第370話 エウィ王国の王子たち1

 エウィ王国の王家には、八人の王子と四人の王女がいる。

 これほど多いのは、王家の血を絶やさないためである。その関係性は家族と言うよりは、「物」という認識だった。

 エインリッヒ九世の視点で考えると、第一王子のハイドを除き、他はすべて予備である。王女に至っては、政略結婚の駒であった。

 その予備のうち八男のブルマンは、ローイン伯爵家に養子へ出して公爵家とした。王家の血を残しつつも、他家へ追いやる良い手であった。それでもまだ、六人の王子が残っている。

 それらの扱いは、今後の課題となるだろう。


「ハイド。剣の腕を磨くより、治世の術を勉強せよ」


 城塞都市ミリエには王城があり、その中央には王族が住まう王宮がある。

 その王宮の一画にある食堂で、エインリッヒ九世と第一王子のハイド。それから、第一王女のリゼットが食卓を囲んでいた。

 他に王族がいないのは、ハイドの予備だからである。王族としての扱いは受けているが、食卓に同席させても良いことはない。彼が死なないかぎりは王位を継承できないので、ギスギスした食卓になるだけなのだ。

 王女などは駒の一人であるため、嫁ぎ先の話題を嫌って同席すらしない。なんとも冷めた関係であった。


「親父、治世は力だぜ!」

「無いよりはあったほうが良いがな。その力を振るうことはあるまい」

「そうですよ、お兄さま。力を誰に使う気ですか?」

「そりゃあ、反逆を企てた奴さ」

「滅多なことを言うな。貴族どもに聞かれたらどうするのだ」

「さあな。身に覚えがなければ、気にならねえだろ」

「貴族どもの協力がなければ、王国は治められないのだぞ」


 エウィ王国は広大な支配地を持つが、王族だけでは管理できない。それを行っているのは、伯爵以上の上級貴族である。

 もともと領地を持っていた貴族を併合したり、広大な領地を分割をして任せているのだ。だからこそ、貴族の協力がなければ支配できない状態だった。


「適当に怖がらせておけばいいと思うぜ」

「恐怖政治など、すべての貴族には通用しまい」

「親父の話も分かるから、治世の術も学んでるけどよ」

「それならば良い」

「だが、帝国と戦争になりそうなんだろ?」

「そうならないようにしているところだ」

「戦争になったときを考えるとよ。やっぱり力は必要だろ?」

「そうかもしれぬな」


 ハイドは父親のエインリッヒから向けられる愛情を良いことに、自身の行いを正当化する。第一王子として甘やかされているのだ。

 本来なら厳しくしつけるべきだったが、もう二十三歳になっている。すでに自分の意志で、エウィ王国の統治を見定めていた。


「お兄さまは過激すぎますわね」

「ははははっ! 俺には俺のやり方ってのがある」

「それはそうですが。お父様の治世はすばらしいですわよ?」

「分かっているさ。だから習うことも多い」

「ハイド……」

「俺はまだ若いからな。両方を極めてやるぜ」

「分かった。ハイドならば両立できるか」

「はぁ……。お父様ったら」


 リゼットにはハイドの考えが手に取るように分かるので、エインリッヒの甘さには溜息ためいきを吐いてしまう。

 治世の術を勉強しているが、それに費やす時間を減らしているのだ。その目的も分かっていた。王位を継承したら、今よりも酷い格差社会を目指すつもりだろう。

 貴族にも協力ではなく、支配を強要するはずだ。


「なあ、リゼット」

「はい?」

「そろそろ嫁に出さねえとなあ」

「え?」

「どこがいい? 俺はランスにくれてやってもいいと思ってるぜ」


 ハイドはソル帝国との関係を修復するために、リゼットという駒を使うようだ。

 ランス皇子は、まだ独身である。いずれ、王位と帝位を継ぐ者同士で仲良くしておくつもりだろう。

 当然、言葉通りの意味ではないと思われるが……。


「ハイド、リゼットの婚姻は……」

「親父、もう決めていたか?」

「ベクトリア王国のリムライト王子を考えていたのだがな」


 ベクトリア公国の母体はベクトリア王国である。その王であるバリゴール・ベクトリア王には、一人の王子がいた。

 公国は四年に一度、公王が代わる。しかしながらベクトリア王国の影響力は、他の小国より大きいだろう。

 エインリッヒ九世には、そういった打算があったようだ。


「目的は同じってことだな。エウィ王国は挟まれてるからなあ」

