第380話 ルート侵攻開始3
※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵で、ルリシオンが追加されています。
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レジスタンス、冒険者チーム、ターラ王国兵の混成部隊は、作戦会議で決めたルートで、侵攻を開始している。奪還した町から西周りに進むルートだ。
レジスタンスのリーダーであるギーファスは、元勇者チームを傍らへ置いて、各部隊への指揮を執っていた。
軍務尚書が、町から出ずに戦況を見ているためだった。見たところで何も分からないだろうが、指示があっても無視するつもりだった。
「連携は……。なんとか取れているようだな」
ギーファスは、レジスタンスで固めた本隊を後方へ配置している。
その中でも元ターラ王国兵や冒険者だった者を、部隊として組み込んでいた。他の非戦闘員は、補給部隊を担当している。
「ギーファスさん、私たちは出なくていいのかしら?」
「シルキー殿、まだ平気だ。この程度の数ならば問題ない」
「そうですか? 私たちは楽でいいですけど」
「元勇者チームは切り札になる。力を温存しておいてくれ」
「分かりました」
ギーファスが言ったように、ルート上の魔物は少ない。多くても、数十匹が同時に襲ってくる程度だ。しかも、弱い魔物ばかりである。
基本的には、フレネードの洞窟から
その内訳は、ジャイアントスパイダーやセンチピードなどの魔物だ。昆虫型で大きくカサカサと動いて、人間には忌避感が強く気持ち悪い。とはいえ、それらとの戦闘は、冒険者とターラ王国兵が慣れている。
何度も町へ襲ってきたからだ。
「おい! そろそろ部隊を交代させろ」
「「はっ!」」
ギーファスは、近くにいる伝令役へ指示を出した。
各部隊は交代で魔物を倒している。朝と昼と夜の三交代制だ。ルートは領域ごとに区切られており、魔物を討伐したところで休憩へ入る。遠回りだが、おおよそ二十個の領域を通れば、フレネードの洞窟へ到着する予定になっていた。
様々な地形があって難儀するが、休憩する場所は、見晴らしの良い平野を選択している。魔物に発見されやすいが、こちらも発見しやすい。
それ以外の地形だと、疲労の回復に不向きなのだ。現状の戦力差であれば、問題なく体を休ませられる。
そして、進み過ぎると補給部隊が追いつかないので、数日待機することもある。
「伝令! シルバーセンチピードが現れました!」
「シルバーか。ファナシア、ボイルたちに出てもらえ!」
「はいっ!」
副官として、ファナシアを使っている。冒険者チームはCランクとDランクが討伐に当たり、Bランク以上を温存させている。
シルバーセンチピードであれば、Aランク冒険者チーム「聖獣の翼」が出ないと倒せない。このようなときに温存していた冒険者チームを出撃させる。
元ターラ王国騎士団長としての采配が光る。
「シルキー殿。ローゼンクロイツ家は?」
「
「ちっ。勝手に動きよって」
「でも、そろそろ森の北側へ出るわ」
「薄っすらと見えるな。合流するのか?」
「確約はできないわね。もしかしたら、勝手に進んでるかも」
「ふん。いまさら合流されても困るのだがな……」
ローゼンクロイツ家。
エウィ王国からの援軍だが、アルバハードとして仲裁役もやっていた。そのため、話に乗ってソル帝国と停戦した。
だが、感謝している者は一人もいない。とにかく心証が悪いのだ。一緒に戦いたくない者が多数を占めていた。
「なぜあんなのが、援軍に選ばれたのやら……」
それは、当主であるフォルトの言動とファナシアが捕虜となった経緯による。
他にも人間でありながら、魔族の貴族を名乗っていた。魔族は人間の敵である。いくらエウィ王国の援軍であろうとも、好意的に見られるものではない。
「合流すると、士気に関わるでしょうね」
「うむ」
「何度か話したけど、ほぼ合流はないわ」
