第218話 利用する者、される者2
アルディスの限界突破であるため、シュンたちが率先して戦っている。それはいいのだが、やはり数回ほど戦っただけで、交代するハメになった。
「ふぅ。おっさん。悪いけど、交代してくれ」
「はぁ……」
やはり、
「では、休みながらついてこい」
「はあ? 座って休もうぜ」
「え?」
「疲れちまったよ」
シュンはフォルトの言葉を聞かず、その場に座り込んでしまった。他の仲間たちもだ。片手を額に当てて、天を仰ぎたくなる。
(こんなところに止まってたら、追加のゾンビが来ちゃうだろ! 迎撃しながら進まないと、いつまでたっても
一気に行くのは愚策であるが、まったく進まない方がまずい。幽鬼の森のアンデッドは減らないのだ。
浄化をしていないので、倒したゾンビなどは放置である。そうすると、アンデッドはアンデッドを生む。実際に生むわけではないが、放置しておくと新たなアンデッドが出現するのだ。結局、補充されてしまう感じである。
「この霧のせいか」
「そうですよお。
「ほう。さすがは、カーミラだ」
「えへへ。アンデッドの集中する場所には、よく発生していますねえ」
そこまで濃くはないが、薄い霧が立ち込めている。これは、幽鬼の森全域で発生しているようだ。カーミラの言う事が正しければ、原因はアンデッドだろう。
シュンたちを見ると、腰を下ろして打ち合わせをしていた。実に重そうな腰だ。フォルトは自分の腰の重さを知っている。
「やれやれ。レイナス」
「はい。フォルト様」
「分かっていると思うが……」
「もちろんですわ。ゾンビなどに使う必要もないですわね」
「よしよし。なら、周囲の警戒をよろしく」
「はい! ちゅ」
「でへ」
シュンたちが居ようが、レイナスには関係がない。いつものように、喜ばせてくれる。フォルトの言った事も理解しているので、頭を
「ちっ。なんで、おっさんなんかに」
「なんか言ったか?」
「いや」
シュンが小声だったので、よく聞き取れなかった。その彼を見ると、
「フォルトさん! あたしたちは、どうするの?」
「シュンたちが疲れているようだからな。
「そうなの? シュン、バテちゃった?」
「あ、ああ。張り切り過ぎたようだぜ」
「ふーん。でも、休んでないで行こうよ」
「もうちょっと、休ませろ!」
「怒鳴る事はないと思うんだけどぉ。フォルトさん、行こ行こ」
アーシャはフォルトとイチャイチャしながら、シュンたちから離れていく。見せびらかすと言っていたので、その通りにしているのだろう。
狙い通りにシュンが
「ははっ。気分がいいな」
「でしょ? でも、そろそろ行かないとさあ」
「この反応は、ゾンビか」
「あたしの魔力探知は狭いからねえ」
「そうだな。なら、ここで迎撃するか」
「踊ろっか?」
「いや。アーシャは温存だ。ティオとレイナスに任せる」
「へへ。シュンとノックスに、パンツを見られちゃうしね!」
「そ、そうだな! それを見ていいのは、俺だけだ」
「あはっ! 能力を隠す事は分かってますよーだ!」
「ははっ」
アーシャの冗談に笑ってしまうが、彼女も理解をしているようだ。極力、能力は見せない方がいいのだ。
知られると、対策をされてしまう。必要になれば使ってもいいが、それまでは隠す事に専念させる。
(後はシュンたちに多く戦わせて、もっと情報を引き出さないとな。隠すつもりがないのか、演技なのか。その見極めもしないとな。いやあ、楽しい)
「ティオ、レイナス。任せた!」
「うむ」
「はい!」
フォルトはニヤけてしまう。集まっている情報だけでも、おっさん親衛隊の勝利だ。戦う事があろうがなかろうが、差があるというのは嬉しいものだ。そんな事を考えながら、ベルナティオとレイナスに迎撃を任せるのであった。
◇◇◇◇◇
「やっぱ、あの女。強えな」
シュンはギッシュの
(なんだ、あいつは。屋敷で見た時もそうだが、プロシネンを思い出させやがる。あれは、スキルとか使ってねえよな? おっさんの周りはどうなってやがる!)
シュンは、首から下げた銀製のメダルを握る。フォルトの近くには、シュンでは太刀打ちできない相手が多すぎる。
(シュン)
「っ!」
「どうしたの? シュン」
「い、いや。たしかに、強えなと思ってな」
「へへ。ボクも、もうすぐ強くなるよ!」
「そ、そうだな」
聖神イシュリルの声が聞こえた。それを
(今は感情を殺せか。お見通しだな。でも、こっちの声には答えてくれねえ。聞きたい事は、山ほどあるんだがな。神と話すなんて、おこがましいか?)
