第二十二章 帝国への旅路

第304話 緊急会議と指輪の解析1

 エウィ王国の王宮では、緊急の会議が執り行われようとしていた。宮廷会議ではないが、伯爵以上の者が集まっている。第一王子のハイドや第一王女のリゼットも参加していた。貴族たちは多忙の中の参加であって、一様にソワソワとしている。


「皆、静かに。今から緊急の会議を執り行う」


 国王であるエインリッヒ九世が会議の開催を宣言する。それとともに会議場は静かになった。謁見の間ではないが、この会議場も広い。宮廷会議に使われる会議場であるため、伯爵以上だけでは寂しくも感じてしまう。


「本日の議題はベクトリア公国の樹立についてだ」


 ベクトリア公国。南方小国群の国々が公国制を敷き、公王のもと一つの国となった。小国自体は国として残っており、連合国家と思えばいいだろう。


「少々早かったですな」

「うむ。まだ準備に時間がかかると思っておりました」

「それにしても小国の分際で。さっそく攻めてやりましょうぞ!」

「まったくですな。今まで甘い顔をしてやったのが分からないのかと」

「徴兵をせねばなりませぬな。どう戦費を捻出するか」

「しかり、しかり!」


 各貴族たちが思い思いに話し始めた。エインリッヒは、毎度の事ながら静かにできないものかと頭を抱えそうになる。しかし、この貴族たちが居ないと国が動かないのも事実。そこで、いつものように静かにさせる。


「静粛に。まずはローイン公爵。軍の準備はどうなっておる?」

「はい。わが領土の国境には砦がありますれば」

「準備を聞いておる」

「砦には二千の兵を入れてあります」

「少なくはないか?」

「いえ。その砦に一万の兵が移動中ですな」

「ふむ」


 ローイン公爵領の国境は対応ができている。しかし、その軍は専業の兵士だ。そうなると国内の警備が薄くなる。早急に徴兵をして、交代させる必要があった。

 国境の砦に集う一万の兵のうち、半分は戻す必要がある。そこで徴兵を行い、五千人を集めるのだ。戦争になるか不透明だが、まずは備えをしておく。


「では、徴兵の許可を出す。早急にそろえて交代させよ」

「はい。では、会議が終わり次第」

「うむ」


 前線で戦うのは徴兵された民兵だ。兵として役に立つように定期的な訓練をしているが練度は低い。しかし、肉の壁にはなる。

 もし戦闘になるようなら、その壁が崩れる前に専業の兵士や貴族の援軍を向かわせるのだ。いつも先に死ぬのは、くわしか持たぬ平民であった。


「デルヴィ侯爵の方はどうだ?」

「帝国の国境へ軍を割いていますが、カルメリー王国軍を使います」

「さすがだな。属国には働かせよ」

「はい」


 デルヴィ侯爵領は北に帝国、南にベクトリア公国と国境を接している。北の帝国が脅威なので、自身の軍は北へ向けていた。

 南は属国の軍を使えばいいと思っている。カルメリー王国が手薄になるが、そんな事は知った事ではなかった。当然、他の貴族たちも黙っている。そうあるべきと思っているからだ。


「爺の方はどうだ?」

「ダマス荒野に動きはないようですな。防衛線は森の外に展開しまする」

「フォルト・ローゼンクロイツは森から出ぬか?」

「はい。巻き添えは御免ですからのう」

「ははっ。〈狂乱の女王〉と〈爆炎の薔薇姫〉。それに〈剣聖〉か」

「今のところ、帝国に動きはないですな」

「そうか」

「ですので、ローイン公爵から要請があれば援軍を出せまする」


 エインリッヒは笑みを浮かべる。フォルトは扱いづらい人物だが、配置は帝国との国境だ。本人が森へ引き籠っているので、そのまま置いておけば備えとなる。なんというか、固定大砲のような扱いだ。


「爺さん。その裏切者の異世界人など、なぜ使っている?」

「は?」


 この時、第一王子のハイドが声を上げる。人間を裏切り、魔族の貴族を名乗る男など処分しろと言いたげだ。しかし、それについては一応の答えは出してあった。エインリッヒは納得をし、貴族も納得している事だ。


