第335話 魔人フォルトと魔人ポロ3

 大婆の家で昼食を食べているフォルトは、ポロの使い方を決めた事を伝えた。内容までは伝えないが、それには大婆もビックリしていた。

 テーブルへ並べられているのは森の恵みとでもいうのか。新鮮な野菜類や果物が多い。肉はボアの肉が並んでいた。量が少ないので、カーミラとマモンにビッグホーンの肉を運んでもらう手筈てはずとなっていた。


「決めるのが早くないかのう」

「そうか?」

「ワシは半年ほど悩んだものじゃったがのう」

「まあ、一度決めると変えられないしな」

「生きている間は、ずっと付きまとうものじゃぞ」

「ははっ。だが、俺に合ってると思う」

「ならば、何も言う事はないの」

「うふふふふ。さすがは暗黒の王ね。決断力があるわ」

「暗黒の王はやめろと言っただろ」

「じゃあ、何がいいのよお!」


 何もよくないが、さっそくレティシアの病気が始まった。大婆とフェブニスは難しい顔をしているが、フォルトはホッコリとしてしまう。カーミラは隣へ座りクスクスと笑っている。


「俺は高位の魔法使いで通している」

「なら、なら。魔を統べる魔術師ね!」

「統べてない!」

「ほら。旦那様になるなら食べさせて! あーん!」

「はい、はい」


 レティシアはネタが切れると話題を逸らす。たまになら付き合ってもいいが、毎回だとフォルトが持たない。彼女ほどつかかってはいないのだ。それでもかわいらしいので、口の中へ果物を放り込んであげた。


「もぐもぐ。おいしぃ!」

「御嬢様。はしたないですよ」

「じゃあ、キャロルも食べさせて! あーん!」

「じゃあの意味が分かりませんが、どうぞ」

「もぐもぐ。こっちもおいしぃ!」


 キャロルは首を振りながらレティシアの口へ果物を放り込んだ。彼女も大婆に拾われた孤児みなしごだったらしいが、きっと母性本能のようなものかもしれない。レティシアを見ると、そう思えてならなかった。


「セレスたちから連絡は?」

「森へ近づいた魔物を倒しておるそうじゃ」

「なんだ。もう戦闘を開始してたのか」

「数は少ないがの」

「そっか。じゃあ、俺も」

「お主は試練じゃ。ポロを使いこなすのじゃ」

「たぶんだが、もう平気だぞ」

「すぐに使いこなせるものじゃないわ!」

「じゃあ、試してみる?」

「いいじゃろう。食後の運動で試してやるのじゃ」

「パ、パールを仕舞え!」


 大婆が挑発と受け取ったのか、パールを体じゅうへまとわせる。こういうところが里のダークエルフたちに怖がられている原因だと思うのだが、それはお構いなしのようだ。ある意味、同情をしてしまう。


「大婆様。あの件はいいのですか?」

「それはフェブニスから話してやるのじゃ」

「何の事だ?」


 今まで黙っていたフェブニスが口を挟む。彼は生真面目で、料理は黙々と食べる人物のようだ。フォルトのように不作法ではない。


「スタンピードの件だな。人間どもの話だ」

「へえ」

「やつらは数日前に何カ所かの町を奪還したらしい」

「ふーん。なら、俺たちは要らないんじゃ?」

「いや。報告では、魔物の数が一向に減らないそうだ」

「あらら。前へ進めない感じかあ」

「そうだな。町を奪還したまではいいが、その後が続かない」

「大変だな。奪還した町が多いのではないか?」

「すまんな。そのあたりは分からん」


(守る場所が多いと人数が取られるからなあ。元勇者チームが居ると言っても、人数を分散させるのは愚策だと思うが……)


