第270話 裏のオークション1

 フォルトはミリエの攻撃をしのぎ切り、なんとか与えられた部屋へ戻ってきた。質問された事は多いが、どれもたわいもない話である。

 日本での生活の事や、趣味などである。しかし、それも引き籠りになる以前の話だ。そうなると学生時代や社会人になりたての頃の話なので、なんとか話す事はできた。引き籠りを始めた時の事は話したくもないし、話すのは恥ずかしい。


「御主人様? ゲッソリしていますねえ」

「分かる? ただでさえ他人と話すのは嫌いなのに……」

「じゃあ、カーミラちゃんの、お胸でえ」

「でへ。元気が出てきた」


 出迎えてくれたカーミラの胸の谷間に顔を埋めて、グリグリと動く。柿なのでボリュームはないが、こちらの方が好きなのだ。


「まったく。わ、私もしてあげてもいいわよ?」

「頼む」

「きゃ!」


 今度は起きているマリアンデールの胸に顔を埋める。残念ながら谷間はないに等しい。ミカンである。しかし、こちらも好きだった。


「じゃあ、次は私ねえ」

「むほっ!」


 そして、ルリシオンの胸に顔を埋める。姉妹の妹の方なのだが、リンゴだ。理想的と言われている大きさで、こちらも好きだった。


「それで、ソフィアは?」


 元気が出たフォルトは椅子へ座り、周りをキョロキョロと見る。しかし、ソフィアは戻っていないようだった。ちなみに彼女もリンゴである。

 ついでに言うと、レイナスがリンゴ寄りのグレープフルーツ。アーシャとベルナティオがリンゴ、シェラがグレープフルーツ寄りの梨。セレスとリリエラが柿である。肉まんとリンゴは同義だ。シェラをこえると、趣味から完全に外れる。


「あの玩具たちと一緒ねえ」

「ああ。アルディスとエレーヌか」

「一度、戻ってきてね。しばらくは戻れないって言ってたわ」

「そうか。まあ、やつらを召喚したのはソフィアだしな」


 シュンたちがフォルトの屋敷へ来た時などは、あまり話せていなかった。今は自分たちの家へ呼んだので、好き勝手に連れまわしているようだ。召喚された事を恨んでおらず、聖女として親身になって世話をした結果だろう。


「飯は?」

「ここへ運んでもらうように言ってありまーす!」

「お! さすがはカーミラ」

「えへへ。あ、来たようですよ」


 この屋敷には食堂もあるが、他人の屋敷であり、シュンたちと会いたくもない。その気持ちを察して、カーミラが機転を利かせたようだ。

 そして、メイドが食事を運んできた。なんとなくホテルのルームサービスのような感じだが、食事がテーブルの上に置かれていった。


「御苦労さん」

「はい。それでは失礼します」


(さてと、魔力探知を使って……。行ったな。なら、話し始めていいか)


「御主人様! あーん」

「あーん。もぐもぐ。さて……」

「貴方。オークションはどうするのかしら?」

「そう、それだ。カーミラ、オークションの本を出して」

「はあい!」


 カーミラは魔界からオークションの本を取り出した。武器の鎌を取り出す要領で、魔界にある自分の部屋から取り出したのだ。

 自分の部屋へつけた印の近くへ置けば取り出せる。手が届く範囲に置く必要があるので範囲が狭い。そのため、そこまでの荷物は置けない。しかし、本などの手荷物程度なら大丈夫であった。


「どれどれ。もぐもぐ」


 フォルト飯を食べながら本を見ている。戦神の指輪はいいとして、他にどういった品物があるかを調べるのだ。ページをめくっているのはカーミラである。


「巻物やら装飾品が多いな」

「巻物はスクロールでしょうね。装飾品は盗品じゃないかしら?」

「スクロールか。使い捨ての巻物だよな?」

「そうよお。書かれた魔法を、一回使ったら終わりねえ」

「なるほど。要らんな」

「魔力切れの時は便利だけどねえ」

「ああ、そうだな。保険は必要か」


 体を壊して入院した事もあったので、生命保険には助けられていた。その事もあって、保険という言葉については常に頭へ入れていたのだった。


「他は……」

「他には魔道具や調度品ばかりねえ」

「なるほど。武具とかはあるかな?」

「えへへ。次のページはっと」


 カーミラが、一ページずつめくっている。すると、剣が描かれたページがあった。種類別にまとめてあるようで、そのページから武具のページだった。


「結構あるな」

「魔法の武器でしょうね。レイナスのスキル、『魔法剣まほうけん』と同じだわ」

「なるほど。実体のない魔物とかを斬れる感じか」

「威力も上がるけどねえ。買う者が貴族や商人なら意味がないわあ」

「そうだな。転売かコレクションといったところか」

「でしょうね。護衛とかに渡すほど安くはないわ」

「えへへ。ほしい物はありましたかあ?」

「うーん。スクロールと魔法の武具かな。買えないけど」


 本を見たのは興味があったからだけだ。魔道具などはルーチェが作れるし、おそらくスクロールも可能だろう。魔法の武器は、面倒だがフォルトが付与をできる。あれば使うが、ほしいとは思わなかった。


