第302話 ベクトリア公国誕生3

 ベクトリア王国首都ルーグス。公国樹立の宣言が執り行われた後は、ベクトリア公国の首都となっている。そこでは盛大な祭りがおこなわれており、今もなお続いている。各小国の国民が一堂に会し、一カ月間続く祭りだ。

 長期に渡り祭りを続けるのは、多くの国民に参加してもらう事で、公国の国民としての意識を持ってもらうためである。すぐに効果はないが、今後は毎年続ける事で意識改革を根付かせるのだ。


「ベク坊や」

「パロパロ。だから、ベク坊と呼ぶな!」


 首都ルーグスにある王宮へ作られた円卓の間には、初代公王となったバリゴール・ベクトリアと、公国へ参加した各国の首脳が集まっていた。

 公国の樹立宣言は、ただの式典である。裏ではとっくに動いている。その一環で集まったのだ。すでに動いている作戦の報告と、今後の展望を話し合う必要があった。すでにエウィ王国から脅迫状が届いていたりもした。


「いやなに。どうするのかと思うてな」

「ふん! こんなものは、ただの脅しだ」

「われらへと言うよりは、国内向けでしょうな」

「ファストの言う通りだ。国境周辺の国民から不満でも出たのだろう」

「ふむふむ。まあ、政治の事は任せるのじゃ」

「まったく。よく女王などやっていられるな」

「仕方がなかろう。祭り上げられたのじゃ」


 ビッグホーンの着ぐるみを着たパロパロがニヤけている。分かっていて祭り上げられているのだから、たちが悪い。


「イグレーヌ。ライラ王国軍は?」

「とっくに駐屯地へ到着したぜ」

「ファスト。駐屯地は?」

「現在設置中です。資材が少々足りません」

「パロパロ。おまえのところだ」

「おかしいのう。送っとるはずじゃぞ?」

「ああ、すみません。思いのほか早く造られております」

「なるほど。すまん、パロパロ」

「順調ならばよいのじゃ。ネコババをしてないようじゃな」

「せんわ!」


 公国の重要な会議なのだが、パロパロには関係がないようだ。それにはベクトリアも嫌な顔をする。しかし、サザーランド魔導国の力は侮れない。資材を運ぶのも軽量化の魔法を使い、円滑におこなっているのだ。


「そっちはどうなのじゃ?」

「サディム殿とカルメリー王国へ出向いたが、駄目だったな」

「ああ。属国とは別に、聖女ミリエの件もある」

「第二王女じゃな。完全に縛られておるのう」

「カルメリー王国を引き込むのは諦めるしかない」

「攻めるのかの?」

「まさか。聖女ミリエを手に入れられれば、状況が一変する」

「なるほどね。誰かを送り込むかい?」

「ライラ王国へ頼むのは気が引けるな」


 ベクトリアの言葉にイグレーヌが提案を出す。しかし、やんわりと断った。ライラ王国のアマゾネスは強いが、それは正面から戦った場合の話だ。それにデルヴィ侯爵が後見人なので、手を出しても失敗する公算が高い。


「帝国から何も言ってこないからな。しばらくは圧力をかけるだけだ」

「けっ! もう公国は樹立したんだぜ? 帝国なんてどうでもいいだろ」

「それは帝国が、エウィ王国の目を引きつけてくれたからだ」

「そうだがよ」

「それに、エウィ王国が攻めてきたら北から攻めてくれるのだ」


 ソル帝国との密約。南北からエウィ王国へ圧力をかけて、さまざまな譲歩を引き出すのが狙いである。今までは小国として舐められ、不平等な条約や取引をさせられている。それを是正させるのが目的だ。

 そうなれば公国は潤っていき、今後も対等な関係となれる。帝国の思惑も同じようなものだと聞いていた。だからこそ手を握ったのだ。


「それに三国会議へ参加をし、われらの意見も通すのだ」

「三国が四国かの。語呂が悪いのう」

「語呂などどうでもいい。名称など適当に決めればよかろう」


 これが一番大きいだろう。大国としての地位を得た事で、世界会議とでもいうべき三国会議へ出席できる。ベクトリア公国が入る事で、三大大国から四大大国になる。名称については、適当に変えればいい。