 首都ベイノック近郊まで押されていたので、押し返したい気持ちは分かる。しかしながら、周囲を完全に押し返そうとするには人数が足りないのだ。

 町を奪還した後は防衛に専念する事となるだろう。当然のように首都の防衛も必要である。魔物が他の魔物の領域を通って、首都へ来る可能性もあるからだ。


「指揮官が不在か無能。そんなところか」

「内情までは分からん。連携をしているわけではないのだ」

「それで?」

「人間どもが魔物を受け持ってる間にどうにかならないかとな」

「どこからか湧き出てるんだっけ」

「フレネードの洞窟だ。元凶が居るはずだから倒す必要がある」

「元凶?」


 魔物の増殖をうながす元凶。フォルトは知らないが、フェリアスでのラフレシアと同じような存在だ。現在はマリアンデールとシェラが関わっているものである。


「それは俺たちが出ろと言う事か」

「選択肢の一つだな。スタンピードの対処に来たのだろ?」

「う、うむ。だが、大婆だけでもやれそうな気が……」

「ワシは森から出ぬ。石像を守るからの」

「ああ、そういう事か。他の誰かに任せる事は?」

「分かっておろう。任せる事はできぬのじゃ」

「そうだった。秘密だったな」


 大婆は石像の守り人をやっているのだろう。魔人の魂が入る石像だ。しかし、そんな事を魔人がやるのかは謎だった。フォルトからすれば、石像がどうなろうと知った事ではない。


「石像を守るのが不思議かの? いずれ分かる事じゃ」

「いずれ……。ね。魔人の秘密と関係があるのか」

「ポロの遊びを邪魔する気はないのじゃ」

「知りたいんだけど?」

「だははははっ! ならば、アルバハードから調べてみるのじゃ」

「アルバハードだと? バグバットに聞けば分かるのか」

「さあのう。何もないところからは無理じゃから言ったまでじゃ」

「それはそれは。なら、帰った時に聞いてみよう」


 魔人の秘密。それをフォルトに調べさせるのがポロの楽しみの一つだ。いつまでも分からない可能性もあるので、物凄く重要なものでもないのだろう。しかし、隠されると知りたくなるものだ。フォルトは魔人なのだから。


「では、お主がポロを使いこなせるか見るとしようかの」

「分かった」


 食事も終わり大婆が立ち上がった。フォルトもニヤリと口角を上げて追従する。昨日の夜に決めたポロの使い方を試せるのだ。はたしてうまくいくのか。それには心が躍ってしまうのであった。



◇◇◇◇◇



 里の中には戦士隊が利用する訓練所がある。里自体が大きくないために規模は小さい。そこに設置されている修練場は、日本の高校に設置されている校庭程度の広さがあった。数名が交互に使っているような感じだ。

 その修練場の中央へフォルトと大婆が向かう。他のダークエルフたちは立ち入りを禁止された。大婆の命令なので誰も近寄ってこない。カーミラやレティシアたちは修練場の隅の方で見ている。


「何も変わっておらぬように見えるがのう」

「ははっ。それは後で御覧じろだ」

「そうかい。今、知りたいの。すきありじゃ!」

「………………」


 さすがは大婆と言うべきか。中央で対峙たいじする前に仕掛けてきた。それも話ながら歩いている最中である。すきをつくには効果的だが、なんの遠慮もなかった。


「なっ!」


 大婆がパールをまとわせながら、フォルトの腹を殴ろうとした瞬間に後方へ飛んだ。それに気づかず何気なく歩いていたが、その大きな動きで気づいて大婆へ目を向ける。他の者たちは目を見開いていた。


「なんじゃそれは!」

「ポロだけど」


 フォルトの腹の前に小さな魔法陣が現れたのだ。しかも、そこから水がチョロチョロと流れている。そして、ある程度流れたところで水が出なくなった。


「それは……。攻撃魔法じゃったら当たっておったのう」

「そうだな。これで分かってもらえたかな?」

「うーむ。ポロに魔法を使わせておるのか」

「ははっ。そんな感じだな」

「むぅ。ポロに判断させているとなると……」

「お察しの通りだ。制限が多いな」


 フォルトのポロの使い方。それは自動迎撃システムと同意だ。ポロに判断を任せる事になるが、戦闘経験はポロの方がある。これは今から努力しても同じ域に達しないだろう。ならば任せてしまった方がよいという事だ。

