだしな」
「相手が天界の神々でもですか?」
「さあな。だが、身内は全員俺のもの。神だろうがやらん!」
「私も離れませんわ。ムニュ」
「でへ。やっぱりやろう」
「はい!」
フォルトはレイナスの柔らかさに負けて、一緒に天幕へ入った。そこにはドッペルカーミラのクウが座っていたが、聖剣ロゼを持たせて追い出してしまう。
それにしても、精霊界へ赴くなど話が壮大になってきた。しかも、一人で行かせることになる。
それに対しての不安は隠せないが、今はレベル四十の達成祝いを、二人だけで楽しむのだった。
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