第256話 血煙の傭兵団2

 シュンたち勇者候補一行は、双竜山の森を出て、商業都市ハンへの帰路に着いていた。バルボ子爵から頼まれた事は達成したつもりだ。ソフィアに金貨を渡す事と、フォルトの様子を見てくるだけだった。


(レイナスのおかげで、金貨の意味は分かった。ああいう使い方もできるんだな。それに、おっさんの様子か……。あんまり、変わってねえような?)


「シュン」

「ん? どうした、アルディス」

「冒険者ギルドで、依頼を受けないの?」

「デルヴィ侯爵様へ報告をしねえといけねえからな」

「ふーん」


 他の用件だったなら、受けて帰ってもいいだろう。しかし、フォルトを呼ぶために金貨を渡されたのだ。ならば、早急に知らせる必要があった。


「そういや、昨日なんだが」

「どうかした?」

「いや。戻ってくるのが遅くなかったか?」

「そう? すぐに御風呂は上がったけどね」

「風呂だけじゃなかったのか?」

「おじさんに、戦神の指輪の件を報告をしたよ。ねえ、エレーヌ!」

「う、うん」

「ああ。ついでに話してきたのか」

「そうよ。肩の荷が下りたって感じ」

「はははっ。そんなに重要なもんじゃねえだろ」

「さあね。価値は、おじさんしか分からないし」

「それもそうだな」


 与えられた小屋には、先にラキシスが戻ってきた。それから待てど暮らせど、二人は戻ってこなかったのだ。様子を見に行こうかと思った矢先に、戻ってきたのだった。


「で、ノックス。どうだった?」

「魔力探知?」

「そうそう。エレーヌに教えてもらった……」

「食事の時に試したけど、おっさんの魔力は低かったよ」

「魔族の姉妹は?」

「大きかったよ」

「おっさんより?」

「うん。でも、僕の魔力探知じゃ、正確なところは分からないけどね」

「へえ」

「それにさ。なんとなくなんだけど、魔力を抑えてる気がするよ」

「ほう。魔力って抑えられるのか?」

「うん。そこまで難しくないかな。ずっと抑えるのは大変だけどね」

「なるほど」


 エレーヌがカーミラから習った魔力探知。それを彼女は考える事を禁止され、覚えていた事にさせられていた。

 この魔力探知を、ノックスに教えたのだ。しかし、不発のようだった。魔力を抑える事が可能なら、調べてもらった事に信用性がなくなる。


「おう、ホスト」

「なんだ、ギッシュ?」

「あのクソ傭兵団はどうすんだよ」

「血煙の傭兵団だっけ。放っておくしかねえだろ」

「ちっ。俺らに喧嘩けんかを売りやがって」

「報告だけはしとくさ。まあ、歯牙にもかけないと思うがな」

「次に会ったら、ブチのめしてやるぜ!」


 昨日からこうだ。とても気に入らなかったようで、思い出せば同じような事を言っていた。場の雰囲気も悪くなるので、同じようになだめている。


「ラキシス、代わるぜ」

「はい」


 御者はエレーヌがやっている。その隣にラキシスが座っていたが、ここで交代をする。彼女には、アルディスの近くに移動してもらった。


「へへ。エレーヌ」

「い、今は危ないですよ」

「そう言うな。ちょっとだけな」


 エレーヌの隣に座ったシュンは、彼女の太ももへ手を置く。荷台からは見えない位置なので、じっくりと触っていった。


「エレーヌから見た、おっさんはどうだった?」

「あ、あまり変わらなかったような」

「魔力探知も?」

「そ、そうですね。ノックスさんが言った通りかなあ」

「ふーん」

「どうかしたの?」

「エレーヌの体、熱くなってねえか?」

「そ、そう? シュンが触ってるから……」


 フォルトの話を始めた瞬間から、エレーヌの体が熱くなっているように感じた。たしかに触っているので、気のせいかもしれない。


「おっさんをどう思う?」

「それ、以前にも聞かれたような?」

「そうだっけ。んで?」

「あまり近寄りたくないかなあ。でも、魔法には詳しいから……」

「勉強に熱心だな」

「できる事はやっておかないとね。あの傭兵団は、怖かったですよ」

「また似たような事があるかもしれねえしな」

「強くならないと……ね」


 エレーヌの言葉には共感を覚えた。シュンだって死にたくはない。これから先が明るいのだ。確実に力をつけているし、そろそろ名誉男爵の授与だ。

