第197話 神への信仰3
「カーミラ、カーミラ」
フォルトは、いつものようにテラスでダラけていた。自分専用の椅子へ座り、腰を前に出し、ダラーンと足を伸ばしている。こんな男性が満員電車に居たら、迷惑行為になるような格好であった。
「えへへ。お茶とオヤツでーす!」
「よしよし。さあ、隣に座れ」
「はあい! ところで、なんですかあ?」
「カーミラ成分の補充」
「さっきまで、やってましたよお」
「足りない。そして別腹」
「うりうり」
「でへ、でへ」
やってる事はシュンと変わらないが、こちらの空間の方が明るい。フォルトは、身内に暴力は振るわない男だ。そして、彼女たちを愛している。
「そう言えば、悪魔ってさあ」
「はい?」
「信仰系魔法って使えないの?」
「使える悪魔も居ますよお」
「居るんだ」
「はい! 使い道があれですけど」
「あれって?」
「拷問が好きな悪魔なんかは、拷問するために傷を治しまーす!」
「な、なるほどな」
「まあ、悪魔次第ですね!」
「それって、悪魔王への信仰とか?」
「信仰はないですよお。持って生まれたと言った方が、正解でーす!」
「へえ」
悪魔は悪魔王が作ったものだ。神々が天使を作っているように。どちらも、創造主の力を与えられている。それは、魔法であったりスキルであったりする。
悪魔王も神の一柱なので、治癒が使える魔法を与えていた。それは、神々の信仰系魔法と似ているが、暗黒系魔法と呼ばれるものだった。
「それって、シェラも使えるもんなの?」
「信者になるって事ですかあ?」
「そうそう。悪魔王も、一応は神なんだろ?」
「悪魔王は、別の力をほしがってますからねえ」
「別の力?」
「天界の神々は、信仰心を力に変えまーす」
「ふんふん」
「悪魔王は、憎悪や憎しみを力に変えまーす」
「ふんふん」
「なので、信者になっても、力を貸してくれませーん!」
「貸さないんだ」
「貸さない事で、憎まれますよね? それが力になるんです」
「な、なるほど……。そういう見方もあるのか」
「えへへ。貸す時もありますけど、すぐに使えなくなりますよお」
悪魔王を信じる者は、悪魔王に泣く。それが力になるのだ。信じるのは勝手だが、何もしない事で生まれる負の感情が力になる。
また、数回だけ手を貸して、イザという時に取り上げる。これも憎しみを生むので、悪魔王の力になる。ある意味、力を集めやすいのだ。
(その発想はなかったな。さすがは悪魔の神。負の感情なんて、誰でも持ってるしな。わざわざ集めなくても、勝手に力が集まるのかあ)
「それなら、天界の神々と戦っても勝てるだろ」
「どうなんでしょうかねえ。神の考える事は分かりませーん!」
「ははっ。俺もだ」
「そういうわけなんで、シェラは使えませんよお」
「しょうがないな。やっぱ、エルフに期待か」
「そうなりますねえ」
バグバットの言った、自然神に期待するしかないようだ。そう考えると、森司祭セレスを思い出してしまう。森司祭なら、自然神に仕えるエルフだろう。
彼女が限界突破の神託を受けられるなら、シェラは堕落の種を食べられる。今すぐに食べる必要はないが、代替え案は多い方がいい。
「いつ、食べさせるかだな」
「シェラは、レベル二十五でしたよねえ」
「そうだな」
「まだ先ですねえ。ゆっくりでいいですよお」
「まあ、魔族もエルフも長寿だしな」
「そうでーす!」
「フォルトぉ。おやつよお」
シェラの事について話していると、マリアンデールとルリシオンが来た。オヤツをテーブルへ置いて、席へ座る。
「何の話をしてたのかしら?」
「シェラについてな」
「堕落の種ね。魔族なんだし、ゆっくりでいいわよ」
「ははっ。同じ結論になったところだ」
難しく考えたところで、結論は同じである。エルフの里へ行かなければ、この先を考えられないだろう。それは、マリアンデールも同じ意見だ。
「ところで、マリとルリのレベルは?」
「前にも言ったけど、乙女の秘密よお」
「デリカシーは相変わらずなのね」
「ははっ。身内の戦力は知っておきたくてな」
「そうねえ。カーミラちゃんより低くて、ティオよりは高いわあ」
「ティオも聞いてなかったな。でも、レベルは五十より上か」
「そうねえ。でも、悪魔になったから、レベル以上の強さはあるわよお」
「レベルは目安みたいなもんだって話だしな」
「そうねえ。レベルを気にしすぎると、痛いしっぺ返しを受けるわよお」
「それで、貴方のレベルは?」
「そ、そ、それは……。マリはデリカシーがないなあ」
「ふふ」
レベルは、あくまでも目安である。身体能力を数値化したものと言っても、厳密な計算の上で算定はされていない。神殿で発行するものなので、神の力が働いているかもしれないが、それでも目安にしかならない。
「レイナスも、シュンに圧勝って話だしな」
「レベルは同じぐらいだったのよね」
「そうだな。同時期ぐらいに限界突破をしたし」
「そこが、目安たる
