第252話 魔族狩り1

「ぐう、ぐう」


 フォルトは久しぶりに、双竜山の森にある湖の小島へ来ていた。天気もいいので、日当たりのいい場所を選んで寝ている。

 隣で添い寝をしてるのはアーシャだ。彼女と初めて交わった場所だが、結構気に入ってるようである。


「つん、つん」

「んごっ!」

「イタズラするねえ」

「頼む」

「起きてんじゃないのよっ!」


 フォルトが寝るという事は、アーシャがほったらかしになるという事だ。連れてきてすぐに寝たため、彼女が暇そうにしていた。最初は一緒に眠っていたが、途中から起きているのだった。


「そこで黙ってれば、気持ちよくなるのにね」

「ははっ。我慢できず」

「まったく。そう言えば、シュンたちが来るんでしょ?」

「そうらしいな。先触れが来たらしい」


 シュンたちはデルヴィ侯爵からの祝いの品を持って、グリム家へ向かったそうだ。その帰りに立ち寄って、ソフィアに会うとの話だった。

 先触れを出しているのは、不在を防ぐためだろう。その話が、グリムからソフィアへ伝えられていた。


「森へ入れるの?」

「戦神の指輪の情報があるからな」

「あ、そっか!」

「グリムの爺さんに、許可証を出すように言ってある」

「へえ。あたしのために、動いてくれてたんだね!」


 ソネンとフィオレの子供。レオンが産まれた事が全貴族へ通知されている。シュンは侯爵に仕えているので、選ばれるだろうと思っていた。

 どうせ接触を持とうとするのは分かっている。案の定、選ばれたわけだ。おかげで、ニャンシーを使わずに済んだ。


「早く限界突破を終わらせて、自動狩りに出したいからな」

「ふーん。あたしと離れたいの?」

「違う。はやくレベル四十以上になってもらいたい」

「へへ。冗談だよ。あの平原で上げるんでしょ?」

「まだ、ルシフェルが必要だろうけどな」


 幽鬼の森の北にある平原。中型から大型の魔物や魔獣が生息する。レベル三十以上になれば、中型であればいい戦いがやれるだろう。

 レベル三十以上だとパワーレベリングはできないが、ルシフェルが居れば、危なくなった時に助けられる。


「でも、自動狩りになるの?」

「バッサバッサとはいかないけどな」

「ティオさんが居るけどね!」

「そういう事だ。普通に戦うよりは、倒すのが早いだろう」


 ベルナティオのレベルは五十以上。セレスも三十八はある。平原に生息するキラーエイプの推奨討伐レベルは三十五だ。レベルが高い二人が居れば、おっさん親衛隊なら簡単に倒せるだろう。

 レベルが上がってくれば、さらに効率よく倒せるはずだ。そうなれば、自動狩りと変わらない早さになる。後はレベル四十になるまで、狩りまくればいい。


「でもさ。レベル三十以上だと、上がりづらいって聞いたよ?」

「相手が人間とかの方が上がるっぽいな」

「マリ様とルリ様が、それで上げたって」

「そうだ。でも、マリとルリの場合は万単位だけどな」

「うぇ。無理無理」


 アーシャが渋い表情をする。これも、かわいい。その顔に釣られて頬を手で触ると、その手の上に自分の手を置いて頬ずりをしてきた。


「いつまでも……」

「ああ」

「ところで、リリエラちゃんは!」

「ははっ」


 ムードが高まったが、一瞬にして変わる。まったく、アーシャは面白い。それで笑ってしまったが、彼女も笑顔になって抱きついてきた。


「今はソフィアと一緒じゃないかな」

「ふふーん。身内にしてよかったでしょ?」

「アーシャの提案だしな」

「ギャルにしていい?」

「だっ……。ほどほどにな」

「分かってるって! 口調は、そのままね」

「ほどほどにな」

「ふふ」


 ギャルはアーシャのアイデンティティだが、リリエラにイメージチェンジをさせたいようだ。このあたりが、彼女をかわいがってる理由だろう。


「そんなに変えないわよ」

「そうしてくれ」

「でも、ゲームは続けるんでしょ?」

「そうだな。まあ、眷属を付ける予定だ」

「ふーん。ルーチェさん?」

「そうだな。受肉をして見た目は人間だし、力も強いからな」


(クウだと、ちょっと頼りない。ニャンシーでもいいけど、身内にしたなら確実に守りたい。そうなると、ルーチェだよなあ)


