第383話 英雄級を目指して3

 ビッグホーン。

 全長は五十メートル、体重が百トン前後。牛の大型魔獣で、頭部にはバッファローのように、二本の長い角が生えている。

 ちなみに全長とは体長のことで、肩口から尻尾の付け根ぐらいを指す。高さは四十メートル程度か。

 ここまで大きいと、人間からすれば大した差ではない。最初に見たときは、何を倒すための角と思ったものだ。しかしながら、同じような大型の魔獣に、ライノスキングが存在する。そういった敵を倒すためにあるのだろう。

 もしかしたら、まだ見ぬ大型の魔獣がいるかもしれない。



【フライ/飛行】



 そして、ビッグホーンへ近づいていく者たちがいた。

 そのうちの一人であるフォルトは、飛行の魔法を使って、空中へ浮き上がる。高度を上げずに、おっさん親衛隊の面々と話せる高さで止めた。

 他の女性たちは、ソル帝国軍の補給部隊から借りた軍馬に乗っている。戦争でも活躍する馬で、大型魔獣が相手でも逃げ出さない。

 バイコーンでも良かったが、多く召喚すると強さが知られてしまう。よって、借りれるものは借りておいた。


(使い潰すつもりだから返さないけどな)


 今回の戦いには、カーミラが参加しない。悪魔の力を見せられないのと、フェブニス隊を守ってもらうためだ。

 そして、フォルトが魔人の力を使用する場合に備えていた。おっさん親衛隊の誰かが危ないときや負けそうなときに、その力で救出するのだ。

 帝国軍の部隊は、ヒル・ジャイアントがいたルート上の領域に待機している。しかしながら、どうせのぞき見している人間がいるだろう。

 その者たちを殺すのが、彼女の役目だった。


「うひゃあ! 相変わらず大きいね!」


 高さが四十メートル前後だと、大阪城の天守の高さが分かりやすいか。または日本武道館の地上高である。

 その巨大な魔獣が、ドシンドシンと眼前を歩いているのだ。しかもこちらに気付いていないのか、完全に無視されている。

 まさに竜がありを見る。そういった比喩が相当するだろう。


「では、手筈通りに戦いましょう」

「セレス、大丈夫なのか?」

「セオリーですが、それで倒せるとは限りませんね」

「うーむ」

「倒すにはダメージを与える必要がありますわ」

「そうだな。地力が弱いのでは、倒せるものも倒せないか」

「はい」


 戦術はセレスが考えていた。

 魔物や魔獣との戦闘であれば、ソフィアよりは彼女だ。さすがに大型の魔獣を相手にしたことはないらしいが、戦術は合っているだろう。

 後はおっさん親衛隊の力が通用するかにかかっている。


「さすがに私も初めてだが、あの外皮は破れると思うぞ」

「ティオなら平気だろう。オーガたちが解体してたしな」

「オーガと一緒にするな! だが、レイナスも大丈夫だろう」

「はい。聖剣ロゼと『魔法剣まほうけん』なら斬れると思いますわ」

「斬れることは斬れるだろうがなあ」


(ビッグホーンの外皮は厚いからなあ。肉まで届けばいいが、剣で斬ったところで皮一枚か? そのあたりは、セレスも考えていたが……)


 ビッグホーンに勝つには、分厚い外皮を破る必要がある。しかしながら斬れたところで、大したダメージにもならないだろう。まさにかすり傷。

 オーガたちが解体したときは死んでおり、同じ場所を大型の解体具を使って、一生懸命に切っていた。

 今回は動き回るのだ。一筋縄ではいかないだろう。


「アーシャとソフィアは、あまり近づくなよ?」

「はい。さすがに私たちは速く動けません」

「あったり前よ! 踏まれたらペシャンコっしょ」

「遠くでも立ち止まっては駄目ですよ?」

「セレスの言ったとおりだ。位置取りを間違えるな」

「分かってるわよ!」

「旦那様、私はフェブニス隊の斉射が終わったら合流しますね」

「うむ。まあ効かないと思うぞ」

「それでもいいのです。では……」


 セレスは、後方を歩いているフェブニス隊のところへ向かった。

 戦闘の開始は、弓の斉射が合図となる。ヒル・ジャイアントを貫いた攻撃ならば、ビッグホーンに効果があると思ったらしい。外皮を破り貫ければ、ダメージを蓄積させられるだろう。