「だろうな。勝手に進んで、勝手に死ぬのは構わん」
「ふふっ。同じことを言ってますよ」
「うーむ。俺も同じということか」
フォルトは、ローゼンクロイツ家の者しか助けないと公言した。優先したいのは分かるが、他の人間は死ねと言った。それは容認できない。
魔物に限ったことではないが、戦いとは命の奪い合いだ。一緒に戦う者を信用して命を預ける必要がある。
それがやれなければ、強大な敵と戦えるものではない。弱い魔物と言っても、それがやれているから倒せるのだ。
「そうは言っても、ギーファスさんは助けるでしょ?」
「気に入らなくても、苦戦してるなら助けるのは当たり前だ」
「でも、あの人は見捨てるでしょうね」
シルキーに言われるまでもなく、ギーファスから見たフォルトはそういう男だ。だからこそ、勝手に動いても探していない。
それでも、居場所は知っておきたかった。迷惑な動きをされても困る。
「リーダー、戻りました」
「ファナシア、どうだった?」
「急いで出撃しました。ボイルさんたちなら平気だと思います」
「そうだな。他の魔物も倒しきれそうだ」
「なら、本日はここで?」
「休憩する。補給部隊を追いつかせろ!」
「はいっ!」
先日の作戦会議では、ソフィアが作戦の立案をした。しかしながら、実際の侵攻作戦は、ギーファスが主導している。
ローゼンクロイツ家が姿を消したからだ。町で見た者はいたが、どこを探しても発見できなかった。
現場の指揮は任されていたので問題ない。それでも、大変な作業だった。元勇者チームが手伝ってくれなければ、出発すらしていないだろう。
「ふぅ、しんどいな。前線で戦ってたほうが楽だ」
「指揮官はそういうものですわ」
「それにしても、うまく行きすぎてるような気がするが……」
「予想外の出来事は想定して然るべきね」
「分かっている」
ギーファスは話ながらも戦況を見ている。
このまま何事もなく侵攻できれば、大した被害も受けずに、フレネードの洞窟へ到着するだろう。
「さて、そろそろボイルたちも倒してくれたかな?」
魔物と戦っている部隊の手も空いてきたようだ。
現在は掃討作戦へ移行している。手の空いた部隊は、戦闘中の部隊へ救援に向かっていた。混成部隊とはいえ、なかなか統率されている。
それが終われば、天幕などを用意する必要がある。そこまで考えたところで、ファナシアが戻ってきた。
しかも、悪い知らせを持って……。
「リーダー!」
「どうした?」
「補給部隊が襲われています!」
「なにっ! 魔物は討伐したはずだぞ!」
「北東から大量の魔物が現れたそうです!」
「多くの魔物がいる領域だな。無事なのか?」
「こちらへ必死に向かっているとのことです!」
「手の空いてる部隊から救援へ向かわせろ!」
「はいっ!」
「シルキー殿、悪いな。元勇者チームも行ってくれ」
「分かったわ。プロシネン、ギル、行くわよ!」
ルート上は魔物を討伐すれば、暫くは平気だと言われていた。しかしながら、ここへきてルートが塞がれそうだ。
そうなると、ギーファスたちは孤立して拙いことになる。そこで、最大戦力の元勇者チームを向かわせる。
こういったときのために温存していたのだが、早速使う羽目になった。
「予想外か。まさかな……」
これもローゼンクロイツ家のせいなどとは言わないが、何か予感めいたものを感じた。だがそれも束の間のことで、とにかくルートを死守する必要がある。
ギーファスは各部隊へ命令を送りつつ、作戦の練り直しを迫られるのであった。
◇◇◇◇◇
冒険者とターラ王国兵が、必死に奪還した町は三カ所あった。現在の拠点で元勇者チームが奪還した町は、一番西側の町である。
その町をフォルトたちは通過した。特に何をやったわけではないが、姿を見せることで存在をアピールしている。
通過した後は、すぐさま東へ向かった。
「きさま。見られていたぞ」
「誰に?」
「青い
「ふーん。どこから?」
「壁の上からだ」
「ご苦労なことで……」
「まあ、すぐに消えたがな」
「ティオに恐れをなしたのさ」
