第373話 フレネードの洞窟へ1
紺色の超ミニワンピース。
脇の部分が大きく開いて、隙間から柔らかそうなものが見える。胸元はユッタリとして、
つまり……。
「履いてない?」
この超ミニワンピースに合わせて、焦茶色のプラチナ製の肩パッド付きマントを羽織る。後は緑色のロングブーツを履いて、同色のアームウォーマーに腕を通せば完成である。名付けて、エロ仕様シンプルエルフセット。
セレスが着ると、まるで森の妖精である。
「旦那様、履いてないとは?」
「ああ、こっちの話。でへ」
「御主人様にしては普通ですね!」
「そうか? 空と森と大地をイメージした色合いを見ろ!」
「普通ですよね?」
「その中に
「た、確かにスースーしますが……」
「というわけで、いただきまーす!」
「あんっ!」
ターラ王国に設営されている帝国軍の駐屯地。
その近くの小屋へ戻ったフォルトとカーミラは、おっさん親衛隊と合流を果たす。彼女たちは、数日前に到着していたようだ。
現在は成分を補充中である。エロ仕様シンプルエルフセットを着用したセレスに欲情して、いつもの行為を始めた。
「履いてた……」
「はぁはぁ。もう、旦那様!」
「ははっ、こっちはどうだった?」
「ちゅ。
「討伐の要請が?」
「いいえ。フェブニスさまの試練を邪魔するなと……。ちゅ」
「ご、ご愁傷様だな。でも、頻度が上がったとなると」
(洞窟から出てくる魔物が、毎日のように増しているようだな。ならさっさと洞窟へ向かい、強い魔物で狩りをするのが一番か)
フレネードの洞窟から湧き出る魔物は、強い魔物に追い出されているのが現状だ。その強い魔物も増えすぎると出てくるので、早急な対処が求められるだろう。
もちろんフォルトたちは、そんな対応をするために向かうわけではない。
「そういえば、例の件は明日だっけ?」
「はい。人選はどうしますか? ちゅ」
「全員で行く。まあ、護衛のような感じだな」
「ふふっ。なら、みんなには伝えておきますね。ちゅ」
「御主人様!」
「うん?」
「ちゅ」
「でへでへ」
セレスの猛攻撃を
このままでは、フォルトの
だが今は、『
「さあ、外で飯を食うか!」
「「はいっ!」」
やることはやったので、フォルトはおっさんの姿へ戻った。
夕飯も近いため二人と一緒に外へ出て、簡易テラスの椅子へ腰かける。目の前ではアーシャが、服のデザイン画を考えていた。
小屋の近くにはソフィアがいる。離れた場所には、ベルナティオとレイナスが警戒にあたっている。
セレスは小屋から離れて、テラスにいない彼女たちを呼びにいった。
「まだこっちを
「たまにね」
アーシャが難しい表情をしながら、フォルトの問いに答える。
ソル帝国軍の駐屯地が近くにあるため、こちらは監視されている。しかしながらクウを外に出さないでいたので、特に目立った動きもないようだ。
「フォルトさん、フィロって
「見事なウサギ耳」
「へぇ。尻尾は?」
「無かった……。気がする」
「獣人族は耳だけだっけ。付ける?」
「もちろんだ! メイド服のほうは……」
「エロオヤジに合わせてあるわ」
「ナイス」
フォルトは満面の笑みを浮べつつ親指を立て、腕をアーシャの前へ突き出す。面体がおっさんでも、少しは爽やかに見えるかもしれない。
おっさん嫌いの彼女は、何も言わずに微笑んでいる。ちなみに今でも、フォルト以外のおっさんは嫌いらしい。
「レティシアはまだかしら?」
「そうだなあ。戻ってるかもしれん」
「迎えに行く?」
「あ……。クウを向かわせてある」
小屋へ戻ってきたときに、影武者だったクウを瓢箪の森へ送ってある。
レティシアが戻っていたら知らせてもらうつもりだった。今はペッタンコファナシアに変身して待機中だろう。
「レティシアの服は、どっちがいい?」
「ふむふむ」
アーシャが二枚の紙を渡してきた。
それを受け取ったフォルトは、頬を緩ませながら確認する。
(まんまだな。こっちも……。た、確かに出会ったときはこうだったがな。直接的過ぎる気が……。ん? でも、装飾品を付ければ……でへ)
「御主人様がイヤらしい顔をしています!」
「気に入ったっしょ」
「う、うむ。まあ、ボロいローブは必要だな」
「そりゃあね。でも、ボロくていいの?」
「いいのだ。どうせ肌を隠すだけだ」
「そうだけどねえ。ボロいローブだと、怪しさ満点ね」
「それもいいのだ」
ボロいローブを脱いだら、凄い格好をした女性が現れる。
なんとも
それがフォルトというおっさんである。
「そうだ。アーシャの武器はどうする?」
「武器?」
「鉄の剣でいいのか?」