 もちろん効かなければ、即座に退いてもらう。


「さて……。そろそろ戦うか?」

「準備はできているぞ」

「平気ですわ」

「だっ、大丈夫よ!」

「いざとなるとドキドキしますね」

「ははっ。じゃあ、バフを掛ける」


(ゲームでは理不尽な攻撃で、一撃死など当たり前にあったな。だが、そんなことはさせん。派手な魔法は控えるが、死なないように強化させてもらう)


 フォルトは連続して強化魔法を使う。

 こういった支援系魔法の効果は、表面上に現れない。遠くで隠れているだろう覗き見には、判別ができないのだ。



【マス・フルポテンシャル/集団・全能力強化】

【マス・アイアン・ハードニング/集団・硬質化・鉄】

【マス・マジック・シールド/集団・魔法の盾】

【マス・アドバンスト・マジック・ブースト/集団・上級魔力増加】



 これは、ズルである。

 彼女たちを死なせないためには必要だった。とはいえ、基本能力を底上げするだけなので、地力が弱ければ上昇量も少ない。

 アーシャは初級の魔力増加や『奉納の舞ほうのうのまい』を使えるが、今回は踊っている暇などないだろう。それにフォルトの魔法は上級なので、使っても意味がない。

 後方からソフィアと一緒に、魔法で攻撃してもらう。


「あたしの存在意義がぁ!」

「まあまあ。では、始めるぞ」



【ファイア・ボール/火球】



 フォルトはアーシャをなだめたところで、上空へ向かって火球を飛ばす。それが合図となって、後方のフェブニス隊から矢が射られる。

 そして、鋭い発射音と共に加速した。矢は曲線ではなく直線で、ビッグホーンの右前脚へ、一直線に向かっていくのであった。



◇◇◇◇◇



 フォルトの眼下では、予定通り戦闘が始まっていた。

 残念ながらフェブニス隊の矢は、あまり効果がなかったようだ。数本は刺さって深く食い込んでいるが、貫くまでいっていない。

 あれでは、外皮を破れていないだろう。矢の長さなど知れている。貫けなければ、ダメージを与えられない。


「ふむ。やっぱり大型は違うなあ」

「旦那様!」


 フェブニス隊と一緒に矢を射たセレスが戻ってきた。

 フォルトは高度を下げて、軍馬と並ぶように飛行する。


「駄目だったな」

「仕方ありませんわ。退いてもらいました」

「下手にビッグホーンの目を引くと危ないからな」


 フェブニス隊がビッグホーンの目に留まると、走り出して踏み潰される。

 大型魔獣の歩幅はお察しだ。あっという間に追いつかれて煎餅になるので、すぐに退いていった。

 ここは平野なので、隠れられる場所は少ない。それでも木や岩陰なら、ポツポツと点在している。

 他の敵に見つかっても拙いので、カーミラと一緒に隠れてもらう。



【ウインド・カッター/風刃】



【ファイア・ボール/火球】



 アーシャとソフィアが同じ軍馬へ乗って、それぞれ習得している魔法でビッグホーンへ攻撃している。距離的には二百メートルほど離れているが、それでも見上げるほど大きい。

 フォルトの強化魔法が凄いのか、いつもより数段威力が高い。


「ブモ? ブモォォ!」


 こちらの攻撃に気付いたようで、ビッグホーンはゆっくりと地面を見回している。しかしながら、その目にフォルトたちは映っていない。


「セレスも強化しておくぞ」

「ありがとうございます。旦那様」


 フォルトは、他の身内へ使った支援系魔法をセレスに使う。これで、全員の強化が完了である。上級魔法を連続して使ったので、魔力の消費が激しい。それでもまだ、大量に残っている。さすがは魔人だった。