「そうだ。だが、ハイドの治世を考えると……」

「俺としてはランスのほうがいい。まあ受けねえと思うがよ」

「分かっているではないか」

「正攻法じゃな。こういうときは、知恵を絞るもんだぜ」

「ははははっ! 頭を使うか……。リゼットはどう思う?」

「私は……」


 リゼットは婚姻を結ぶつもりはない。

 今の状態が良いのだ。国民からは天使と呼ばれて、とても人気が高い。そこまで言われるまでに、十年も費やしたのだ。

 それがあるからこそ、自身の欲望を満たせていた。婚姻して他国へ嫁げば、また一からやり直す必要がある。

 そんな面倒なことはできない。


「王国の未来は、お兄さまが作るのです」

「ならソル帝国か」

「私には何も言えませんわ」


 そうは言っても、リゼットには決定権がない。

 国王のエインリッヒ九世が決めた先へ嫁ぐのが、王女としての役割だった。


「そう言うな。これも、エウィ王国の将来を見据えてだな」

「分かっております。では、私は先に休みますわ」

「もう食べたのか。リゼットも同じ食事にすれば良いのにな」

「聖女ミリエ様との約束ですからね」

「ふん。カルメリー王国の食材など……。毒味はしてあるのか?」

「当たり前です。さすがは農業国家ですわ。おいしいですわよ?」

「ブレーダ伯爵の食材のほうが良いではないか」


 現在使われている食材は、ブレーダ伯爵が納入したものに変更されていた。しかしながらリゼットの食事は、カルメリー王国の食材が使われている。これは、聖女ミリエへ友達になろうと誘ったときの約束だった。

 エインリッヒからすれば、属国の食材など王族が食べるものではない。


「細かい話ですが、属国の統治を円滑に行うためですわ」

「言っていたな。細かすぎるが認めてしまったしな」

「では、これにて下がらせていただきますわ」

「うむ」


 リゼットは食堂を出て、自分の部屋へ向かって歩き出す。

 護衛としてグリューネルトが前を歩くが、先ほどの会話のことを考えており、話しかける余裕はなかった。

 それから自室へ戻ると、足早に本棚の前へ向かった。


(もぅ、婚姻なんて考えないでほしいですわ。私じゃなくても、三人の妹がいるじゃないですか。でも、私が一番効果的なのは分かるのよね)


 いつも読んでいる本を取り出した後は、テーブル近くの椅子へ座ってから開く。本の使用方法は、とある小悪魔に教えてもらった。

 その教えてもらった方法で読んでいると、リゼットの脳内へ、さまざまな情報や快楽が流れ込んでくる。


「ぁっ! も、もっと……」


 本から流れてくる快楽に、リゼットは身を委ねた。

 そして下着をらしながら、とあることを思いつくのだった。



◇◇◇◇◇



 幽鬼の森へ帰って二日目。

 リリエラとシェラをカーミラと一緒に骨抜きにしたフォルトは、いつものようにテラスでくつろいでいた。自分専用の椅子へ座って、小悪魔を触りまくっている。

 まるで飽きない触り心地であった。


「主様、こちらも渡しておきます」


 ルーチェには聞きたいことがあったので、まだこちらへ残ってもらった。すぐに聞けば良かったのだが、暴食と色欲を満足させるのが先だった。

 そこで早速聞こうと思ったが、何やらフォルトへ渡すものがあったようだ。その大きな胸元から、一つの魔道具を取り出した。

 陶器で作られた四角い板は、片手で握れるほどの大きさだ。先端には、鉄製で作られた二本の短い突起物があった。


「どう使うの?」

「板の裏にある丸い穴へ、魔力を流し込んでください」

「こうか」


 言われたとおり魔力を流すと、先端にある二本の突起物の間に雷が発生した。

 この魔道具は、日本でスタンガンと呼ばれるものだ。リゼット姫のお茶会へ参加したときに選んだ異世界人の持ち物だった。

 フォルトは良く再現できたものだと、ルーチェに感心する。


「おお! よく作れたな」

「本体は陶器ですので、雷が通りません」

「なるほど。凄いな!」

「雷の下級精霊ヴォルスを使役する召喚陣を組み込むだけですね」

「組み込むのは楽なのか?」

「どうでしょうか。私は得意ですが……」

「さすがはデモンズリッチ」


 細かく聞くと、フォルトでは理解できないだろう。

 そもそもデモンズリッチとは、永遠の命を求めた魔法使いや司祭が、悪魔と契約を結んでアンデッド化した魔物である。その目的は、魔法の研究に費やされるのがほどんどだった。

