第338話 向けられる目3

 ダークエルフの里で魔人ポロを使いこなせるようにしたフォルトは、ブスッとしながらスケルトン神輿みこしへ乗っていた。おっさん親衛隊と合流するために、もう一つの森にあるエルフの集落へ向かっている。

 そして、今はカーミラと二人きりだ。彼女が居れば満足なのだが、本来であればレティシアを連れてきたかった。しかし、大婆から許しをもらえなかったのだ。それがブスッとしている原因である。


「くれると言ったのにな」

「渡す前にやる事があるって言ってましたねえ」

「それが終わればくれるって話だけど、内容は教えてくれないんだよな」

「カーミラちゃんにも分かりませーん!」

「ポロ。何か知らない?」

「(聞くなと言っている。おまえの困った状態も面白いのだ)」

「性格が悪いぞ!」

「(くくっ)」


 こうなるとポロは何も答えてくれない。しかし、何も答えない事もない。転移魔法の事も聞いてみたが知らないと言っていた。知っているなら、今のように聞くなと言う。判断材料の一つではあるが、性格が悪い事に変わりがない。


「まあいい。それよりもエルフの集落はまだか?」

「そろそろじゃないですかあ。あっ! 御主人様!」


 カーミラが叫んだ瞬間に、フォルトへ向かって矢が何本も飛んできた。しかし、スケルトン神輿を中心に竜巻が発生して矢を空中へ巻き上げる。


「「なっ!」」

「御主人様! あれはエルフですよお」


 カーミラが指さした方向には、数人のエルフが弓を構えていた。エルフらしく木の上からだ。その光景におもわず目をパチパチした。


「ははっ。ポロ、御苦労」

「(お気楽なやつめ)」

「御主人様。どうしますかあ?」


 エルフたちは矢を引き絞っている最中だった。どうも敵と思われているようだ。そこでスケルトン神輿みこしを止め、両手を上げて敵意がない事を示す。するとエルフの一人が木の上から声をかけてきた。


「アンデッドを引き連れた死霊術師よ! エルフの集落へ何の用だ!」

「俺はフォルト・ローゼンクロイツだ! セレスから何か聞いてないか?」

「フォルト? ああ、セレス殿の仲間か」

「エルフの集落で合流する事になっている」

「分かった。だが、そのアンデッドを何とかしろ!」


 アンデッドは生きとし生ける者の敵である。ダークエルフはもちろん、エルフも敵として認識している。忌避感きひかんや拒否感が強いのだ。

 アンデッドを扱うようなネクロマンサーと呼ばれる死霊術師も同じである。邪悪な存在と認識されているので、見ただけで攻撃の対象ともなる。


「仕方ないな。消すから待ってろ」


(ここまでアンデッドに忌避感きひかんがあるとはな。ただのスケルトンなのに。身内は全然と言っていいほど気にしてないけどなあ。こうも目の当たりにすると……)


 そんな事を思いながらスケルトンを送還する。


「悪かったな。当てるつもりはなかったが」

「威嚇だろ? 分かっている」

「それにしても、アンデッドを使うなど……。死霊術師なのか?」

「使える魔法が多いだけだ。高位の魔法使いだからな」

「ならば気をつけた方がいい。攻撃されても文句は言えん」

「そうしよう。助言を感謝する」


 ここでエルフ族と敵対するわけにもいかず、素直に言う事を聞く事にする。


「集落へ行くなら、このまま真っすぐに進めばいい」

「勝手に行っていいのか?」

「済まないが、俺たちは任務があってな」

「歩いて行けば普通に対応してくれるのだろ?」

「ああ。セレス殿の名前を出せばいい」

「分かった」


 このエルフたちはフェブニスと同じで、森の中を巡回する戦士隊のようだ。今はスタンピードの対応で厳戒態勢なのだろう。そのまま素早く居なくなってしまった。さすがは森の種族と呼ばれるエルフである。


「(攻撃をされたが殺さんのか?)」

「ははっ。フェリアスのエルフ族とは友好関係を結んでいるからな」

「(何のために?)」

「永遠を楽しむためだ」

「(くくっ。分かった)」


 手を出したら殺すと明言しているが、今回はフォルトが悪い。ダークエルフの里へ入る前にもアラクネから降りた。フェリアスにあるエルフの里へ向かう前にもスケルトン神輿みこしを使うなと言われていた。それを思い出したのだった。


