第253話 魔族狩り2
「あの二人はな。魔族なんだよ!」
血煙の傭兵団と名乗った団長は、シュンに近づいて
「魔族?」
「テメエ。魔族狩りを知らねえのか?」
「それは知ってるけどな。だが、角なんて生えてたか?」
「『
「分かんねえよ。見破れねえからな」
「ちっ」
シュンたちの中で『
「とにかくだ! あいつらを殺せば、金が入ってくんだよ」
「そっか。じゃあ、頑張って探してくれ」
「テメエらが邪魔したんだろ? 払えよ」
(くそ。やっぱり、たかってきやがった。傭兵団ランキングBが
「おめえ、誰に因縁をつけてっと思ってんだあ?」
「なんだと!」
今度はギッシュが怒り出した。自慢のトサカリーゼントを整えて、団長へ顔を近づけて
「勇者候補のギッシュ様によお。聞こえるように話してくれや!」
「金を払えって言ってんだ! 聞こえましたかあ?」
「ああん? 聞こえねえなあ!」
それに負けじと、団長はギッシュを見上げて
内心、シュンもビビっている。しかし、同じ勇者候補でチームリーダーだ。ポーカーフェイスは崩せない。
「金を払って、ママに泣きついてろ!」
「寝言は寝て言えや! おめえこそ、ママのおっぱいでも飲んでな!」
二人は似た者同士なのか、顔がくっつきそうなぐらい近づいている。それはいいのだが、困った事になった。
戦いにならなかったが、魔族狩りの邪魔をしてしまったのだ。邪魔をしたとて、罰則があるわけではない。しかし、こういう
「とにかくだ! 白金貨二十枚出せや!」
「そんな金を持ってると思ってるのか?」
「勇者候補だろ? それぐらい、用立てろ!」
「ふざけんな! 俺らの前まで逃がした、おまえらが悪い」
「オメエらが居なきゃ、とっくに殺してたんだ!」
「
「明けさせねえよ!」
そもそも魔族狩りの報奨金が、白金貨二十枚というのも怪しい。これは吹っ掛けられてると思ったシュンは、背を向けて歩き出した。
「テメエ、どこに行くんだよ」
「俺らと遊ぶより、さっきの魔族を追った方がいいんじゃないか?」
「もう無理だ! 魔族の身体能力を知らねえのか?」
「知るか! 俺たちも仕事がある。デルヴィ侯爵様のな」
「デルヴィ侯爵?」
「俺はデルヴィ侯爵様に仕えている。邪魔をするなら、報いを受けるぞ」
「ちっ。オメエの名前は?」
「勇者候補で神聖騎士のシュンだ」
「神聖騎士団か?」
「そうだ」
「くそっ! もう行っていいぞ」
「そうしよう。ギッシュ、行くぞ」
「おう! じゃあな、ボケナス」
やはり、デルヴィ侯爵と神聖騎士団は偉大だ。そう思いながら、ギッシュを連れて馬車へ向かおうとした。その時……。
「なあんて、言うわけねえだろ! おらあ!」
「なっ!」
シュンは油断をしてしまった。背を向けて歩き出した瞬間、団長が剣を抜いて肩を斬ってきたのだ。
肩に重く鈍い感触が伝わる。鎧を着てるので斬られなかったが、この世界の剣は、鎧ごと殴打する目的で作られた剣だ。しかし、突かれていたら貫通する。団長に殺す気はないのだろう。それでも倒れてしまった。
「ひゃははっ!」
「て、てめえ!」
「おっと。動くな、デカブツ。こいつの首を
「ぐっ!」
倒れたシュンの首に、剣が突き付けられている。そのためギッシュは動けなくなった。これでは、足を引っ張った形になる。
(く、くそ。油断した。ラキシスの防御魔法が残ってて助かったぜ。切れてたら
「おい、オメエら。そのデカブツを捕まえな」
「だ、団長。いいんですか?」
団長が団員の一人に、ギッシュを捕らえさせようとしている。しかし、それを
「へへ。いいんだよ。俺らは血煙の傭兵団だぞ?」
「で、でも」
「このグランテ様の言う事が聞けないのかねえ?」
「そ、そんな事は」
「オメエ。傭兵団へ入って何年だ?」
「ま、まだ入ったばかりです」
「そっか。んじゃ、いい……。よっ!」
「ぎゃあ!」
血煙の傭兵団団長のグランテは、拒んだ団員の肩を剣で突いた。傷は浅いが、見せしめのためだろう。殺さなかっただけマシだが、平然と仲間を傷つけるあたり、その性格が察せられる。その時、馬車の方から声が聞こえた。
「『
「ぶべっ!」
団員を突いたグランテの後頭部へめがけ、アルディスがスキルで気を飛ばした。その威力は弱いが、見事に直撃をして地面へ倒す。
「ギッシュ!」
「おおよ!」
シュンは急いで立ち上がり、ギッシュとともに剣を抜く。それから馬車の方へ走り出した。
それに気づいた団員が進路の前に出ようとするが、塞がれる前に抜けた。そして、振り向きざまに戦闘態勢へ入る。その時にはアルディスも近づいてきていた。
「へへ。ボクも役に立つでしょ?」
「ああ、助かったぜ」
「おう、ホスト。こいつらはどうする?」
「当然、報いを受けてもらうか。殺すなよ?」
「分かってんよ。『
シュンが少し後ろへ下がり、ギッシュが前へ出てスキルを使う。相手は人間で数も多いが、態勢さえ整えば十分に勝てるだろう。
【ヒール/治癒】
そして、シュンの肩の痛みが取れた。自前の治癒魔法だ。グランテは拉致をしてから金を取ろうとしたのだろう。手加減をされていたので、傷は深くない。
