第272話 裏のオークション3
「おっさん。寝過ぎじゃね?」
ファミリールームでくつろいでいるシュンが
「森でも似たようなものじゃなかった?」
「そうなんだがな。一応、俺らの家だぜ」
「部屋から出てこないしね。食事も運ばせてるんでしょ?」
「魔族がメイドに頼んでたな」
「魔族……。慣れないわ」
「アルディスはそうだろうな」
「トラウマとかじゃないよ。怖い事は怖いけどね」
アルディスはマリアンデールに痛めつけられて、ボロボロになった事がある。しかし、芯が強い女性なのか心は折れていない。それでも力の差がありすぎるので、近寄る事はしていなかった。
「おう、ホスト。いつまで居るんだ?」
「オークションが終わる日までだな。明日だっけ?」
「俺が知るか! それに、俺らは関係ねえだろ?」
「ないな。侯爵様からは何も言われてない」
「んじゃよ。やつらが帰ったら、冒険者ギルドの仕事をやろうぜ」
「そうだな。俺も神聖騎士の仕事ばかりじゃ、レベルがあがんねえ」
「分かってきたじゃねえか。まずは勇者級になっちまうんだよ!」
「それは分かっているが……」
最近のシュンは、デルヴィ侯爵へ付きっきりだった。側近の警備担当は居るが、指名をしてくる事が多い。それだけ頼られているのだが、限界突破以降はレベルがあがっていなかった。つまり、レベル三十のままだ。
「でもよ。レベル三十以降って、どこで上げればいいんだよ?」
「そういうのは、ソフィアさんが詳しいだろ。なあ?」
「え、ええ」
この場にはソフィアも居る。さすがに仲間が居るので口説けないが、フォルトからは引き離していた。
「さすがは聖女さんだぜ! 教えてくれよ」
「ギッシュ様。私はもう、聖女ではないですよ」
「俺にとって聖女はあんただけだぜ。なあ?」
「そうね。ボクにとってもそうだよ!」
「そ、そうですね。今の聖女様は苦手です」
「僕もそうだけどさ。でも、今の聖女様にも配慮しないとね」
「ノックスの言う通りだぜ。ソフィアさんって呼べばいいだろ」
この場に居る者を召喚したのはソフィアである。当然のように面倒も見ていたので、慕われているようだ。シュンとて、そう思っている。しかし、聖女ミリエも落としたい女性の一人だ。それもあり、ノックスに同調する。
「かぁ! まあ、いいけどよ。名前だと呼びづれえんだよ」
「ホストとか空手家とか……。名前で呼びなさいよね!」
「うるせえぞ、空手家!」
「だから、それを止めろって言ってんのよ!」
「まあまあ。それより、ソフィアさんの話を聞こうよ」
「お、おう!」
「そ、そうね」
ギッシュのおかげで話が進まないが、チームとして完全に機能している。最初に紹介された時は、正直ここまで息が合うとは思っていなかった。それはそれとして、ソフィアの話を聞く必要がある。今のままでは一生、レベル三十のままだ。
「レイナスちゃんとかは、どうやってあげてるんだ?」
「レイナスさんは、フロッグマンであげましたね」
「言ってたな。でも、推奨討伐レベルは二十程度だろ?」
「数が違いますからね。自動……。んんっ! 短時間で倒すのです」
「ふーん。敵が弱くても、周りを囲まれるとキツイしな」
「そういう事ですね。今までに経験をしていない戦いをする事です」
「この前、ゴブリンに囲まれたじゃねえか!」
「それだと弱すぎますね。ギッシュ様なら一撃で
「当たり前だぜ! 俺のグレートソードをぶん回してだな……」
「武勇伝を聞いてんじゃねえぞ!」
「で、でも。そういう事なんですね?」
「魔法使いも同じです。囲まれた味方をどう支援するかで変わります」
「今までに経験をしていない戦いかあ」
冒険者ギルドでの仕事は、あまり代り映えがしない。ゴブリンやオークなどから村を守ったり、巣を襲ったりする。ビッグベアなどの魔獣を退治する。他にも昆虫系や植物系の魔物の駆除だ。
(そう考えると、ギルドでの依頼は意味がない? まあ、金を稼ぐには手っ取り早いからいいけどな。レベルを上げるとなると……)
「そういや、勇者たちは?」
「アルフレッド様たちですか?」
「うん。どうやってあげてたんだ?」
「迷宮の探索とか……。魔族です」
「え?」
「勇魔戦争がありましたからね」
「な、なるほどな」
これにはラキシス以外が絶句した。彼女は知っていたのだろう。魔族を殺しても上がる事をだ。しかし、召喚されて随分とたったが、まだこの世界の常識を知らなかったようである。