 魔族のオカマであるヒスミールを撃退した強さだ。魔法使いということもあり、レベル以上の強さを発揮できる。

 アンデッドを召喚できるのが大きい。壁になる魔物が居れば、安全なところから戦える。人間でルーチェに勝つのは至難の業だろう。


「人間の死体がほしくなったな」

「眷属を増やす気?」

「そうそう。その辺に落ちて……」

「るわけないでしょ。そういうオヤジボケは、相変わらずなんだから」

「おっさんだからな」

「でも、見た目は若いじゃん」

「まあ、若くてもシュンには負けるさ」

「見た目で勝ってれば、フォルトさんがホストになってるわ」

口下手くちべただから無理だけどな」


 若い頃の仕事は事務仕事だ。人と話すのが得意ではなかったので、営業などは無理だと理解していた。


「こんなに話してるのにねえ」

「身内だからな。さて、身内の絆を深めよう」

「へへ。ちゅ」


 相変わらず積極的なアーシャに、主導権を握られてしまう。そんな彼女の堕落の種が芽吹いたら、どんな悪魔になるのだろう。そんな事を考えながら、身を任せるのであった。



◇◇◇◇◇



 シュンたち勇者候補一行は、城塞都市ミリエを出発して、一路グリム家へ向かっていた。グリム家のあるグリムブルグまでは、馬車で三日ぐらいの距離だ。

 途中には小さな村々があり、そこで宿を取りながら進んでいた。そして、遠くに双竜山が見えだした頃、ある事に巻き込まれるのだった。


「そういや、指輪の情報は手に入れたのか?」

「一応、ボクたちの方はね。ねえ、エレーヌ」

「そ、そうですね。あ、あの、ギッシュさんは?」

「ああん? 駄目だったぜ。酒場とかで聞いたけどな」

「そ、そう。シュンは……。探してないでしょ?」

「ま、まあな。アルディスたちの情報だけでいいだろ?」

「まったく……。ラキシスさんも何か言ってやってよ」

「そうですね。チームで渡せればいいのでは?」

「そうだぜ、アルディス」

「もう!」


 シュンとノックス、それにラキシスは情報を集めていない。絶対に情報を集めろと言われておらず、アルディスたちが自主的に集めていたからだ。


「あんな依頼。適当でいいんだよ」

「もういいけどね。後は伝えるだけだし」


 そこまでアルディスが言ったところで、御者のノックスが振り向いて声をかけてきた。その声を聞いて、前方へ乗り出す。


「シュン。前を見て」

「どうした?」

「あれ……」

「うん?」


 ノックスが指した方向に、一組の男女が居た。二人とも肩で息をしている。周りを見ると、街道の左右には林がある。おそらく、その中から飛び出してきたのだろう。男女は、右の林の方を向いていた。


「なんだあれ?」

「旅人かな?」

「冒険者なら平気だろうが……」


 魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする、この世界。街道が安全とはいえ、襲われる可能性はゼロではない。一般の国民が町から町へ向かう場合、定期便の馬車が出ている。護衛も居るので、襲われても平気なのだ。

