第196話 神への信仰2

「座りたまえ」


 シュンの目の前に居るのは、聖神イシュリル神殿の司祭だ。年齢は高そうで、デルヴィ侯爵よりは若いかもしれない。それでも、同じぐらいだろう。

 そして、言われた通り椅子へ座る。司祭とは、机を挟んで向かい合った。その司祭は、とても軽口がたたける相手ではなく、緊張をしてしまう。それも、デルヴィ侯爵を思い出させる。


「私は、聖神イシュリル神殿枢機卿。シュナイデンだ」

「枢機……。え? 枢機卿猊下!」

「驚かせてしまったようだ。すまないな」

「い、いえ!」


 シュナイデン枢機卿。聖神イシュリル神殿のナンバーツーで、教皇の次に偉い人物である。噂では、次回の教皇選で、教皇になると言われていた。

 その雲の上の存在の者が、シュンの目の前に居る。エウィ王国の貴族でも、頭が上がらない存在だ。デルヴィ侯爵と同様に、シュンなど吹けば飛ぶ塵芥ちりあくたである。


「ハンに用事があってな」

「そ、そうですか」

「うん? 緊張しているのか」

「そ、それは、もう……」

「緊張するなとは言わぬが、楽にしてくれて結構だ」

「わ、分かりました」


 どだい無理な話である。しかし、デルヴィ侯爵に続いて、偉い人との対面である。シュンは俗物だ。それは、自分でも理解している。

 金や女、世間の名声を第一にしている。そのため、その手の人脈がほしかった。この機を逃さないように、慎重に対応をする。


「聞く話によると、シュン殿は、信仰系魔法を習得したいと?」

「は、はい。今のままでは、成長に限界を感じまして」

「ほう。それで、神殿を頼ったと?」

「そ、そうです」

「ふむ」


 シュナイデン枢機卿は考え込んだ。ここで口を挟めるほど、シュンは馬鹿ではない。しかし、時間を無駄にしないために、自分も考え込む。


(いきなり枢機卿とか、勘弁してもらいてえ。だが、これもチャンスだな。心証をよくして、デルヴィ侯爵様と同様に、俺の後ろ盾になってもらいたい)


「シュン殿の事は、デルヴィ侯爵様から聞いております」

「は、はい」

「シュン殿は、少々不純であるな」

「そ、そんな事は」

「いえ、責めているわけではない」

「すみません」


 ラキシスの事を言っているのだろう。彼女を用意したのは、デルヴィ侯爵と神殿だ。しかし、これには頭を下げてしまう。まさか、この場で言われるとは思わなかった。


「結論から言うと、信仰系魔法は使えるでしょう」

「ほ、本当ですか?」

「私が、嘘を言うとでも?」

「い、いえ! すみません」


 反射的に謝ってしまった。仮にも枢機卿だ。嘘ぐらいは言うだろうが、それを指摘しては駄目だ。建前では、神に仕える者が、嘘を言うはずがない。


「神の奇跡は、神への信仰心の強さによります」

「は、はぁ……」

「見たところ……。シュン殿は、神を信じておりませんな」

「す、すみません」

「ですが、これから信じる事ができます」

「それはもう」

「よろしい。では、これを受け取りなさい」


 シュナイデン枢機卿は、机の引き出しから、銀色の何かを取り出す。そして、それをシュンへ渡してきた。


「これは?」

「聖印です。聖神イシュリルの信者の証である」


(キリスト教の十字架みたいなもんか。これは、円形のメダルのようだけどな。そういや、ラキシスも持ってたな)


 見た感じは、何の変哲もないメダルだ。チェーンが付いていて、首に垂らすようになっている。素材は銀のようだった。


「では、神の声を聞いてみましょう」

「え?」

「聖印を首へ垂らし、そのまま祈りなさい」

「は、はい」


 シュンは言われた通りにする。目の前のシュナイデン枢機卿は、両手を組み、目を閉じて祈りをささげている。同じようにすればいいだろう。

 部屋の中が静寂に包まれている。少しでも身じろぎすると、服のれる音が聞こえる。シュンには似合わない静寂さだ。


(シュン)


「はっ!」

「どうかしましたか?」

「い、いえ。女性の声が……」

「そうですか。それはよい兆候です。続けなさい」

「は、はい」


 誰かの声が、頭の中に聞こえた。シュンを呼ぶ声だった。まだ祈りは続けるようだ。シュナイデン枢機卿は、再び祈り始めていた。


(な、なんだ? まさか、これが神の声……)


 それからしばらく祈りは続く。長い時間、それは続いた。しかし、それもシュナイデン枢機卿が終わりを告げる。


「もう、いいでしょう」

「はい」


 そして、シュンは立ち上がる。姿勢を正して、右手を胸のあたりにドンと付けた。それを見ているシュナイデンは、満足そうな顔だ。


「聞こえましたか?」

「はい。デルヴィ侯爵様とシュナイデン枢機卿様に、お仕えするようにと」

「ほう。そこまでハッキリと聞こえましたか」

「はい。しかし、まだ力が足りないので、修行を続けろと」

「そうですね。私も同じ事を聞きました」

「あの声が、聖神イシュリル様ですか?」

「神に敬称は不要ですよ。逆に不敬にあたります」

「こ、これは、とんだ失礼を」

「いえ、シュン殿は異世界人ですので。それより、お座りください」

「は、はい」


 シュンは、聖神イシュリルから何を言われたのか。それは、シュンにしか分からない。シュナイデン枢機卿は、別の声を聞いている。被るものもあるが、その内容も、シュナイデン枢機卿にしか分からない。