「人間でもあがんのか?」
「あがりますね。マリとルリは、それであげたと……」
「けっ! 戦争か」
「僕たちの居た日本は、戦後だったからね」
「まあよ。覚悟はしてあるぜえ」
「そ、そうよね! 傭兵団とも戦ったしね!」
「ああ。あれを殺していいなら、殺せるぜえ」
残念ながら、現時点で人間を殺した事があるのはシュンだけだ。ラキシスを襲ってきた賊は追っ払っており、傭兵団に死人は出ていない。
「黒い
「それは置いといて、当面はどうするかだな」
「カエルって、まだ居るのか?」
「居ますね。
「ああ、フェリアスだったな」
「ええ。どうなっているかまでは…」
「それはデルヴィ侯爵様か、バルボ子爵様に聞けば分かるな」
「ならさ。国境をこえて、ボクたちも狩りに行こうよ!」
「交流が始まったって言ってたしな。そうするか」
デルヴィ侯爵はシュンを使うが、レベルを上げる事には寛容である。逆にさっさと上げてほしいと言われているのだ。侯爵を守る人間は多いので、話せば認めてくれるだろうと思われる。
「フェリアスだと、拠点はどうすんだ? 冒険者ギルドは?」
「国境をこえた所に、獣人族の集落があります。ギルドはありません」
「な、ないんだ。稼ぎながら上げたいが……」
「でしたら、討伐隊へ志願してみては?」
「討伐隊?」
「スタンピードが起きないように、魔物の領域で間引きをする部隊です」
「おっ! 給金とか出る感じ?」
「そうですね。戦いに見合うとは思いませんが」
フェリアスの討伐隊は、
「タダ働きよりはいいね。行くなら、僕は賛成だよ」
「どこで受付をしてるんだ?」
「獣人族の集落ですね。ですが、人間ですとどうでしょう?」
「なるほどな。それも合わせて聞くとするか」
「ふふ。皆さん、強くなっていますね」
ソフィアの笑顔が
(やっぱ、俺が
ホストスマイルを崩さずに心の中で思う。シュンはフォルトへの評価を下げていた。いきなりとはいえ、あれでは簡単に殺せるだろう。正面切って戦うなら別だが、不意を突けば勝てそうである。
しかし、今はそれを言えない。仲間には、ソフィアを狙っている事を知られていないのだ。この件については、後で考える事にするのだった。
「そう言えば、ソフィアさんはオークションへ行くのか?」
「そうですね。フォルト様と御一緒するつもりです」
「俺がついていってやろうか?」
「い、いえ。大丈夫ですよ。マリとルリも居ますので」
「あ、そ、そうだな。魔族が居たな」
「ええ」
「あの魔族は、本当に大丈夫なのか?」
「どういう事ですか?」
「魔族は人間を憎んでるだろ? 国を滅ぼしたしな」
「憎んでいるというよりは、下等生物と」
「ソフィアさん?」
ソフィアらしからぬ言葉で
「あ……。相手にもならないと」
「ふーん。まあ、実際に強えしな」
「あいつらのレベルって、いくつなんだよ?」
「魔族は他人に教えないのですよ」
「けっ! なら、どこまで強くなりゃいいんだ?」
「マリアンデールさんよね? 勇者級になったらって言ってたじゃん」
小さい魔族と言えないアルディスは、敬称を付けて呼んでいる。呼び捨ても
「そうだっけか? なら、さっさとフェリアスへ行こうぜ!」
「戦うのは止めとけば?」
「なんだと! 空手家!」
「あれ……。師匠でも絶対に勝てないもん」
「うるせえ! あの女魔族を殺して、俺はてっぺんを取るんだ!」
「はい、はい」
最近はアルディスがギッシュをからかっている。彼女も限界突破を終えた勇者候補だ。レベルも近く、その視点から見た力量の差を言っているのだろう。
それはギッシュにも分かっている。しかし、目標にはしておきたいのだろう。それでも力量が近づけば、
(まあいい。オークションは明日か。ちょっと、遠くから見守ってやるか? 明日も泊まるだろうしな)
そんな子供のような妄想は置いておいても、明日までは一人で自由に動ける。ならば、見守るぐらいはいいだろう。そんな事を考えながら、ソフィアを交えた歓談を続けるのであった。
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Copyright(C)2021-特攻君
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