第253話 魔族狩り2

「あの二人はな。魔族なんだよ!」


 血煙の傭兵団と名乗った団長は、シュンに近づいてすごんでくる。爬虫類はちゅうるいのような顔で、正直に言うと怖い。それでも強面ならギッシュで慣れている。なんとか、ポーカーフェイスで受け止めた。


「魔族?」

「テメエ。魔族狩りを知らねえのか?」

「それは知ってるけどな。だが、角なんて生えてたか?」

「『隠蔽いんぺい』してんだよ。そんな事も分かんねえのか!」

「分かんねえよ。見破れねえからな」

「ちっ」


 シュンたちの中で『隠蔽いんぺい』を見破れるのはノックスだけだ。それも魔法を使わないと駄目なので、助けるつもりだった男女には使っていない。


「とにかくだ! あいつらを殺せば、金が入ってくんだよ」

「そっか。じゃあ、頑張って探してくれ」

「テメエらが邪魔したんだろ? 払えよ」


(くそ。やっぱり、たかってきやがった。傭兵団ランキングBがあきれるぜ。きっと弱い傭兵団なんだな。どうしたものか……)


「おめえ、誰に因縁をつけてっと思ってんだあ?」

「なんだと!」


 今度はギッシュが怒り出した。自慢のトサカリーゼントを整えて、団長へ顔を近づけてすごんでいる。体が大きいため、上からのぞき込むようにだ。まさにヤンキーである。味方から見ても怖い。


「勇者候補のギッシュ様によお。聞こえるように話してくれや!」

「金を払えって言ってんだ! 聞こえましたかあ?」

「ああん? 聞こえねえなあ!」


 それに負けじと、団長はギッシュを見上げてすごむ。どちらの声も大きい。これにビビったアルディスたちは、近づいてこない。

 内心、シュンもビビっている。しかし、同じ勇者候補でチームリーダーだ。ポーカーフェイスは崩せない。


「金を払って、ママに泣きついてろ!」

「寝言は寝て言えや! おめえこそ、ママのおっぱいでも飲んでな!」


 二人は似た者同士なのか、顔がくっつきそうなぐらい近づいている。それはいいのだが、困った事になった。

 戦いにならなかったが、魔族狩りの邪魔をしてしまったのだ。邪魔をしたとて、罰則があるわけではない。しかし、こういうやからはしつこいのが相場だ。


「とにかくだ! 白金貨二十枚出せや!」

「そんな金を持ってると思ってるのか?」

「勇者候補だろ? それぐらい、用立てろ!」

「ふざけんな! 俺らの前まで逃がした、おまえらが悪い」

「オメエらが居なきゃ、とっくに殺してたんだ!」

らちが明かねえな」

「明けさせねえよ!」


 そもそも魔族狩りの報奨金が、白金貨二十枚というのも怪しい。これは吹っ掛けられてると思ったシュンは、背を向けて歩き出した。


「テメエ、どこに行くんだよ」

「俺らと遊ぶより、さっきの魔族を追った方がいいんじゃないか?」

「もう無理だ! 魔族の身体能力を知らねえのか?」

「知るか! 俺たちも仕事がある。デルヴィ侯爵様のな」

「デルヴィ侯爵?」

「俺はデルヴィ侯爵様に仕えている。邪魔をするなら、報いを受けるぞ」

「ちっ。オメエの名前は?」

「勇者候補で神聖騎士のシュンだ」

「神聖騎士団か?」

「そうだ」

「くそっ! もう行っていいぞ」

「そうしよう。ギッシュ、行くぞ」

「おう! じゃあな、ボケナス」


 やはり、デルヴィ侯爵と神聖騎士団は偉大だ。そう思いながら、ギッシュを連れて馬車へ向かおうとした。その時……。


「なあんて、言うわけねえだろ! おらあ!」

「なっ!」


 シュンは油断をしてしまった。背を向けて歩き出した瞬間、団長が剣を抜いて肩を斬ってきたのだ。

 肩に重く鈍い感触が伝わる。鎧を着てるので斬られなかったが、この世界の剣は、鎧ごと殴打する目的で作られた剣だ。しかし、突かれていたら貫通する。団長に殺す気はないのだろう。それでも倒れてしまった。


