第251話 下準備3

 城内の馬繋場ばけいじょうに、エウィ王国第一王女のリゼットが居る。それについておかしいと思うが、こちらからは聞けない。まずは、言い訳を始めた。


(こんな場所へ、なんで王女が来てんだ? 聖女になったミリエもそうだが、城内を歩き回るのが趣味なのかね?)


「本来なら騎士訓練所へ行きますが、荷物がありましたので」

「なんの荷物だ?」

「デルヴィ侯爵様から送られる、グリム家への祝いの品であります」

「グリム家へ……。なるほど」

「どうせ明日出発するので、荷物を降ろさずに交代で行こうかと」

「横着が過ぎるな。侯爵様から預かった荷物だろう?」

「それについては謝ります」

「グリューネルト。その辺で」

「はっ!」


 グリューネルトと呼ばれた女騎士が横にずれて、リゼットが前に出てきた。そして、立ち上がるようにうながすのだった。


「よいですよ。それにしても、異世界人ですか」

「はい」

「たしか、シュンと名乗りましたね? この者たちの隊長ですか」

「隊長ではありませんが、リーダーをさせていただいてます」

「リ、リーダーですね。失礼しました」

「いえ。お気になさらずに」


 リゼットは頬を赤らめる。隊長もリーダーもさしたる違いはないが、間違えたことが恥ずかしいのだろう。


「もしよろしければ、私の御茶に付き合ってくださらないかしら?」

「え?」

「姫様……。御戯れが過ぎます」

「よいではありませんか。一度、異世界人と御話がしたかったのです」

「で、ですが」

「もう。グリューネルトが近くに居れば、大丈夫でしょ?」

「もちろん、全力で御守りします!」

「なら、平気ですね。シュンもいいかしら?」

「俺でよければ……」


 他の仲間は口を開かない。ギッシュですら畏まっている。彼の場合は、仕方なくといった感じだ。しかし、これぐらいの空気は読めるだろう。


「では、ついてきてください」

「はっ! 悪いギッシュ。後を頼む」

「いいぜ。任せろ」


 リゼットを待たせられないので、後の事をギッシュへ頼む。こういう場面で使ってやる事で、気分をよくさせておいたほうが面倒がない。

 その後はリゼットを先頭に、後ろからついていく。隣にはグリューネルトが居るので、変な事をしようとすれば斬られるだろう。それに、彼女は強そうだった。


(同格か、ちょっと上って感じだな。プロシネンほどじゃねえか。気品があって、髪も奇麗だな。触ってみてえぜ)


 グリューネルトは、ワインレッドのような濃い赤紫色の髪を伸ばしている。手入れをキチンとしているので、とても美しく見えた。


「どうした?」

「いや。リゼット姫は、いつもこんな場所まで?」

「言う必要はない」

「そ、そうか」


 素っ気ない。まるで、眼中に入っていないようだ。しかし、これほどの女騎士が居るなら教えてくれてもいいだろう。そんな恨み節を、この場に居ないザインへ向ける。それからしばらく歩くと、王宮のテラスが見えてきた。


「では、こちらへ」


 テラスまで歩いたリゼットは椅子へ座る。シュンは対面に座らされた。グリューネルトは、彼女の横に立って控えているのであった。


「あまり、緊張していませんね?」

「いえ。緊張していますよ」

「そうですか?」

「正直に言うと、王女様に会ったのは、今回が初めてではありません」

「まあ。どなたと?」

「聖女ミリエ様ですね」

「まあまあ」


 なぜか分からないが、シュンの答えにリゼットが喜んでいる。ミリエも城内に居るので、知っているのかもしれない。しかし、それを聞く事はなかった。


「それで、異世界人の何が知りたいのですか?」

「そうですね。フォルト様は御存知?」

「おっさん?」

「おっさん、とは?」


 フォルトをおっさんと呼ぶのは口癖になっていた。相手はエウィ王国の王女なので、いつもの呼び方などはつつしむ必要がある。シュンは気持ちを引き締めて、続きを話し出すのだった。


