第305話 緊急会議と指輪の解析2

「ウンディーネよ!」


 フォルトは双竜山の森にある湖のほとりで、シェラが精霊魔法の練習をしている姿を見ていた。カーミラの膝枕を堪能しつつ、隣にちょこんと座るアーシャの足を触っていた。ホッソリとしたギャルの足だ。


「触り方がエロいんですけど!」

「でへ。飽きないからしょうがないのだ」

「レイナス先輩とどっちがいいの?」

「聞くな。両方だ、両方」

「脚フェチってやつ?」

「うむ。ムッツリだしな」

「威張るな!」

「ははっ。と、いうわけでリリエラの服のデザインをな」

「聞いたイメージから描いてみるわ」

「よろしくな」


 今までスッカリ忘れていたが、ドワーフの服飾師コルチナを思い出した。服を作るなら彼女だ。そして、リリエラを通して聞いた提案の返事をしていない。


(コルチナってドワーフ。きっと怒ってるだろうなあ。まあ、手紙ぐらいは出しておいてやるか。文面はソフィアかセレスに任せて)



【ウォーター・ウォール/水の壁】



 フォルトがくつろぎながら湖を眺めると、突如大きな水の壁が湧き出てきた。高さは三メートルぐらいか。これはシェラの精霊魔法だろう。なかなか壮観な眺めで、アーシャもキラキラした目で見ていた。


「魔人様。どうですか?」

「すごいね」

「ふふ。だいぶ仲良くなりましたわ」


 シェラが右手を水平に上げると、水の精霊ウンディーネが四体ほど腕へ座った。順調に精霊の声を聞いて仲良くなっているようだ。あれだけの水の壁が作れるなら、戦闘でも役に立つだろう。


「シェラ。こっちへ」

「はい。魔人様。っぁ!」


 シェラをアーシャの反対側へ座らせたフォルトは、当然のように悪い手を解放する。シェラも白衣の下にボディコンワンピなので、素足が素晴らしいのだ。


「精霊魔法って、すごいのね!」

「そうだな。術式を覚えなくていいのだろ?」

「はい。精霊と心を通わすだけですね」

「あたしにできるかな?」

「アーシャさんでは難しいかと思われますわ」

「えぇ。なんで?」

「精霊は騒がしいのが嫌いなのです」

「あたしってば、騒がしい?」

「うむ。だが、それがアーシャのいいところ」

「まあいいわ。ニャンシー先生に教えてもらった魔法で十分っしょ」

「覚えられてるの?」

「うっ! す、少しずつね!」


 これは重大な問題だ。もし転移の指輪から術式が分かったとして、フォルトは覚える必要があるかもしれない。可能性の話であって、魔道具として使えるなら覚える必要はない。しかし、道具は壊れるものだ。イザという時に壊れると困る。


「アーシャ」

「何?」

「何か術式を教えて」

「え?」

「いいから」

「う、うん。んじゃあ、これ」


 アーシャは地面に線を大量に描く。その線の長さや太さ、交差する角度などを覚えるらしい。しかし……。


「風刃の魔法?」

「うん。よく分かったね」

「使えるからな」

「んじゃあ、これ」

「それは、矢逸らしの魔法か」

「正解。ってか、知ってんじゃん」

「う、うむ。意味がなかったようだ」


 アーシャが知っている魔法など、とっくに暴食ぼうしょくの魔人ポロが知っていた。それを受け継いだフォルトも知っている。それでは術式の理解の勉強にならない。何か一つでもいいから、知らない魔法を覚える練習をしたかった。


「まあ、ニャンシー先生を待つか」

「先生って……。まさか、勉強をする気なん?」

「そうなりそうな感じだ。転移の魔法でな」

「転移の魔法かあ。超むずかしそうじゃない?」

「俺もそう思う。今までにない術式らしいしな」


 セレスの話では、滅びた魔導国家ゼノリスが研究したのではとの話だった。そうなると、何人もの研究者で調べて実験をした事だろう。ニャンシーやルーチェだけでは解析が難しいかもしれない。それでも時間をかければ可能と思っていた。