 しかし、前方の男女は徒歩である。運がよければ襲われないが、こういった林の近くは危険だ。虫や植物の魔物、狼などの魔獣が居る可能性がある。


「乗せていくか?」

「でも、侯爵様の荷物が……」

「そうだったな。でも、近くに座らせなけりゃいいだろ」

「助けた方がいいんじゃない?」

「ボクに見て見ぬふり無理よ!」

「けっ。ホストに任せるけどよ。俺らは勇者候補だぜ」

「そうだな。んじゃ、ノックス。近くへ……」


 ノックスへ指示を出そうとしたその時、その男女が走って向かってきた。すると、右の林から武装した者たちが飛び出してくる。そして、その男女を追いかけだしたのだった。


「ちっ。盗賊団か? いくぞ!」

「おおよ! おら、ゼッツーを止めんかい!」

「う、うん。お、押さないで!」


 シュンたちの乗っている馬車は、ゼッツーと名付けられていた。そう呼んでいるのは、ギッシュだけだが……。

 ギッシュはノックスを押しのけて、前から飛び出していく。それに続いてシュンもだ。アルディスとエレーヌは後ろから飛び出して、ラキシスはノックスの隣に座った。



【シールド/盾】



【ストレングス/筋力増加】



 ラキシスとノックスは支援魔法を使う。対象はシュンとギッシュだ。それを交互におこなう事で、二人に二つの支援魔法をかけた。


「おう! こっちまで逃げてこいや!」


 ギッシュは走りながら大声をあげる。それを聞いた男女が一瞬速度を落としたが、すぐさま向かってきた。彼の顔が怖かったのだろうと推察される。


「ま、まてや!」

「んだ? オメエらは! 邪魔すんじゃねえ!」


 追いかけてきた者たちが男女へ追いつく前に、シュンとギッシュが間へ入れた。男女は通り過ぎて馬車の方へ向かっていく。


「アルディス! 二人を頼む」

「任せて! さあ、こっちよ」


(アルディスとエレーヌが中間で、馬車にラキシスとノックスか。いい布陣だ。これなら安心して戦えるぜ!)


 後ろを確認したシュンは、追ってきた者たちの前に立ちふさがる。彼らは六人で、それぞれ装備が違った。その彼らは止まり、武器を抜いた。戦う気があるようだ。シュンとギッシュも武器を構えて対峙たいじする。


「邪魔すんじゃねえ!」

「あの二人が何だか知ってんのか!」

「まさか、横取りするんじゃないだろうね?」


 追ってきた者たちは、男性が多いが女性も居た。しかし、すぐに斬りかかってこない。半分に分かれて、それぞれシュンとギッシュの前に立った。


「ああん? 横取りだあ。知るか、ボケ! かかってこいや!」

「いいからどけ!」

「あんたら。私らの胸の紋章が見えないのかい?」

「紋章だと?」


 敵であろう女性が、ブレストプレートに描かれている紋章を見せてきた。シュンやギッシュにはサッパリだが、どうやら盗賊団ではない感じだ。


「私らは傭兵団だよ」

「だから、そこをどけって……。あぁ、行っちまったあ」

「はあ?」


 相手の男性は剣を下げて、そのまま頭をいた。他の五人も同じように武器を下げる。それを見たシュンとギッシュは、お互いの顔を見合わせた。


「どうなってんだ?」

「さあ」

「後ろを見な」

「え?」

「シュン! あの二人、左の林へ入っていっちゃったよ!」

「はあ?」


 相手の女性にうながされて後ろを向くと、アルディスが左の林を指して大声で叫んでいた。よく分からないが、彼女からも逃げたようだった。


「おい! やつらは、どこへ行った?」

「あ、団長!」


 その時、右の林から中肉中背の男性が現れる。爬虫類はちゅうるい顔とでも言うのか。そんな感じの男性だ。その団長と呼ばれた男性は、数名の男女を連れて、こちらへ向かって歩いてきた。


「なんだ、こいつら?」

「団長。こいつらに邪魔をされてさあ」

「なんだと! あの二人で、いくらになると思ってんだ!」

「私に怒らないでよ。邪魔されたんだからさあ」

「「そうだぜ、団長」」


 シュンたちと対峙たいじした傭兵団の団員たちは、団長とやらに怒られている。どういう事か分からないが、とにかく戦闘にはならなそうだ。そこで、こちらも武器を下げた。


「どういうこった?」

「テメエら。俺らの邪魔をして、タダで済むと思ってんのか?」

「はあ?」

「俺らは、血煙の傭兵団だぞ!」

「し、知らねえよ」

「知らねえだと! 傭兵団ランキングBだぞ!」

「だから、知らねえよ」


 シュンに傭兵団の事は分からない。そういうものがある事は知っていたが、傭兵団にランキングがある事すら知らない。


「ちっ! 何者だ? テメエら」

「俺らか? 俺らは勇者候補だ!」

「勇者候補だあ?」


 傭兵団の団長は、腕を組みながら考え込んでいる。他の団員たちは、シュンとギッシュを遠巻きに囲んだ。襲ってはこなさそうだが、逃がさない感じだ。

 こちらも武器を武器を下げたが、団長は怒っている。しかし、シュンには怒られるいわれがない。それでもまずは、話を聞く事にするのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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