「ひゃははっ!」

「て、てめえ!」

「おっと。動くな、デカブツ。こいつの首をねちゃうぞ?」

「ぐっ!」


 倒れたシュンの首に、剣が突き付けられている。そのためギッシュは動けなくなった。これでは、足を引っ張った形になる。


(く、くそ。油断した。ラキシスの防御魔法が残ってて助かったぜ。切れてたら大怪我おおけがだった。この野郎……)


「おい、オメエら。そのデカブツを捕まえな」

「だ、団長。いいんですか?」


 団長が団員の一人に、ギッシュを捕らえさせようとしている。しかし、それをこばんでいた。それを聞いた団長が、ヘラヘラと笑い出す。


「へへ。いいんだよ。俺らは血煙の傭兵団だぞ?」

「で、でも」

「このグランテ様の言う事が聞けないのかねえ?」

「そ、そんな事は」

「オメエ。傭兵団へ入って何年だ?」

「ま、まだ入ったばかりです」

「そっか。んじゃ、いい……。よっ!」

「ぎゃあ!」


 血煙の傭兵団団長のグランテは、拒んだ団員の肩を剣で突いた。傷は浅いが、見せしめのためだろう。殺さなかっただけマシだが、平然と仲間を傷つけるあたり、その性格が察せられる。その時、馬車の方から声が聞こえた。


