第221話 利用する者、される者5

 フォルトは宣言通りに、一週間をダラけにダラけた生活をした。その後、エルフの里へ向かうため、連れていくメンバーの発表をする。


「今回は、シェラを連れていく」

「エルフの里なら、人間は居ませんわね」

「そういう事だ。気分転換にもなるだろ?」

「あら。気を使わなくても……」

「ふふ。存分に甘えてきなさい」

「もう、マリ様!」


 屋敷であれば、シェラとの時間は取れている。しかし、外に連れ出すのは初めてだ。デート気分なので、なかなか新鮮である。


「後は、ティオとレイナスだな」

「きさま。私を選ぶとは、分かっているな!」

「今回は一緒ですわね」

「フォルトさん! あたしは?」

「アーシャは居残り勉強。ニャンシー、よろしくな」

「うむ。わらわに任せておくのじゃ。みっちりとシゴこうぞ」

「うぇ。手加減してぇ」


 アーシャは風属性の防御魔法を勉強中だ。しかし、勉強は苦手なので、なかなか覚えない。学校の先生になった気分で、補習授業をやらせる。


「私はどうしましょう?」

「ソフィアは、大罪の悪魔と一緒にパワーレベリング」

「分かりました。もう少しで、三十ですからね」


 ソフィアは現在、レベルが二十八である。後二つなら、戻ってくるまでに上がるだろう。シェラは現在二十九。ソフィアを追い抜いたが、これはシェラが新しいスキルを覚えたからである。

 『俊才しゅんさい』というスキルで、レイナスの持つ『素質そしつ』の下位スキルだそうだ。若干であるが、レベルの上がり方が大きくなる。


「アーシャとソフィアは、リリエラの面倒をよろしく」

「リリエラちゃん?」

「俺が戻るまでには、帰ってくると思うぞ」

「分かりました」


 エルフの里までは遠い。フェリアスの北の方だ。アルバハードから入国すると、街道を東へ向かい、ドワーフの集落へ行く途中で、北へ向かう事になる。

 往復で一週間以上かかるだろう。リリエラのクエストは一カ月が限度だ。すでに開始しているので、先に戻るはずであった。


「また、スケルトン神輿みこしですか?」

「そうだな。ブロキュスの迷宮へ寄るから、草は刈らなくてよさそうだ」


 ついでにブロキュスの迷宮へ寄って、セレスと合流する予定だ。里の案内を頼んであるので、居ないと困ってしまう。


(エルフだらけの里だ。テンションが上がってしまうな。そう言えば、女王に何かあるんだっけ? バグバットへの借りも返さないとな)


 バグバットには借りを作りまくりだ。さっさと返さないと、良好な関係にヒビが入る。彼はフォルトの理解者である。今後も、よき関係を続けたいのだ。


「マリとルリは、屋敷の守りね」

「任せておきなさい。誰も来ないでしょうけど」

「マリ。それ、フラグ」

「なにそれ?」

「いや、なんでもない。敵じゃなきゃ殺すなよ?」

「分かってるわあ。消し炭にして、来なかった事にしとくわねえ」

「まあ、任せる」


 危なっかしい事を言っているが、フォルトの顔はつぶさない事を知っている。姉妹に任せておけば、大丈夫だろう。何かあっても、今度はニャンシーを残していく。すぐに連絡は取れるのだ。


「では、出発は一週間後だ!」

「きさま。すでに一週間、休んだだろ!」

「そ、そうだったな。じゃあ、行くか」

「はい」


 ベルナティオのツッコミが激しかった。実際、一週間は屋敷へ残る身内と時間を取っていた。その分、エルフの里へ向かう身内との時間は少ない。ベルナティオは、意外と寂しがり屋なのだ。


「『大罪顕現たいざいけんげん傲慢ごうまん』!」


 そして、傲慢ごうまんの悪魔であるルシフェルを呼び出す。パワーレベリングのお供に必須だ。集団戦特化なので、ジャンジャン倒してもらいたい。


「じゃあ、ソフィアをよろしく」

「ははははっ! 三日でレベルを百にしてやろう」

「………………」


(だから、無理だって。限界突破をしなきゃ、駄目なんだから)


「三日で上がらなかったら、ニャンシーを寄越よこしてくれ。サタンを出す」

「なにっ! ソフィアとやら、三日で上げてやる」

「あ、ありがとうございます」

「サ、サタンなんぞに任せられるか! 選択を間違えてはならんぞ?」

「はい、はい」


 ライバル意識でも持っているのか、ルシファーがオタオタしている。見ていて面白いが、とりあえずは出発だ。

 フォルトは屋敷から出て、さっそくスケルトンを召喚する。そして、フォルトたちの乗った神輿みこしかつがせ、ブロキュスの迷宮を目指すのだった。



◇◇◇◇◇



「もうすぐ、ハンね!」


 幽鬼の森を出発したシュンたちは、アルバハードで執事を降ろし、魔獣たちをピストン輸送中だ。馬車の件をバルボ子爵へ頼み、四頭引きを用意してもらった。現在は、キラーエイプを一体運んでいる最中だ。


