第340話 スタンピードの魔物たち2

 おっさん親衛隊は瓢箪ひょうたんの森の北側で、エルフ族の戦士隊やダークエルフ族の戦士隊とともに、センチピードの群れを対処していた。その群れの中で大物であったシルバーセンチピードを倒したところで、フォルトと合流したのだった。


「もう、フォルトさん! ビックリしたんだからっ!」

「ははっ。すまんすまん。アーシャの生足に負けた」

「エロオヤジ」


 アーシャの体を触った後は、近づいてきたセレスと話す。他の身内もゆっくりと近づいてきた。どうやら戦闘での疲れはないようだ。


「旦那様。両親には会いましたか?」

「いや、まだだ。こっちにセレスたちが居るって聞いてな」

「そうですか。では、集落へ戻った時にでも」

「そうしよう」


 まだセレスの両親には会っていない。すでに彼女からフォルトの身内になったと報告をされているだろう。それを考えると恥ずかしさで顔が赤くなりそうだ。


「よし! 小休止に入れ!」

「ふふ。もうしわけありませんが、少々離れますね。ちゅ」


 エルフの戦士隊の方から大声が聞こえた。それを聞いたセレスはフォルトの事を説明するために離れていく。もともとの戦力に入っていない人物が居るのだ。森の中で出会った戦士隊のように警戒されてしまう。


「フォルト様。見ていましたか? ピタ」

「強くなったなと感心した。闘技場での戦いがかされているのか?」

「はい。だいぶ無駄な動きを減らせてると思いますわ」

「ティオ。どうなんだ?」

「そうだな。あの突きを受けていた経験はきているだろう」

「ほう。ファインだったな」


 闘技場でレイナスと試合をしたファインは、フェンシングを得意とするフランス人だった。無駄に動いてかわすと連続で攻め込まれる。よって、最小限の動きでかわし反撃を試みていた。

 その経験が銀ムカデとの戦いにかされている。通り抜けざまに何本もある足の攻撃を受けるのだ。それをかわしてやり過ごしていた。


「それよりもフォルト様」

「どうした? レイナス」

「ロゼが妙な事を言っていますわ」

「妙な事?」

「「なんで魔剣がそこにあるのよ!」と、わめいていますわね」

「魔剣?」


 聖剣ロゼの言っている事が分からない。首をかしげて考えようとした時、ポロの声が頭の中へ入ってきた。


「(俺の事だ。魔剣は魔人の魂から作られるからな)」

「ああ、そういう……」

「フォルト様?」


 ここでみんなに暴食ぼうしょくの魔人ポロの事を話す。さすがに言葉が出ないほど驚いている。そこで、軽く黒いオーラを出した。


「これが暴食ぼうしょくの魔人ポロだ! まあ、魂だけなんだが」

「そ、それが……。魔人の魂ですか?」

「なにそれ。なんかレティシアが喜びそうね」

「ほう。魔人の魂と言っても、邪気は感じないな」

「さすがはフォルト様ですわ。魔人を手なずけたのですね!」


 セレスが居ないため四者四様の対応になったが、フォルトは身内へうそは言わない。それに危険な事もしないので安心しているようだ。

 彼女たちには大婆の試練の事や、晴れてレティシアを手に入れる事を伝えた。まだ抱いていない事についてもだ。


「フォルトさんも苦労してるのねえ」

「ま、まあな」

「きさま。戦った後だから体が火照ってしまったぞ。なんとかしろ!」

「わ、分かった」

「あら。それを言うなら私もですわ」

「あたしも!」

「あ、あの。私は後でいいので……」

「そ、そうか」


 スタンピードで発生した魔物の相手をしていたのに緊張感がない。しかし、魔物と命を懸けた戦闘をして火照っているのは事実だろう。戦闘は生存本能に合わせて生殖本能を刺激される。それでも、この場で彼女たちの相手は難しい。戦士隊が居るのだ。それはエルフの集落へ帰ってからになるだろう。