「使い慣れてるけど、あたしの位置だと使わないわね」
「扇とか?」
「それって、フォルトさんの時代じゃ……」
「あっはっはっ! ボディコンのお姉さんが扇を振り回してたなあ」
現代のクラブではなく、ディスコの名残だ。
バブルと呼ばれる時代を象徴するものであった。その崩壊とともに不景気となり、フォルトのような氷河期世代が一番に割を食った時代へと突入した。
「はぁ……。苦労して就職したらブラック企業だった」
「そっ、その話はいいっしょ! 今を楽しもう!」
「そっ、そうだな!」
「こんなに可愛いギャルが近くにいるのよ!」
「御主人様! こっちにもでーす!」
「でへ」
アーシャが椅子へ座っているフォルトの膝の上に乗ってきた。
片足にすばらしい感触を感じ、だらしない表情になる。隣に座っているカーミラも負けじと腕を組んできたので、さらにだらしなくなった。
「じゃあ、
「槍かぁ。訓練所で習ったけど踊りづらくなるわ」
「なるほど。なら、やはり扇だな」
「ナイフのように斬れる扇なら使えそうね」
「そうしよう。紙をちょうだい」
服などはアーシャのほうが詳しいが、武器となるとフォルトのほうが詳しい。絵はお察しだが、描いた後に機能などを書き入れる。
後で清書してもらえば良い。
「御主人様、みんなが戻ってきたよお」
「おっと」
フォルトが絵を描いていると、他の身内が戻ってきた。
それを確認したカーミラが立ち上がり、他のテーブルへ移動した。そのテーブルにはレイナスとセレスが向かって、料理の準備を始める。
小屋へ戻って早々、ベルナティオへフィロの件は話してある。久しぶりに会いたいようだが、目的を達成してからで良いらしい。
昔からの知り合いなので、お互いのことは分かっているようだ。
「フォルト様、明日は早いですよ」
「どこでやるの?」
「首都の冒険者ギルドです」
「へえ。そんなに大人数は入れなさそうだな」
「ソル帝国から三人、レジスタンスから三人と聞いています」
アルバハードが仲裁へ入ることで、数日の間は停戦状態に入っている。今ならば、レジスタンスも大手を振って首都ベイノックへ入れた。
停戦の内容に関しては、各陣営から担当者を出して決める。そこで合意が得られれば、正式な停戦になる。
そうなれば、フレネードの洞窟へ向かう作戦会議へ移行する。停戦交渉の次の日に開始する予定だが、合意が物別れに終わる可能性もあった。
「なら、俺はソフィアとセレスをつれて参加しよう」
「他の人たちは、一階で待てば良いと思います」
「きさま。どちらかは私と変わったほうがいい」
「そうか?」
「護衛というやつだ。他も三人のうち一人はそうだろう」
三人の内訳は、代表・官僚・護衛になると思われる。
ソル帝国であればランス皇子は出席しないだろうが、それでも代表は高官級の人物だろう。護衛は必須であり、それはフォルトも同様だ。
人間と思われているので、たとえ要らなくても付けたほうが良い。
「そうですね。でしたら、私が参加しますね」
「俺とソフィアでレジスタンスを呼んだのだしな」
「セレスさんには、作戦会議で頭を使ってもらいましょう」
「ははっ、そうしよう。よろしくな、ティオ」
「任せておけ」
ソル帝国とレジスタンスとの正式な停戦へ向けた準備は整った。明日はターラ王国の冒険者ギルドへ向かい、合意を取るだけだ。
フォルトは簡単に済ませられればいいなと思いながら、夕飯ができるまでアーシャの武器を描くのだった。
◇◇◇◇◇
ターラ王国首都ベイノックの冒険者ギルドは、南門から進んだ大通りにある。
フォルトたちが中へ入ると、受付や事務作業の人間に目を向けられた。内部はそれなりの広さがあって、二階へ向かう階段も見える。しかしながら、冒険者らしき人たちが少ないように思える。
目に留まったのは掲示板だ。依頼の紙がズラッと並んでいると思いきや、なぜか数枚しか張られていない。
あまり繁盛していないようだ。
「なんか思ってたのと違うな」
城から放り出された異世界人は、職業紹介所か冒険者ギルドで、仕事を
空想世界での冒険者ギルドは、荒くれ者の集まりだった。戦士や魔法使いなど、さまざまな職業の者が集まって依頼をこなしていた。
仕事も多種多様に存在していたと記憶している。
「今はスタンピードの対応で、奪還した町へ出払っていますね」
「あ……。なるほどな」
「いるのは……。魔物の討伐が苦手な冒険者でしょうか」
「ああ、採取専門とか?」
「はい。魔物の討伐だけが仕事ではありませんからね」
「あ、あのう……」
ソフィアの丁寧な説明を受けていると、見知らぬ女性が近づいてきた。