 そんな境地になってまで身に着けた技術だ。頭脳レベルが引き籠りのおっさん程度で分かるわけがない。


「それと、例の件は駄目でしょうか?」

「例の件?」

「実験体ですね」

「ああ。人間がいいの?」

「そうですね。ゴブリンやオークだと、双竜山の管理に問題がでます」

「なるほど」

「えへへ。あいつらは命令を聞くからねえ」

「ビッグホーンの余った肉を渡すだけで良いのも楽ですね」

「ははっ。人気のない部位だけどな」


 ビッグホーンの肉は、どの部位もおいしい。

 フォルトたちは有名な部位を食べているが、それ以外のマイナーな肉は亜人種たちへ渡していた。

 餌を与えて狩りをしなくなると困るが、数日に一度ぐらいなら平気なようだ。率先して双竜山の警備を請け負い、肉を与えられる日を楽しみにしている。

 そういった亜人種を、実験で消費するのは勿体もったいないだろう。


「それで主様」

「実験体かあ。すぐに必要なの?」

「主様次第ですが、現在の進行状況は……」


 転移の魔法は、座標を拾えるかが肝である。

 目的の場所へ魔力でマーキングしておくのだが、その場所へ転移できるかが課題だった。術式は作れたが、さすがに眷属けんぞくたちでは実験できない。

 ヘタをすると消滅してしまうからだ。


「ふむふむ」


 座標を拾えずに、地面や壁の中へ転移したら死んでしまう。そこで、スクロールと呼ばれる魔道具の出番だった。

 これは封じ込めた魔法を、一度だけ使える巻物である。実験体に使わせて、術式の修正をやりたいそうだ。

 もちろん失敗すれば、実験体は死ぬだろう。


「実験が終われば、術式が完成すると思われます」

「なるほどな。そこまで進んでるのか」

「はい。主様は急ぎ習得したいと思われますので」

「まあな。でも覚えるのが難しそうだ」

「複雑ではありますが、それだけに集中すれば覚えられるかと」

「いいね。勉強するときは頼む」

「畏まりました」


 フォルトの頭脳で、どこまで複雑な術式を覚えられるか。

 はっきり言って、転移の魔法を習得できるかは自信がない。しかしながら時間は無限にあるので、ゆっくりと覚えるつもりだった。

 それはともかくとして、人間の実験体については……。


「うーん。もうちょっと待ってくれ」

「待つのは構いませんが……」

「ちなみに何人ぐらい?」

「多いほうがよろしいかと思います」


 ソフィアから嫌われないように、実験体を用意する必要があった。死刑囚などを考えているが、残念ながら当てはない。

 しかも、多くの人間が必要なようだ。微調整なので少なく済む可能性はあるが、それもやってみなければ分からない。


「分かった。この魔道具は、三個ぐらい作っといてくれ」

「畏まりました。では……」

「あっちはよろしく頼む」


 ルーチェは魔界を通って、双竜山の森へ帰った。

 受け取ったスタンガンは、誰が必要かが分からない。マリアンデールやルリシオンは使わないだろう。

 アーシャは欲しがりそうだが、そのうち聞いてみれば良いだろう。


「御主人様、私が欲しいでーす!」

「使うのか?」

悪戯いたずらに?」

「ははっ。では、胸元に入れてやろう」

「あんっ! ちゅ」

「でへでへ」


 カーミラと二人きりになったので、体を密着さえてイチャイチャする。

 こういった甘い時間は、ずっと続いてほしい。そうフォルトが思っていると、甘さに輪をかける人物が、後ろから声をかけてきた。


「マ、マスター」


 身内でフォルトのことをマスターと呼ぶのは、たった一人だけである。骨抜きにして寝室へ置き去りにしてきたが、どうやら復活したようだ。

 そして後ろを見ると、リリエラが恥ずかしそうにモジモジとしている。とても新鮮だが、それ以上に視覚と色欲を刺激された。


「やっぱり……。恥ずかしいっす!」

「でへ。似合っているぞ。エロくノ一セットは最高だな!」


 復活したリリエラは、コルチナが製作したエロくノ一セットを着ての登場だ。

 一般的な忍者着をモチーフにしてあるが、黒をメインに深い赤で装飾を施して、スカート部分は膝下まであるダブルスリットだ。前後でペロンとめくることが可能である。赤いひもで腰を結んで、細い体型が強調されている。

