第313話 真祖との友誼3

 フォルトはバグバットとの食事を楽しんでいる間に、セレスの疑問を話題へあげた。それに対して彼は笑顔で応じたのであった。


瓢箪ひょうたんの森は無事である」

「そうですか。よかったです」


 セレスはホッと安心をしたようだ。フォルトの腕に手を置いてきて、そっとさすってくる。実にかわいらしい仕草しぐさだ。


瓢箪ひょうたん?」

「ほら、お話したではないですか」

「ああ! エルフとダークエルフの森か」

「はい。森自体は続いていますので、瓢箪ひょうたんの森と」

「な、なるほど。安直だが分かり易い」

「ふふ。では、森以外では?」

「ターラ王国の半分は魔物があふれていると、報告されているのである」

「では、森のすぐ近くまで?」

「で、あるな。森からは出ないゆえ、魔物が来てから戦うのである」

「それでは森に被害が出るのでは?」

「で、あるな。ゆえにフォルト殿である」

「俺か!」


 フォルトには瓢箪ひょうたんの森を拠点として、魔物の討伐をやってもらいたい。そこまではいいのだが、一つ問題があった。


「その前にであるが……」

「どうかしたか?」

「アルバハードからターラ王国へ向かうには、ソル帝国を通るのである」

「なるほど。飛んで行くのは?」

「エウィ王国とは状況が違うのである」

「と、言うと?」

「領空侵犯になるのである。敵対が確定するのである」

「消えていけば?」

「ターラ王国まで、どうやって向かったかと追求されるのである」

「そういう事か。変化を楽しむには……」

「帝国には帝国の文化があるので、壊すのは勿体もったいないのである」


 バグバットは不老長寿の先輩だ。それに言っている事も分かる。永遠の時間を楽しむには、敵対する事を避けた方がいいと。それ自体はフォルトも理解しているので、すんなりと了解をする。


「だな。なら、馬車で向かうか」

「それがよいのである。預かっている馬車を使うといいのである」

「グリム家の物だけどな」

「買い取ってしまえば、アルバハードで使えるのである」

「たしかにそうだな。ソフィアから聞いてもらおう」

「それがよいのである。吾輩が買い取るのである」

「それは悪い。俺が買う」

「ついでに、アルバハードでも使いたいのである」

「ははっ。じゃあ、バグバットの主人として俺も使えるな」

「で、あるな。好きな時に使えばよいのである」


 フォルトもバグバットも笑っている。これが友誼を結ぶという事だ。お互いが屈託なく話ができる相手。身内とは違う親しみがあった。


「バグバット様。フェリアスは?」

「変わりはないのである。人間が入り始めているぐらいであるな」

「人的交流をするって聞いたな」

「まだ手前までであるな。獣人族と蜥蜴とかげ人族が相手をしているのである」

蜥蜴とかげ人族?」

「エウィ王国とフェリアスの相互で決めた技術提供であるな」

「なるほど。まあ、それは興味ないや」

「セレス殿は興味があるように見えるのである」

「いえ。世界樹が気になったもので」

「外交特使も、そこまでは入れないのである」

「なら、平気ですね」


(世界樹はエルフ族の領域か。セレスなら心配して当たり前だな。まあ、クローディアも居るし問題はないだろう。それよりもスタンピードか)