「それにフェリアスを除名すれば、三国会議のままではないか」

「ベク坊。それはまずいじゃろ?」

「ふん! 人間だけの会議が望ましいではないか」

「ジグロードへの結界はどうするのじゃ?」

「パロパロでやれるだろ?」


 魔族の国だったジグロードへ抜ける大トンネル。そこへ張られた結界がある限り、何者も通行はできない。その結界をほどこした者は、エウィ王国の宮廷魔術師長グリム、ソル帝国大賢者ドゥーラ、エルフの女王ジュリエッタである。

 そのジュリエッタがやるべき事を、公国が担えばよいという発想である。可能かと問われれば可能である。その力はパロパロにある。


「ちょうど、結界の魔力が切れかかっているようだぞ」

「三国会議での議題じゃったな」

「女王ジュリエッタが不参加なので、後回しになっているがな」

「それも問題と言えば問題じゃな」

「まだ数年は持つらしいが、不参加での責任を問えばよかろう」

「政治は任せるのじゃ。ワシには無理じゃからな」

「悪いようにはせん。運命をともにしようと言ったではないか」

「そうじゃがのう」


 この件について反対の者は居ない。政治に関してはベクトリアとファストが強い。イグレーヌとサディムも国王なのでやれてはいるが、二人には一歩譲ってしまう。パロパロはド素人だ。


「それぞれが得意な分野に集中できるのが、公国としての魅力だな」

「そうじゃな」

「では、次の案件へ移る」


 ベクトリア公国へ参加した小国は、公王が認めた事を履行する義務を負う。そのため、ベクトリアの言う事が公国全体の方針となる。

 今後の方針としては、帝国との密約を履行する事と、三国会議への参加を目指す事だ。ベクトリアは自らが決めた方針を認められた事に満足をしながら、次の議題へ移るのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトが自堕落に生活をしていても世界は動いている。知らない場所で戦いが起きていれば、知らない場所で暗躍をされていたりする。関わり合いがなくても関係がない。相手が望めば関わり合いができてしまう。

 たとえ望まずとも、その大きな力に巻き込まれ、知らないうちに関わっている。まったく面倒な話だ。そして、世界が大きく動き出す瞬間が訪れていた。


「フォルト様?」


 ベクトリア公国の樹立。南方小国群の国々が手を取り、大きな連合国家を興した。これにより、世界のバランスが崩れる。

 今まで大国と言われたエウィ王国、ソル帝国、フェリアスに加え、新たにベクトリア公国が入る。四大国家となり、それぞれの思惑が激しく渦を巻き始めたのだった。


「と、言う事か」

「貴方は何を言っているのかしら?」

「人間同士で御苦労な事ねえ。私たちには関係がないわあ」

「ですが、これは大変な事ですよ?」

「俺の小説がか?」

「「はい?」」


 フォルトは暇つぶしに小説を書いてみた。一度は書いてみたかったのだ。ベクトリア公国が樹立を宣言したのは、つい先日だった。

 レイナスには幽鬼の森へ帰ると伝えたが、やはり腰が重かったのだ。トーナメントが終わってから数週間が経過しても、いまだに決めかねていたのだった。


「フォルトさん! あれ? 何これ?」

「あっ!」

「えっと。自堕落に生活していても?」

「は、恥ずかしいから!」

「へっへーん!」


 テラスでくつろいでいると、アーシャが後ろから小説を取り上げた。さすがに読まれるのは恥ずかしい。取り返したかったが、彼女が専用椅子から離れてしまった。立ち上がる気が起きないので、両手で顔を隠す。


「恥ずかしいもなにも、ほとんど書いてないよ?」

「う、うむ。そこで終わりだ」

「なーんだ。新しい趣味でもできたのかと思ったよ」

「俺の趣味は惰眠だみんだ!」

「知ってるって。で、幽鬼の森へ帰るの?」

「それが問題だ。俺の重い腰を軽くしてくれ」

「いいわよ。でも、終わったら重くなるっしょ?」

「そ、その通りだ!」


 アーシャはあっけらかんとしている。彼女につつしみを持たせては駄目だ。それに腰を軽くしても、惰眠だみんを挟むと重くなる。やはり変わらない。


「それにしても、ベクトリア公国ですか」

「ソフィアは気になるのか?」

「そうですね。これでエウィ王国が挟まれた形です」

「そうだな。せいぜい頑張ってくれ」

「もぅ。御爺様の客将なんですから!」

「それは何度も聞いた。でも、ダマス荒野だけを見とけばいいだろ?」

「双竜山の森には居てほしいとも」

「それなんだよな。でも、飛べるからすぐに帰れるよ?」

「その重い腰でですか?」


 ソフィアは痛いところを突いてくる。双竜山の森に居てほしいのは、すぐに連絡が取れるためだ。フォルトたちは飛んで戻れるが、幽鬼の森では連絡が来るまでに時間がかかってしまう。