「話を戻すが、ムカデの群れとはなあ」

「薄暗い場所に生息する魔物です。フレネードの洞窟から来たのでしょう」

「なるほどな。ソフィア、これならレベルを上げられそうか?」

「そうですね。強さは問題ないかと」

「なら、来て正解だな。ティオ、みんなのレベルは四十までいけるか?」

「それは難しいな。戦いが単調になりすぎだ」

「単調か……」

「倒しただけの成長は見込めるが、それだけだな」

「ふーん」


 基本的に、最初の限界突破であるレベル三十を超えたあたりから成長が遅くなる。すでに単調な戦いで得られるものが少ないのだ。初見の敵としての知識や戦闘経験が積めるだけである。レベル四十が英雄級と呼ばれるレベル帯であるため、それだけでは到達ができないのだろう。


「そこまで甘くなかったか」

「えへへ。御主人様は甘々でーす! ちゅ」

「でへ。なら、どうすればいいと思う?」

「量よりは質だな。それは、きさまにも分かっているだろ」

「そうだな。そうなると……」

「フレネードの洞窟へ向かうのが良さそうですね」

「やっぱりそうなるか。さすがはソフィア」

「でも、フォルト様は行かれませんよね? きっと面倒ですよ」

「ははっ。よく分かっていらっしゃる。でもなあ」


 おっさん親衛隊だけで、スタンピードの発生場所であるフレネードの洞窟へ向かう事には不安がよぎる。ベルナティオが居るので多少の安心感があるが、魔物の数が尋常ではないだろう。


「ティオの見解は?」

「私たちだけでか? アーシャとソフィアが死ぬな」

「ちょ、ちょっと! なんて事を言うのよ!」

「アーシャさん。私たちだけで向かったらですよ」

「じゃあ、行かなーい!」

「そうだな。行かせるわけにはいかない」

「だよねえ。フォルトさんが寂しくなっちゃうしね!」

「そ、その通りだ!」


 なんの作戦もなしで向かうと、数の暴力に襲われ、体力や魔力が枯渇してしまう。そんな死が確定しているような場所へ、彼女たちだけで向かわせられない。

 なにも急いでレベルを四十にする事もない。堕落の種の効果が切れるまで何年もあるのだ。ここ最近の成長が目覚ましいので、つい忘れてしまっていた。


(まあ、さっさと悪魔になってもらいたい願望はある。今まではカーミラだけがシモベだったが、マリとルリがシモベになって心地よさがよく分かった)


 シモベがカーミラだけだった時は当たり前に感じていたもの。それがマリアンデールとルリシオンがシモベになって改めて意識するようになった。いつもそばにいる感じがして安心感があるのだ。

 だからといって、カーミラへの特別が変わる事はない。彼女の場合は恩人とも思っていた。今まさに幸せを謳歌おうかしているのは彼女のおかげだ。


「御主人様?」


 フォルトはカーミラを抱き寄せる。言葉に出さなくても伝わっているだろう。その証拠にフォルトが望むような事を言ってきた。


「えへへ。行くならどうやって楽に行くかですねえ」

「そうだな。狩りがあまり効果がないとすると……」


 今回の旅では、おっさん親衛隊への手伝いはやらない。命の危険がある場合のみ手を出すつもりだ。そのため、移動でサタンを出すつもりもなかった。


「サタンを使わないなら、おとりとか盾とかが必要かもですね!」

「さすがはカーミラ。それだな」


 悪魔らしい提案に思わずホッコリとしてしまう。これは人間をおとりにしたり、盾として使おうという話だ。魔物を避けるための肉の餌。魔物と戦わせる肉の壁である。それらを使い、フォルトたちは悠々とフレネードの洞窟を目指すだけだ。