「おう、ゴリラ。こっちを見ろ!」

「ウガッ、ウガッ!」

「おもしれえな、こいつ」

「ギッシュ、遊ぶな」

「いいじゃねえか。動物園より迫力があんぜ」

「大きいしね。中型って言ってたわよね?」


 アルディスの言う通り、シュンたちが戦った事のない中型の魔獣だ。全長は、ギッシュをゆうにこえている。三メートルはあるだろうか。

 推奨討伐レベルは三十五。力は強いが、それだけだ。闘技場で使う魔獣なので、人間が勝てないと意味はない。


「そう言えば、デルヴィ侯爵に呼ばれてるんだっけ?」

「様だ、様。敬称を付けろ」

「なんで?」

「俺らのオーナーだ。こう言えば分かるか?」

「なるほど」


 現状はデルヴィ侯爵の下に配属をされているが、異世界人は貴族に慣れていない。遠い存在でもあるので、ピンときていないのだ。日本に居る社長や会長を重ね合わせる事で、イメージを近くさせた。


(「神聖騎士」になってからは、どちらかと言うと直属の部下に変わった。聖神イシュリルが、あの二人に仕えろと言ったからな。神の命に従うのさ)


「シュンから、面会を申し込んだんでしょ?」

「そうだな。おっさんの事を黙ってたからよ」

「問い詰めに行くんだ?」

「いろいろと聞いておきてえ。どう対処していいかも、分からねえしな」

「侯爵様には、侯爵様の考えがあるだろうしね」

「ノックスの言う通りだ。敵として見ているなら……」

「力を付けて、倒すって事?」

「そうなるだろうなあ」


 シュンは、フォルトに殺意を抱いている。聖神イシュリルの声もあり、それは抑えていた。しかし、本当のところは、デルヴィ侯爵の方針が分からなかったからだ。方針を知らずに殺害をしようとすれば、不興を買う事になるだろう。

 それと、何も聞かされていない事には、訳がありそうだった。仕えると決めた以上、方針は共有しておく必要がある。


「でも、日本人同士で戦うのって……。どうなの?」

「どうって言われてもな。もう、この世界の住人だ」

「なんだあ? おっさんは味方じゃねえのか」

「分からん。手懐てなずけている魔族は、アルディスを襲ったぞ」

「だが、おっさんが治しただろ」

「治療するのは当たり前だ。俺らを攻撃した事を、容認してるのがだな」

「分かった、分かった。難しい事はホストに任せんよ」


 小難しい話になると、途端に投げ出すギッシュだ。しかし、フォルトへ好意的なのが分かる。これには危惧してしまう。


「あの魔族を殺すのを諦めたのか?」

「そんなわけねえだろ!」

「ははっ。なら、敵の仲間と思っておいた方がいいぞ」

「そうなるのか?」

「そうだ。おっさんは、魔族を擁護ようごしていたからな」

「まあいい。その時になって考えるぜ」

「そうか」


 ギッシュを誘導するのは容易い。彼の強くなるという衝動へ、点火をしてやればいい。どうせしばらく会う事はないので、好意も下火になるだろう。


「ねえねえ。戦神の指輪って、どこにあるのかな?」

「あれ? アルディスに話したっけ」

「ううん。おじさんに聞いた」

「ちっ。ペラペラと」

「墓地へ案内してくれた依頼料でしょ? 探さないと駄目よね」

「そんなの、踏み倒せよ」

「さすがに、手伝ってもらったしさ」

「そ、そうですよ。情報だけでもいいそうですし」

「ああ、そうだぜ。そりゃ、義理を欠くってもんだ」

「ちっ」


(おっさんめ。二人にも言いやがって。探すつもりなんて、ねえっつうの。そんな暇もねえ。俺らも、強くなんなきゃいけねえんだ)


 シュンは、ノックスとラキシスを見る。ラキシスはシュンの言う事を聞くのでいいが、ノックスは中立だ。従者なので、ややシュン寄りか。


「ノックスは、どう思う?」

「シュンが取引したのなら、シュンが決めればいいんじゃない」

「そっか。んで、三人は反対と」

「シュンは「神聖騎士」でしょ? 約束ぐらい守らなきゃ」

「そ、そうですよ。また手助けが必要かもしれませんし」

「ホストよお。俺はこんなだけど、義理は返すぜ?」


 どうやら三人は転ばないようだ。ギッシュは硬派だから分かるが、恋人の二人が反対をしている。これには少々、イラっとした。


「んじゃ、三人で探せよ。俺は忙しいからよ」

「いいぜえ。まあ、時間があったらな」

「時間は作るものですぅ」

「お、お休みの日にでも……」


 ギクシャクしてしまったが、三人でも探すそうだ。なら、任せておけばいいだろう。エレーヌの言う通り、今後も利用する事があるかもしれない。

 そんな事を話していると、商業都市ハンへ到着する。魔獣をバルボ子爵へ預ければ、紋様師もんようしに奴隷紋を刻んでもらえる。その後は一般兵でも運べるのだ。


「じゃあ、バルボ子爵へ渡しといてくれ」

「いいぜえ。一人で行くのか?」

「そうだ。デルヴィ侯爵様のところへ行ってくる」

「じゃあ、渡したら屋敷へ戻っとくね」

「あ、待って。冒険者ギルドにも寄って」

「冒険者ギルド?」

「ランクが上がるって通知が来てたでしょ? 手続きがあるんだ」

「なるほど。それは、ノックスに任せる」


 ハンへ来てからは、冒険者ギルドの依頼もやっていた。ようやく上がるようだ。コツコツやっていたのが功を奏して、EランクからDランクになる。

 Dランクからは、魔物の討伐依頼が受けられる。今後はレベルを上げたい時に依頼も受けられるので、一石二鳥になるのだ。収入源は多い方がいい。


「んじゃ、屋敷でな」


 シュンは、デルヴィ侯爵の屋敷前で降りる。相変わらず広い敷地だ。門衛も居るので、面会の旨を伝える。そして、遠ざかる馬車を見ながら、門衛の返事を待つのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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