 名誉男爵では、それ以上の昇爵はないと思われる。しかし、身につけている力と合わせれば、子爵や伯爵などと同等の目で見られるだろう。


「エレーヌ。次の村でな」

「え? あ……。う、うん」


 最近はアルディスが素っ気ないので、今度はエレーヌを抱きたくなった。まだまだハンまでは長い旅になる。

 行きは王女と話したり、血煙の傭兵団と戦った。シュンはエレーヌを触りながら、帰りはゆっくりと楽しみたいと思うのだった。



◇◇◇◇◇



「御主人様! いい場所がありましたよお」


 シェラの健康診断を受けていたフォルトの背中へ、カーミラが飛び込んできた。柔らかい二つのモノの感触が、オヤジ心をくすぐる。


「魔人様。体温が上がっていますわ」

「だろうな。言われるまでもなく、ポカポカしてきた」

「もう! それで、いい場所とはなんの事ですか?」


 触診をしていたシェラの手が止まり、耳から聴診器を外す。ただのネックレスなので、そのまま胸元へ垂らした。


「うむ。傭兵団を迎え撃つ場所をな」

「あら。では、出発するのですか?」

「その前に、リリエラにクエストだ。テラスへ行くから、呼んできて」

「分かりました」


 健康診断ゴッコを終わらせて、カーミラとともにテラスへ向かい、自分専用の椅子へ座った。もちろん隣には彼女だ。


「フォルトぉ。オヤツよお」


 そして、マリアンデールとルリシオンがオヤツを持ってきた。今日は青紫蘇あおじぞ風味のポテトチップスだ。それに手を伸ばして、口の中へ入れた。


「カーミラが帰ってきたなら、そろそろやるのかしら?」

「パリパリ。そうだな。二人にも働いてもらうぞ」

「作戦とか、何も聞いてないんだけどお」

「うむ。耳を貸せ」


 三人とも、目の前のテーブルに身を乗り出した。普通に伝えればいいのだが、やりたい事がある。そこで、さっそく実行をした。


「ちゅ、ちゅ」

「なっ!」

「へぇ。そういう事をするのお」

「うむ。不意打ちというやつだ」


 やりたい事を達成させたので、そのまま椅子へ座り直した。そして、カーミラを引き寄せる。なんとも流れるような動きだ。


(昔、キャバクラでやったなあ。きっと、俺が帰った後は怒った事だろう。若気の至りとしか思えんな。まあ、今の姿は若いからいいか)


「貴方ねえ」

「マスター!」

「おっと。来たか」


 マリアンデールから文句か惚気のろけが出る寸前、リリエラがやってきた。彼女にはやってもらう事があるので、先に話す事にする。


「リリエラよ。クエストだ」

「分かったっす!」

「グリムブルグに、血煙の傭兵団が居るらしい」

「はいっす」

「そいつらを、おびき出してこい」


 これがリリエラのクエストだ。カーミラから聞いた場所へ、血煙の傭兵団を連れてきてもらう。とても簡単なクエストであった。


「ルーチェ」


 見えない魔力の糸を使い、ルーチェを呼ぶ。この糸は、召喚している魔物にも伸びている。彼女へつながる糸は、屋敷の横にある小屋へ伸びていた。そして、フォルトの呼び出しを受けた彼女が、小屋から出てきて隣に立つ。


「主様、お呼びでしょうか?」

「うむ。リリエラの護衛と、サポートをよろしく」

「容易い事です」

「と、いう訳だ。リリエラ、ルーチェと一緒にやってこい」

「ルーチェさんを借りていいんすか?」

「おまえも身内になったのだ。危険はないと言っただろ?」

「そ、そうっすね!」


 身内はそばへ置いておきたいが、経験を積ませて強くする必要もある。かわいいい子には旅をさせよではないが、危険がないようにしてから送り出すのだ。


「金は、どうしても必要になったら言え」

「分かったっす」


 金を稼ぐのも経験だ。今は郵便配達が得意だが、他にも経験させたい。その上でレベルを上げさせて、カーミラに認めさせるのだ。

 時間がかかりそうなら、堕落の種を食べさせてくれる。しかし、ゲームをしながら達成したかったりする。彼女への甘えは最後の最後だ。


「ルーチェ。うまくいきそうなら、連絡してね」

「はい、主様」

「では、クエストスタートだ!」

「はいっす!」


 リリエラは屋敷へ戻った。荷物を準備してから向かうだろう。双竜山の森からグリムブルグまでは、歩くと七日はかかるはずだ。森から一番近いリトの町から馬車に乗れば、五日で到着するだろう。


