第308話 リゼット姫の御茶会2

 リゼット姫の御茶会。その誘いを受けたフォルトは、ローゼンクロイツ家を呼ぶに足る何かを寄越せと返信した。その答えが書かれた手紙が、ソフィアの手に送られてきていた。フォルトは食堂で飯を食べながら、その手紙を読んだ。


「それで、何をくれるって?」

「私たちが納得しないと駄目よお」


 当然のように、マリアンデールとルリシオンが口を挟む。ローゼンクロイツ家の正式な令嬢の二人だ。人間の王家など格下と見ている。それでも興味があるようで、ニヤニヤと笑っていた。


「納得するかは分からないが、なかなか面白いものだぞ」

「そうですね。でも、価値は分かりません」

「ソフィアはそうだろうな」


 面白いと言ったところで、身内の全員がフォルトを見る。モノがなんであれ、王家が出すものなので気になるようだった。


「で、きさま。何をくれると言っているのだ?」

「人間の王家が差し出すものですか。なんでしょうね」

「私は興味がありませんわ。ですが、一応」

「フォルト様が面白がるものでしたら、魔道具だと思いますわ」

「マスター。早く教えてほしいっす」

「もったいぶらずに教えてよ!」

「御主人様には価値があるものなんですかねえ?」

「それはだな」


 リゼットが提示してきたもの。それは、異世界人が持ち込んだ物だ。たとえば召喚された時に着ていた服や、その時に持っていた何かだ。


「何それ? 超ほしいんだけど!」

「ははっ。アーシャはそうだよな。俺も興味がある」

「御主人様の居た世界の物ですかあ。面白そうですね!」

「はぁ……。いいわ。貴方の目を見れば分かるわよ」

「私たちは興味がないけどお。当主が興味を持っちゃったからねえ」


 送られてきた手紙に目録などはないが、リゼットとの御茶会で見せてくれるようである。グリムの入れ知恵かもしれない。それにしても異世界人が興味を引くものを提示するあたり、なかなか侮れない王女である。


「勇者アルフレッドは、ジュウと言うものを持っていたとか」

「ジュウ? 銃か!」

「彼は戦争をしていた時に召喚されたようですよ」

「ふーん。使えるのかな?」

「どうでしょう。調べ終わっているはずですが」


(面白いものをくれるな。元の世界を感じる事ができる品物だ。そう言えば、バグバットのスーツも異世界人の服とか言ってたな)


 バグバットは三国会議が開催される時に、各国から贈り物をもらっている。今は酒になっているが、ソフィアが子供の頃に提案する前までは宝物が多かった。

 勇者召喚をおこなっているのはエウィ王国だけなので、その品物には価値がある。しかし、調べているうちにガラクタと認定されたものもある。それをくれるらしい。


「アーシャは何か持ってきたの?」

「あたしはクラブで踊ってた時だから、何も持ってないよ」

「財布とかは?」

「もちろん、男におごらせたよ! バッグは友達に持ってもらってたし」

「男?」

嫉妬しっとしないでね! ただの友達」

「そ、そうか」


 フォルトに限らず歳を取った男性は、若い男女が遊んでいると性的なものを想像をする者が多い。しかし、現代では的外れだ。

 昭和の時代とは日本人の価値観が変わっている。恋愛や結婚に興味がなくなっている若者が多く、男性の性欲も昔と比べるとなくなってきていた。人間関係で波風をたてたくない思考の若者が増えた事も要因だ。