「どうだかな」
フォルトに人の気配など分からない。
ソフィアから言われるがままに、町を通過しただけだ。すでに元勇者チームのシルキーと出会ってしまったが、残りの面々とは出会いたいたくない。近寄ってこなければ問題なかった。
だが、会いたかったであろう人物が一人いる。
「ソフィア、会わなくて良かったのか?」
「はい。フレネードの洞窟で合流しますしね」
「そうだったな。囮でも到着してもらわないとな」
元勇者チームはもちろん、冒険者やレジスタンスも、フレネードの洞窟へ到着してもらう必要がある。
さすがにおっさん親衛隊だけでは、魔物が溢れ続けている洞窟など死地へ飛び込むようなものだ。基本的には、冒険者たちと交代で対処することになる。
そこからが、レベル上げの開始だ。
「御主人様、帝国兵はいいんですかね?」
「うん?」
「カーミラさん、人数の話ですか?」
「そうでーす! 少なくないですかあ?」
「あんなものですわ。先遣隊ですので……」
「ほう。セレス、詳しく!」
現在は、帝国軍が出した五十人の非戦闘員と二十人の帝国騎士が後方にいる。ソル帝国は奪還した三カ所のうち、一番東側から出発して合流した。
指揮官は、ランス皇子からフォルトたちへ付けられていた、帝国騎士ザイザルだ。何か可哀想な扱いをした記憶はあるが、それなりに偉い人物だったようだ。
「まずは、補給ルートを確保するが先決ですわ」
「ほうほう」
「食料や水、弓矢などの消耗品を運んでもらっていますね」
「なるほど」
ソル帝国の第三軍からは、二千人の兵を出してもらった。そのうち騎士団が五百人で、残りを補給部隊と工兵部隊が担っている。
工兵部隊は、資材を本国から輸送している最中だった。それが到着次第、出発して合流するらしい。
現在フォルトたちと一緒に行動するのは、補給部隊と護衛の一部である。食料や水はもちろん、ダークエルフ族の戦士隊が使う矢などを運んでいた。
それらは進むたびに待機して、ピストン輸送を担当する。
「なら、魔物はすべて倒していくのか?」
「すべてではないですが、ルート上に出ないようにですね」
「結構広いぞ。難しくないか?」
「そのための騎士団ですわ。危険な魔物だけ倒せば大丈夫です」
「ほうほう」
こちらのルートは、スタンピードで溢れた魔物がいるわけではない。少しは存在しているが、もともと魔物の領域である。そこの魔物を狩っていくのだ。
溢れた魔物は弱いため、本来の領域に存在する魔物には勝てない。逆に餌となっている。そういった意味では、おっさん親衛隊が来て正解だろう。
領域には様々な魔物が存在するが、そのうち危険な魔物だけ狩れば良い。残った魔物は弱いため、騎士団で十分に対応が可能である。
前線には出さない約束だが、ルートを確保すれば前線ではなくなる。そこを襲う魔物の対処は、自軍部隊を護衛する騎士団の仕事だ。
「で、何がいるんだ?」
「えっと……。あれですわ」
フォルトたちは、緩やかな丘を進んでいる。
セレスの視線の先を見ると、丘の先に人間の頭のようなものが、大量に動いているのを発見した。
見つかると襲われそうなので、近場の岩陰へ隠れる。
それでも、岩陰に隠れきれていない。
「なんだあれ?」
「丘を越えた先に、ジャイアントがいますね」
「ジャイアント……。巨人か!」
「ヒル・ジャイアントですわ。丘の巨人ですね」
「ほうほう。初めて見るな!」
「オーガより大きいですよ」
ヒル・ジャイアント。
丘に住むため、丘の巨人と呼ばれている。身長は五メートルぐらいで、オーガよりも
その意味では、オーガのほうが賢い。
「話すことはできないのか?」
「まず言葉が通じません。何も考えず襲ってきますわ」
「なんて迷惑な……」
戦うとなれば、近場の岩を投げたり
それでも、オーガより高い筋力を持っている。石斧が壊れても、素手で殴りつけてくる。もちろん当たれば、致命傷となってしまう。
そして、捕まれば食べられる。まるで、どこかで聞いたような巨人だ。
(五メートルぐらいか?