 足は絶対領域を意識した黒いニーハイ網タイツを履いている。腕も上腕まである黒い網目のアームウォーマーを着けて、前腕は籠手を装備している。


「ジ、ジロジロと見ないでほしいっす!」


 忍者着の下は、鎖帷子くさりかたびらをイメージした超が付くほどのハイレグ型ボディストッキングを着込んでいる。

 服の交差した部分へ手を入れると、二つの柔らかいモノがすぐに取り出せる。リリエラにボリュームはないが、それで良いのだ。

 首には赤いロングマフラーを巻いている。これで口元を隠すことが可能だ。足は足袋と草履を履いている。

 完璧なエロくノ一セットであった。


「コルチナって、天才か?」


 よく作れたものだと感心してしまう。

 ただし、布や糸・木の皮などで製作した服なので防御力は皆無だ。網目の中に細い鉄のワイヤーなどは組み込まれていない。

 それに形だけを整えているので、着続ければすぐに駄目になってしまう。


「リリエラ、俺の膝の上に座って」

「ええっ!」

「いいから」

「は、はいっす」


 リリエラを膝へ座らせ、細い腰へ手を回す。

 背中を向けて座っているので、そのまま腹の辺りをでまわす。悪い手は悪い手のままであった。


「マ、マスター、くすぐったいっす」

「そうか? もうちょっと待て。カーミラ、例のものを……」

「はあい!」


 例のものとは、さまざまな効果を付与するために使う材料のことだ。

 形状記憶から汚れ落とし、自動修復から防御力アップなどである。その材料を受け取ったフォルトは、リリエラの体じゅうを弄りながら魔法を使う。



【フィクスト・エンチャント/固定・付与】



「はぁん!」

「リリエラ、色っぽい声を出すな」

「だ、だってっす」

「終わったぞ」

「降りていいっすか?」

「そのままな」

「………………」


 せっかくエロくノ一セットを着ているのだ。

 リリエラを膝から降ろさずに、そのまま弄り倒す。カーミラも服の感触を確かめるように触っているが、その手はたまに違う場所へ移動する。

 そして、フォルトが十分に堪能したところで解放した。


「マスター、この服で外へ出るのは恥ずかしいっす」

「だろうな。まあ森の外へ出るときは、ボロいローブを着てろ」

「森の……。なんすね?」

「森のだ」

「………………。はいっす!」


 フォルトの屋敷には、ボロいローブが何着かある。

 ソル帝国から金を奪うついでに、カーミラが確保していた。いかがわしい目で見る者たちから、露出度の高い身内を守るのに必要だった。

 その身内の中で、ベルナティオだけは着ていない。エロ女侍セットでかなり肌を出しているが、気にならないのは〈剣聖〉だからか。

 戦士や剣士が持つ特有の風格が、成せる業かもしれない。


「ちょっと! その格好はなんですか!」

「え?」


 そんなことを考えていると、オヤツを持ってきたフィロが大声をあげた。

 姉妹の従者としてよく働いているようだが、さすがにリリエラの格好は刺激が強かったようだ。


「チラリズムが刺激されるだろ?」

「チ、チラ? なんですか、それ?」

「フィロにも似たような服を考えてるから楽しみにしておけ」

「嫌ですよ!」

「ははははっ!」


 フィロはオヤツをテーブルへ置いて、食堂へ走っていった。フォルトの趣味は獣人族の女性が見ても、目を覆いたくなるようだ。

 それはともかくとして、リリエラには残りの服も見せてもらった。とはいえセレスの服は良いのだが、レティシアは作り直しだろう。

 だが、また作りに行かせれば良い話である。そんなことを思いながら、オヤツのキュウリスティックをポリポリと食べるのであった。



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