「魔族の姉妹は危険ですのじゃ」

「それは分かっている」

「かの者が抑えておりますれば」

「それも聞いている。だが、われらの言う事を聞くのか?」

「今は渋々ながら協力をしてもらっておりますな」

「いつまでそれが続くのかと聞いている!」

「そ、それは……」


 グリムは答えに詰まる。たしかに今は客将として協力的だ。しかし、いつまでと言われると困る。孫娘のソフィアが居るので多少の安心感はあるが、国民ではないと豪語している。個人的な関係が良好なので、今は協力的なのだ。


(それに……)


 他の者の言う事は聞かないと思われる。関係が崩れたり、無理難題を押し付けようとすれば離れていくだろう。それに特殊な環境下にあるので、異世界人へ向けた国法を適用できない。国法で縛ると必ず反発するはずだ。


「ふん。まあいい。ただ、それは考えておけ」

「どういう事ですかな?」

「爺さんが生きている間はいいだろう。だが……」

「ハイド!」


 ここでエインリッヒが大声を上げる。グリムが死ぬ。その事に言及をしたからだ。この場で話す内容としては不適切すぎる。


「陛下もだ! 俺に制御できない者など、エウィ王国の害でしかない!」


 ハイドはエインリッヒやグリムの死んだ後を見据えていた。すなわち、自分が王位を継承した後の事だ。

 フォルトは五十歳に近い話は聞いていたが、魔族は長寿である。彼から解き放たれた時、エウィ王国へ害を及ぼす悪魔に変わるだろう。その面倒事を、今のうちに終わらせておきたい。そして、制御ができるならしたいのだ。


「ハイド! 控えろ!」

「そいつの事を聞いた時から考えていた事だ。陛下も分かっているだろう?」

「むぅ」

「話の腰を折っちまったな。控えるとしよう」

「う、うむ。では、会議を続ける」


 公の場なので陛下と呼んでいるが、本当なら家族として親父と言いたいところだろう。家族で話し合えばいいだろうが、この場で言う事が大事だったようだ。そんなハイドをよそに、会議は進むのであった。