「フォルトぉ。結局のところ、どうするか聞いてないんですけどお?」

「ははっ。面倒になったんで、行き当たりばったりでいく」

「はあ?」

「帝国の財務尚書の顔も分からないしな」

「そう言えばそうね」

「後は当日に考える」


 結局のところ、何も思い浮かばなかったのだ。顔と名前さえ一致していれば、ハンへ来た時に見ているはずだった。

 しかし、残念ながら一致していない。カーミラが金を奪っていた帝国の貴族としか認識していない。そして、彼女も名前までは知らなかった。


「さてと、頭を使ったから寝る。夕飯になったら起こして」


 今度はフォルトがベッドを占領する。シュンたちの屋敷ではあるが、いつも通りの惰眠だみんへ入るのであった。



◇◇◇◇◇



「おう。今回はしっかりやれよ!」


 どことも知れない広い部屋で、身長百八十センチメートルぐらいあるスキンヘッドの男性が、椅子へ座りながら声をあげる。その隣には、身長二メートルぐらいの大柄な男性が立っていた。顔に無数の傷があり、漆黒の大剣を背負っている。


「ボス。オークション内の警備ですよね?」

「そうだ。「黒い棺桶かんおけ」へ入って、初めての大仕事だぞ」

「ボスやリドの旦那も参加ですかい?」

「そうだな。俺たちは、品物を保管する場所の警備を担当するぜ」

「分かりやした」


 ボスと呼ばれた男性はライゼンだ。現在は新興の裏組織だった「蜂の巣」の構成員をまとめている。デルヴィ侯爵へ取り入り、当時のボスであったガマスの息子を殺して、その地位を奪っていた。

 その後は国内最大の裏組織「黒い棺桶かんおけ」に迎えられ、警備部門を担当するおさとなっている。警備部門は組織に逆らう者への制裁や、その他諸々の荒事を担当する部門であった。


「オメエらには、会場の外の警備や見回りをやってもらうぜえ」

「「へい!」」

「力が強い上位の者は、会場内の警備だ!」

「分かりやした!」


 ガマスの息子を殺した時の抗争で、ライゼンは武闘派と呼ばれる力にけた者たちを仲間に引き入れた。現在の警備部門には、その武闘派だけが残っている。


「こんな感じか?」

「俺には分からん。ライゼンの決めた事なら、それでいいだろう」

「へっ! そういう忠誠は、身を滅ぼすぜえ」

「構わない。俺を殺せるなら、殺しても構わないぞ」

「はははっ! オメエは強えよ。まあ、背中と毒には気をつけろ」

「そうだな。肝に銘じておこう」


 リドは相変わらずであった。自分の死すら興味がないようだ。金にも女にも興味がないので、安上りな奴隷のようである。しかし、与えられた仕事はキッチリとこなして、〈処刑人〉の二つ名に偽りはない。


「ボス。もう商人とかは襲わねえんですか?」

「俺らは「黒い棺桶かんおけ」に入ったんだぜえ。格ってもんがあるだろ」

「へ、へえ?」

「演技の練習をしとけよ?」

「え、演技ですかい? それと格と、なんの関係が?」

「もちろん商人は襲う! だが、商人の護衛も請け負う」

「あっ! ボス、せこいですぜ!」

「マヌケからはしぼり取れ! それが格ってもんだ」

「「ははははっ!」」


 これには集まった構成員が笑い出す。「黒い棺桶かんおけ」として護衛を請け負い、小さな裏組織に化けて襲う。それを撃退すればいい。そして、請け負っていない時は襲って奪う。そうすれば完全に、「黒い棺桶かんおけ」のリピーターだ。


「そう言えば、麻薬はどうするんですかい?」

「ああ。俺らの麻薬を採用するそうだ。麻薬部門を創設するとよ」

「俺らの儲けが減るじゃないですか!」

「ははっ。組織がデカくなれば、俺らは儲かるんだぜえ」

「そ、そうなんですかい?」

「麻薬部門の儲けは組織の儲けだ。分配されるから楽だろ?」

「ま、まあ。栽培する手間がないですしね」

「売るにも運ぶにも人足が居るし危険も高い」

「た、たしかに……」

「それを変わってやってくれるんだぜえ。楽になるってもんよ」

「そ、そうですね!」

「その警備も有料で俺らが請け負う! 完璧じゃねえか?」

「な、なるほど。ボスは頭がいいですね!」


 組織が大きくなれば、小さかった時より変わるものだ。裏組織といっても大組織である。その中で仕事をする以上、今までと同じでは困る。


「ははっ! とにかくだ。今までのようにはいかねえ」

「「へい!」」

「裏専門の傭兵団も選定しておけ!」

「なんでですかい?」

「やつらと仕事が被る。取り込んじまったほうがいいだろ?」

「そ、そうですね!」


 警備などは傭兵団でも請け負うが、裏となれば別だ。傭兵団は表の稼業なので、法に触れる仕事は請け負わない。

 裏専門の傭兵団は居るが、そちらは「黒い棺桶かんおけ」が依頼をしていた。新たに警備部門が創設されたので、今度は邪魔になるのだ。それらを取り込む事により、組織の強靭化きょうじんかを図るのである。


「それも、オークションが終わってからだ」

「もうすぐですしね」

「客には手を出すなよ? 今後、俺らに金を使うやつらだからな」

「「へい!」」

「オメエも気をつけろよ? リド」

「ああ。微妙なのは聞くようにしよう」


 ライゼンはリドへ顔を向けて念を押す。彼は好き勝手に暴れる人物ではないが、今回のオークションは慎重にやる必要があった。


「んじゃ、詳しい配置を決めるとすっか」

「「へい!」」


 裏のオークションへ向けて、主催者の「黒い棺桶かんおけ」も活発に準備をしている。その大組織へ身を置く事になったライゼンとリドは、今後についての打ち合わせを始めるのであった。



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