 そして、勧められるまま椅子へ座り直す。先程の行動で、満足をしてくれているようだ。これにはホッとしてしまう。


「これで、神は信じられますね?」

「はい。直接の声を聞けば、誰でも信じましょう」

「後は信仰心の強さが、シュン殿を強くするでしょう」

「ありがとうございます」

「では、カードを見てください」

「カードですか?」

「称号が変わっているはずです」

「はい」


 シュンは懐からカードを取り出した。それを操作して、称号の欄を見てみる。すると、称号が変わっていた。「聖なる騎士」から「神聖騎士」だ。


「「神聖騎士?」」

「ほう。神に仕える騎士という事ですな」


 俗に言うテンペラ―である。日本では寺院侍史と呼ばれるが、基本的には、国ではなく神殿に仕える騎士の事を指す。

 似たような称号に「聖騎士」と呼ばれるパラディンがある。そちらは、信仰系魔法を修得した騎士であり、国に仕える。


「俺は異世界人だから、国に仕えているのですが?」

「聖神イシュリルが、お決めになる事です」

「それは?」

「今までは国の騎士団に所属です。それが、神殿になるという事」

「手続きとかは?」

「やっておきましょう。配属は、デルヴィ侯爵様の旗下で大丈夫です」

「分かりました。聖神イシュリルの御心のままに」


 これでシュンは、聖神イシュリル神殿に仕える事になる。いや、デルヴィ侯爵とシュナイデン枢機卿か。

 やる事は変わらない。しかし、騎士団の命令は聞かなくてよくなる。今後、ザインからの呼び出しもなくなるだろう。


「よろしい。他に、分からない事はありますか?」

「他の仲間は?」

「シュン殿の下に配属です。神聖騎士団は、国の騎士団より上です」

「なるほど。そ、その……」

「なんでしょうか?」

「ラキシスは」

「好きにしなさい」

「は?」

「シュン殿に差し上げます」

「いいのですか?」

「彼女も神の声を聞けば、その答えを聞くでしょう」


(これが神殿か? もっと、こう……。厳格なイメージがあるんだが。女を欲望のはけ口にしていいとか、大丈夫なのか? まあ、今までやってるけどよ)


「その顔は、に落ちないという顔ですね」

「え、ええ」

「聖神イシュリルが許可を出したので、それでいいのです」

「え?」

「われらは、神の声を実行するだけ。それが信仰というものです」


 神の声。使いようによっては、いかようにも使える。異教徒と認定して、人を殺す事もやれる。神の名の下に、なんでもやれる事と変わらない。


「そういう事ですか」

「物分かりがよろしいですな。しかし、分かっていると思いますが」

「はい。神の名を汚す事はしません」

「よろしい! 本日は素晴らしい日だ」

「はい。私も、そう思います」

「では、シュン殿が必要になれば呼びます。もう、いいですよ」

「畏まりました」


 シュナイデン枢機卿は、笑ってシュンを送り出した。シュンも笑顔だ。そして、その足でヤリ部屋へ戻る。そこには、当然ラキシスが居た。


「神の声は聞いた?」

「は、はい。私は、シュン様の……」

「なら、分かるな?」

「はい。御奉仕をさせていただきます」

「やれ」

「………………」


 これでラキシスは、シュンの玩具になった。好きにしていいのだ。連れ出す事も可能になった。神様からの贈り物なのだから。


「続けながら聞け」

「………………」

「俺らのチームに入ってもらうぞ」

「………………」

「チームメンバーには、バレないようにしろ」

「………………」

「俺を愛せ」

「………………」


 ラキシスに奉仕をさせながら、シュンは命令をしていく。女に愛してもらうのは、彼にとって当たり前だ。もちろん、自分は愛さない。

 そして、何度かの行為の後、神殿を出ていく。もちろん、彼女と二人でだ。ヤリ部屋は今後も使える。至れり尽くせりになって、ホクホク顔だ。


「そうそう、俺はアルディスとエレーヌを食っている」

「っ!」

「どちらかとやる時は、片方の相手をしておけよ」

「は、はい」


 シュンはラキシスの使い道を考えついた。彼女は命令には逆らえない。これは、彼女の信仰心なのだ。まったく、宗教とは恐ろしい。

 これで、旅に出る時は、女性に困らなくなった。フォルトへの嫉妬しっとも、少しは収まろうというものだ。そのまま二人は、自分たちの屋敷へ向かうのであった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

感想、フォロー、☆☆☆、応援を付けてくださっている方々、

本当にありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る