 今回は、中級までの攻撃魔法で参加する。そうすることで、人間の魔法使いだと思わせる。上級の攻撃魔法は、一回か二回が限度だろう。

 それ以上だと、元勇者チームのシルキーと同格に見られない。


「アーシャ、どうだ?」

「威力は上がってるけどねえ。あたしの魔法は初級だしぃ」

「ま、まぁ頑張ってくれ。魔力が無くなっても近づくなよ?」

「もっちろーん!」


 アーシャは明るい。

 なにかあれば、フォルトに守ってもらえると思っている。間違いではないが、なんとか頑張ってほしい。


「ソフィア」

「私もアーシャさんと同じです。中級は何個か使えますが……」


 ソフィアは中級魔法が使えるが、その数は多くない。それでも、最近になって覚えた魔法なので使ってもらう。

 魔力の消費は激しいだろう。


「そうだな。魔力が無くなっても逃げるなよ?」

「逆に危ないですからね。魔力が回復したら攻撃します」

「そうしてくれ」


 ビッグホーンから逃げると、視界へ入って追いかけられてしまう。

 作戦通りに動くほうが安全だろう。ソフィアはアーシャと一緒に、魔力が無くなったら回避に努めてもらう。今回は長期戦になるのだ。

 魔力は時間とともに回復するので、そのときに攻撃すれば良い。


「セレス、俺はティオとレイナスのところへ行く」

「はい。御武運を……。『邪矢じゃや』!」


 セレスは援護の矢を射てくれた。

 フォルトは飛行速度を上げて、ビッグホーンの右前脚へ接近する。その周囲では、すでにベルナティオとレイナスが戦っていた。


「やああっ! 『魔法閃まほうせん』!」

「ふん! 『剣風斬けんぷうざん』!」


 二人は遠距離攻撃に終始していた。

 当たり前の話だ。ビッグホーンは動いており、軍馬から飛び移るなど危険極まりない。ちょっと足を動かすだけでぶつかり、下手をすると踏まれる。

 足の太さも、相当な幅がある。巨大な柱が迫ってきても避けられないだろう。近づいているが、それでも離れて戦っているのだ。


「作戦通りか」

「だが、軍馬が持つかな?」

「走りっぱなしだしな。まあ、足を壊すまでだ」


 セレスの考えた作戦は、足を壊して動けなくすることだった。

 ゲームでいうところの部位破壊である。ビッグホーンは牛の魔獣だ。前方への突進力はあるが、左右へ体を向けるのは苦手だった。それでも前方へ円を描くように走って、向きを変える。

 戦術としては、死角になる側面へ位置して攻撃する。今回は右前脚が目標なので、右側面へ移動するのだ。

 だからこそ、軍馬は大変だった。ビッグホーンが軽く移動しただけで、全力を出して追いかける必要がある。



【ライトニング/電撃】



 ベルナティオと話したついでに、フォルトも魔法を撃っておく。

 指先から青白い電撃が、直線で放たれる中級の雷属性魔法だ。この魔法は物体を貫通するので、右前脚と左後脚にダメージを与える。

 なかなか味のある攻撃だった。自分でもれぼれしてしまう。攻撃後のビッグホーンは、電撃が当たった足にしびれを感じていた。

 動きが鈍くなったようだ。


「ブモオォォオオ!」

「うるさい奴だ。二人は今のうちのに移動しろ!」

「レイナス! すぐに動きだすぞ!」

「はいっ! 師匠!」


 さすがに分かっている。威力を落とした電撃の痺れなど、すぐに回復してしまう。そこで、ベルナティオとレイナスを死角へ移動させる。

 ビッグホーンは大きな動きをしたり走り出すと、かなりの石礫いしつぶてが飛んでくる。それに当たっても拙いのだが、身内の全員は、強化魔法で鉄のような硬さにしてある。当たっても痛くないだろう。