「さて、俺たちも行くとしよう」

「はあい!」


 フォルトとカーミラは手をつなぎながら集落を目指す。すると前方に木でできた柵と家々が見えてきた。ダークエルフの里と同じような感じだ。こちらは瓢箪ひょうたんで例えると上の部分なので、それほど集落の規模は大きくない。


「何者だ!」


 集落の入り口を守っていたエルフへ声をかけたところ、剣を抜いて誰何すいかしてきた。フォルトは先ほど戦士隊から言われた通りにセレスの名前を出してみる。


「えっと。セレスたちが先に来てるはずだ」

「セレス殿? なら、おまえがローゼンクロイツ家のフォルト殿か」

「そうだ。俺の事を聞いているなら話が早いな」

「来たら通せと言われている。が……」

「が?」

「今は出撃をしているな。森の北だ」

「なんだ。もう狩りを始めていたか」

「待ってもいいが、できれば行ってもらえるか?」

「戻るのは遅いのか?」

「分からん。戦況次第だ」

「ふーん。なら、行ってみようかな」


 怠惰たいだなので待ちたいところだが、彼女たちにも早く会いたかった。セレスと会う前に両親と会っても仕方がないし気恥ずかしい。そう思ったフォルトは、エルフの集落へ入らずに森の北へ向かったのだった。



◇◇◇◇◇



「さあて。どこに居るかなあ」


 フォルトはトレントの曲げた枝へ座り、隣に居るカーミラの肩へ手を回している。アンデッドが駄目なら、森の魔物で警戒感を少なくするためだ。

 トレントは温厚な魔物で滅多めったな事がない限り人を襲わない。存在自体は動く木というよりも動ける木である。大地へ根を張って養分を吸い上げるだけの魔物だ。栄養価の高い養分のある場所へ移動したり、外敵が近づいてくると戦ったり逃げたりする。


「森の外だと思いますよお」

「森の中へ入れないように戦ってるって言ってたな」

「そうでーす!」


 森の中まで魔物の侵入を許すと、隠れる場所が多いために倒すのが難しくなる。発見できずに放置しておくと、繁殖をされ大変な事になってしまう。そのため森へ入る前に迎撃をする。しかし、全ての侵入を許さないのは不可能である。森の中を巡回する戦士隊は、森へ侵入した魔物の討伐が主な任務だった。


「北から来るなら、エルフの集落を拠点にした方がいいか?」

「でも、レティシアを調教してませんよね?」

「調教とは失礼な。相思相愛だろ?」

「その割には、いつものようにしてませんねえ」

「なんかな……」


(あの時折出る厨二病。好きなんだが、あれが出てる時はやる気が起きない。なんというか、乗せられてしまうんだよな)


 レティシアをもらった当日に行為をしたかったが駄目だった。彼女の話が止まらないのだ。ずっと厨二病発言を続けるわけではないが、そこから行為への流れが作れなかった。


「セレスの時とは勝手が違うな」


 セレスの場合は彼女から望んできたので、フォルトが魔人だと伝えてからは問題なく進んだ。しかし、レティシアは駄目であった。


「えへへ。次が駄目そうなら、手助けをしますねえ」

「そうしてもらおう」


 もう少々チャレンジしてもいいが、駄目ならとっとと諦めてしまった方が楽だ。そんな事を考えていると、何やら耳心地がいい音楽が聞こえてきた。


「御主人様。なんか、音が聞こえてきましたねえ」

「これは……。アーシャの『戦神の舞せんしんのまい』で使う音楽だな」

「じゃあ、到着ですねえ。視界も開けてきましたし」

「そうだな。森の出口か。よっと」


 フォルトはトレントの枝から飛び降りた。それから振り返り、同じく飛び降りてきたカーミラを受け止める。ここから先へトレントと向かうと、おっさん親衛隊の邪魔をする可能性がある。そうならないように徒歩で向かうのだ。