どうやら受付嬢のようだ。年配ではないが、顔立ちは良く男性の冒険者に人気がありそうだ。
その受付嬢が、おずおずと話しかけてくる。
「ローゼンクロイツ家の方々ですか?」
「う、うむ。ここが会場だと聞いているが?」
「はい。皆様がお待ちになっております」
「一番最後だったか。じゃあソフィアとティオ、行くぞ」
「御主人様、待ってますねえ」
とりあえず、カーミラと他の身内は残す。
そして、受付嬢に連れられて階段を上る。二階ではソル帝国の兵士が数名と、体格の良い男性たちがいた。どうやら
兵士のほうは、完全に無視している。しかしながらもう一方は、ウロウロしながら腰を落として、下から見上げたりしている。
「ローゼンクロイツ家のフォルト様ですか?」
「うむ。その部屋か?」
「はい。どうぞお入りください」
フォルトたちは、兵士が開けた扉を通って中へ入る。
中央に置かれた長テーブルの左右には、ソル帝国の担当者とレジスタンスの担当者が座っていた。
見たことのない男性で、二人ほど足りないようだ。
「ファナシアか」
レジスタンスのほうはファナシアが座っており、残りの二人も知っている顔だ。彼女と一緒に捕虜となった男女だった。
元死刑囚と
彼女らはフォルトに良い感情を持っていない。当然のように睨んでくる。
「っ!」
「そう警戒するな。今日はバグバットの代理として来ている」
「き、聞いています」
フォルトは尊大に振る舞って、長テーブルの一番前に座る。ソフィアは右側へ座り、ベルナティオは左に立った。
これで話し合いの準備は整った。
「それでは始めようか」
「あ……。フォルト様、少々お待ちを……」
ソル帝国の担当者がフォルトを止める。
「残りの者が、そろそろ来る予定です」
「ああ、君が担当者ではないのか」
「はい。あっ! どうやら来たようです」
君と呼んだのは、名前を知らず歳が若そうに見えたからだ。
フォルトは四十代のおっさんである。ローゼンクロイツ家の当主として振る舞うので、呼び方も偉そうになってしまうのだ。
そして、入室してきた人物を見て驚く。
「フォルト殿、お久しぶりですね」
「なっ! テンガイ君か……」
なんと、帝国軍師テンガイの登場だ。
ランス皇子が参加しないのは分かっていたが、まさかソル帝国の本国から来ているとは思わなかった。
その後ろに続いて入室した男性は護衛だろうか。オーガのようないかつい顔をした大柄な騎士だ。
「お初にお目にかかる。ソル帝国四鬼将のルインザードだ」
「四鬼将?」
「フォルト様、皇帝ソルの側近です」
「ええっ!」
ルインザードは、皇帝ソルの
帝国軍師テンガイと同様に、側近中の側近である。そんな人物たちがなぜと思うが、目の前に来ているので仕方ない。
フォルトが立ち上がると握手を求められたので、嫌々ながら握り返す。
「大物が出てきたな」
「担当者が熱を出しまして」
「
「はい」
テンガイは座ったが、ルインザードは立ったままだった。
どうやら、ベルナティオを警戒しているようだ。フォルトたちとの間へ移動して、その太い腕を組んだ。
武器の持ち込みは不可なので、今は誰も持っていない。
「ルインザード殿の
「ほう。〈剣聖〉殿の耳を汚してなければ良いのだがな」
「一つ、手合わせをしたいものだな」
「もう少し若ければ受けたいですな」
「ふん! 今が絶頂期ではないか」
「そう見えましたか。光栄ですな」
お約束のように、ベルナティオが仕かける。
剣の道を踏襲するために、強者と戦いたいのだろう。しかしながら、ルインザードは軽くあしらっているようだ。
「ティオ」
「仕方ないな。今回は諦めよう」
「一生、諦めてくれ」
「んんっ! フォルト様」
ソフィアが
フォルトとベルナティオに、場所も弁えずイチャイチャされても困るとでも言いたそうだ。相手は帝国軍師テンガイと四鬼将筆頭のルインザードだ。
そしてソル帝国の参加者が大物すぎて、ファナシアやレジスタンスの面々は、一気に蚊帳の外となった。
本来なら戦うべき相手である。とはいえ、ターラ王国から追い出したいだけだ。討ち取るなど考えていなかっただろう。
声も発せずにいた。
「それでは、始めましょうか」
ソフィアが開催を宣言する。
これから始まるのは停戦へ向けた協議だが、それだけでは済まないかもしれない。それでもフォルトは演技を止めず、尊大にふんぞり返るのだった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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