 多少の傷ならば、セレスが治癒してくれる。それでも、軍馬へ当たらないようにしていた。避けたり遠距離攻撃で砕いたりしている。

 そして、予想通りビッグホーンが走り出した。


「フォルト様!」

「ん?」


 フォルトは追いかけるが、レイナスから呼ばれたようだ。遅れたのかと思って振り向くと、なんと軍馬が疲れきって止まっている。

 この状況は拙いので、反転して近くへ移動した。



【サモン・バイコーン/召喚・二角獣】



 このまま立ち止まっていると、ビッグホーンの動きについていけない。レイナスが危険なので、フォルトはバイコーンを召喚して乗り移らせる。

 残った軍馬など知ったことではない。


「ありがとうございます」

「早く乗れ! 行くぞ!」

「はいっ!」


 話している暇などない。だいぶ、ビッグホーンから離れてしまった。

 この魔獣は、走り出して止まったときが危ないのだ。そのときに視界へ入っていると、確実に突進してくる。確認してから避けても無駄だ。

 相手は五十メートル級の魔獣なのだから……。


(レイナスの馬が駄目なら、みんなの馬もそろそろだな。バイコーンは一頭ならいいが、五頭も召喚したら拙いよなあ?)


 残念ながら替え馬など用意しておらず、徒歩などもってのほかだ。軍馬ですら、かず離れずができない。

 走り出されれば離される一方である。止まるときに歩くので、そのときに追いついて、側面へ位置するしかない。



【マス・インジビリティ/集団・透明化】



 フォルトは、レイナスとバイコーンを見えなくする。

 今のままでは視界へ入り、踏み潰すつもりで突進されてしまう。牛に魔力探知などできないので、視界から隠せば見つかることはない。


「みんなに追いついたら解除するからな」

「はいっ!」

「行けっ!」


 最初から消えれば良いのだが、それだと連携が取りづらい。気配や魔力探知で存在は分かるだろうが、やはり見えていたほうが連携が取れる。

 そして、フォルトは速度を上げて、ベルナティオへ追いつく。それから周囲を見渡すと、おっさん親衛隊は作戦通りに戦っていた。

 あまりダメージを与えていないようだが、フェブニス隊の矢が刺さった部分の外皮がめくれていた。


「もう少しで肉を見せられるな。だが、馬が限界だから……」

「どうした?」

「ソフィアたちと合流しろ」

「何かやるのか?」

「もう足を壊す。次に走り出したら近づくな」

「分かった」


 ビッグホーンの右前脚はまだまだ元気に動いているが、このあたりで動きを止めないと拙い。そこで、ベルナティオを下がらせて後衛と合流させる。

 それでもおっさん親衛隊は、攻撃の手は緩めていない。遠距離攻撃と魔法攻撃で、ビッグホーンの右前脚を傷つけている。同じ場所をしつこく攻撃しているので、その部分の外皮ががれて肉が見え始めている。


「ブモオォォオオ!」

「だから……。うるさいって!」


 さすがに肉へダメージが入り始めたので、ビッグホーンは痛がっているようだ。その場で足を振り上げて、地団駄を踏んでいる。

 そして、またもや前方へ移動を開始した。これをフォルトは待っていた。



【エクスプロージョン/大爆発】



 最近よく使用している上級の爆裂系魔法を放つ。すると、走り出したビッグホーンの右前脚で大爆発が起こった。

 それでも威力を抑えているので、残念ながら砕け散っていない。右前脚からは、煙が立ち昇っていた。

 これで、上級魔法は打ち止めだ。シルキーは何発も撃てないと言っていた。


「ブモオォォオオ!」

「分かった分かった」


 ビッグホーンは走っている勢いのまま、前のめりに倒れていった。

 おそらく、右前脚に負荷が生じて骨が折れたのだろう。煙が晴れてくると、その予想が当たっていた。

 あの巨体だ。起き上がるまで、時間がかかるはずだった。


「行くぞ! 頭を潰す!」

「「はいっ!」」


 おっさん親衛隊から、気合の入った声が返ってきた。

 これは面白い。ズルをしたが、なかなか良い勝負になっている。フォルトは、身内と一緒に戦うのが楽しくなってきた。

 そして、ベルナティオとレイナスを先頭にビッグホーンへ近づく。起き上がろうとしているが、思うように立てないようだ。いきなり右前脚が折れて、バランスを取るのが難しいのだろう。

