第195話 神への信仰1

「誰と行くかなあ」


 エルフの里へ招待されたフォルトは、屋根の上に寝転んで、カーミラの膝枕を堪能している。屋敷の見た目は幽霊屋敷だが、屋根が腐って足が抜けないように、補修は終わらせてあった。そして、外観を変えるつもりはなかった。


「マリとルリで、いいんじゃないですかあ?」

「順番だと、おっさん親衛隊なんだよな」

「でもでも、人間よりは魔族の方がいいですよお」

「人間は嫌われてるんだっけ」

「そうでーす! お互い、あまりいい感情は持っていないですねえ」

「迫害やら、偏見やらだっけな」

「人間は、自分たち以外を認めませんからねえ」

「そうだな」


 人間は、自分たちと見た目が違うだけで差別をする。もちろん例外は居る。しかし、多数の人間は嫌悪するのだ。同じ人間でも、人種が違うだけで、差別をするのだから。

 日本であれば、人間は生物の頂点だった。しかし、この世界では違う。それでも、考え方は同じであった。自分たちが頂点だと思い込んでいるし、そうあるべきと思っていた。まったく、救いようのない種族である。


「シェラを連れていくか」

「そういえば、一回も外へ出てませんねえ」

「そうだ、そうだ。そうしよう。彼女も、外でリフレッシュさせないとな」

「もう行きますかあ?」

「いや……。今、向かってもいいのか?」

「そうですねえ。あの人間どもが、また来るはずでーす!」

「言ってたな。空手家の限界突破か」


 勇者候補チームのアルディスは、ファントムを倒す必要があった。それは、幽鬼の森の奥地に生息する。

 再び幽鬼の森へ来るという条件で、一泊だけして帰っていった。これは、フォルトが残っていないと駄目だろう。


「エルフの里を往復するのと、どっちが早いかな?」

「あの人間どもの方が早そうですね! スケルトン神輿ですし」

「あっはっはっ! よく分かってるな」

「えへへ。ゆっくりと密着できて、最高ですよね」

「その通りだ。急いだって、しょうがないしな」

「じゃあ、エルフの里は後回しですね!」

「むむむむ。面倒だから、飛んで行くか」

「有翼人に見つかりますよお」

「そう言えば、そんなのも居るんだったな」

「私とティオは、見つかっちゃいましたあ」

「じゃあ、駄目だな」


(自堕落の時間が延びる分には、構わないな。そうなると、エルフは後回しかあ。まあ、身内の方が大事だ。俺の居ない時に、シュンたちと会わせたくない)


 彼女たちが、シュンにかれる事はないだろう。しかし、彼は実力行使に出た。レイナスへ、模擬戦を挑んだのだ。

 模擬戦自体はいいのだが、力を使おうと決めた事が問題なのだ。屋敷へも無断で侵入したと聞いたので、タガが外れていないかを危惧していた。


「若者のモラルか……」

「どうかしましたかあ?」

「いや、なんでもない」


 フォルトが召喚される前の日本では、若者のモラルが問題になっていた。他人に迷惑をかける事や、問題行動を起こす者が続出していた。

 しかし、それに関しては何も言えない。すでに、自身のモラルがない。言ったところで、説得力がなくなっている。

 それに、この道を引き返すつもりはなかった。それを踏まえた上で、シュンのタガが外れている事を危惧したのだ。


「暴走か?」


(タガが外れるなら、好きなだけ外れればいい。でも、俺の身内に危害を加えるなら、相応の報いはくれてやる)


「御主人様?」

「ああ、すまない。いい匂いがしてな」

「えへへ。女の子の匂いですよお」

「でへ。ぐりぐり」

「もっと、お願いしまーす!」


 カーミラの膝の上で頭を動かしながら、今後の事を考える。森を留守にする事が多くなるので、そのあたりの対応だ。

 まずは、レイナスとアーシャ、それにソフィアの人間組だ。彼女らが屋敷へ残る場合は、強者を置いておきたい。それに、連絡方法も必要だ。大罪の悪魔だと、三日しか出せないので、連絡には不向きだ。


「ニャンシーが居るが……。居るが……。まあ、後で考えるか」

「はあい!」


 これ以上考えると眠くなる。基本的に行き当たりばったりなので、そのうちに思いつくだろう。思いつかなかったら、改めて考えればいい。そんな自堕落を全開にしながら、カーミラといちゃつくのであった。



◇◇◇◇◇



「ぁっ! シュン様……」


 シュンたち勇者候補一行は、商業都市ハンへと戻った。バルボ子爵へフロッグマンを引き渡し、しばらくぶりの休養を取っていた。

 シュンは時間に余裕ができたので、ラキシスと会うために神殿へ来ていた。そこで用意されている部屋で、彼女を抱いていたのだった。


「ふぅ。気持ちがいいぜ」

「あ、あの……」

「どうした、ラキシス」

「頻繁に来られますが、お仕事は大丈夫なのですか?」

「ああ、今は休養中だ。もうしばらくは、ハンに居るぜ」

「そうですか。それと、何か聞きたい事があると?」

「そうそう。信仰系魔法についてだな」

「はぁ……?」


 シュンはレイナスに負けたことは言わず、信仰系魔法を習得したい旨を伝えた。彼女と再戦するには、どうしても必要だったのだ。


「司祭様に聞いてみませんと……」

「分からないのか?」

「シュン様は、神の審判を受けている身ですので」

「神の審判?」

「私を抱いた数だけ、罪を背負っているのですよ?」


(もしかして、犯した時の話か? 神の審判の立ち合いをするとかだっけ。あれって……。ラキシスは、本気にしてんのか! マジか!)