 その要因により、アーシャも男友達に性的な興味を持っておらず、相手も持っていなかった。性別に関係なく仲間として遊んでいたようだ。


「では、行かれるのですね?」

「そうだな。飛んで行って、茶を飲んで帰ってくるだけだろ?」

「貴方は馬鹿なの? そんなわけないじゃない」

「今までの事を思い出しなさあい」

「ですよね。はぁ……。まあいいか」


 リゼット姫とは一度会って話をした。踊ると死んでしまう病の冗談が通じなかった姫様だ。まったく知らない人物ではないので、多少はマシである。


「フォルト様。行くとなると、カーミラさんと二人と書かれていますよ?」

「あれ? 読み飛ばしたか」

「姫様は御付きの女性と二人だそうですので」

「数を合わせろと?」

「そう書かれています。どうしますか?」

「なぜ、カーミラを?」

「前回の舞踏会で面識があるからと」

「たしかにそうだな。もしかして、マリとルリは魔族だから?」

「遠まわしですが、そう書いてありますね」


(まあ、言ってる事は理解できるが……。ローゼンクロイツ家として行くなら、マリかルリだよな。カーミラでいいのか?)


「ふーん。マリ、ルリ。どうする?」

「カーミラなら平気じゃない? 私たちより強いし」

「そうねえ。人間と御茶なんて飲んでもねえ」

「そ、そうか」

「王様と会った時と同じでいいわよ。傲慢ごうまんで不遜にしてなさい」

「あはっ! 家名に泥を塗らなきゃいいわあ」

「が、頑張ってみよう」


 マリアンデールとルリシオンは、リゼットの御茶会に興味がないようだ。当たり前と言えば当たり前か。魔族は人間と敵対をしてるのだ。殺し合うなら喜んで行くだろうが、優雅に茶など飲む気はないだろう。


「じゃあ、カーミラ」

「はあい! 御主人様とデートです!」

「むっ。おい、きさま! 戻ったら私とも……」

「ティ、ティオ様、ずるいですよ。旦那様、私も……」

「がっつくんじゃないわよ! 順番よ、順番」

「フォルトが戻ってくる間に順番を決めましょうねえ」

「その通りですわ。では、私が一番でいいですわね?」

「ちょ! レイナス先輩!」

「わ、私は後でいいっす……」

「マ、マリ様とルリ様の後なら……」

「ふふ。帰ったら大変ですね」

「大変ではないぞ。望むところだ!」


 リア充の爆破スイッチが押されそうだが、身内とのデートは嬉しいものだ。双竜山の森の中でデートになるが、二人きりならどこかへ飛んで行くのもいいかもしれない。そんな事を思いながら、食事の続きをするのだった。



◇◇◇◇◇



 シュンたち勇者候補一行は、フェリアスの南東部にある密林へ来ていた。その場所に洞窟や迷宮などはないが、南東部の一部が魔物の領域となっていた。ヴァルターが率いる討伐隊の面々とともに向かっているのだった。


「なんだか、魔の森を思い出すな」

「あそこよりひどいよ。原生林だよ?」

「アマゾンみたいね。写真でしか知らないけど」

「そ、それにしても暑いですね。ローブを着てると汗が出ます」

「ですが、脱ぐと葉や枝で傷つきますよ?」

「ギッシュが斬り払ってるけどな」


 先頭に立ったギッシュは、黙々と葉っぱや木の枝を斬っている。まだ魔物の領域に入っておらず、近くにある野営地を目指していた。

 向かっている領域は今までも間引きをしており、拠点となる場所を確保している。まずはそこへ移動してから間引きを開始するらしい。


「なあ、ノックス」

「なんだい? シュン」

「オメエ。あいつの事を好きだろ?」

「え?」

「あの兎人族だっけ? フィロとか言ったな」

「ななな、何を言ってるんだい! た、たしかにかわいいけどさ」


 獣人族の集落でミーティングを重ねるうちに、兎人族のフィロと面識ができた。精鋭部隊の斥候を務めており、「幸運のフィロ」と呼ばれているらしい。

 ウサギの耳が特徴的で、現在は二十歳だそうだ。白髪のショートカットで、顔つきは童顔である。カーミラとまったく違うタイプだが、一応は年下なのでノックスの好みであった。


