第315話 帝国への旅路2
バグバットの屋敷から戻って一週間後。フォルトたちは帝国へ向かうために、庭でミーティングを開いていた。とにかく、この一週間は怠けるだけ怠けまくった。やる事はやっていたが。
「リリエラは、マリとルリとシェラと一緒にドワーフの集落へ行け」
「はいっす!」
「コルチナにアーシャの描いた絵を渡して作っておけ」
「分かったっす!」
「後、服の量産は俺が戻るまで待ってもらえ」
「いいっすけど、今も待ってると思うっす!」
「だよな。基本的にはいいんだけど、ちょっと考えてる事があってな」
「なんすか?」
「内緒だ。だから、待ってもらえ」
「はいっす!」
クエストと言うほどのものではないが、これをやる事でリリエラは成長している。戦士や魔法使いなどにするつもりはないので、さまざまな経験をつんでほしい。ターラ王国の件が終わったら、本格的に育てるつもりだ。
「マリ、ルリ、シェラ。頼むぞ」
「貴方も心配性ね。私たちを誰だと思っているのかしら?」
「そうよお。その代わり、戻ったら
「もちろんだ」
「魔人様。フェリアスなら魔族狩りも居ませんわ」
「そうだったな。それにマリとルリは魔族じゃないしな」
「あはっ! 悪魔の力は使わないと思うわよお」
「そうね。もともとの力で十分にお釣りがくるわ」
「ガルド王によろしくな」
「言っておくわあ。それより、すぐに森へ戻った方がいいかしらあ?」
「いや。ドワーフの集落へ滞在できるならしてもいいぞ」
「じゃあ、適当にやっておくわねえ」
「そうしてくれ。それと、一カ月後には戻っておけ」
「分かったわ」
フェリアスへ向かう面々には、これでいいだろう。知っている限りでは、フェリアスで彼女たちの脅威になる者は居ない。リリエラを十分に守れるだろう。
「んじゃ、こっちも行くか」
「はあい! 御主人様、飛んで行くんですかあ?」
「いや。バイコーンでいいだろ。全員が不純だし」
「きさまのせいでな!」
「あ、はは……。それからアルバハードで馬車へ乗り継ぐ」
バイコーン。二角獣と呼ばれる馬で、その名の通り額から二本の角が生えている。不純を
「フォルトさん。飛ばない理由でもあんの?」
「アーシャさん。帝国の密偵が居るかと思われます」
「フォルト様が来る日を分かっていますわ。当然、居ると思われますわよ」
「旦那様は、それを警戒しています」
「へえ。ダラけているのに、よく考えてるね!」
「ほう。きさまにしては上出来だ」
「まあな。ティオの悪魔形態や、大罪の悪魔は見られたくない」
「えへへ。透明化は見破れますからねえ」
どちらも切り札なのだ。ソル帝国へ知られたくはない。カーミラも飛べば悪魔と知られる可能性が高い。どうせアルバハードまでは半日の距離である。
「あのテンガイという男。相当に頭がキレるぞ」
「帝国軍師ですからね。外交では御爺様とやり合ってますし」
「今回の件といい。要注意人物でしょう」
「イケメンだしな」
「イケメンって……。関係あんの?」
「あるぞ。俺の敵だ!」
「なに? なら、私が斬り捨てよう」
「ティオ様。言葉のあやですよ」
テンガイは若くてイケメンだ。天は二物以上を与えている。フォルトは容姿にコンプレックスを持っているのだ。だからといって、それだけでは殺さない。
「では、向かうとしよう」
【サモン・バイコーン/召喚・二角獣】
フォルトは八頭のバイコーンを召喚した。魔族組に四頭で、おっさん親衛隊へ四頭だ。馬に乗れないのは、フォルトとカーミラとソフィアだ。リリエラは王女だったので、馬術は習っていたようである。
フォルトたちと魔族組は二手に別れて、それぞれの目標とする場所へ出発した。とにもかくにも、帝国へ入るのは初めてだ。それでも顔の筋肉を緩ませながら、ベルナティオの後ろに乗り
◇◇◇◇◇
フォルトたちは北からアルバハードへ入り、二台の馬車へ乗り換えてソル帝国との国境へ向かった。フォルト、カーミラ、セレスの馬車。それとレイナス、アーシャ、ソフィア、ベルナティオの馬車だ。
「護衛とか要らないって言ったんだけどな」
「バグバット様にも面目がありますからね」
「しょうがないか。吸血鬼の護衛なのが救いだな」
「えへへ。人間じゃなくてよかったですね!」
吸血鬼の護衛は馬車を囲んで十人だ。彼らは吸血鬼の真祖バグバットの命令を愚直に遂行する。フォルトの邪魔をしないようにと言われているらしく、こちらへ話しかけもしない。興味の目を向ける事もなかった。
「まったくだ。だが、帝国へ入ったらと思うと……」
「旦那様。そうは言いましても、見えてきましたよ?」
「そうなんだよなあ。あの丘に見える砦か」
馬車から前方を見ると、丘の上に砦が見えた。この丘は南北に伸びている。馬車からでは分からないが、街道から外れると林やら岩石地帯があるらしい。そこは魔物の領域になっている。
そちらからソル帝国へ密入国をしようとすると襲われる。行けない事もないが、その領域をこえても帝国の警戒網に引っかかるとの事だ。国境警備の駐屯地が、そこかしこにあるのだろう。見回りは頻繁におこなわれているようだ。
「それにしても、人通りが多いな」
「アルバハードから向かう街道は安全ですからね」
「そうなのか?」
「吸血鬼の警備隊が、昼夜を問わず街道を守っています」
「ブラック企業かよ!」
「それは何でしょうか?」
「あ、ああ。そうか、アンデッドだったな」
「はい。夜目も利きますので」
「人間より強いしな」