 セレスも身内として大事にしている。彼女の心配は取り払ってあげたい。それでも今はやる事があった。そちらも彼女の懸案の一つだ。


「そう言えば、俺が瓢箪ひょうたんの森へ行って攻撃されたりとかは?」

「それについては、帝国で会ってもらいたい者がいるのである」

「会ってもらいたい者?」

「ダークエルフであるな。道案内をさせる予定である」

「ほう。名前は?」

「レティシアと従者のキャロルである」

「名前からすると女性?」

「で、あるな。ダークエルフの族長の孫娘である」

「へえ。もらっていい?」

「旦那様!」


 つい本音が出てしまいセレスが止めてきた。しかし、ダークエルフもほしい種族である。バグバットの協力者なので黙って手を出さないが、聞くのはタダだ。


「族長である大婆と、本人がよければであるな」

「大婆……。なんか、気難しそうだね」

「本人も難しいかもである」

「かも? まあ、大婆ってダークエルフから許可をもらえって事ね」

「バグバット様! よろしいのですか?」

「セレス殿を見れば分かるのである。大事にされているのである」

「た、たしかに大事にされてますが……」

「しかしながら、ダークエルフに関しては無理やりは駄目である」

「わ、分かった。肝に命じておこう」


 バグバットからくぎを刺されてしまった。レイナスやベルナティオのように調教したり、リリエラのように奴隷へ落としたりは駄目なようである。

 セレスのように互いが好き合うか、それら以外の身内のように相手が望むならば構わないという事だ。シュンではないので、フォルトには難しい案件だった。


「ハイダークエルフとか居るの?」

「残念ながら居ませんよ。ですので、私のようにはいきません!」

「あ、はは……。まあ、なるようになるさ」

「ふぅ。とにかく、バグバット様へ迷惑のかからないようにです!」

「分かった。それは約束しよう」

「フォルト殿は、人間以外には優しいのであるな」

「人間はみにくい部分が多すぎる!」

「理解はするのであるが……」

「そういったものが、他の種族から見えない」

「ふむ。まるでないわけではないのである」

「そうかもだが、ドワーフなんかは陽気で表裏がない印象だ」

「で、あるか。ドワーフと言えば、対価が到着しているのである」

「なんだっけ?」

「魔獣を見せ物にした件であるな。執事と取り決めたと聞いたのである」

「あっ! 忘れてた」


 シュンたちが魔獣を運ぶ時に、アルバハードで一次的に見せ物として保管した。その対価を金で払うと言われたが要らなかったのだ。そこで、ある物を手に入れる事を条件に折り合いをつけた経緯があった。


「それは何ですか?」

「みんなの武器。いずれ専用を作るつもりだったけどな」

「武器ですか。どのような?」

「鉄製の武器だよ。ボロボロだったし、持ってない者も居るだろ?」

「そうだったのですね。さすがは旦那様です」


 対価はドワーフから武器を仕入れてもらう事だ。ベルナティオ用に刀が二本、アーシャ用に剣が一本。セレス用に弓が一本。他は魔法使いなのでつえだ。


「じゃあ、持って帰るか」

「すでに幽鬼の森の屋敷へ届けているのである」

「さすが。じゃあ、みんなは見てる頃か」

「で、あるな。こちらでマリ様とルリ様の武器も用意したのである」

「え?」

「ミスリルの拳と火属性を宿したつえであるな」

「それって、高額なんじゃ?」

「吾輩からの贈り物である。お二人とは昔からの付き合いである」

「じゃあ、遠慮なく。その代わり、スタンピード方はなんとかするさ」

「よろしく頼むのである」

「俺がじゃないけどな。おっさん親衛隊に頑張ってもらう」

「で、あるか」


 基本的にフォルトは怠惰たいだなので動かない。しかし、身内が危険になれば動く。レベルを上げるためにも、最初は見ているだけだ。と、いう建前を使う。そんな事はバグバットも分かっているので簡単に流した。


「そう言えば、悪魔崇拝者がなあ」

「はははっ。それは時間がかかるのであるな」


 それからも食事をしながら話をする。たわいもない話も交えながら、交流を深めていく。男性同士の交流に入れないセレスが不貞腐ふてくされる場面もあったが、フォルトは楽しい食事を満喫するのであった。