ヒル・ジャイアントは、群れを形成している。
二十体ぐらいの集団で、領域内に点在しているらしい。その中にはボスがおり、他の巨人を従えている。
「ティオ」
「ふん、問題ない。でも、数が多いな」
おっさん親衛隊なら倒せるようだが、如何せん数が多い。
そこでフォルトがフェブニスを見ると、戦士隊の一人が後ろへ走っていく。魔物を発見した場合は、帝国軍の補給部隊を待機させる必要があった。
「知らせてくれたようだな」
「ああ、それぐらいの雑用はやるさ」
「ダークエルフ族ならどう?」
「倒したことはある。まぁ俺たちが数を減らそう」
ダークエルフ族の戦士隊は、後方から弓で支援してもらう予定になっている。
フェブニスの話だと、戦士隊で数を減らしてくれるそうだ。とはいえ、五メートル級の巨人である。
弓矢では、ビクともしないように見える。
「減らせる?」
「目を狙えばやれる。なぁセレス殿」
「ふふっ。旦那様、大丈夫だと思いますよ」
「凄いな!」
「ははははっ! ダークエルフ族は弓の名手ばかりだぞ」
「いやあ。尊敬する」
巨人とはいえ、相手は動いている。目を狙って射貫くのは奇跡に近い。
オリンピックへ出場するようなアーチェリー選手だと、命中率は九十九パーセントあるらしい。しかしながら、それは的に当てるだけであり、道具が良いからだ。ダークエルフ族の弓は、原始的な作りをしている。
それでも、自信満々のようだった。
「よし! ぜひ見てみたい!」
「任せておけ!」
「みんなは……」
「弓の斉射が終わったら、レイナスと一緒に突っ込む」
「任せる。では出発」
これは、お手並み拝見だろう。
ちなみにフォルトの魔法の矢なら、命中率は百パーセントだ。敵を追尾する魔法なので当たり前である。
そんなことを思いながら、前進を開始する。
「俺たちに気付かないな」
「御主人様、何かを食べているようですねえ」
「なら、このあたりでいいか。ティオ! レイナス! 止まれ!」
フォルトが乗っているスケルトン神輿の周囲には、アーシャとソフィアとセレスがいる。そこから三十メートル先に、ベルナティオとレイナスが立っていた。
気付かれるように近づいたので、数体の巨人がこちらを発見したようだ。持っていた何かを後ろへ放り投げ、石斧を持って歩いてくる。
「「ウゴオォォォ!」」
「気付くのが遅いな」
「大きな虫を必死に食べてましたよお」
「虫の魔物って食えるの?」
「分かりませーん! ポロ様なら食べますねえ」
「虫はいいや。さて、俺たちは観戦しよう」
「はあい!」
武器を抜いたベルナティオとレイナスは、互いの距離を開きつつ待機するようだ。巨人の大きさから判断しているのだろう。
それらは走ってこないが、歩幅が広いせいで、ドンドンと近づいているように見える。フォルトは少しずつ、後ろへ倒れ込むように見上げる格好をとった。
そのとき、後方へ戻ったフェブニスから大声が聞こえた。
「弓、構え!」
「「はいっ!」」
ダークエルフ族の戦士隊が、一斉に片膝を地面へつけて弓を構えた。
それを確認したフェブニスが、精霊魔法を使う。
「風の精霊シルフよ。我が声に応えて舞い踊れ!」
【ウインド・ダンス/風舞】
フェブニスの肩へ、薄い緑色の羽がある妖精のような女性が現れる。
これが、シルフと呼ばれる風の下級精霊だ。その精霊は戦士隊の前へ飛ぶと、まるで踊るように
目では見えないが、その位置にだけ風が舞っている。
「撃て!」
そして、巨人へ向かって一斉に弓から矢が放たれた。それはシルフが消えた場所を通ったところで、鋭い発射音と共に加速する。
風に撃ちだされた矢は、寸分たがわず巨人の目を射抜いた。刺さったのではない。貫いたのだ。
これが、風の精霊魔法を組み合わせた弓術だった。
「「グオォ……」」
戦士隊の攻撃によって、目から脳を貫かれた巨人は地面へ倒れた。まさに、一瞬の出来事だ。どんなに
そして、ダンスと聞いたアーシャが黙っているはずがない。
「「情熱の舞姫」を忘れないでよね! 『
アーシャの踊りは、味方の全員に効果がある。
このスキルの効果によって、ダークエルフたちも筋力が増加され、さらに矢の威力が増すだろう。
「ふふーん。これもね!」
フォルトがアーシャにプレゼントした音響の腕輪から、周囲にクラシカルなダンスミュージックが流れ出した。
それが合図となって、ベルナティオとレイナスが、ヒル・ジャイアントの群れを目指して走り出したのだった。
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