「転移の指輪の解析はまだかなあ」

「ニャンシーちゃんとルーチェがやってますよお」

「そうなんだがな。難しいのかな?」

「御主人様。果報は寝て待てですよお」

「うむ。それはやってる。こうやって」

「あんっ! うりうり」

「でへ、でへ」


 隣に座っているカーミラの胸に顔を埋める。それを見ているマリアンデールとルリシオンがあきれていた。ソフィアやアーシャもだ。


「はぁ……。なんなら、私たちが残る?」

「私たちも飛べるわあ。それにシモベだしねえ」

「俺が無理。マリルリ成分は、すぐに切れる」

「あたしは?」

「もちろんアーシャ成分もな。全員だ、全員」

「乳離れできない子供みたいですね」

「うむ。できない。だから乳をくれ」

「エロオヤジ」


 離れられないのは冗談であって冗談ではない。一緒に居たいが、彼女たちが自動狩りなどへ行けば離れる事になる。別行動もやった事があるので、基本的には問題がない。しかし、何もない時は一緒に居たいのだった。


「逆に、幽鬼の森へ帰る必要があるのかしら?」

「あるな。おっさん親衛隊のレベルを上げたい」

「そうねえ。今ならあの平原で上げられるわあ」

「うむ。あそこなら幽鬼の森から近いしな」


(ティオがレベル五十以上。セレスが三十八だっけ。他も限界突破が終わったからレベル三十以上。シェラも一緒にやれば、大幅に上がりそうだなあ)


 レベルが四十をこえれば堕落の種が芽吹く。そこが終着点であり、出発点でもある。そして、もう一人を忘れてはいない。


「そろそろリリエラを鍛えないとな」


 現状、一番出遅れているのがリリエラである。彼女は一般人の強さしかない。剣術も魔法も使えないのだ。しかし、そちらの道へ進ませるつもりはなかった。


「リリエラちゃんも、おっさん親衛隊に入れるん?」

「いや。リリエラには別の道を進んでほしい」

「なになに?」

「まあ、リリエラ次第だが。方向性は示せるな」

「あの、フォルト様。危険な事は」

「命の危険はないさ。俺は身内を大事にする」

「そ、そうですよね! 私も御手伝いを」

「ソフィアはレベル四十を目指してくれ」


 おっさん親衛隊は、ベルナティオとセレスを中心にレベルを上げる事に専念してもらう。リリエラの事は、フォルトが面倒を見るつもりだ。実際は、面倒を見る者を眺めるが正解か。


「あ、ソフィア。これからどうなると思う?」

「ベクトリア公国ですか?」

「うん」

「フォルト様が関係するのは、今のところはないと思われます」

「今のところ?」

「最悪は出兵でしょうか」

「嫌だ!」

「最悪ですよ。ほとんどあり得ません」

「そ、そうか。あっ!」

「ど、どうしましたか?」


 出兵と言えば戦争だ。そして、戦争と言えばレベル上げだ。マリアンデールやルリシオンもそうだが、ベルナティオも勇魔戦争で上げた。それを思い出してしまった。ボーナスステージと考えたこともある。


「戦争かあ」

「貴方。よからぬ事を考えてない?」

「よからぬかはどうだろうな。ふむふむ。そうだったなあ」

「御主人様は楽しそうですねえ」


 カーミラは理解している。マリアンデールも何となく気がついていた。しかし、それをやるならば、先にやる事が多い。


「そうだな。まあ、そのためには……。ぐー」

「あっ! 寝ちゃいましたあ」

「はぁ……。相変わらず、適当過ぎだわ」

「カーミラ。後は任せるわ」

「夕飯の仕込みをしちゃうわねえ」

「では、私はシェラさんのところへ」

「リリエラちゃんと遊んでるわね」

「はあい!」


 フォルトは急な眠気に襲われて、惰眠だみんに入ってしまった。カーミラは寄り添いながら目を閉じている。周りに居た美少女たちは、カーミラを残して思い思いに動き出すのであった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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