「へへ。隠すなよ」

「なになに? ノックスにも春がくるの?」

「にも?」

「い、いえ。ノックスに春がくるの?」

「ま、まだ話もしていないよ! からかわないでくれるかな?」


 アルディスが話に加わってくるが、少々危なかった。ノックスが聞き返していたが、話題が話題だけに気になっていないようだ。


「しょうがねえなあ。俺が手ほどきをしてやろうか?」

「シュンはモテるからなあ。頼もうかな」

「いいぜ。まずは下調べからだな」

「下調べ?」

「おうよ。何が好みで、どんな男が好きか。性格もだな」

「そ、そんなの話してみないと、分からないでしょ?」

「周りに聞くんだよ」

「周り? 友達とか?」

「そうそう。そいつらの方が、フィロと長く付き合ってんだぞ」

「それもそうだね」

「よく調べてから、好意を持たれるように話しかけるんだ」

「な、なるほど」

「最初が肝心だからな。何も知らずに地雷を踏みたくねえだろ?」

「そうだね! さすがはシュンだ」


 挨拶あいさつ程度の面識を持ち、そこから先がまだなら情報収集が基本だ。見た目はどうしようもないが、それ以外は相手の好みに合致した方が好印象を持たれる。

 そのための情報収集だ。最初から高い好感度を保ちつつ、さらに伸ばすといいだろう。しかし、相手の知り合いに自分が聞くのはまずい。


「俺が情報を集めといてやるぜ」

「え?」

「ノックスが集めたら、そいつらからフィロに漏れるだろ?」

「た、たしかに……」

「だから第三者を使うんだよ」

「さ、さすがはホスト。慣れてるね」

「まあな。ヘルプのホストから、客の情報を聞き出すのは基本だぜ」

「はぁ……。すごい世界だね」

「誰にも言うなよ? 仲間にもだ」

「わ、分かった」


 シュンは女性客の相手をする前に、ヘルプのホストを使い相手をさせる。それから好みや素性、現在の機嫌など有効な情報を仕入れるのだ。その後に接客へ入り盛り上げていく。相手が嫌な思いをせずに、楽しく飲んでもらうためだ。

 最後に指名を取れば勝ちである。女性客はシュンを目当てに店へ来て金を落とす。店が終われば体を渡す。そんな事は日常茶飯事だ。


「シュン。ノックスに変な事を吹きこんじゃ駄目よ?」


 もちろんアルディスやエレーヌには内緒のやり方だ。当然のようにヒソヒソと話していた。それを怪しんだアルディスにくぎを刺されるが、内容は知られていない。逆にノックスへくぎを刺してあるので、知られる事はない。


「おう! オメエら、遅れてんぞ」

「す、すまん。ほら、急ぐぞ」

「あら。後ろにヴァルターさんが見えるわ。追いつかれそうね」


 ギッシュから遅れてしまったようだ。この討伐隊は先頭が犬人族のスタインが率いる部隊で、最後尾が熊人族のヴァルターが率いる精鋭部隊だ。シュンたちは、その中間に居る。後ろを見ると、そのヴァルターの姿が見えた。


「ヴァルターさん? なら、フィロちゃんはどこだろ?」

「ノックス。遅れてるから急ぐつってんだろ!」

「ご、ごめん。今、行くね」


 情報収集からだと言った矢先にフィロを探すあたり、ノックスは入れ込んでいるようだ。チームの女性はシュンが食べたので彼に望みはない。その事に口角を上げてたシュンは、その穴埋めをしてやろうと思っていた。


「ギッシュ。手伝うぜ」

「おう。まあ、先頭のやつらがやってくれてるけどな」

「草木が多いから、やり残しがあるぜ」


(フィロか。まあ、俺のタイプじゃねえが抱いてみるか? 獣人族の女も試してみてえしな。俺がいろいろと教え込んどいてやるよ)


 ノックスへ渡すのは中古品でいいだろう。そんな下衆げすな事を考えながら、ギッシュの隣へ移動する。それから内心を隠すように剣を抜いた。そして、進行方向へ伸びている葉や枝を斬り払っていくのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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