「フォルト様!」

「あ……。ソフィアは反対だよね」

「やり方次第ですね。その作戦は勇魔戦争で使いましたので」

「い、いいんだ。で、やり方とは?」

「ターラ王国の情勢ですと」

「ですと?」

「帝国軍に死んでもらうか、冒険者に餌となってもらうかですね!」

「ソフィア?」

「あ、いえ。手伝っていただければと」

「闇ソフィア……」


 レベルでも上がったのだろうか。闇ソフィアが顔を出した。それには胸が熱くなるが、全体的な構想は合っている。

 要はおっさん親衛隊が余力を残してフレネードの洞窟へ向かえればいいのだ。そのために使えるものは何でも使おうという事である。このあたりは戦争経験者なので、アッサリと考えついたのだろう。そうでもしないと、勇者チームだけで魔王城へ向かえるものではない。


「言うだけなら簡単のようだが……」

「そうですね。問題は多いですよ」

「じゃあ、ソフィアとセレスで考えといてくれ」

「ふふ。いつものように丸投げですね」

「うむ。なるべく面倒のないようにな」

「分かっています」


 こういう時は本当に頼れる存在だ。フォルトが考えると行き当たりばったりになるので、最終的な決定をするにしても指針は欲しいところだ。彼女たちなら希望通りの作戦を考えてくれるだろう。


「旦那様。戻りましたわ」

「おかえり、セレス。エルフたちは何だって?」

「倒した魔物の片付けをやったら、警戒態勢へ戻るそうです」

「片付けか」


 倒した魔物の死体を放置しておくと、それを目当てに他の魔物がやってくる。それに素材を手に入れる事も必要だ。倒したからといって終了ではないのだ。


「俺たちはどうしたらいいと思う?」

「集落へ戻って、要請がきた時に出ればいいかと」

「なら、もう戻ってもいいのか」

「はい。そのように申し入れてあります」

「さすがはセレス」


 すでにフォルトが帰りたがっている。そんな事はお見通しだった。分かり切った事だと思われるが、常に自分を考えてもらえてる事が嬉しい。


「じゃあ、集落へ帰ろうか」

「旦那様。スケルトン神輿みこしは駄目ですよ」

「わ、分かっている。合流したんだ。バイコーンでいいだろ」

「今回は私たちの分も頼む」


 さすがに戦闘後なので、ベルナティオからは修行として歩くとは言われない。体を休める事も重要である。このあたりの判断は、彼女に任せるしかない。


「では、旦那様。私の後ろに乗りますか?」

「あら。いつものように私ですわよね?」

「ちっ。乗せてやらん事もないぞ」

「あたしの腰に抱きつきたいんじゃないの?」

「す、すみません。乗馬の練習もやった方がいいですよね?」

「えへへ。御主人様は誰を選びますかねえ」

「でへでへ。では、まずはセレスの後ろに乗ろう」



【サモン・バイコーン/召喚・二角獣】



 フォルトは四頭のバイコーンを召喚する。それから最初に誘ってきたセレスの後ろに乗る。その後はエルフの集落へ戻るまでに乗り換えていけばいいだろう。


「セレスの両親かあ。どんな人?」

「ふふ。大婆様とは違いますよ」

「それを聞いて安心した。セレスの事は怒ってるのかな?」

「いえ、喜んでいますよ。ハイエルフはもらい手が居ませんからね」

「な、なるほど。そう言えば、エルフからハイエルフが生まれるのか」

「そうですね」


 エルフ同士で交配すると、まれにハイエルフの子供が生まれる。エルフは子供が出来にくいため、ハイエルフになる確率は相当低い。まさに自然神の祝福を受けた子供と言えるだろう。


「まあ、怒っていないならいい」

「はいっ! では、戻ったら紹介しますね」


 フォルトたちはバイコーンへ乗り、エルフの集落へ向かい出発をした。両親へ挨拶あいさつなど、ソフィアを手に入れた時にグリムへ報告した時以来だ。それに気恥ずかしさを覚えながら、セレスの腰を抱きしめるのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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