「よし、消えていいぞ」


 トレントを送還して森の出口へと向かう。音楽は徐々に大きくなってきた。どうやら森の入り口から出た近い場所で戦っているようだった。


「あっ! 御主人様。居ましたよお」

「よし。じゃあ、邪魔をしないように消えていくか」



【マス・インジビリティ/集団・透明化】



 集団化させた魔法で透明になった二人は、肩を寄せ合いながら森の外へ出る。するとアーシャがエロティックに踊っていた。


「むほっ! 久々に……」

「御主人様。バレちゃいますよお」

「おっと、そうだった。それで、何と戦っているのかな?」


 アーシャよりも前方で二人の女性が戦っている。レイナスが前へ出て、ベルナティオがサポートをしている感じだ。経験を多く積ませるためだと思われる。


「レイナス! 全ての足を斬り落としてしまえ!」


 そのレイナスが相手をしているのは大きなムカデだ。ムカデ型の魔物は多種多様に存在するが、目の前で暴れているのはシルバーセンチピードと呼ばれる銀ムカデである。銀の冠が付いたムカデだが、推奨討伐レベルは三十をこえている。

 その名の通り銀色をしており、足は左右を合わせて四十二本ある。全長は三十メートルもあり、日本に存在する路線バスの三倍ぐらいだ。主な攻撃方法は毒牙と体当たりである。外殻が固く素早いのが特徴だ。


「はい!」


 ムカデは視力が弱く、頭についた触覚を頼りに動く。そこでベルナティオが動いて誘導をしていた。レイナスは通り過ぎる銀ムカデの足を一本ずつ斬っている。なんとも作業感があるが、真正面からでは苦戦するだろう。



【ロックウォール/石壁】



 次にソフィアの土属性魔法が発動する。ベルナティオの前へ石壁を造り、銀ムカデの突進を阻んだ。すると目標を見失なった銀ムカデは、その場で止まって触角を動かしている。


「そこっ!」


 今度はセレスの矢が銀ムカデの残った足の一本に刺さる。何をやっているのか想像できるフォルトは笑みを浮かべた。


「レイナス。次、行くぞ!」

「はいっ!」


 ベルナティオが石壁の裏から出る。これで銀ムカデの触覚に引っかかり彼女を追いかけ始めた。そして、またレイナスが足を斬る。どうやらこれを繰り返しているようだ。銀ムカデは足を半分以上斬られると動きが鈍くなっていた。


「面白いもんだな。セレスの矢を次に斬る目標にしてる」

「そういう事なんですねえ。何をやってるかと思いましたあ」

「練習の一環だろうな。俺が連携の話をしたからか?」

「なるほどお。でも、他のエルフたちは苦労していますよお」

「十五……。二十匹くらい?」


 エルフ族やダークエルフ族の戦士たちは、銀ムカデより格下なカッパーセンチピードと呼ばれる銅ムカデの相手をしていた。大きさは銀ムカデより一回りほど小さい。こちらの推奨討伐レベルは二十五だ。オーガと同等だが、それなりに数が多い。

 銅ムカデは森へ侵入を試みているようだが、それを弓や魔法で足止めをしつつ、正面から突進を受け止めていた。


「負傷よりは疲れが出ているようだな」

「シャカシャカと動くムカデを二十匹ですからねえ」

「虫はしぶといしな。まあ、そろそろ終わりそうだ」

「じゃあ、声をかけますかあ?」

「でへ」


 フォルトはベルナティオとレイナスの動きを見ていたが、同時にアーシャの生足も見ていた。とてもムッツリだが、ここである事をひらめく。


「きゃあ!」


 普通に声をかけてもつまらないので、悪戯いたずらをする事にしたのだ。さっそくアーシャへ近づいて後ろから抱きついた。


「でへ。柔らかい」

「ちょ、ちょっと、フォルトさん? 何すんのよ!」

すきだらけだぞ。ほらほらほら!」

「んぁ! も、もう。まだ戦ってる最中よ?」

「もう終わるだろ」


 アーシャの音楽が止まった。それに気づいたソフィアとセレスが目を向けてくる。すると、笑うようなあきれるような微妙な表情をして近づいてきた。


「ティオ! 終わらせろ!」


 フォルトは大声を出してベルナティオへ命令をする。すると彼女は口角を上げて、正面から突進してくる銀ムカデを前に刀をさやへ戻した。


「遊びは終わりだ。『月影つきかげ』!」


 ベルナティオが腰を落として抜刀術からスキルを使う。すると銀ムカデは正面から尻尾へ向かって真っ二つになった。

 その割れた銀ムカデが彼女の左右を通過する。それを確認した彼女は刀をさやへ戻し、不敵な笑みを浮かべながら振り向くのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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