「い、いえ。失礼しました。同時期に召喚された者ですね」

「まあ。では、お知り合いなのですね?」

「そうですが。彼に何か?」

「一度会っているのですが、とても頼りになる方です」

「え?」


 たしかにリゼットは舞踏会で会っているが、頼った覚えはない。しかし、誰にでもそう言っている。

 それを知らないシュンは驚いた。フォルトが王族ともつながりがあるという事にだ。彼についての考えは改めたつもりだった。しかし、召喚された時の事を思い出してしまい、苦虫をみつぶしたような表情をする。


「あら。お嫌いなのですか?」

「い、いえ。そういうわけでは」

「ふふ。なら、この話は終わりにしましょう」

「大丈夫ですよ?」

「他の事が聞きたくなりました」

「そうですか」

「シュンの居た世界の事でも」

「分かりました」


 それからは根掘り葉掘り聞かれた。それも、たわいもない事だ。ホストだった事は言わなかったが、遊びの事や友達などの事だ。

 まったく知らないリゼットへ話すには骨が折れたが、それでも楽しんで聞いてくれた。これには安堵あんどする。無礼があったら面倒だ。そして、ある程度の時間が過ぎたところで解放されるのだった。



◇◇◇◇◇



 数日後、シルビアとドボがやってきた。それを出迎えたソフィアは、いつものテラスへ案内してくる。そして、隣に座って体を密着させてきた。

 彼女はローブをまとっているので、いつものビキニビスチェが見られない。とても残念だが、ドボが居るので素肌を見せるわけにはいかない。


「なんだい。こっちへ戻ってたのかよ」

「ちょっと前にな」

「こっちの方が、手間がなくていいけどね」

「国境か。たしかにダルいだろうな」

「私らは異世界人だからね」

「勇者候補じゃねえから、一応は出国できるんだけどよ」

「審査に時間がかかんだよ」


 勇者候補になれなかった異世界人は、たいした役に立たない。一般の国民と同様の扱いになるが、それでも従来の国民ではない。そこで、出国の目的などを厳しく審査されていた。移住などは、当然規制されている。


「ほほう」

「んで。今回の仕事はなんだい?」

「傭兵団を調べてもらいたい」

「傭兵団だぁ?」

「そうだ。探してもらいたいのは――――――」


 今回の指定は細かい。マリアンデールとルリシオンが相手をした傭兵団を探してもらう。ルリシオンとニャンシーが出会った山は、デルヴィ侯爵領の北である。姉妹は、フェリアスからエウィ王国へ入ったのだ。

 二年前に、その町へ滞在していた傭兵団だ。これについては、すぐに見つかるだろうと思われる。


「いいけどよ。なんで傭兵団なんか……」

「言う必要が?」

「いや、ないね。でも、それだけかい?」

「なぜだ?」

「いやね。ちっと、闘技場でな」

「ああ。行ったのか」


 すでに闘技場は解放されている。娯楽の少ない世界なので、とても人気を博しているようだ。毎日は開催されず、まずは七日に一回だ。

 開催日は満席である。まだ人間同士の戦いはないが、見た事もない魔獣と戦う人間の姿を見て、大熱狂だそうだ。


「んでよ。スッちまったんだよ」

「は?」

「賭けが横行しててねえ」

「くそ! あいつが、あのゴリラに勝てるとは思わなかったぜ」

「………………」


 ドボも大熱狂だったようだ。白金貨三枚は渡したはずだが、もう手元にないらしい。山分けした半分はシルビアが持っているが、それでも半分は使ったようだ。 三千万円の半分の半分。七百五十万しか残っていない。つまり、大金貨七枚と金貨五枚だ。白金貨一枚にも届かない。