◇◇◇◇◇



「旦那様。ちゅ」


 太陽が真上にある頃、フォルトはセレスの猛攻撃を受けながら起きだした。昨晩は話が弾み、そのままバグバットの屋敷へ泊まったのだった。


「おはよう。セレス」

「バグバット様の御屋敷なのに、よくそこまで寝られますよね」

「ははっ。惰眠だみんならどこでも平気……。じゃないか」

「男同士の仲は深まりましたか?」

「たぶんな。嫉妬しっとでもしたのか?」

「いえ。旦那様を独占できましたので」

「みんなには悪い事をしたな。待っているだろう」


――――――トン、トン


 ベッドの中でマッタリとしていると、部屋の扉がノックされた。するとセレスが起きだして乱れた服を整える。それから扉を開けた。


「じゃーん! カーミラちゃんですよお!」

「きゃ!」


 フォルトの帰りが遅いので迎えにきたようだ。そして、部屋へ入ってきたカーミラはフォルトへダイブをしてくる。それを受け止めて隣へチョコンと置いた。


「おっと」

「えへへ。泊まったんですねえ」

「うむ。話が弾んでな」

「みんなの移動は終わってまーす!」

「なにか問題があった?」

「何もないですよお。みんな、武器を喜んでましたあ!」

「ははっ。さっそく見つけたか。魔獣を見せ物にした対価だ」

「そういえば、そんな事もありましたねえ」

「まあ、せっかく来たんだ。始めるとするか」

「旦那様!」


 カーミラを抱き寄せて行為を始めようとしたところでセレスが止めてきた。やっても問題はないが、これから他に用事があった。


「そ、そうだ。昼だったな」

「はい。昼食をいただいてから帰られると」

「カーミラ。すまないが、お預けだ」

「ぶぅ。じゃあ、一緒に食べたいでーす!」

「そうしよう」


 フォルトはカーミラとともにベッドから出る。それからセレスも連れて食堂へ向かった。そこには執事とメイドがおり、深々と挨拶あいさつをしてくる。


「フォルト様、おはようございます」

「バグバットは?」

「ただいま接客中でございます。今しばらく、お待ちください」

「いいよ。じゃあ、軽くワインでも」

「畏まりました」


 メイドは獣人族から雇っている。さすがはバグバットのメイドで、見ているだけで惚れ惚れほれぼれしてしまう。この場合の惚れ惚れほれぼれは、姿勢や動きなどが美しい事だ。フォルトの色欲しきよくを押し込めるほどに洗練されていた。


「いいねえ」

「メイドがほしいんですかあ?」

「まあ、居てもいいかもしれんがな」

「あら、旦那様。珍しいですね」

「ははっ。まあ、レイナスやマリとルリを見るとなあ」


 レイナスは元ローイン家の令嬢で、マリアンデールとルリシオンはローゼンクロイツ家の令嬢だ。当然のようにメイドと生活をしていただろう。


「クウが頑張っていますよお」

「たしかにな。給仕などはよくやっている」

「面白い使い方ですけどね!」

「今のところ、他に使い道が……。今後は出番がありそうだけどな」

「お話中、もうしわけありません。旦那様が、お戻りです」


 食前のワインを飲みながら話していると、執事に話を遮られた。どうでもいいような話なので、それについては文句がない。バグバットが戻ってきたならば、食事が運ばれてくるだろう。そう思うと暴食ぼうしょくうずき始める。


「フォルト殿、待たせたのであるな」

「いや、構わないさ。俺も起きたところだ。うん?」


 バグバットが食堂へ入ってきたが、その後ろに見た事のない男性が居た。茶色いローブを着てつえを持っている若い男性だ。


「お初にお目にかかります。フォルト・ローゼンクロイツ殿ですね?」

「そ、そうだけど。誰?」

「紹介しておくのである。ソル帝国軍師のテンガイ殿である」

「帝国? 軍師?」


 ソル帝国と聞いて、少々体がこわばる。しかし、帝国と何をしたわけでもない。ルーチェの受肉用に一人を殺して、グラーツの息子から金を奪っているだけだ。

 それについては知られていないだろう。過度に緊張しても仕方がないので、いつものように嫌そうな顔をするのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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