「『気功波きこうは』!」

「ぶべっ!」


 団員を突いたグランテの後頭部へめがけ、アルディスがスキルで気を飛ばした。その威力は弱いが、見事に直撃をして地面へ倒す。


「ギッシュ!」

「おおよ!」


 シュンは急いで立ち上がり、ギッシュとともに剣を抜く。それから馬車の方へ走り出した。

 それに気づいた団員が進路の前に出ようとするが、塞がれる前に抜けた。そして、振り向きざまに戦闘態勢へ入る。その時にはアルディスも近づいてきていた。


「へへ。ボクも役に立つでしょ?」

「ああ、助かったぜ」

「おう、ホスト。こいつらはどうする?」

「当然、報いを受けてもらうか。殺すなよ?」

「分かってんよ。『鉄壁てっぺき』!」


 シュンが少し後ろへ下がり、ギッシュが前へ出てスキルを使う。相手は人間で数も多いが、態勢さえ整えば十分に勝てるだろう。



【ヒール/治癒】



 そして、シュンの肩の痛みが取れた。自前の治癒魔法だ。グランテは拉致をしてから金を取ろうとしたのだろう。手加減をされていたので、傷は深くない。

 これで形勢が逆転した。後は彼らを懲らしめるだけだ。仕事もしなければならないので、さっさと済まそうと笑みを浮かべるのであった。



◇◇◇◇◇



 本日は久々に屋根の上。カーミラの膝枕を使い、ポカポカと温かい日差しを浴びている。これを続けると確実に惰眠だみんに入るが、この気持ちよさが止められない。


「ふぁあ」

「大きな欠伸あくびですねえ」

「こういう時間が、一番幸せ」

「えへへ。私もでーす!」

「よっと。でへ」

「御主人様、最高です!」


 カーミラの柔らかさを堪能するため、仰向けになったり、うつぶせになったりする。その度に彼女は喜んでくれるのだ。こんな行為を数十分続けて話し出す。


「シュンたちは、そろそろ来るかな?」

「そうですねえ」

「シェラは精霊魔法を修得できたかな?」

「聞いてきましょうかあ?」

「いや。それはベッドの中で」

「さすが、御主人様です!」


 何を話すでもないが、カーミラと一緒に居るのがいいのだ。しかし、それはそれ。聞きたい事はあるのだが、なかなか聞けずにいた。


「えへへ。リリエラちゃんの事を聞いてきませんねえ」

「まあな。弱い悪魔は要らないんだろ?」

「そうでーす! それに、今のままじゃ強くなりませーん!」

「どういう事だ?」

「戦闘の訓練とかやってませんよね。レベルが上がりませんよお」

「ああ、そうだったな」

「基礎もできてないのでえ」


 リリエラは戦士でも魔法使いでもない。神官でもレンジャーでもない。戦闘能力のない、ただの人間だ。

 その彼女をパワーレベリングをしたところで、レベルが上がるわけではない。堕落の種を食べさせるには、まずは何かしらの強さがなければ駄目だ。


「なんだ。嫌いだから渡さないって事じゃないのか」

「えへへ。御主人様の好きにしてくださーい」

「ははっ。そうしよう」

「こうやってえ。なんでも聞いてくださいねえ」

「っ!」


 最初から教えてくれればいいものを、どうやら寂しかったようだ。最初に出会った時は、なんでもカーミラに聞いていた。

 それが最近では少なくなった。なくなったわけではないが、シモベとして頼ってほしかったのだろう。その事を失念していた。


「カーミラを一番頼りにしているさ」

「えへへ。じゃあ、どんな感じに強くしますかあ?」

「そうだなあ」


 フォルトは考える。リリエラはまだ、何者にもなっていない。カーミラの言う強さは、物理的な強さや悪魔的な知能だ。

 今までのクエストから察せられる力。頭はよさそうに見えても、ただ機転が利くだけに見える。力は話にならない。


「戦士や魔法使いは居ますからねえ」

「そうだな。レンジャーとかか? 居れば便利ではある」

「セレスが居ますからねえ」

「エルフは、レンジャーの上位のようなもんか」

「はい!」

「そうなると……。でへ」

「えへへ。決まったようですねえ」


 フォルトが浮かべたイヤらしい顔を見て、カーミラが喜ぶ。考えついた事は、今のリリエラでは不可能だ。しかし、やらせてみる事はできる。


「決まったが、ゴニョゴニョ」

「いいと思いますよお。でも、すぐには無理ですよね?」

「そうだな。だが、ドーピングはできるな」


 ドーピングと言っても、薬物を投与する事ではない。魔道具の補助を使うという事だ。双竜山の森には、それを作れる者が居る。


「ルーチェ」

「はい。主様」


 そこで、さっそくルーチェを呼び出す。魔法学園の男子用の制服を着た男装女子だ。眷属けんぞくでありアンデッドなので抱く気はないが、見てるだけでえる。


「魔道具は?」

「主様の言っていた転移については、完成しそうもありません」

「ああ。やっぱり無理だよな」

「すみません」


 ゲームの世界には、転移の指輪など、便利な品物があったりする。一応研究させ作らせていたが、転移という概念がない世界なので完成はしていない。


「それはゆっくりでいいよ。それより――――」

「それならば可能ですね。すぐに取り掛かっても?」

「足りない素材とかはある?」

「いえ。ほとんど魔界で採取できますので」

「そっか。なら、よろしく」

「畏まりました」


 ルーチェが嬉しそうだ。転移の研究が行き詰っていたので、作成が可能な魔道具を指定されて大喜びである。

 さっそく屋根から飛び降りて、屋敷の隣にある小屋へ向かっていった。この双竜山の森へ来て初めて作った小屋だが、そこがルーチェの仕事場だ。


「よしよし。これでいいな」

「なら、強くなりそうになったら渡しますねえ」

「あまり時間がかかりそうなら、先に頼む」

「御主人様は、若い女性が好きですからねえ」

「ま、まあ。ティオより、ちょっと上でもいいぞ」

「えへへ。じゃあ、そうするのでえ。ご褒美がほしいでーす!」

「なら、俺の今日はカーミラへやろう」

「やったあ!」


 いつもは常に誰かが居るのだが、今日はカーミラだけと過ごす事に決めた。それから膝枕を止めて、二人で立ち上がる。

 たまには森の散策などもいいだろう。その後はどうしようか。そんなデートプランを考えながら、屋根から飛び降りるのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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