祈りは毎日のように
「体力の回復に努めとけ」
「分かってんよ。だが、あっちも同じか」
「しっ! 言うな。聞こえちまうだろ」
「別にいいと思うんだがよお」
「それは、小屋で言っただろ?」
「そうだけどよ。なんか、
「気持ちは分かるが、今は俺の言う事を聞いてくれ」
「へいへい」
そう。シュンたちも実力を隠している。ベルナティオのように、まったく隠す事はやれないが、誤情報は与えられているはずだ。
「そう言えば……。エレーヌは、おっさんに興味があるのか?」
「お、おじさんじゃなくて、魔法に関してです」
「魔法か……。おっさんは、魔法使いなのか?」
「あの歳で、こんな森に住んでるしね。魔法でも使えないと無理だよ」
「ノックスも、そう思うか」
「うん。どう見ても、戦士には見えないね」
「まあ、そうだな。魔法使いか……」
「どうやって覚えたかは謎だけどね」
「そうだな。城から放り出して、魔の森で再会するまでか」
シュンは、改めて過去を考えていた。城から放り出した時に、野垂れ死んでいるかと思っていた。それが、魔の森で再会した時から今に至るまでの間に、魔族の貴族になっていた。
「魔法を覚えただけで、あんな風になるのか?」
「どうだろうね。魔法は奥深いけど、あそこまでとは……」
「魔物を使役してるから、召喚魔法は持ってるよな?」
「そうだね。でも、召喚魔法については、よく分からないかな」
「そっか。まあ、いい。警戒は緩めるなよ?」
「うん」
フォルトが強いと認識した行動だ。実際の戦いは目にしていないが、考えを改めた事で、危険と判断している。彼自身が脅威でなくても、その周りは脅威だ。魔族の姉妹もそうだが、新しくベルナティオが居る。
(ちっ。あいつも奇麗だな。まさか、寝てねえよな? いや、寝てるか。アーシャだってヤってんだろうし……。ソフィアさんは、ヤってねえよな?)
シュンはソフィアを見た。現在は戦っておらず、フォルトの近くにいる。距離感で見ると、カーミラやアーシャよりは遠い。一線を引いているように見えた。
「平気か。グリム様の孫娘だしな」
「ソフィアさんがどうかしたの?」
「いや。なんでもねえ」
「そう?」
「ところでさ。アルディスは、おっさんの魔法を見てねえんだよな?」
「何度も言ったでしょ? 寝てたのよ」
「魔法で眠らされたか?」
「分かんない。でも、疲れてたからね」
「そっか。痛みしか取れなくて、すまねえな」
「治ったからいいって! シュンだって、魔法を覚えたばかりでしょ」
「まあな。それで、おっさんの感想は?」
「破廉恥」
「い、いや。そうではなく」
破廉恥なのは分かっている。先程もレイナスとキスをして、アーシャとイチャイチャしていた。やる事はやっているのだろう。日本に居た時なら、絶対に通報している。
「強さは分からないけど、偉そうよね」
「たしかにな。魔族の貴族を名乗ってたし」
「ローゼンクロイツ家だっけ? あの〈狂乱の女王〉の家よね」
「執事さんは、そう言ってたな。今度、バルボ子爵を問い詰めてやるぜ」
「で、でも。シュンより大き……」
「どうした?」
「なななな、なんでもないわ! そろそろ、出発してもいいよ」
「ん?」
(とりあえず、疲れたフリをして、やつらに多く戦わせる。使えるもんは使わないとな。でも、おっさんは全然戦わないな。くそっ! 羨ましい限りだ)
フォルトたちの密着度を見ると、ムラムラとしてしまう。戦いが連続しているので、精神が体の
戦場で戦う兵士たちが、敵国の女性を
「終わったぞ」
「フォルト様、終わりましたわ」
元カノのアーシャや、落としたいソフィアに欲情していると、ベルナティオとレイナスが戻ってきた。二人はまったく疲れておらず、その力量が
「おっさん! そろそろ出発できるぜ」
「そうか? なら、次は任せるぞ」
「いいぜ。まあ、そろそろ到着だろうけど」
「屋敷から半日程度だったな。なら、到着か」
「本当なら、アルディスの準備を整えてえんだがよ」
「それは、目標を確認してからだな」
「分かった。みんな、行くぞ」
その後は戦闘もなく、目的地へ到着した。ゾンビの出現頻度にしては不自然たが、目的はアルディスの限界突破だ。戦わないなら、それでいい。
「あれが墓地か……」
枯れた木の隙間から奥を見る。すると、半透明の幽霊がフワフワと浮いていた。その周りには、ゾンビやスケルトンなども居る。墓石はないが、朽ちた鎧が捨てられてある。それが墓地たる
「ちょっと退いて、アルディスの準備を整えるぜ」
「なら、こちらで周りの警戒をしよう」
「助かるぜ」
一行は、アンデッドに気取られない位置までさがった。そして、それぞれに分かれて準備に入る。作戦も決める必要もあった。
「周りの雑魚が問題だな」
「実際に戦わないと、強さも分からないしね。邪魔がない方がいいわ」
「なら、おびき寄せる感じか」
「姿を見せれば襲い掛かってくるし、それを引っ張っていけば?」
「それでいいんじゃね? んで、残った空手家がタイマンを張ると」
「タ、タイマンね……」
「それでしたら、私の浄化魔法で」
「ラキシスの浄化魔法は、どんなもんだ?」
「数は減らせると思います。魔力が少ないので、全ては無理ですが」
「ふむふむ。なら、先制攻撃をラキシスに頼むか」
「そ、そうですね。減った数を相手にした方がいいですよ」
こんな感じに作戦を練っていく。チラリとフォルトを見ると、先程と変わっていない。ベルナティオとレイナスを散開さえて、辺りの警戒をしていた。
「じゃあ、作戦を伝えてくるぜ。アルディスも準備はいいな?」
「うん!」
作戦が決まったところで、シュンは立ち上がる。そして、フォルトが居る場所へ歩いていった。作戦を伝えて、それをサポートさせるためだ。
聖神イシュリルの言葉通り、殺意は抑えて、使いパシリで使うことにする。今後も利用する必要もある。そのためにホストスマイルを作り、彼らのところへ近づいていくのだった。
Copyright(C)2021-特攻君
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