第211話 再会の勇者候補チーム5
シュンたち勇者候補一行は、フォルトから与えられた小屋で作戦会議中だった。魔獣を運ぶのは置いておいて、まずはアルディスの限界突破を終わらせるのだ。
「ファントムは、どこに居るんだ?」
フォルトたちとの話も終わり、バグバットの執事も戻ってきていた。場所を知っているのは、この執事だけだ。
「フォルト様の屋敷の裏手から、北へ向かったところですな」
「北か」
「半日ほど進んだ先に、小さな墓地がありましてな」
「墓地? 誰の墓だ?」
「勇魔戦争で北の平原から逃げてきた、人間の兵士たちですな」
「死体は、国へ返してねえのか」
「身元が不明ですな。ゾンビに食べられておりましたので」
「うぇ」
「墓と申しても、便宜上の事でございます」
エウィ王国は徴兵制も取り入れているため、全体的な練度と士気は低かった。魔族から敵前逃亡をする兵士は多かったのだ。
それらが幽鬼の森へ入り、アンデッドの餌になったという話である。それがファントムとなり、地縛霊になっているらしい。
「ゾンビなんて、一般兵でも勝てるんじゃ?」
「数が違いますからな。いくら強くても、疲弊すれば負けまする」
「だよなあ。アンデッドは疲労しねえし、俺らが不利だな」
「集まってくる前に、駆け抜ければいいかな?」
「それは、お勧めしませんな。墓へ到着と同時に、挟み撃ちですよ」
「おじさんが一緒に来てくれればなあ」
「受けた命令は、ここまでの案内と、フォルト様とのつなぎでございます」
「その割には、さっき……」
執事はソフィアを借りて、ハーモニーバードを使い、アルバハードと連絡を取った。魔獣を運ぶためだが、これはフォルトの屋敷へ来てからの行動だ。命令以外をやれないのなら、これはおかしな事であった。
「フォルト様の力になるようにと、仰せつかっておりますれば」
「なるほど。おっさんは、吸血鬼とも仲がいいのか……」
「主人は気に入ってる御様子ですな」
「へえ」
やはり、執事の力は借りられない。吸血鬼の上下関係は絶対だ。全ての吸血鬼は、真祖バグバットの眷属と言っても過言ではない。執事を借りたいのなら、バグバットと交渉する必要があるが、面識も時間もない。
(おっさんは、いったい……。営業スマイルで話したが、妙に自信を持ってやがる。それに、あの魔族が洗脳されるはずがねえな。なら、やっぱ強えのか?)
シュンは、ホストで
その人物眼から出た答えは、引き籠りのおっさんではない。同じようにルリシオンを見たが、洗脳をされているようには見えなかった。見下していたが、それは自然な行動であり、目の焦点が合っていないわけでもなかった。
「んじゃ、どうすんの?」
「あ……。そうだな。どうすっか」
「ラ、ラキシスさんの浄化魔法では?」
「私はレベルが低いですので、数がこなせません」
「どの程度、やれるんだ?」
「数体ほど浄化すれば、魔力切れを起こします」
「あんまり、意味がねえな」
「す、すみません」
「責めてるわけじゃねえ。作戦に入れられないだけだ」
「は、はい」
フォルトの事を考えていたので、少々口調が荒くなってしまった。場の空気が悪くなりそうだ。そこで、いったん話をやめる事にした。
「ちょっと、各自で考えてみようか」
「そうだね。ある程度の指針がないと、決められないよ」
「ノックスの言う通りだ。んじゃ、外の空気でも吸ってくるかな」
「なんだあ? 正面から斬り倒せばいいだけだろ」
「それを、休まずにやれればな。とにかく、休憩だ」
シュンは、ギッシュに呆れながら小屋を出た。中にいるよりは、外に出た方がよい考えが浮かぶかもしれない。そして、小屋から出たシュンは、幽霊屋敷を見ながら考え込むのであった。
◇◇◇◇◇
「まだ行かないみたいですねえ」
フォルトは聖なる泉の
「なんでも、アンデッドが多くて向かえないらしいですわ」
「むっ。触る前に……」
「あ、あら。今からでも……」
「もちろんだ」
「あっ!」
反射的にレイナスが答えたが、今は精神を高めている最中のはずだ。そのやり取りを聞いているベルナティオの眉が、ピクピクと動く。
「レイナス」
「すみません、師匠!」
「ふん。まあ、いい。今は、あいつが来たからな」
ベルナティオが座禅を崩して、後ろを向いた。その目は厳しく、フォルトの後ろを見ている。
それに釣られて後ろを見ると、小屋からツッパリが歩いてくるのだった。これには驚いてしまった。
「げっ! ツッパリ」
「わ、私が……」
「レイナス、もう遅い」
「す、すみません!」
「よお、おっさん。久しぶりだな」
そのツッパリは、自慢のトサカリーゼントを整えながら、近くまできた。前に見た時より、ガタイが大きくなっている。
「たしか、ギッシュだったな」
「おうよ。覚えてたか」
「肉は差し入れてるはずだが?」
「助かるぜえ。あの肉はうめえ。土産にも頼むわ」
「あ、ああ」
(こいつ……。何しに来やがった! 自分の庭だからって、気を抜いてしまったな。魔力探知なんぞしてなかったよ)
