第334話 魔人フォルトと魔人ポロ2
「ソシエリーゼ」
「大婆でいいわい。この歳でソシエリーゼもないじゃろ」
「そ、そうか。ポロの力って、どうやって使うんだ?」
「さあのう。それはポロに聞けばよかろう?」
「ポロ。どうやるんだ?」
「(知らん。俺をどう使いたいかだ)」
「難しいな」
ポロの利用方法など分からないが、大婆はパールを体へ
(イメージか? ポロをどう使うかをイメージするのか? なら……)
「ふははははっ! 俺が暗黒の王フォルト・ローゼンクロイツだ!」
イメージを形にするには、なりきるのが一番だ。レティシアを見習い厨二病を全開にしてポロを使ってみた。するとフォルトは黒いオーラを
「きゃー! 御主人様! カッコイイですよお!」
「ふん!」
カーミラが喜んだ瞬間に大婆の拳が腹へ減り込む。しかし、手加減をされたので少々苦しいだけだった。
「うぐぐ……」
「なんじゃそれは?
「い、いや。形から入ろうとな」
「まったく。形だけ同じにしても駄目じゃ」
「そ、そうらしいな」
「(おまえは馬鹿か?)」
「うるさい! まあ、なんだ。レティシアが喜ぶから、これでいいだろう」
「よくないわい! とにかく使いこなせねばレティシアはやれん」
「や、やるだけやってみよう」
すぐに扱えるとは思っていないので、これを数日間で扱えるようにする案を考えるしかない。とにかくフォルトは戦闘経験に乏しいのだ。一度、得意なゲーム脳へ切り替えて考える必要があるだろう。
「ところで、他の石像に魔人は入っていないのか?」
ひとまずポロを扱う事を置いておいて、その他の疑問を聞いてみた。大婆の他にはカーミラとポロしかいないのだ。他の者に知られたくない話は多いので、今のうちに聞いておくことにした。
「入っておらぬの」
「あれ? 魔王スカーレットは消滅したって聞いたぞ」
「スカーレットは冥界へ出張中じゃ」
「出張中?」
「勇者との戦いの結末は聞いておらぬのか?」
「神魔剣がどうたらこうたら」
「うむ。その剣を封印するために冥界へ落ちたのじゃ」
「そう聞いたな。人間には違う結末が伝えられてるが」
「冥界で神魔剣とともに消滅するという話じゃな」
「よく知ってるな!」
「勇魔戦争の前に話したからのう」
「ふーん」
「冥界で魂も消滅すると言っておった」
このあたりの話は無関係である。この世界へ勇者召喚で呼び出される前の出来事だ。スカーレットは石像へ入っていない。そして、魂も消滅して存在が完全に消える。それだけ知っていれば十分だ。
「それと
「会った事はないの。魔剣シュトルムを持っとるそうじゃが」
「それらしきもので斬られた」
「お主は戦ったのか!」
「事情があってな。グリードかどうかは憶測だ。ほぼ確定だろうが」
「なるほどのう。じゃが、グリードに関しては知らぬ」
「魔剣シュトルムについては?」
「
「グリードが持ってると言う事は、ここへ来たのでは?」
「いんや。来てはおらぬの」
「なら、どうやって魔剣へ?」
「グリードと戦って負けたのじゃろうな」
石像へ強制的に魂が入るのではない。入る場合は儀式魔法で魔人の力を他者へ移す必要がある。倒されてから魂が消滅する前に魔剣へ変わったのだろう。
しかし、憶測であって確定ではない。魂から変化して何かに変わるなら、死んだ事に違いがないだけであった。
「まあいいか」
「里の者には知られるでないぞ」
「レティシアも知らないのか?」
「いんや。三人にはワシが話しておる」
「信用してるんだな」
「だははははっ! 知られたら殺すと言ってあるのじゃ」
「脅迫かよ!」
「冗談じゃ。身内じゃからな」
「大婆も身内と言うのか」
「里の者は家族も同然じゃ。その中で三人は特別なのじゃ」
「ははっ。気持ちは分かる」
フォルトが家族と言わず身内と言っているのは、大婆と同じような事だ。言葉で遊んでいるのではなく、読んで字のごとく自身の内と言う事。彼女たちを家族以上の存在として認識しているのだった。
「だが、キャロルはレティシアの従者だろ?」
「それはキャロルが望んだ事じゃ」
「それに親は?」
「三人は
「は?」
「両親は死んでおる。ワシが拾って育てたのじゃ」
フェブニス、レティシア兄妹の両親。それとキャロルの両親は
「そ、そうなんだ。試練で殺したとばかり……」
「そんなわけないわい! ワシをなんじゃと思っとるのじゃ」
「化け物?」
「否定はせん。魔人は化け物じゃ」
「そうだな。でも、孤児かあ」
「いまさら要らないと言うのかの?」
「まさか。もちろんもらう」
「ふん。ポロを使いこなしてから言うのじゃ」
「そうだったな。じゃあ、家へ戻るか」
フォルトたちはダークエルフの里へ戻っていく。とにかくポロをオーラとして変えてしまった。もう変えられないので、この状態で使いこなすしかない。