これで形勢が逆転した。後は彼らを懲らしめるだけだ。仕事もしなければならないので、さっさと済まそうと笑みを浮かべるのであった。
◇◇◇◇◇
本日は久々に屋根の上。カーミラの膝枕を使い、ポカポカと温かい日差しを浴びている。これを続けると確実に
「ふぁあ」
「大きな
「こういう時間が、一番幸せ」
「えへへ。私もでーす!」
「よっと。でへ」
「御主人様、最高です!」
カーミラの柔らかさを堪能するため、仰向けになったり、うつぶせになったりする。その度に彼女は喜んでくれるのだ。こんな行為を数十分続けて話し出す。
「シュンたちは、そろそろ来るかな?」
「そうですねえ」
「シェラは精霊魔法を修得できたかな?」
「聞いてきましょうかあ?」
「いや。それはベッドの中で」
「さすが、御主人様です!」
何を話すでもないが、カーミラと一緒に居るのがいいのだ。しかし、それはそれ。聞きたい事はあるのだが、なかなか聞けずにいた。
「えへへ。リリエラちゃんの事を聞いてきませんねえ」
「まあな。弱い悪魔は要らないんだろ?」
「そうでーす! それに、今のままじゃ強くなりませーん!」
「どういう事だ?」
「戦闘の訓練とかやってませんよね。レベルが上がりませんよお」
「ああ、そうだったな」
「基礎もできてないのでえ」
リリエラは戦士でも魔法使いでもない。神官でもレンジャーでもない。戦闘能力のない、ただの人間だ。
その彼女をパワーレベリングをしたところで、レベルが上がるわけではない。堕落の種を食べさせるには、まずは何かしらの強さがなければ駄目だ。
「なんだ。嫌いだから渡さないって事じゃないのか」
「えへへ。御主人様の好きにしてくださーい」
「ははっ。そうしよう」
「こうやってえ。なんでも聞いてくださいねえ」
「っ!」
最初から教えてくれればいいものを、どうやら寂しかったようだ。最初に出会った時は、なんでもカーミラに聞いていた。
それが最近では少なくなった。なくなったわけではないが、シモベとして頼ってほしかったのだろう。その事を失念していた。
「カーミラを一番頼りにしているさ」
「えへへ。じゃあ、どんな感じに強くしますかあ?」
「そうだなあ」
フォルトは考える。リリエラはまだ、何者にもなっていない。カーミラの言う強さは、物理的な強さや悪魔的な知能だ。
今までのクエストから察せられる力。頭はよさそうに見えても、ただ機転が利くだけに見える。力は話にならない。
「戦士や魔法使いは居ますからねえ」
「そうだな。レンジャーとかか? 居れば便利ではある」
「セレスが居ますからねえ」
「エルフは、レンジャーの上位のようなもんか」
「はい!」
「そうなると……。でへ」
「えへへ。決まったようですねえ」
フォルトが浮かべたイヤらしい顔を見て、カーミラが喜ぶ。考えついた事は、今のリリエラでは不可能だ。しかし、やらせてみる事はできる。
「決まったが、ゴニョゴニョ」
「いいと思いますよお。でも、すぐには無理ですよね?」
「そうだな。だが、ドーピングはできるな」
ドーピングと言っても、薬物を投与する事ではない。魔道具の補助を使うという事だ。双竜山の森には、それを作れる者が居る。
「ルーチェ」
「はい。主様」
そこで、さっそくルーチェを呼び出す。魔法学園の男子用の制服を着た男装女子だ。
「魔道具は?」
「主様の言っていた転移については、完成しそうもありません」
「ああ。やっぱり無理だよな」
「すみません」
ゲームの世界には、転移の指輪など、便利な品物があったりする。一応研究させ作らせていたが、転移という概念がない世界なので完成はしていない。
「それはゆっくりでいいよ。それより――――」
「それならば可能ですね。すぐに取り掛かっても?」
「足りない素材とかはある?」
「いえ。
「そっか。なら、よろしく」
「畏まりました」
ルーチェが嬉しそうだ。転移の研究が行き詰っていたので、作成が可能な魔道具を指定されて大喜びである。
さっそく屋根から飛び降りて、屋敷の隣にある小屋へ向かっていった。この双竜山の森へ来て初めて作った小屋だが、そこがルーチェの仕事場だ。
「よしよし。これでいいな」
「なら、強くなりそうになったら渡しますねえ」
「あまり時間がかかりそうなら、先に頼む」
「御主人様は、若い女性が好きですからねえ」
「ま、まあ。ティオより、ちょっと上でもいいぞ」
「えへへ。じゃあ、そうするのでえ。ご褒美がほしいでーす!」
「なら、俺の今日はカーミラへやろう」
「やったあ!」
いつもは常に誰かが居るのだが、今日はカーミラだけと過ごす事に決めた。それから膝枕を止めて、二人で立ち上がる。
たまには森の散策などもいいだろう。その後はどうしようか。そんなデートプランを考えながら、屋根から飛び降りるのだった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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