第257話 血煙の傭兵団3
「血煙の傭兵団だって? 近づかない方がいいよ」
グリムブルグへ到着したリリエラとルーチェは、さっそく聞き込みを開始した。フォルトの思惑通り、双竜山の森から二日でリトの町へ入り、馬車を使ってグリムブルグに三日でやってきた。
今回のクエストは、時限付きクエストだ。七日以内に、指定の場所へ傭兵団を連れていく必要があった。
「後、二日しかないっすね」
「そうですね。今日中に接触を持ち、明日の朝に連れ出せば大丈夫です」
「キツイっすねえ」
リリエラの服はリトの町で買ったままなので、露出の少ない上着にズボンである。ルーチェも変わっておらず、魔法学園の男子用の制服だ。
「血煙の傭兵団って、どこにいるっすか?」
「近づかない方がいいと思うけど……」
「近づかないために、場所を聞いておきたいっす」
「そうだねえ。それがいいよ。大通りから横に入った酒場が拠点だね」
「ありがとうっす!」
こんな感じに聞き込みを終わらせる。リリエラは機転が利く者だ。この程度の返しならポンポンと出てきた。
「ル、ルーチェさん。大丈夫っすかね?」
「お任せください。主様の指令は完璧に遂行します」
「た、頼んだっす。傭兵団とか怖いっす」
リリエラが一人なら、難易度の高いクエストだ。まだ彼女は十八歳。一人で傭兵団の拠点へ行けば、犯されて
と、言うのが彼女の知識だった。主観が入り過ぎているが、普通の傭兵団ならあり得ない。彼女の考える事をやるような集団は、盗賊団や裏組織である。
「到着しましたよ」
「あ……。そ、そうっすね」
リリエラが、そんな事を考えてる間に到着したようだ。妄想力が豊かである。ルーチェに
「では、入りましょうか」
「は、はいっす。離れないでほしいっす」
「はい。手を出す者には、苦痛と絶望を与えてから殺します」
「そ、そこまでしなくていいっす!」
淡々と話しているが、これでもルーチェは喜んでいるのだ。主であるフォルトから指令を受ける事は、
そんな彼女だが、すでに魔力結界を使い、酒場の中の戦力は分析している。どれも魔力が弱く、簡単にあしらう事が可能と判断していた。
「怖いっすねえ」
リリエラとルーチェは酒場に入っていく。なにやらムワッとして、酒の匂いがすごい。これには顔をしかめてしまう。
「よお、学生さん。酒場に何のようだあ?」
「まさか入団じゃねえよなあ? この酒場で働く気かい?」
「ならよ、お酌とかしてくれよ」
酒場に入った瞬間にこれだ。話しかけてきた男性たちは、
「あ、あのっすね」
「なんだい、嬢ちゃん? 俺っちの相手をしてくれるのかい?」
「ち、違うっす!」
「じゃあ、何の用で来たんだあ?」
「あ、あのっす」
「お兄さんに言ってごらん?」
「馬鹿を言ってんじゃないよ!」
「あいた!」
リリエラが話しかけた男性の後ろに現れた女性が、拳を振り上げて後頭部を殴る。それを見た周りの者たちは、大声をあげて笑った。
「ぎゃははは! 殴られてんじゃねえよ!」
「う、うっせえ!」
「仕事かもしれねえだろ? 聞いてやんな」
「へいへい」
このあたりが、盗賊団と傭兵団の違いだろう。からかったり値踏みはするが、仕事をするために集まっている集団だ。むやみやたらと、人を傷つけたりはしない。それでも風紀は悪いようだ。町の人が怖がっているのだから。
「んで? 結局のところ、何の用だ」
「えっと、魔族を見つけたっす!」
「魔族だあ?」
「お嬢ちゃん。夢でも見たんじゃねえのか?」
「ちゃんと角はあったかあ?」
どうもリリエラが話すと、からかわれてしまう。そこで、隣にいるルーチェが助け船を出そうと話しに割り込む。
「立派な角を持った魔族が二人、もう一人は確認できませんでした」
「なに! 本当なのか?」
「ええ、この町から西へ向かった山の麓ですね」
「んだあ? そんなところに、なんでオメエらが行くんだよ」
「学園で出された課題の薬草を摘みに」
「な、なるほどな」
「小さな小屋があって、そこへ入っていくのを見ました」
「へっ! いい情報だな」
ルーチェは澄ました顔で淡々と話している。それが功を奏したのか、聞いている男性は真剣身を増した。
「オメエら。明日の予定は?」
「学園は休みですね」
「ならよ。そこまで案内しな。小遣いはやるぜ」
「分かりました。明日の朝に来ればいいですか?」
「それでいいぜえ。魔族が居なかったら、小遣いはねえけどな」
「それでいいです。たしかに見ましたので」
「決まりだ! んじゃ、明日の朝に来い」
「はい」
「団長!」
明日の予定を決めたところで男性は席を立ち、奥で飲んでいる
◇◇◇◇◇
グリムブルグの西にある小さな山の麓に来たフォルトたちは、さっそく打ち合わせを開始した。来る前に決めていたが、確認の意味も込めてである。
「俺たちは小屋の中に居る」
「ルリちゃんとシェラと一緒に、この小屋まで逃げてくればいいのね」
「そうだ」
「それから、おっさん親衛隊が飛び出せばいいのだな?」
「ティオの言う通りだ。俺も出るからな」