◇◇◇◇◇



 王宮で執り行われている会議の内容など知らず、フォルトはシュンたちを泊めた小屋の扉を開ける。すると、セレスが満面の笑顔で出迎えてきた。


「旦那様。お帰りなさい」

「うむ。帰ったぞ」

「お食事になさいますか? それとも御風呂でしょうか?」

「迷うなあ」

「それとも、わ・た・し、でしょうか?」

「それだ。では、さっそく!」

「やっぱり、そうですよね! ちゅ、ちゅ」

「マス……。んんっ! パパン。お帰りなさいっす!」


 出迎えてくれたセレスと行為を始める寸前に、リリエラが彼女の後ろから現れた。そして、扉の前で絡み合いそうな二人を見て赤面している。


「う、うむ。帰ったぞ」

「って、何をやらせるっすか!」

「うん? おままごとだ」


 くだらないの一点に尽きる。フォルトとセレスが夫婦で、その子供がリリエラという設定だ。これもセレスの影響である。

 恋愛や結婚に憧れていたハイエルフは、夫婦生活にも憧れていた。ポンコツ度が高いが、身内の望みなら仕方がない。


「そんな事を玄関先でやってると、私がグレちゃうっす」

「そ、それはいかんな。では、一緒に風呂から」

「パパンと一緒に食事をしたいっす!」

「そ、そうか。では、食事から」

「あらあら。リリエラちゃんは、わがままねえ」


 玄関やら食事やらと言っているが、この小屋に部屋はない。一部屋しかないのだ。ただ寝るためだけに作製したのだから。

 部屋の中央に小さなちゃぶ台がある。急遽きゅうきょブラウニーに作らせた物だ。この小屋にはシルビアやドボも泊まるので、作っておいて損はないはずである。


「飯は……。かぼちゃ?」

「そうですね。お嫌いですか?」

「い、いや。食べられるけどな。だが、何故なぜそのままなのだ?」


 ちゃぶ台の上には、かぼちゃが三個乗っていた。しかも、丸ごとである。調理すらしていないように見えた。


「ふふ。ヘタの部分が開きますのよ」

「おお。凝ってるな!」


 かぼちゃのヘタを持ち上げると、中から湯気が立ち昇った。中身は橙色だいだいいろをしたスープのようだ。フォルトのかぼちゃの中には、肉がたんまりと盛られていた。


「これ……。誰が作ったの?」

「もちろん私ですよ。ささっ、旦那様。んー」

「おっと、刺激的。んー」


 セレスが口移しでスープを飲ませてきた。それを見ているリリエラは真っ赤っかである。彼女には到底やれないだろう。いずれ、やらせるが……。


「うまいな。ルリと大差がない」

「私の方がと言いたいですが、ルリには敵いませんね」

「ははっ。この場合は誉め言葉だな。ルリの飯はプロ級だろう」

「そうですね!」


 女性の料理を他者と比べるのは失礼だが、ルリシオンの料理は全員が認めている。マクスウェル種の悪魔となり、さらに熱量の加減がうまくなっている。


「さあ、リリエラちゃんにも」

「わ、私はいいっす! そういう趣味はないっす!」

「もぅ。冗談ですよ。私にもありません」

「ママンは意地悪っす」


 パパンとママンと聞いて、フォルトは感慨深く天井を仰ぐ。それも一瞬で戻り、スープを一気に飲み干した。それを見た二人があきれている。


「味わっていただければ……」

「そうっす! 飲むのが速いっす!」

「つ、ついな」


 駄目男が全開である。女心が分かっていないというか、とにかく駄目な男性の見本のようだ。自虐に入りそうになるが、かぼちゃの本体も食べられる。そこで、本体に食いついていった。

 それから食事も終わり、おままごとを忘れ、さっそく二人を交えて行為を始める。これも駄目男の見本である。しかし、それには二人も喜んでいるようなので、それでよしとするのだった。


「マ、マスター。恥ずかしかったっす」

「そ、そうだよな。俺もちょっとな」

「あら。私は楽しかったですよ。ちゅ」

「うーん」

「旦那様。どうしましたか?」

「いや。そろそろリリエラの服をな」

「い、いいっすよ! みなさんのような破廉恥なのはイヤっす!」

「そこにリリエラの拒否権はない。あっはっはっ!」

「うぅ。し、仕方がないっす」


 彼女たちの頭を腕に置きつつ、リリエラの服を想像する。もともと考えていた事なので、さらに破廉恥になったイメージが浮かんだ。それにイヤらしい笑みを浮かべて、後でアーシャへ伝えるために頭のメモ帳へ書き込んだ。


「これからどうなさるのかしら? ちゅ」

「まだ考え中。まあ、マッタリとしながらダラダラと」

「相変わらずですね。ちゅ」


 幽鬼の森へ戻ってもいいが急いでいない。おっさん親衛隊のレベルを上げたいだけだ。転移の指輪の解析が終わってからでもいいだろうかと思うようになっていた。


「解析はまだかな?」

「苦戦をしているようですよ。ちゅ」

「そうか。一筋縄ではいかないようだな」

「はい。解析後にも問題はあるようで。ちゅ」

「ママンの攻撃が激しいっす!」

「リリエラ。おままごとは終わったぞ」

「そ、そうだったっす! ちゅ」

「でへ」


 リリエラはフォルトの日常に慣れた様子だ。奴隷でのトラウマは影をひそめ、快楽のとりこになっている。


「問題とは?」

「術式が分かったとして、旦那様に覚えられるかと思いまして。ちゅ」

「あ……。そうだった」

「旦那様の魔法は受け継いだものだとか。ちゅ」

「うむ。カーミラの元主人からだな」

「何か、魔法を覚えた事はありますか? ちゅ」

「ない! 全てポロが理解したものを使っている」

「と、いうわけですね。ちゅ」


 そう。フォルトは魔法の勉強をした事がない。持っている魔法や知識は、暴食ぼうしょくの魔人ポロから受け継いだものである。術式の理解が魔法を使用する条件であり、アカシックレコードから引き出した情報で理解をしている。

 例えばリンゴを取り出したい時に、これがリンゴだと理解して取り出している状態だ。術式とはリンゴを取り出したい時に、リンゴの形やら色やら味やらを理解していく事である。リンゴの全てを理解した時に、魔法として使う事ができる。


「参ったな。まあいい。ほら、もっと寄れ」

「はい!」

「はいっす!」


 あくまでも例えではあるが、魔法が学問と言われる所以ゆえんであった。今のフォルトには到底無理であった。そして、この歳で勉強かと思いつつ、彼女たちとの行為を再開するのであった。



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