第349話 大義を持つ者、持たざる者2
捕虜として
基本的に話して良いのはファナシアだけだ。支配の魔法が切れて騒いでも、大婆に一喝されて黙っている。
それでも言い訳するように、ブツブツと
「支配の魔法なんて……。貴方には常識が無いのですか!」
支配の魔法は人間の尊厳と倫理観に関わるので、ファナシアがフォルトを責めてきた。同じ責めるなら、別の事で責めてもらいたい。
「人間の常識は通用しないと言っただろ」
「し、しかし!」
「魔族は力がすべてだ。文句があるなら俺を倒すことだな」
「くっ!」
「ころ」
「………………」
残念ながら、女騎士系の冗談は通じないようだ。ファナシアは何も聞いていなかったように、口を
きっと、親は厳格だったのだろう。フォルトは魔人だが、見た目は人間のおっさんである。父親と似たような歳なのだ。
(この女は大義を持っている。誠実で正直者だろうな。こういった人間は、醜さが少ないから嫌いではない。見た目も好み。だが……)
「胸がデカいな」
「なっ! 貴方もですか!」
「あ……。違う違う。違わないが違う」
うっかり考えたことを口に出してしまった。どうやら、ファナシアが好きだと言った男性とフォルトを被せたのだろう。
それについては不本意である。
「大丈夫ですよ。旦那様は……」
「ごほん! セレス君、黙っていたまえ」
「はい」
「それでフォルト様、どうするのですか?」
「うむ。どうするかな」
フォルトの遊び。
実のところ、たいしたものではい。ソル帝国へ捕まったフェブニスを救出するために、彼らには一肌脱いでもらうのだ。
「おまえたち五人のうち、一人だけソル帝国へ引き渡す」
「「えっ!」」
「報復へ向かったダークエルフが捕まってな。交換するつもりだ」
「そ、それは……」
「連れていく者を、おまえたちに決めさせてやる」
「の、残った者は?」
「解放する。檻へ入れておいても邪魔だからな。なあ、大婆?」
この件に関しては、大婆の同意が必要だろう。
レジスタンスを拘束したのはダークエルフ族である。報復の保険のために、捕虜として捕らえてたのだ。フォルトの勝手にはできない。
「そうじゃな。お主に任せるとしようかの」
「いいのか?」
「うむ。ポロが楽しそうにしておるからのう」
「え?」
どうやらポロが、勝手に黒いオーラを出したようだった。
大婆はニヤニヤと笑みを浮かべている。レジスタンスの面々は、目を見開いて後ずさっていた。それでも見た目だけなので、何の効果もない。
「ポロ。勝手に出すなと言っただろ」
「(ふん! おまえが面白そうなことをやってるからだ)」
「そ、そうか。まあ、勝手に出されると困る」
「(仕方がない。とにかく、俺を楽しませろ)」
「分かった」
フォルトから出ていた黒いオーラが消えた。
なんの効果は無くても、レジスタンスは恐怖したようだ。しかしながら、今はそんな事などどうでも良い。
「話を戻すが、ソル帝国へ引き渡した者はどうなるかな?」
「そ、そんなのは決まっているわ!」
「ははっ、分かるか。さあ、一人を選べ!」
「くっ! 人でなし!」
「そうは言っても、おまえたちが発端だぞ。自業自得だな」
レジスタンスが
それによって、フェブニスが捕まることもなかった。レジスタンスの立場なら分からなくもないが、フォルトからしたら余計なことをされたのだ。
「決められないか? なら、指をさせ。一番多い者を連れていく」
「「なっ!」」
「誰を切り捨てるか。自分たちで決めろ」
「「………………」」
「私が行くわ!」
やはり、ファナシアが立候補した。他の四人の本性を知ったとしても、自分が身を差し出すことで助けるつもりだ。
フォルトは彼女が指されると思っていたが、そこまでは進まなかった。しかしながら、結果は同じだろう。人間の醜さを再確認したかっただけだ。
「ならば、ファナシアを連れていこう」
「他の四人は助けてくれるのよね?」
「信用せずとも構わんがな。まあ、約束は守るぞ」
「分かったわ」
「では、檻から出ろ!」