 それでも、すぐに慣れると思われる。


「ティオ、レイナス。行けるか?」

「私はな。レイナスは無理だろう」

「なら……。俺につかまれ」

「はいっ!」


 フォルトはバイコーンへ近づいて、レイナスを抱え上げる。

 それから速度を上げて、ビッグホーンの頭上へ飛んだ。


「落とすぞ?」

「いいですわ。目を潰しますわね」

「うむ。潰したら、すぐに飛び降りろ」

「はいっ!」


 フォルトはビッグホーンの頭上から、右目の部分へレイナスを落とす。

 彼女は聖剣ロゼを後ろへ引いて、突きの構えの状態で落ちていった。


「はぁぁぁあっ!」


 レイナスが気合の入った声を上げて、ビッグホーンの右目に、聖剣ロゼを突き立てた。眼球は柔らかいとはいえ、さすがの切れ味だ。

 その攻撃による痛みで、まぶたが閉じられていく。しかしながら、その行動は織り込み済みで、自身の持っている最強のスキルを発動させた。


「いきますわ! 『氷結樹ひょうけつじゅ』!」


 レイナスのスキルは、聖剣ロゼで付けた傷口の先から氷の樹を発現させた。それはビッグホーンの眼球を完全に潰して、瞼を切り裂き凍らせる。

 そして、血で染まった花を咲かせるのだった。


「フォルト様!」


 レイナスはすぐに聖剣ロゼを引き抜いて、ビッグホーンの頭から飛び降りた。フォルトがどこにいるかなど確認していない。

 もしも彼女を見失っていれば、地面へ激突してしまうだろう。しかしながら、そんなことになるはずもない。



【タイム・ストップ/時間停止】



 落ちてくる女性を受け止められるほど、フォルトの動体視力は高くない。よって、時空魔法でズルをする。

 おっさんなので、これで良いのだ。


「よっと」


 時間が止まっているのはレイナスだけだ。

 空中でピタッと止まっている。なかなか面白い光景だが、フォルトは彼女に近づいて、両腕を前に出した。

 これなら誰でも受け止められる。


「ふふっ。ありがとうございます。ちゅ」

「でへ」


 レイナスからすれば、御伽話おとぎばなしの王子様に抱かれた気分になっただろう。とろけた表情で、フォルトに口付けした。

 それは良いとして、ビッグホーンは死んでいない。まだ片目を潰されただけだ。眼下では倒れた状態で無差別に暴れ始めてしまった。

 あれでは近づけないが、ベルナティオが近くにいたはずだ。


「ティオ!」


 フォルトはビッグホーンの近くを見るが、ベルナティオの姿がない。それに軍馬の姿も見えない。

 それでも潰されたとは考えていなかった。


「ふん! 頭蓋を割ってやるわ! 『縮地しゅくち』!」


 ベルナティオはビッグホーンの腹回りを、バランスよく走っていた。

 時折消えたかと思えば、遠くへ現れる。瞬間移動のようだが、『縮地しゅくち』とは猛ダッシュするスキルである。

 それを繰り返しながら、ドンドンと頭を目指していた。大きく暴れるときに使っているようだ。

 加速力を活かして、バランスが崩れるのを防いでいる。


「『一意専心いちいせんしん』」

「『気剣体一致きけんたいいっち』」

「『金剛こんごう……』は要らないか」


 そして、ビッグホーンの側頭部へ到着したベルナティオは、スキルを立て続けに使う。目指している剣の道を踏襲する気だった。

 つまり、一撃で決めるのだ。


「ブモオォォオオ!」

「死ね! 『月影つきかげ』!」


 ベルナティオが側頭部へ向かって抜刀する。それに合わせて、空気を切り裂くような鋭い音がした。

 そして、音が消えた瞬間に、ビッグホーンが動かなくなった。うるさい声も発していない。それすらもやれない状態だ。

 よく見ると、側頭部から血が噴き出している。本当に一撃で仕留めたようだ。頭蓋が割れて、脳まで真っ二つにしていた。


「きさま! 受け止めろ!」

「ちょ、ちょっと待って!」


 さすがに切り口が広く、大量の返り血を浴びている。しかも、真っ赤に染まったベルナティオが、ビッグホーンから飛び降りた。

 フォルトはレイナスを抱えた状態だった。それでも飛び降りてきたので、時空魔法を使って空中に止めた。

 そして、片手を空けて受け止めるのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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