「そ、そ、そうだな」

「そのような方を、聖神イシュリルが、受け入れてくれるかどうか……」

「も、もしかして……。俺の事を、嫌ってる?」

「そんな事はありませんわ。ですが、私は神官です」

「………………」

「快楽に溺れるわけには参りませんわ」

「気持ちよくなかった?」

「そんな事はありませんわ」

「………………」


 シュンは、ラキシスを落としたと思い込んでいた。しかし、何かが違うようだ。どうやら、宗教を甘く見ていたようだった。

 神の試練として、シュンに抱かれている感じだ。シュンが神の審判を受けているように、ラキシスも神の試練を与えられたと思い込んでいる。


(マジか……。宗教って怖えな。まあ、俺がラキシスを好きになる事はないから、その体だけ堪能させてくれりゃいい。なら、今の状況は万々歳だ)


 シュンはホストとしての性分で、女性を愛さない。自分のために、利用する存在だと思っている。肉体的にも、精神的にもだ。


「じゃあ、聞いてもらえるか?」

「はい。少々、お待ちください」

「いや、その前に……」

「はい?」

「やらせろ」

「きゃ!」


 愛していないと分かると、ラキシスを道具のように抱く事にした。彼女は神の試練と思い込んでいるので、抵抗はしてこない。

 それ以外は好みなので、十分に欲望を満足させる事ができる。シュンにとっては、本当に都合のいい女性を、手に入れたようなものだ。


「俺を満足させろ」

「は、はい……」


 こんな感じである。もともとシュンは、女性を組み従える性格だ。俗に言う、ドメスティックバイオレンスである。今はそうでもないが、いずれ暴力を振るうようになるだろう。


「じゃあ、聞いてこい」

「はい。お待ちを……」


 行為の終わったラキシスが、部屋を出て、司祭の居る場所へ向かった。このヤリ部屋は神殿の中にあるので、すぐに戻ってくるだろう。それまでに、いろいろと考える事にする。


(もう遠慮は要らねえな。アルディスやエレーヌでは、やれねえ事をやってもらおう。そういうストレスは、たまってんだ)


 ニヤニヤとしているシュンは、心の中で本性を現す。しかし、すぐに別の事を考え始めた。ニヤけていた表情は消え、苦々しい表情へ変わる。


「くそっ! おっさんめ。俺を差し置いて……」


 一人になった事で、またもや嫉妬しっとをしてしまう。嫉妬しっとしたところでどうしようもないが、その感情が徐々に増幅されて、少しずつ殺意を覚えてくる。


(おっさんを殺すか? いや、無理か。あの魔族どもが居る。なら、一人になった時に……。俺まで洗脳されるか? くそ、後回しだ!)


 なにやら勘違いも混ざっているが、今の思いは心の中へ閉まっておく。フォルトの周りには、魔族が居るのだ。今のシュンでは、絶対に勝てない。人間のレイナスにすら負けたのだから。


(ちっ。ギッシュじゃねえが、俺も強くならねえとな。そのためには、神の力を借りてえ。頼むから、俺を受け入れてくれよ?)


 シュンは無神論者だ。おろらく、ほとんどの日本人はそうだろう。信じていても、昔からの神道信者や、仏教ぐらいか。それでも儀礼なようなもので、本当に信じているのは少数である。


「シュン様……」


 そんな事を考えていると、ラキシスが戻ってきた。今までとは違うストレスを発散したいが、すぐに豹変ひょうへんするほど馬鹿ではない。


「どうだった?」

「会われるようです」

「すぐに会ってくれんのか?」

「ええ。案内するようにと」

「なに! それは助かるぜ。なら、連れてってくれ!」


 シュンは大喜びだ。魔法が使えるようになっても、すぐに実践で使えるとは思っていない。慣れるのにも時間が必要だ。そのためには、一日でも早く使えるようにしたかった。それに、すぐに会ってくれるとも思っていなかった。


「こちらです」

「ああ。帰りに、もう一回な」

「は、はい……」


 ラキシスに連れられて、司祭が居る部屋へ向かう。さすがにヤリ部屋以外で、彼女にちょっかいは出せない。しかし、まだまだ抱き足りないのだ。

 アルディスが居ない事や、フォルトの屋敷に居た美少女たち。それを思うと、たかぶってしまって仕方がなかった。


「この部屋です」


 そして、司祭の部屋へ到着した。ラキシスが先に入り、入室の許可をもらってくる。司祭と言えば、モルホルトに会った事があるだけだ。神殿での身分が高いので、少々緊張をしてくる。


(まあ、デルヴィ侯爵様よりはマシだぜ)


「君がシュン殿か? 入りたまえ。ラキシスは出るように」

「はい。では、シュン様。私はこれで……」

「帰りにな」

「シュン殿は、こちらに来なさい」


 シュンは、司祭の部屋へ通された。ラキシスは退室を命じられて、部屋から出ていってしまった。司祭は、彼女が出ていったのを確認して、椅子から立ち上がる。そして、シュンを近くへ呼ぶのだった。



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