「そうですね。魔法か魔法の武器しか傷つけられません」
「なら、このあたりの魔物なんて余裕だろうな」
「アルバハードで魔物が居るのは……」
アルバハードの周りに魔物は居ないと思っていい。
「さすがはバグバット」
「フォルト様はすごいですね」
「急にどうした?」
「あそこまでバグバット様と仲がよい方は、あまり居ませんよ」
「そうなのか? まあ、俺が魔人と知ってるしな」
「それもあるでしょうが、気に入られているようですね」
「ははっ。俺も気に入っている。なんと言うか、人生の先輩のようだ」
「たしかに、そうかもしれませんね」
フォルトはバグバットから多くの事を学んでいる。師事しているわけではない。しかし、だいぶ視野が広がっているように感じる。
魔人と吸血鬼では力の差は大きいが、他の種族から見れば等しく脅威だ。そのため、それらとの付き合い方などが勉強になる。
「えへへ。バグバットちゃんが消滅しなくてよかったですね!」
「カーミラ。どういう事だ?」
「前の御主人様に食べられてましたからね!」
「そ、そうなんだ。それが因縁か」
「そうでーす! おびき寄せてえ。ガブッと!」
「うぇ。ほんと、何でも食べてたんだなあ」
三国会議の時から、カーミラがバグバットと因縁があると思っていた。しかし、内容を聞いていなかった。彼女が話してくれるだろうと思っていたが、本人はたいした事ではないと思っていたようだ。まるで世間話のように話している。
「恨んでいないのかな?」
「そういう感情は、超越してると思いまーす!」
「超越……」
「バグバットちゃんも、この世界の
「弱肉強食か。負けた自分が悪いって事だな」
「そうでーす!」
「旦那様。砦へ到着しましたよ」
「そうか。止めろ」
――――――カタ、カタ
国境の砦に近づいたところで、御者に命令をする。この御者はスケルトンだ。適当なローブを着させてフードをかぶせてある。
「さて、一回出るか」
「はあい!」
フォルトたちは馬車を降りて周りを見る。すると、後ろの馬車から他の身内が降りてきた。そして、足早に近づいてくる。
「通行量が多いですわね」
「うぇえ。混んでるねえ」
レイナスとアーシャに
「はぁ……。ソフィア。手続きをすればいいの?」
「通常なら手続きをしてから、荷物や馬車内の検査がありますね」
「平気なようだぞ。帝国兵がくる」
「あれは……。テンガイだな」
ベルナティオが顎をしゃくる。その先を見ると、帝国軍師テンガイと帝国兵が十名ほど向かってきていた。すると、それを確認した吸血鬼の護衛が馬を降りて、その内の一人が近づいてくる。この護衛隊の隊長だ。
「隊長さん。御苦労だったね」
「痛み入ります。左右を固めますので」
「よろしく頼む」
「われらはフォルト様が砦を通りましたら帰還します」
「分かった。戻ったら、バグバットによろしくな」
「畏まりました」
こちらから話しかければ話をしてくれる。もともとは人間だった者が多いが、中には獣人族の吸血鬼も居る。全員が血の気がなく青白い。そして、女性は居ない。居たところで手を出すつもりはないが……。
「フォルト殿。お待ちしておりました」
吸血鬼の護衛が左右を固めたところで、テンガイが話のできる位置まで到着した。そして、軽く会釈をしてから話しかけてくる。
「通るのに時間がかかりそうだな」
「いえ。そのまま馬車で通って結構です」
「いいのか?」
「フォルト殿たちは帝国の客人です。このような場所で足止めなどできません」
「そ、そうか」
「国境の砦をこえた後は、護衛の兵と一緒にお送りします」
「どこへ?」
「まずは、帝都クリムゾンへ」
「帝都か。分かった」
「私も同乗しても構いませんかな?」
「え?」
国境前なので簡単に済ませたが、どうやらテンガイは打ち合わせをやりたいようである。ソル帝国へ入ってからの予定や、その他諸々の話をしたいらしい。
移動をしながら話をした方がよいとの判断である。しかし、身内以外を馬車に乗せたくなかった。
「だが、断る!」
「駄目ですか? そうなると、砦の中でとなりますが」
「あ、いや。それも面倒だな」
「はい。もちろん終わりましたら、自分の馬車へ移動します」
「そ、そうか。なら、仕方がないな」
アルバハードでは、大まかな話しかしていない。それにバグバットの顔を立てると決めている。諦めるしかないという事だ。
「もう一人だけ、よろしいですかね?」
「護衛か。そうだな、許す」
「ありがとうございます」
(この場合は誰を一緒に乗せるかだな。難しい話ができるのはソフィアとセレスだ。護衛としてティオもかな? 〈剣聖〉なら当主の護衛にピッタリだ)
さすがにテンガイだけというわけにはいかない。ソル帝国の重鎮なので護衛は必要だろう。こちらもローゼンクロイツ家の当主として、護衛はベルナティオがふさわしい。しかし、そうなると馬車が満員だ。
「カーミラ。悪いがティオと交代してくれ」
「はあい!」
「ソフィアもこっちへ乗ってくれ。セレスもな」
「「分かりました」」
「では、向かうとしよう。隊長さん、御苦労だった」
「はっ!」
フォルトは吸血鬼の隊長へ
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
感想、フォロー、☆☆☆、応援を付けてくださっている方々、
本当にありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます