第208話 再会の勇者候補チーム2
シュンたち勇者候補チームは、アルバハードへ戻ってきた。前回来訪した時、この町で道場を開いている格闘家に、アルディスを預けた。
道場の場所は、彼女を預けた時に来ているので知っている。バグバットの執事と会う前に、まずはアルディスと合流するのであった。
「さて、どうなっているかな?」
道場にある
「さて……」
「やあ!」
シュンは耳を澄ます。すると、道場の中から声が聞こえる。久しぶりに恋人の声を聞き、笑みをこぼしてしまう。そして、道場の中へ入っていくのだった。
「よお、アルディス。調子はどうだ?」
「シュン! 随分と遅かったね」
「そうか? まあ、俺らもいろいろとあったからな」
「へえ」
「それよりも……。その顔は、修得したか?」
「うん!」
アルディスは満面の笑みで答える。清々しいアスリートの顔だ。シュンは一瞬ムラッとくるが、彼女を抱くのは後である。
「マードックさん。アルディスを鍛えてもらって、礼を言う」
そして、近くに居るマードックへ礼をする。最初に会った時は、アルディスを預ける事に不安があったが、どうやら
「だははははっ! ちょいと、むちゃをしたがな。希望通り育てたぞ」
「それは助かる」
「だが、修行は終わらん。修得したと言っても、威力が弱い」
「だろうな」
「ファントムぐらいなら余裕だろう」
「知ってるのか?」
「倒した事はある。攻撃さえ当たれば、たいしたアンデッドではない」
「そっか。よかったな、アルディス」
「へへ。これで、ボクも限界突破さ」
「馬鹿もん!」
「あいた!」
アルディスが、マードックにどつかれた。気を抜くなと伝えたいのだろう。倒すまでは、何が起こるか分からない。いや、倒した後も分からない。それが、この世界の戦闘だ。
「分かってるわよ」
「ならばいい。ではな、アルディス」
「マードックさん……」
「師匠と呼べ!」
「師匠! お世話になりました!」
「うむ」
「はははっ」
気を教わるだけだったはずだが、その過程でマードック流の型を習った。すでに師弟関係だ。シュンは、どこかの熱血空手漫画を思い出して、笑ってしまった。
「何、笑ってるのよ」
「実業団でも、そんな感じだったのか?」
「そんなわけないでしょ。今のだって、パワハラで訴えられるわ」
「だろうな。この世界に居ると、日本が馬鹿らしくなるぜ」
「そうね。じゃあ、行こうか」
「マードックさん。依頼料だ」
「だははははっ! 悪いな。これで道場から出ていかなくてよくなる」
「強いのに、何してんだか」
「だははははっ! また鍛えたくなったら、戻ってこい!」
マードックに依頼料を渡したシュンとアルディスは、
「あれ? ラキシスさんが居る」
「ど、どうも」
「新しくメンバーに加えた。信仰系魔法で回復もやれるぞ」
「ふーん。シュン、まさか」
「勘違いすんな。信仰系魔法の件で、相談に行ったんだよ」
「それで?」
アルディスが疑いの目で見てくるが、シュンが今までの事を説明する。もちろん、ラキシスを欲望のはけ口にしてる事は言わない。
その説明を聞いた彼女は驚いている。シュンの称号が変わった事もそうだが、神聖騎士団へ入った事だ。
「ちょっと! ボクたちはどうなるのさ!」
「今まで通りでいいってさ。建前は部下だが」
「そ、そう? それならいいんだけど」
「これで、チームとしては万全だな」
「治癒専門の神官さんが居るなら、今までよりは戦い易くなるね」
「そうそう。エレーヌも支援に回れるしな」
こんな感じで
「それで、ギッシュが
「うるせえぞ、空手家女!」
「そんな部下だのなんだのって、考えてる場合じゃないよ」
「なんだと!」
「ボクも限界突破をすれば、すぐにレベルが追いつくわよ?」
「けっ! また、引き離してやんぜ」
「そうそう。ギッシュは、強さだけを考えてりゃいいのよ」
「ちっ。分かったから、さっさと出発しようぜ」
(ナイスフォローだぜ。あれからもギッシュは、不満ばっか言ってたからな。これで、多少はマシになるか。褒美に、何回もイカせてやるぜ)
強さに関して貪欲なギッシュは、アルディスの言葉で調子が戻った。彼はシュンを追い抜く事とアルディスを引き離す事で、頭がいっぱいになるだろう。
「じゃあ、出発だ。執事さんに会いに行くぜ」
そして、勇者候補一行の馬車が出発する。執事を乗せて、幽鬼の森へ向かうのだ。執事を連れていかないと、アンデッドに襲われてしまう。
しかし、執事も忙しい身だ。デルヴィ侯爵の紹介とはいえ、出発は明日の朝になるだろう。アルバハードへ一泊する事になる。それであればと考えながら、シュンはアルディスの体を見るのだった。
◇◇◇◇◇
テラスに居るフォルトは、三人の女性と向き合っている。一人はシェラだ。白衣の下に見えるボディコンワンピを見て、目に焼き付ける。
もう一人はソフィアだ。身内だけならローブを着ていない。その最強のビキニビスチェを見て、目に焼き付ける。
「でへ」
「なぜ、私を見ない」
そして、最後の一人。それは、
たしかに、好みではある。左右の色が違うオッドアイの持ち主で、ボンテージ姿である。左右の翼や髪型や色など、厨二病なら確実に
「だから、そそらないんだって」
「ははははっ! 相変わらず、冗談がうまいな」
「………………」
「それで、何のようかね?」
「はぁ」
ルシフェルは腕を組みながら、フォルトより上に浮く。見下すためだ。それが分かっているので、溜息をついてしまった。
「ふたりを連れて、パワーレベリングだ」
「ほう。きさまにしては、よく考えたものだ」
「レベルは三十まででいいぞ」
「ははははっ! もっと、上げてやっても構わないぞ」
(限界突破の作業をやらないと、三十以上は上がらないんだがな。マウントを取りたくて仕方がないみたいだ。俺って、こういう風に振る舞いたいのかな?)