カーミラは気づいていたはずだ。しかし、彼女を見ると、クスクスと笑っている。ちょっとしたイタズラだろう。この程度なら、かわいいものである。
「それで? 何の用だ」
「それより、そっちの姉ちゃんを紹介してくれよ」
「姉ちゃん?」
「私の事か?」
「おう。オメエ、強そうだな」
「ふん。礼儀を知らんやつだ」
ベルナティオが立ち上がり、ギッシュの前に立つ。殺気立っているのは、触られるのを邪魔されたからか。目が笑っていない笑みを浮かべていた。
「すまねえな。喧嘩をやりに来たわけじゃねえ」
「ほう」
「ギッシュだ」
「ベルナティオだ」
「まあ、座って話そうぜ」
誰の答えを待つまでもなく、ギッシュは地面へ腰を下ろした。それに続いて、ベルナティオも座る。
「師匠」
「師匠だあ? やっぱ、オメエより強えみたいだな」
「口の利き方は、相変わらずですわね」
「ああ、すまねえ。喧嘩じゃねえんだ」
喧嘩腰になるのは、ギッシュの癖みたいなものだろう。それについては理解している。学生の頃に、同種の人間を見ていたのだから。
「で、何の用だ」
「手を貸してくれ」
「はい?」
「なんかよお。アンデッドが多くて、森の奥へ行けねえらしいんだわ」
「ほう。行った事がないから分からんが」
「この前みたいによ。案内がてら、連れてってくれ」
「………………」
(こういう、歯に衣着せぬ物言いは嫌いじゃないが……。でも、ツッパリが頼み事をする時は、決まって面倒事だった気がする)
「おまえたちで行けるだろ?」
「行けねえから、こうやって頼んでんじゃねえか」
「それは、シュンに言われたからか?」
「ああん? ああ、すまねえ。おっさんは、ホストと因縁があんだろ?」
「は?」
「捨てたって聞いたからよお。ホストが頼むと受けねえと思ってな」
「な、なるほど?」
誰が頼んでも受けるつもりはないが、どうやらチームのためを思って言っているらしい。シュンから、フォルトを捨てた事を聞いていたのだろう。
ギッシュの事は、双竜山の森での行動や言動から、硬派なイメージがついている。性格的には嫌いではない。
「だが、断る!」
「なんでだよ!」
「見ての通り、俺は駄目人間だ。他を当たってくれ」
「他って……。じゃあ、この女のどっちかを貸せよ」
「きさま、礼儀がなっていないと」
「ああん? 生まれつきだからよ。勘弁しろや!」
「………………」
謝るのも喧嘩腰である。まさに昭和のツッパリだ。さらには生まれつきではない。喧嘩腰な赤ん坊など居ないのだ。そんなツッコミは置いておいても、ベルナティオもレイナスも貸したくはない。
「うーん」
フォルトは考え込んでしまった。断ってもいいだろうが、断ると面倒な事になりそうな気がした。ツッパリの頼みを断るのは、とても難しい。
断ったら最後、暴力に訴えてくるだろう。しかし、平穏無事にやり過ごしたいので、カーミラを見てみる。すると、いつものようにニコニコしていた。
「カーミラ?」
「えへへ。貸しにしとけば、いいんじゃないですかあ」
「おう、それだ! 貸しにしとけや!」
「貸しって……。返ってくるの?」
「いずれな。それとも、俺の頼みは聞けねえってのか?」
(出た。この言葉が出たら最後だろう。カーミラもよく分かってるな。やり過ごすには頼みを聞くしかないが、その前に貸しを作らせたって事か)
ギッシュのようなツッパリは、義理に厚い。貸しを作っておけば、フォルトが困った時に味方となるだろう。それに、ずっと居座られても困る。
「ははっ。いいだろう。他ならぬ、ギッシュ君の頼みだ」
「君はよせよ。俺らの仲だろ?」
「………………」
そんな仲になったつもりはない。ないが、お約束のシーンを思い出してしまった。そんな漫画ばかりだっと思い、ニヤけてしまう。
「シュンには、なんと言う?」
「あん? 俺が口説いたって」
「それだと、シュンの顔をつぶさないか?」
「あ、ああ。そうだな。それは
「なら、ギッシュからシュンへ言えばいいな」
「なんて言えばいいんだ?」
「シュンから俺に頼めとな。適当に渋った後で受けてやる」
「おっさん、頭がいいな! それにしよう」
なんともチョロいが、ギッシュは上機嫌だ。それを見たベルナティオとレイナスは、再び座禅を開始する。方針が決まった事で、安心したのだろう。
「ぎゃああああ!」
その時、シュンたちが居る小屋の方から悲鳴が聞こえた。ここに居る全ての者は、その悲鳴の聞こえた方向を見る。
小屋まで少々遠いが、誰が居るのかは確認できた。フォルトの視線の先には、よく見知っている人物が立っているのだった。
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Copyright(C)2021-特攻君
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