「スキルや魔法、装備でも変わるしねえ」
「そうだな」
その差は大きい。それとともに、戦闘経験の差が出る。レイナスは聖剣ロゼを持っているのと、ルリシオンなどと模擬戦をしている事が大きい。それに、自動狩りでの戦闘数が違う。
「あ、そうだ。マリとルリに聞きたい事が」
「なあに?」
「どうやって、レベルを上げたの?」
フォルトの疑問は、当然かもしれない。マリアンデールが百歳で、ルリシオンが七十歳だ。年齢からみれば、多くの魔物を倒した事とは思う。
しかし、レベルが上がるほど、上げるには時間がかかる。限界を何度も突破する必要があるのだ。そういう視点から見ると、姉妹は上がりすぎな気がした。なにか、カラクリでもありそうだ。
「そんなの決まってるじゃなあい」
「え?」
「帝国軍を、大量に殺したからねえ」
「ふふ。いい狩り場だったわね」
「あ……。人間を殺しても上がるのか?」
「当たり前よ。ティオは魔族を殺して、上げたんじゃなくて?」
「魔族だけじゃないがな」
「ティオ……」
日課の鍛錬が終わったのか、ベルナティオとレイナスが戻ってきた。テラスは人気だ。気楽に休めて、オヤツも食べられる。
「オヤツの追加を持ってくるわねえ」
「ついでに、夕飯の仕込みもしてしまいますわ」
「ルリちゃん、私も!」
「お姉ちゃんは残ってていいわよお。人数が多いからねえ」
テーブルの定員は三名なので、レイナスとルリシオンが抜ける。二人とも料理が好きなので、これからいろいろと作るのだろう。
空いたルリシオンの席には、ベルナティオが座る。そのベルナティオに、オヤツのキュウリスティックを食べさせた。
「ティオ、あーん」
「ちっ。あーん」
「なぜ、舌打ちする」
「癖だ。気にするな」
(新鮮だなあ。ティオの服のデザインをニャンシーに持たせたから、今頃はリリエラに届いているはず。いろいろと待ち遠しいなあ)
「でへ」
「貴方がニヤけると、ロクな事が起きないわ」
「失敬な。マリも楽しめるぞ」
「そ、そう? じゃあ、楽しみにしておくわ」
「それで、レベルを上げる方法か?」
「そうそう」
ベルナティオは話を聞いていたようだ。たしかに、彼女もレベルが高い。カードに「剣聖」の称号が出たのは、つい最近だ。
「飛躍的に上がったのは、勇魔戦争だったな」
「魔族を殺したのか」
「当たり前だ。向かってくるなら斬るまで」
「マリ」
「なに?」
「怒らないのか?」
「弱い魔族が悪いのよ」
「そ、そうだったな」
相変わらず徹底している。姉妹の憎しみは、個人ではなく、人間という種族に向かっている。ベルナティオに何かを言う事はなかった。
「なら、人間をいっぱい殺せば上がる?」
「そうですねえ。でも、技術発展のために、殺さないんですよね?」
「その通りだが……。戦争でも起きれば、相手国だけで済まないか?」
「相手国って事は、どっかの国に肩入れをする気?」
「一応、グリムの爺さんの客将だしな」
「エウィ王国ね」
「それに、俺が戦うわけじゃない」
「おっさん親衛隊か?」
「うむ。レイナスたちのレベルを上げるのに、使えそうじゃない?」
「そうだけどね。でも、戦争なんて起きないでしょ」
なにやら物騒な話をしているが、人間や魔族を殺してもレベルは上がる。知能があり、戦闘技術がある敵の方が効率はいい。身体能力の総合値なので、魔物討伐とは違った経験を積めば、上がりやすいというわけである。
「起きないなら、起こさせる」
「えへへ。ソフィアに怒られますよお」
「あ……。そうだった」
「甘ちゃんね。でも、貴方が選んだ女だからね」
「そうだ。身内が嫌がる事はやりたくない」
「なら、どうするのだ?」
「そりゃあ、果報は寝て待てだ」
「さすが、御主人様です!」
(どっかで、戦争でも起きないかなあ。そうなれば、ボーナスステージだ。みんなのレベルが、一気に上がりそうだな)
戦争が起これば、フロッグマンの群れを倒すよりいいだろう。人間が万単位で動く。戦争なので、いくら殺しても大丈夫だ。殺せば殺すほど、肩入れした国からは、感謝をされるだろう。
「御主人様が寝て待ったら、ずっと寝てると思いまーす!」
「あっはっはっ! その通りだな」
「まったく……。きさまは何をしたいのだ」
「おまえたちと、永遠に楽しく暮らしたいのさ」
「「っ!」」
この言葉に偽りはない。その一点の目標のために、動く事が必要なら動く。なるべく楽にだが……。
そのために幽鬼の森へ来た。身内の堕落の種が芽吹けば、その目標も達成できるだろう。そのために、戦争が使えるなら使うのだ。
(当面は、やる事がいっぱいある。とりあえず、シュンたちが来るまでは、自堕落生活を続けるとしよう。その後は、流れに身を任せてっと……)
「ぐー」
「あ、寝ちゃいましたあ」
恥ずかしい事を言ったので、これは狸寝入りだ。しかし、そろそろ
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