「それでえ?」

「夕飯の時にしようか。全員に聞かせる」

「分かったわあ」

「それまで、ソフィアのところへ行ってくる」


 今度はカーミラを置いて、屋敷の中へ入っていく。外には見当たらなかったので、中に居るだろうと思われる。

 途中にある食堂や談話室をのぞいてみたが居なかった。そこで、居ると思われるソフィアの部屋へ向かった。


――――――トン、トン


「はい。どうぞ」

「ソフィア、入るぞ」


 リリエラの時とは違い、許可を得てから部屋の中へ入っていく。彼女も身内にしたので、最近は許可を取っている。親しき中にも礼儀ありだ。

 それから部屋を見渡すと、ソフィアはテーブルで勉強をしているようだった。そして、フォルトに気づいて声をかけてくる。


「あら、フォルト様」

「なにをしてるの?」

「ニャンシー先生の課題ですね。難しいです」

「そ、そうか。俺には分からん」

「ふふ。では、こちらへ」

「でへ」


 ソフィアは席から立ち上がって、ベッドへ座る。フォルトは当然のように隣に座り、肩を引き寄せた。


「五日から七日後ぐらいだ」

「そうですか」

「気が引けるか?」

「はい。何の罪もない傭兵団を襲うのは……」

「何の罪もないねえ」


 フォルトは最近、気がついた事がある。

 さまざまな罪はあるが、知能のない魔獣や魔物ならどうだろう。罪とすら認識せずに、罪を繰り返している。自分より弱い生き物を殺し、さらには食べる。繁殖期に入ればメスを犯す。それを罪と感じる事すらしないだろう。

 それを罪と決めているのは、知能を持った生き物だ。つまり、思考から導き出した結論だ。自然から見れば罪ではなく、ただの摂理に過ぎない。罪という考え方で、みずからを縛っているだけである。


(罪とは、知性を持った生き物が考えついたもの。もっと大きな存在から見れば、罪ではない。殺すのも犯すのも自然の摂理。なら、魔人の大罪とは……)


「フォルト様?」


 少々思考の旅に出ていたようだ。ソフィアを見ると、小首をかしげている。実にかわいい。そう思った瞬間に彼女をベッドへ引き込み、そのまま抱き締める。


「ど、どうしたのですか?」

「いや……。傭兵団は魔族狩りをしてるからな。それが罪だ」

「た、たしかにそうですが」

「魔族から見れば、大罪人の集まりだ。誅殺ちゅうさつだ、誅殺ちゅうさつ

誅殺ちゅうさつ……。ですか?」

「あっはっはっ! 簡単な事だったなあ」

「フォ、フォルト様?」


 フォルトは理解してしまった。七つの大罪の事を。それが、たまらなく可笑おかしいのだ。不明な事は多い。しかし、根本的な事は分かった。それで十分だ。


「ああ、すまない。たしかに、これは……。はははっ!」

「も、もう。何が可笑おかしいのですか?」

「今は内緒だ。いずれ教える。いずれな」

「そ、そうですか? よい話であればいいのですが」

「それよりもだ。ソフィア」

「は、はい?」

「愛してるよ。俺のために殺してやれ」

「え?」

「俺の事だけを考えていればいい。罪は俺が背負ってやる」

「は、はい! ちゅ」


 これでいいのだ。七つの大罪を理解した。これなら、ソフィアの罪を引き受けられる。いや、誰の罪も引き受けられる。

 フォルトは自分の出した答えに満足をしながら、彼女のビキニビスチェをいじっていく。そして、夕飯までの時間を、二人で過ごすのであった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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