「果報は寝て待て、寝て待てっと」

「魔人様。寝てしまわれますか?」

「いや。シェラも期待してるだろ?」

「っ! 知りません!」

「ははっ。俺も期待してるが、練習を続けていいよ」

「分かりました。もう少し精霊と話をしたかったので」


 シェラが立ち上がって湖の近くへ歩いていく。悪い手が追いかけるが、フォルトが横になっているので無理だった。その手をアーシャが白い目で見ているので、横向きになり彼女を触る。


「そう言えばさあ。あたしたちの武器は?」

「そうだった。それもあったな」

「忘れっぽいんだから」

「そうなるとドワーフだから、やっぱり幽鬼の森かな?」

「あ、あたしはまだいいよ!」

「怖がりだしな」

「ふ、ふん! ちょっと苦手なだけよ」

「ははっ」


 アーシャは幽霊などが苦手なのだ。幽鬼の森はワンサカといるので、戻るのを渋っている。森には長く間滞在していたが、慣れていないようだ。

 それにもおかしさが込み上げてくる。身内が増えてからは、よく笑うようになったものだ。フォルトのつらい時間は、少しずつ解消されている。それに満足をしながら、シェラの練習風景を眺めているのであった。



◇◇◇◇◇



 ハイドのせいで緊急の会議は脱線しそうになったが、なんとか滞りなく進み休憩時間に入っていた。貴族たちは会議場から出て、休憩室で休んでいる。エインリッヒや王族は残り、グリムを交えて話をしているのだった。


「疲れたな」

「ほっほっ。紛糾をしましたからのう」

「お兄さまの邪魔がなければ、もっと早いですよ?」

「意見は言っておかねえと、問題になってからじゃ遅せえだろ」

「そうですが。あまりにも交戦的なのは、どうかと思います」


 ベクトリア公国への対応では、ハイドが主戦論を唱えていた。脅すだけではなく実際に侵攻をして、出るくいを打っておくという主張だ。慎重論が根強いので通ってはいないが、説き伏せるのに時間がかかっていた。


「ハイド王子は頼もしいですな」

「爺さんに褒められるのは嬉しいが、俺の言った事は分かってるよな?」

「これ、ハイド」

「陛下。ハイド王子の言う事も、間違いではありませぬ」

「爺は曾祖父そうそふの時代から仕えているエウィ王国の恩人だぞ」

「それは知っているさ」

「失礼な物言いは、王族の品格を下げる。ほどほどにな」

「分かってるって。でもな」

「ハイドの言っている事は分かっている。だから、苦慮しておるのだ」


 ハイドの言っている事はフォルトの事だ。いつまでと言うように、対処をできるようにしておく事は当然なのだ。グリムのように王族へ忠誠を誓っていない人物だ。野放しにしておく事は問題であった。


「俺の意見は、そいつを死刑にしてレイナスを俺の私兵にする」

「それは無理だと」

「いや。目標を先に立てているだけだぜ。やれるやれないは別にしてな」

「ふむ」

「その考え方はよいと思われますな」


 王族として最大級の目標を設定する。それを達成できるように動くのが貴族や国民だ。その目標は絶対ではなく、変えるべきところは変える。

 ただし、変えるべきところは自分の中で留めるのだ。コロコロと目標が変わるようでは下の者が混乱をする。ハイドはそれを理解していた。あまりにも目標がかけ離れていて、他者の反対意見が多い場合に渋々と変える方がよい。