フォルトはファナシアだけを檻から出した。
もちろん逃げ出さないように、他の四人は後で解放させる。後のことは、小屋を監視しているダークエルフたちに任せれば良いだろう。
「さて、ランス皇子は首都に居るんだったな」
ファナシアをロープで拘束して、罪人のように引っ張りながら連れていく。それから全員で大婆の家へ戻り、ソル帝国との交渉内容について話し合う。
フォルトは、事の
◇◇◇◇◇
「ファナシア、出発は明日だ。覚悟はできてるか?」
ファナシアは大婆の家で、柱へ縛り付けられている。
そこへフォルトが、カーミラ一緒に近づいた。まだ出発しないなら檻の中へ戻しても良いのだが、他の四人と気まずくなるだろう。
大義を持っていたことに免じて、檻の外で扱うことにしたのだ。
「あの話はどうなったのかしら?」
「何の話だ?」
「レジスタンスが逃げてきたら、森で匿ってもらう話よ!」
この話はレジスタンスの拠点を出るときに、リーダーのギーファスから頼まれた案件だったらしい。そもそも瓢箪の森へは、助力を頼みに来たのだ。
大婆へ伝わっているが、結局は捕縛したので
「森へ火を放った張本人たちを匿うわけがないだろ」
「で、ですが、それでは……」
「たとえ俺たちにバレていなくても無理だ」
「なぜですか?」
「ダークエルフ族と人間は不干渉だ。人間同士の争いに介入しない」
「………………」
「まあ、今のところは誰も来ていないがな」
ファナシアたちが、瓢箪の森へ来たのが三日前だ。
森へ来るまでにも日数は経過しているので、拠点が襲われているのなら誰かしらが来てもおかしくはない。
「まだ無事なのかしら?」
「知らん。森へ来たところで、ダークエルフたちが追い返す」
「………………」
「ファナシアは他人の心配をしてる場合ではないぞ」
「えへへ。縛り首ですかね? それとも死ぬまで犯されますかね?」
「っ!」
カーミラが笑顔で恐ろしいことを言う。
ファナシアは、ソル帝国へ敵対しているレジスタンスの人間である。その扱いは御察しであった。ほぼ間違いなく、そうなるだろう。
「わざわざ、そんな話を言いに?」
「いや。聞きたいことがあってな」
「なにかしら?」
「今は帝国と戦ってる場合ではないだろ?」
「スタンピードの件かしら?」
「そうだ。互いに協力しないまでも、それぞれで対処するべきでは?」
「たっ、大義を優先しているのです!」
ファナシアの言ったとおりである。
レジスタンスは大義を成してから、スタンピードの対応をやろうとしていた。しかしながらフォルトは、一緒に捕まえてある四人の本性を知った。
人間の本性を鑑みると、レジスタンスが掲かかげている大義を本気で実践しているのは少数だろう。多数の者は大義を持つ者の心を揺さぶり、ずる賢く生き残ろうとしているだけである。
結論としては、魔物と戦いたくないだけだと思われた。
「レジスタンスに大義を持つ者は、何人も居ないだろうな」
「そ、そんなことはありません!」
「そうか? まあ、どっちでもいいけどな」
「………………」
「俺はさっさとスタンピードを収束させて帰りたいのだ」
フォルトにしてみれば、これに尽きる。
もちろん、すぐに収束するとは思っていない。おっさん親衛隊のレベルを上げるために、まだまだ続いてもらったほうが都合が良い。それでも今の状態では、収束へ向かうとも思えなかった。
先が見えていないことが、この言葉へ
「エウィ王国からだったわね」
「そうだ。はるばる来たというのに、このありさまだ」
「………………」
「まあいい。では、また後でな」
フォルトとカーミラは、ファナシアから離れた。
そのまま大婆の家を出て、隣の小屋へ入っていく。中にはベルナティオの他に、レイナスとアーシャが談笑していた。
ここにはテーブルなど無い。雑魚寝をする場所である。
「フォルトさん! 私たちも行くんでしょ?」
早速フォルトは床の上で横になり、カーミラの膝枕を堪能する。
そしてベルナティオとレイナスを隣へ寝かせて、アーシャを腰の上に