「派手に使い過ぎだろ」

「へへ。オメエが仕事をくれるからよ」

「そんなわけでねえ。傭兵団の情報だけじゃ、安いだろ?」

「はぁ。ソフィア、なんとか言ってやれ」

「はい。多く使うのは止めませんが、使い方を間違えないでください」

「………………」

「たとえば、孤児院に寄付するとか」

「………………」

「貯金もしてください。いつ、大きな出費があるか分かりません」

「………………」

「ちゃんと、武装も整えてくださいね」

「………………」

「税金の払えない方の肩代わりをするとか」

「ソ、ソフィア。その辺で」

「あ、あら。シルビアさん、ドボさん。分かりましたね」

「「へーい」」


 元聖女で異世界人の面倒を見ていたソフィアは、説教が始まると長いようだ。二人は何度も言われたのだろう。ゲッソリした顔だ。

 ギッシュが彼女に頭が上がらないわけである。最初はツッパッて見せても、何度も続けられて折れてしまったのだろう。


「じゃあ、悪魔崇拝者も頼む」

「なんだそりゃ?」

「そのままの意味だな」

「そんなもん。どこにでも居るだろ」

「十一人ぐらいで、悪魔を召喚しそうなやつら」

「具体的だね。他には?」

「フェリアスかエルフに、恨みをもってそうな感じだな」

「それなら、探せるかもしれねえなあ」

「それ以外の情報がないからな。とりあえず、当たってみてくれ」

「いいよ。でも、情報屋を使う感じだねえ」

「やり方は任せる。それに、傭兵団の情報が先だ」


 悪魔崇拝者については、後回しでいい。まずは、ソフィアの限界突破が先だ。彼女とアーシャの限界突破が終われば、また自動狩りに出せる。


「分かったよ。でも、情報だけだから旨味うまみはねえな」

「ふむ。まあ、色は付けるさ」

「次の仕事もね。頼むよ」

「はい、はい。じゃあ、ソフィア。いつも通りに」

「分かりました」


 この後は、いつも通りの対応だ。ソフィアが彼らを小屋へ連れていき、明日には出発するだろう。食料も提供させる。


「さて……」


 彼らを見送ったところで、屋敷の中にあるリリエラの部屋へ向かう。そして、ノックもせずに入っていった。


「リリエラ」

「マ、マスター」


 リリエラがうるんだような瞳で見てくる。彼女はレイナスやベルナティオと違い、フォルトが一人で調教していた。彼女を犯した時から、それなりに時がたっている。その成果が表れてきていた。


「ぁっ!」


 部屋にあるベッドに座り、軽くリリエラの頬を触る。すると、体が上気してきたようだ。体は完全に堕ちている。


「本心を言え!」

「はいっす!」


 最後の確認として、絶対服従の呪いで聞く。リリエラは、この命令に逆らえない。これから、彼女の本心を聞く事になる。


「まだ嫌か?」

「抱いてほしいっす。って、何を言わせるっすか!」

「ははっ。もう、俺たちは怖くないか?」

「大丈夫っす」

「人間の社会で生きるか?」

「い、嫌っす」

「俺のそばに居るか?」

「居たいっす! でも……」

「でも?」

「その先は聞かないでほしいっす。恥ずかしいっす!」

「そ、そうか」


 これがリリエラの本心である。ゆっくりとした調教だったが、どうやら受け入れたようだ。最後に聞こうと思った事は止められたが、自分も恥ずかしいので聞くのを止めた。


「ゲームは続けてもらうぞ」

「い、いいっすよ。でも……」

「命の危険はない。安心しろ」

「それもあるっすけど、ご褒美に抱いてほしいっす!」

「ご褒美の時だけか?」

「意地悪っす」

「ははっ」


 これで全員が納得するだろう。ソフィアの希望は、玩具からの解放だった。しかし、リリエラの希望は、フォルトのそばに居る事に変わった。

 そして、抱いたら身内にするという信条は曲がっていない。彼女は望んで抱かれる事になった。そして、それを受け入れた。


(問題が一つだけあるけどな。カーミラが堕落の種を渡さない。弱い悪魔は要らないって言ってたしな。まあ、後で相談するか)


 そんな事を考えていると、リリエラが背中に抱きついてきた。玩具で拾った事を別にすれば、好みではあるのだ。それに気をよくしたところで、そのままベッドへ横になるのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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