「将来のエウィ王国は安泰ですな」

「爺はそう思うか?」

「はい。陛下。凝り固まらず、柔軟な頭脳をお持ちですな」

「へへ、リゼット。そう言う事だ」

「まあ。知りません!」


 リゼットはプイっと横を向く。そして、不気味な笑みを浮かべた。その笑みは三人には見えていない。


「しかし、そいつを殺す事は本当に不可能なのか?」

「ワシはそう見ておりますな。魔族の姉妹も居ますからのう」

「罪人になった異世界人を処分する暗殺者でもか?」

「無理でございましょうな」

「ちっ。爺さんでも打つ手はなしか」

「はい。ですから、友好を深めております」


 グリムはハイドを刺激しないように言葉を選んでいる。もちろん王族へ忠誠を誓っているので、処分しろと命令がくだされれば従う。

 そのためにフォルトへソフィアを渡してある。デルヴィ侯爵からかくまうためだったが、処分の命令が出た時点で他国へ逃げてもらうつもりであった。


「そう言えば、バグバット殿から書状が届いておりましたな?」

「ああ。先ほど受け取ったやつだな」


 ここで話を変えようと、休憩時間へ入った時に受け取った書状の話を持ち出す。それも今のうちに話しておくべきものだった。

 エインリッヒは書状を読み始める。そして、眉間にシワを寄せた。あまりよい話ではないようだ。


「陛下。バグバット殿からはなんと?」

「ターラ王国に、フレネードの洞窟があるだろ」

「はい」

「スタンピードが起きたようだ」

「なっ!」

「国土の半分が魔物に占拠されておるらしい」


 バグバットの書状には、魔物の駆逐と難民救済のために人と物資を出せというものだった。エウィ王国とソル帝国がにらみ合っているので、その仲介をさせられているようだ。おそらく、帝国から申し出があったのだろう。


「こっちが出す必要はねえ!」

「お兄さま」

「帝国がちょっかいをかけてきてるんだぞ。勝手にやればいい」

「そう言われるから、バグバット様が間に入っているのですよ?」

「知るか! 吸血鬼がなんだってんだ!」

「うーむ。ハイドの言う事は別としても、兵は割けんな」

「それはそうでしょうな。冒険者を向かわせるくらいですかのう」

「別ってなんだよ」

「ハイド。バグバット殿の事は教えたはずだぞ」

「ちっ。一国を滅ぼせるアンデッドの大軍か?」

「うむ。だが、中立を貫き力を振るわない紳士だ」

「魔物には違いないがな!」


 余計な一言を口走るが、ハイドは納得をした。しかし、エインリッヒの言う通り兵は出せない。ただでさえベクトリア公国の対応で徴兵を認めたのだ。それに帝国も信用ができない。兵を引き入れてだまし討ちにされる可能性もある。


「ならよ。そのフォルトってやつを送ろうぜ」

「駄目だ。異世界人は国外へ出せん!」

「ただ森に眠らせておくのは、もったいねえじゃねえか」

「帝国へ寝返ったらどうする気だ!」

「監視を付けりゃいいじゃねえか。それか人質だな」

「怒らせるのは愚策ですぞ!」

「爺さんはそいつに肩入れし過ぎだ。それに冒険者も国に必要だろ?」

「うーむ」


 冒険者は国の徴兵制度からも除外されている。冒険者まで徴兵すると、魔物の対処ができなくなるからだ。

 冒険者が減ると村や町が襲われて、甚大な被害を出す事になる。エウィ王国にも魔物の領域がある。そのためスタンピードが起きないように、ターラ王国と同じく魔物の間引きも仕事に入っているのだ。


「でしたら、バグバット様に後見人になっていただきましょう」

「リゼット?」

「元勇者チームの方々の後見人になっておりますよね?」

「たしかにそうだが」

「帝国へ寝返るなら、バグバット様が滅ぼしてくださいますわ」

「リゼットにしちゃ、いい事を言うじゃねえか」

「余計な一言です。私は最善の策を言っているのですよ?」

「リゼットも変わったな。いや、成長をしたのか」

「そうですか? 聖神イシュリルの御加護かしら」

「ははっ。しかし、本人が受けるとも思えんが。のう、爺?」

「そうですな。自堕落を満喫中の御仁ごじんですぞ」

「なんだよそいつ。ただの怠け者じゃねえか」


 ハイドがあきれる。高位の魔法使いだの、ローゼンクロイツ家だのと警戒をしていたのが馬鹿らしくなる。しかし、グリムが要注意人物として認識しているのだ。処分をしたい事には変わりがない。


「あの。私が御話してみましょうか?」

「リゼットがか? だが、城から出た事のないおまえには無理だ」

「また舞踏会に御呼びましょう」

「今はそれどころではない。ベクトリア公国の対応もあるのだぞ」

「でしたら御茶会に御呼びすれば、私だけで済みますよ?」

「うーむ。会って、何を話すのだ?」

「支援に御力を貸していただくようにと」

「はぁ……。爺で駄目なものを、リゼットがやれるとは思えん」

「バグバット殿が受けるかも不明ですぞ。それに……」

「あら。時間ですわね」


 なかなかリゼットが折れないが、そろそろ休憩時間も終わる頃だ。会議場の扉が開いて、貴族たちが続々と入ってくる。とにかくこの話は後回しにして、会議の続きを始めるのであった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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