 しかし、魔人の魂が魔法を使うには制限がかかる。ポロの魂は魔法を使えない。使わせるには渡す必要があった。その渡す方法は、封印魔法陣と呼ばれる受け渡しが可能な魔法陣へ魔法を入れておく事だ。その魔法陣をポロが解放するだけで発動する。


(魔法陣へ魔法を入れておく手間。数個しか渡せない。使い終わったら無力と制限が多いがな。距離を取ればよし。取らなければ魔法が命中だ)


「なるほどのう。パールは、ワシが動かしておる」

「そうだろうな。だが、そうやって距離が稼げれば十分だ」

「だははははっ! すきすきでなくなったのう」


 フォルトは今でもすきだらけ。もし距離を取らずに攻撃をしてきても、吹き飛ばす魔法を入れておけばいい。そういう魔法はいくらでもある。

 それに距離さえ稼げれば、召喚魔法で魔物を出して壁にすればよい。後はフォルトの得意な戦い方で戦えばいいのだ。距離さえあればリドから逃げられた。なんの制限もなければ殺せたかもしれない。


「距離が取れたとして、魔法を封じられていたらどうするのじゃ?」

「スキルで戦う。それに大罪の悪魔も居るだろ?」

「だははははっ! お主なら使いこなせておるじゃろうしの」

「全ての大罪を持ってるからな。大婆はアスモデウスだけか?」

「それは言えん。手のうちをさらさんわ」

「そうか。だが、これで認めてもらえるかな?」

「いいじゃろう。レティシアは、お主のものじゃ」

「受け取ろう」


 フォルトは一日で大婆の試練を達成してしまった。これは瞠目どうもくに値するだろう。自らを縛る使い方をする者など居ない。

 縛りプレイをゲームでやる者は居るが、本当の戦いでやるわけがない。その思考を持てるのは異世界人だからだ。それがフォルトにマッチした使い方だった。


「御主人様はすごいですねえ。ちゅ」

「でへ。魔物使いも人使いも荒いからな。魔人使いも荒いのだ」


 カーミラが勢いよく走ってきて腕に絡みつき頬へ口づけをする。フォルトが魔人として強くなったのが嬉しいのだろう。強い魔人の眷属けんぞくになるのは悪魔としての喜びと言っていた。彼女へ喜びを与えられたら、それは恩を返せている事になる。


「(たしかに魔人使いは荒いな。怠惰たいだな俺にやらせるとは)」

「ははっ。もう大罪はないだろ。俺が死んだら楽しめないぞ」

「(たしかにな。ソシエリーゼの顔は楽しませてもらった)」

「それは重畳」


 大婆が離れた時の顔は驚きに満ちていた。それを見たポロは、してやったりといった感情を持ったのだろう。それが楽しいようだ。


「うふふふふ。魔を統べる魔術師! どうやら、わたしをめとるようね」

「ふははははっ! 俺の許へこい! 黒き一族の花嫁よ!」

「うふふふふ」

「ふははははっ!」

「「はぁ……」」


 レティシアの厨二病に釣られたフォルトも厨二病が全開だ。これにはフェブニスとキャロルが溜息ためいきをついている。やはり、ついていけないといった表情だ。


「では、本格的にスタンピードの件に入ろうかのう」

「そうしよう。セレスたちにも早く会いたいしな」

「せっかく訓練所へ来たのじゃ。なんなら、もう少し戦うかの?」

「勘弁してくれ。これでも頑張ったほうだ」

「残念じゃのう。まあよい。戻るとしようかの」

「うむ……。でへ」


 訓練所へ来てあっという間だったが、試練を達成したので用はなくなった。大婆となど戦っていられない。どこかの戦闘民族ではないのだ。

 そして、レティシアをもらった事でダークエルフを手に入れた。これには頬が緩んでしまう。もらったからにはやる事は一つだが、それは夜になりそうだ。フォルトは大婆の家へ戻り、スタンピードの対応を話し合うのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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