そして、おっさん親衛隊へも説明する必要があった。それを任せようと思いカーミラを見ると、ご満悦の笑顔で腕へ絡みついてきたのだった。
◇◇◇◇◇
「ポロを使いこなすねえ」
フォルトは新しく建てた小屋へ戻って考える。見た目だけなら恐ろしさを演出できるが、ただそれだけであった。今のところはレティシアを喜ばせるだけにしか使い道はない。それはそれで楽しそうなのだが……。
「ポロ様は私と話せるんですかあ?」
「オーラになったら駄目だな。きっと、聖剣ロゼと同じだ」
「なるほどお。残念です」
「聞きたい事があれば聞くぞ?」
「そうですねえ。なぜ消えたんですかあ?」
「どうなんだ?」
「(うるさい。カーミラはこいつの事だけを考えとけ)」
「だ、そうだ」
「ぶぅ。言われなくても考えてるもん!」
「でへ」
「(俺の遊びを邪魔するな)」
「だ、そうだ」
「ポロ様らしいですけどお」
「(もう聞くな。答える気もない)」
「だ、そうだ」
カーミラは不満気だ。しかし、ポロはそれ以上は聞くなの一点張りになった。これ以上は無理だろう。それにしても、聖剣ロゼのような騒がしさがなくてホッとしてしまう。今ならレイナスの苦労が分かった。
「遊びって、俺が魔人の事を調べる事か?」
「(それもあるが、何をやれと口を出すつもりはない)」
「俺と一緒に居ても楽しくないと思うぞ」
「(それを決めるのは俺だ。おまえはおまえの遊びでもしてろ)」
「これだけは言っておくが、身内と遊んでる時は見るなよ」
「(人間と同じ視点で考えるな。俺は魂になった魔人だぞ)」
「ふーん」
魂になった事がないから理解できないが、やはり肉体が感じる事とは違うものらしい。そうなると、人間の思考を持つフォルトの基準で考える事は無意味だ。視覚にしても、見るのではなく感じるものといった類のものだ。
「まあ、
「(だから、そういう視点で考えるなと言っている)」
「分からないが分かった。じゃあ、ポロをどう使いこなすかなあ」
(さてと、ここからが問題だ。まずは自己分析からかな? 俺は魔法が得意だ。そして、近接戦は苦手だ。それに大婆の使い方を考えると……。うーむ)
大婆は、気と呼ばれるものと似たような使い方をしている。空手家のアルディスが限界突破をする時に、気を体へ
これは自分の長所を伸ばしているか、カモフラージュのどちらかだろう。大婆は魔人である。無手に多少でも心得があるならば、力を大きく見せる事で無手の強者と思わせる事は可能だ。実は魔法使いでしたでも変ではない。それでも絶対零度の氷塊を砕いたなら、長所を伸ばしてると見るべきか。
「御主人様。いい案がありましたかあ?」
「大婆が長所を伸ばしていると仮定すると……」
(俺の場合は短所を埋めた方がよさそうだな。特に対魔人戦では短所が致命的に不利となる。リドに斬られたようにな)
フォルトの場合は戦闘経験が少ないため、大婆に
「次は、カモフラージュとしていた場合……」
「ちゅ」
「でへ」
カーミラが嬉しいちょっかいを出してきたが、それを受け入れながら考える。カモフラージュと言っても、すでにフォルトは高位の魔法使いとして知られている。多数の一般人は知らないが、いまさら無手が得意でしたでは知っている者との整合性がとれない。ならば……。
「短所を埋めるのが一番だな」
「短所ですかあ?」
「うむ。俺は
「そうですねえ。ほらほら」
「うっ! そ、その
「えへへ。いい案が浮かんだようですねえ」
「おぼろげにな。まあ、俺は
フォルトは考える。自分で
「どうだ。可能か?」
「(くくっ。制約が多くかかるが可能だな)」
「んじゃ、それで」
「(ソシエリーゼのように使うなら制約はないぞ)」
「構わん。制約と言っても一部だしな」
「(形になれば変われない。最後に聞くが、本当にそれでいいのか?)」
「いいよ。それでも十分に使える」
「(くく。面白いな。そうやって俺を楽しませろ)」
「そうしよう」
フォルトの答えとともに、ポロは黒いオーラとなり体を
「終わりましたかあ?」
「ああ。これで完璧だ。明日は大婆と戦ってみるかあ」
「えへへ。でも、
「うひょ。そ、それには反応しないから平気だ!」
「きゃ!」
「では、明日の英気を養おう」
フォルトはカーミラを引き寄せて行為を始める。ポロが彼女にしてやらなかった事だ。それは彼女に不満を持たせていた。本日は存分に満足させられるだろう。
それから長い行為も終わり、自分も満足した頃に目を閉じる。二人は隙間がないぐらいに体を寄せ合って、深い眠りの中へ入っていくのだった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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