「出るんだ……」
「ローゼンクロイツ家を名乗ってから殺す」
「全滅させるつもりなら、別にいいのでは?」
「セ、セレスのツッコミはもっともだが、気分の問題だ!」
たしかに全滅させるつもりなので、名乗っても意味はない。誰に殺されるかを知るだけである。しかし、言ってしまった手前、撤回ができないでいた。
「御主人様は、かわいいですねえ」
「そ、そんな事はないぞ! まあ、名乗るだけで戦わないけどな」
「きさまの手を借りるまでもない」
「フォルト様は、ゆっくりと御覧になっていてくれればいいですわ」
「あたしのミュージックが開始の合図ね!」
「援護は任せてください」
「が、頑張ります!」
ソフィアが緊張をしているようだ。何度も
(そうだなあ。ティオかレイナスが弱らせたところへ、魔法を使って殺すのが最善だな。虫の息だと、ソフィアが殺せるかどうか……)
「ソフィア」
「はい」
「そう気負うな。普通に戦いながら、多めの魔力を込めて撃てばいい」
「わ、分かりました」
「ティオとレイナスは……」
「分かっている。深手を負わせるから、そいつに引導を渡してやれ」
「それは師匠に任せますわね。私は近づく敵をやりますわ」
「私も同じです。弓で弱い人間は仕留めておきましょう」
こんな感じでいいだろう。どうせ、最初に向かってくるのは弱い団員だ。強者は後から登場するのが相場である。そんな事を考えていると、フォルトの影からニャンシーが飛び出してきた。
「主よ。出発したそうじゃぞ」
「そうか。なら、ここへ到着するのは……」
「明日の朝じゃな」
「妥当だな。まあ、監視はよろしく」
「うむ。
「んじゃ、中で休むとするか」
「この人数で入ると狭すぎでーす!」
「そ、それもそうだな!」
カーミラに指摘された通り、小屋は狭い。ただの掘っ立て小屋で、キッチンもテーブルもない。何十年も前に打ち捨てられたようだ。
「ふふ。交代でいいわよお。私たちが先に休むわねえ」
「そうね。私たちは
「魔人様。寝坊をしないでくださいね」
「そ、そうだな!」
いまさらだが、全員を連れてきていた。一応、双竜山の森にはルシフェルを置いてある。ルーチェより強いので、オカマが来ても平気だろう。
「ふん。では、地形を確認しておこう」
「そうしてくれ。面倒そうな地形だしな」
山の麓だが、林のように木や植物は茂っていた。大木は
「オワリマシタ」
「お! ご苦労さん」
さすがに何十年も放置されている小屋なので、中が腐っていたりして汚い。こういう時は、家の精霊であるブラウニーが便利すぎる。
小説などに設定されているような、生活魔法に似た魔法が使えるのだ。汚れを落としたり、ゴミを集めたりする。その代わり、戦闘用の魔法は一切持っていない。
「ブラウニーこそ、至高の精霊」
「なに馬鹿な事を言ってんの? さっさと入るわよ」
「そ、そうだな!」
マリアンデールに
「カーミラ、膝」
「はあい!」
フォルトはうつぶせに寝る。
「シェラ、マッサージ」
「は、はい」
両足の間にシェラを座らせる。
「マリとルリは、添い寝」
マリアンデールとルリシオンを両隣に寝かせて、腕にしがみ付かせる。
「すごい格好ね……」
「あはっ! いつも通りのフォルトねえ」
こんな格好は苦しいだけのような気がするが、魔人なので苦しくもなんともない。マッサージも不要なのだが、
「そうそう。おびき寄せてる間に、殺してもいいのかしら?」
「弱いやつを数人ぐらい? 派手にやって撤退されると困る」
「そうねえ。じゃあ、私がやろうかしらあ」
「ルリちゃん、ずるい!」
「だってぇ。お姉ちゃんの魔法だと、相手が警戒するでしょお」
「時空魔法に重力魔法か。珍しいしな」
ルリシオンの火属性魔法は、一般的に知られている魔法だ。火弾や火球などは、魔法使いであれば使える者が多い。さすがに破裂させたりするのは珍しいので、使うと警戒される。
マリアンデールの時空魔法と重力魔法は珍しい。時空魔法に関しては、人間で使える者はいない。重力魔法も使い手は少ないだろう。そのため、使えば即時に撤退をされる可能性が高い。
「まあ、いいわ。ルリちゃんの奇麗な炎を
「残り物には福があると言うぞ」
「あら。ソフィアが限界突破を達成したら、やってもいいのかしら?」
「いいぞ。一人も逃がすな」
「ふふ。怖いわねえ」
「魔人様は頼りになりますね」
「い、いや。俺は動かないぞ!」
戦いに参加する気はゼロだ。それに彼女たちの強さなら、絶対と言い切れるほど手助けは不要だろう。そんな事を考えながら、彼女たちとイチャイチャする。
そして、夜も更ける頃。小屋から三人の女性が出ていった。それを見送ったフォルトは、前後して小屋へ入ってきた女性たちと同じ事をするのだった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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