大罪の悪魔はフォルトの一部。ルシフェルの
「フォルト様。二人だけで大丈夫でしょうか?」
「ふははははっ! 安心しろ。俺のルシフェルがついている!」
「ははははっ! そうだぞ。私がついているのだ!」
「「はぁ……」」
思わずマネをしたが、なんとなく気分がよくなる。それを見たソフィアとシェラが、顔を見合わせて溜息をついた。その気持ちは、痛いほどよく分かる。
「あまり、本気を出すなよ」
「なぜだね?」
「レベル差がありすぎる場合の実験をしていない」
「ほほう。代わりに、やってやってもいいぞ」
「やらなくていい。今日中に帰ってこれなくなるだろ」
「たしかにな。ずっと、あっちに居てはいかんのか?」
「俺が寂しいからな。それと、有翼人に見つかるな」
「誰にものを言っている。透明化の魔法ぐらい使えるぞ」
「なら、安心だ」
「まあ、任せておけ。きさまが、むせび泣くぐらいの働きをしてやろう」
フォルトはルシフェルを使い、おっさん親衛隊のレベルを、最低でも三十にしてしまうつもりだ。限界突破の作業を、その都度、やるのが面倒くさい。それに、レベルは近い方がいいだろう。
ルシフェルは集団戦に特化した大罪の悪魔だ。自動狩りにはもってこいである。この辺は、ゲームでの狩りと同じであった。
「で、では魔人様。ちゅ」
「フォ、フォルト様……。ちゅ」
「でへ」
「私はいいのか?」
「いいから! さっさと行って、さっさと帰ってこい!」
「寂しがり屋め。帰ったら、私の豊満な胸で挟んでやろう」
「はい、はい」
ルシフェルはソフィアとシェラを抱えて、空へ飛び立っていった。体格は人間の女性と変わらないのだが、二人を軽々と抱えていた。
それからフォルトは、テラスの専用椅子へ座った。すでに椅子にはカーミラが座っていて、さっそく密着してくるのだった。
「柔らかい」
「女の子の体ですよお」
「極楽じゃ」
「きさまは馬鹿か? 私も座らせろ」
「今度な。ティオは休憩か?」
同じテーブルにはベルナティオも居た。汗をかいたのか、とてもキラキラして見える。
「ティオは、シュンたちに会うのは初めてだったな」
「たしか、勇者候補だったな。戦ってもいいのか?」
「やめとけ。レイナスに負けた相手だぞ」
「そうだったな」
「フォルト様。オヤツですわ」
ベルナティオと話していると、レイナスがきた。この二人は師弟なので、毎日一緒に居る。性格も合うようなので、成長が楽しみだった。
「お茶も入れますわね」
レイナスが優雅に茶を入れる。後ろの幽霊屋敷が豪華な屋敷なら、貴族の茶会として楽しめたかもしれない。
「パワーレベリングとは、考えましたわね」
「偶然だ、偶然。マリとルリが居たからな」
「エウィ王国ではやっていませんでしたわ」
「どの国も、やっていないだろう」
「そうなんだ」
「そこまでレベル差のある者と、組む事などないだろうしな」
「それに、倒す魔物のレベルが低いですわ」
「なるほどな。でも、あの辺りで戦争をやってたんだろ?」
「儀式魔法を使って、魔物や魔獣を寄せ付けなかったとか……」
「儀式魔法?」
「聖神イシュリル神殿ですわね」
「神の力を借りたって事か」
「そう習いましたわ」
何名かの命を使って、神の奇跡を願う。よくあるシチュエーションであるが、効果は絶大だ。あの広大な平原の一部であっても、魔物や魔獣を寄せ付けないフィールドを作り出したそうだ。
「あまり、神を馬鹿にするのは止めよう」
「ふふ。フォルト様なら、倒せますわよ」
「ないない。そもそも、神へ攻撃が当たらんぞ」
「魔神にならないと駄目でーす!」
カーミラが口を挟んでくる。この話は魔の森で暮らし始めた時に、彼女から聞いた話だ。大昔にあった神話戦争で、魔神は天界の神々と戦った。その時、神々を殺したそうだ。
彼女自身も詳しくないので、憶測も混じってるかもしれない。カーミラすら誕生していなかった時代だ。そう考えると、神々と戦うべきではないだろう。
「カルマ値か」
「ちょっとだけ、悪へ
「そっか。まあ、俺は〈堕ちた魔人〉だからな」
「なんだ、それは?」
「俺の二つ名。カッコいいだろ?」
「〈
「あっはっはっ!」
ベルナティオに切り返されたが、これがたまらなく
「さて、〈
「レイナス、今日の修行は終わりだ!」
「はい! フォルト様に修行をつけてもらいますわ」
「私もな」
「私も行きまーす!」
フォルトが立ち上がるのと同時に、三人も立ち上がる。ベルナティオとレイナスは修行をしていたので、少々汗ばんでいた。
その二人は、足早で風呂へと向っていった。その後ろ姿を追いかけながら、同じく風呂へ向かうのだった。
――――――――――
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