「そうだ。みんなで行くぞ」
「ふん! きさまの護衛は任せてもらおう」
「そうですわ。ピタ」
「でへ。あまり相手をできなくて済まなかったな」
「仕方ないだろうな」
「なんか、バタバタとしてたっしょ!」
「ですが、夜は相手をしてもらえていますわ。スリスリ」
「ははっ。そこは手を抜かん!」
「エロオヤジめ。それで、ソフィアさんとセレスさんは?」
「二人は大婆と最後の打ち合わせだ」
ソフィアとセレスは、ランス皇子との交渉内容を詰めている。
捕虜の交換も必要だが、当初の予定だったスタンピードの件も話し合う必要もあった。フォルトには荷が重い話なので、頭脳派の出番である。
「フォルト様はよろしいのですか?」
「俺は眠くなるからいい。それよりも……。おまえたちとな」
「「ちゅ」」
「でへ」
フォルトは三人から同時に、刺激的な口づけを受ける。
おっさん親衛隊はセンチピードの戦闘から戦っていないので、現在は暇を持て余している。訓練もしていない。
いつ援軍の要請がくるか分からないので、軽く汗を流す程度に留めている。
「ねえフォルトさん。レティシアとキャロルは?」
「用事があって、暫くは戻らないそうだ」
「ダークエルフ族のしきたりと言っていましたわね」
「へへっ。気になって仕方ないんでしょ?」
「まあな。何をしているのやら……」
「知らないのか? 出かけてから三日だな」
「相変わらず教えてくれんが……」
ダークエルフの里から半日ほど西へ向かった場所に、別の集落がある。特に何があるわけでもない集落らしいが、レティシアとキャロルが向かっていた。
「あの大婆殿のことだ。心配するだけ無駄ではないか?」
「たしかにな」
「おっさん親衛隊へ入れるのか?」
「戦いは得意なのかな?」
「ダークエルフ族は、全員が戦えると思ったほうがいいだろう」
「そうか。まあ、今のところは考えていないが……」
(レティシアの強さか。あの
おっさん親衛隊へ入れるかは考えていない。しかしながらシュンたちは、ラキシスを加えて六人になっていた。
もともとおっさん親衛隊は、勇者候補チームに刺激されて結成した。あちらが増えたのなら、増やして良いかもしれない。
「そう言えば、マリとルリたちはどうしてるかなあ」
「えへへ。うまくやってるんじゃないですかあ?」
「そうなのか?」
「シモベの繋がりで、なんとなく分かりまーす!」
「たしかにな。心配にならない」
「そういうことですねえ」
カーミラが、フォルトの頭を
何かあるようなら、虫の知らせのようなものを感じるそうだ。マリアンデールとルリシオンの件で不安にならないのならば、何もないと思って差し支えない。
「でも、フレネードの洞窟へ行くなら期限が切れるな」
「そうですわね。一カ月以上は必要でしょう」
「一度は戻っておくか」
「洞窟の前まで掃除して戻れば、ちょうどいいのではないか?」
「なるほど。それも加味して話さないと駄目だな」
瓢箪の森へ到着してから、一カ月後には幽鬼の森へ帰る。
そのように姉妹へ伝達していた。いくら近くに感じると言っても、直接肌を合わせたい。過保護をしないと決めても、色欲を失くすつもりはない。
フォルトにしてみれば、一カ月も会えないと寂しいのだ。
「私たちは残っておくか?」
「シモベの繋がりが無いから、ティオたちは近くに感じないのだ」
「へへっ。寂しいんでしょ?」
「そのとおり。まあ考えておく」
おっさん親衛隊も過保護にするつもりはないが、一カ月も会えないと困る。
せいぜい一週間から二週間が限界だろう。
(悪魔にするまでが目標だったが、みんなをシモベにしたいなあ)
これはフォルトの
最後にはシモベにするのだ。そうすれば、いつでも近くに感じられる。そんなシモベ計画を思い浮かべていると、四人の女性がモゾモゾと動きだした。
そして、フォルトの体を触り始めるのだった。
――――――――――
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