第193話 バグバットの提案2

 白い煙が周りを覆い隠す。辺りからは、ピチャンピチャンと音がしている。目を凝らすと、白い煙の中に人影が見える。フォルトは、その場にある小さな椅子へ座った。その人影に背中を向けて……。


「御主人様! ドーン」


 その人影は、フォルトの背中へ飛び込んできた。それを避ける事はしない。なぜならば、愛すべき小悪魔だったからだ。


「でへ。背中の柔らかいものがいいな」

「えへへ。すーり、すーり」

「いいぞ。その調子だ」


 背中へ飛び込んだのはカーミラだ。そして、白い煙は湯けむりであった。そう、ここは風呂である。食べて寝て、ダラけているだけではないのだ。当然、毎日風呂に入っている。身内のためにも、清潔感は重要だ。


「御主人様、タオルが邪魔なんですけど!」

「それでいいのだ」

「取っちゃ駄目ですかあ?」

「駄目だな」


 カーミラは、体にタオルを巻きつけている。着衣派のフォルトは、徹底しているのだ。おっさんとしての妄想力を、全力で発揮しているところだった。


(脱いでもいいが、脱いでは駄目だ。これは、分かるやつには分かるはず。見えそうで見えない、ギリギリがいいのだ。でへ)


「フォルト様、腕を……」

「うむ。苦しゅうない」

「ふふ。すりすり」

「じゃあ、あたしはこっち!」

「お、おう!」


 レイナスとアーシャも参加だ。いつもの光景である。フォルトは何もしない。体を洗ってもらうのだ。昔からの夢だったが、すでにかなっていた。


「リリエラちゃんは、生きてますかねえ」

「殺してやるな。あいつらがいるだろ」

「えへへ。強い魔物に襲われれば、死んじゃいますよお」

「そうなんだがな。それを怖がってたら、何もやれないからなあ」

「フロッグマンなら、平気っしょ」

「それは、アーシャだからだろ。あいつらだと……」

「互角じゃないかしらね」

「レイナスも、そう思う?」

「はい。でも、道を通るなら大丈夫だと思いますわ」

「そっか。商人たちは行き来してるしな」

「冒険者なら、仕事で慣れていると思いますわよ」

「まあ、最初だしな。ロストはさせないが……」


 三人の美少女が、体で体を洗ってくれる。なんとも、羨ましい光景だ。この光景で鼻血を出す若者は、とうの昔に絶滅しているはずだ。


(学生時代だと、男でも顔を赤くしたもんだがなあ。今の日本で、そんなウブな男なんているのか? いないだろうなあ)


 そんな事を考えながら、体を洗ってもらう。すでに奇麗になっているはずだが、なかなか離れようとしない。これには気をよくしてしまう。


「そう言えば、バグバットに聞くんだったな」

「御主人様。聞いてきましょうかあ?」

「いや、直接聞きに行くとするか」

「珍しいですね!」

「大家さんだしな。それに、借りを返せていないし」

「御主人様は、律義ですよねえ」

「ふふん。俺のアイデンティティだからな!」

「ところで、あたしたちの狩りはどうするの?」

「まだ、ゆっくりとさせて」


 まだまだ出かける気はない。重い腰は、何トンもありそうだ。これでは彼女たちの成長につながらないが、何かきっかけがほしいのだった。


「きっかけですかあ?」

「重すぎてな……。腰が」

「寝室じゃ軽いくせに」

「アーシャ、なんか言ったか?」

「いーえ! でも、あたしの限界突破も、そろそろだよ!」

「二十八だったか?」

「二十九になりましたあ。あたしだと、何を倒すんだろうね!」

「戦士系は、高い確率でワイバーンって言ってたよな」

「でも、あのアルディスさんだっけ? ファントムとか言ってたよ」

「空手家か。ファントムねえ」

「幽霊だって、幽霊! あたしは勘弁!」

「それは、フラグと言うやつじゃ?」

「あ……。今のなしぃ。それより、次はあたしね!」

「ちょっ!」


 アーシャが前に座ってきた。しかも、膝の上だ。これは、洗えと言ってるのだろう。積極的なアーシャのおかげで、赤面してしまう。

 それでも、彼女を洗い出す。それは、二人ほど順番を待っているからだ。そんな美少女たちのために、欲望のまま悪い手を動かすのであった。



◇◇◇◇◇



 シュンたちは、商業都市ハンへ向かい馬車を走らせる。途中で経由したアルバハードでは、アルディスを降ろした。執事に紹介された格闘家とともに、修行を開始しているだろう。


「ア、アルディスは平気かなあ?」

「大丈夫だろ。俺らも依頼を終わらせて、アルバハードへ戻らないとな」

「そ、そうよね。迎えに行かないと」


 御者をしているエレーヌの太腿を触りながら、シュンは考えていた。それは、レイナスの事だ。

 同レベル帯の彼女に負けた。それも、圧倒的な差でだ。フォルトを侮辱してからの彼女に、まったくついていけなかった。


(どうなってんだ? あんなに差があるとは、思えねえんだけどな。魔法か? スキルか? たしかに、魔法はすごかったぜ)


 氷属性魔法。シュンは、まったく手が出せなかった。遠距離攻撃のスキルを持っておらず、レイナスの遠距離攻撃で削られまくったのだ。

 そして、彼女は動きが素早く、剣技も鋭い。力比べに入ったまではよかったが、そこから先は、彼女の独壇場であった。


「俺も、魔法を覚えねえと駄目だな」

「レ、レイナスさんですか?」

「レイナスちゃんは、引き出しが多すぎる」

「そうですね。いろんな攻撃をしていました」

「独学で、なんとかなるもんなのか?」

「どうでしょう。やっぱり、教えを乞うのが一番だと思うよ」

「そっか。エレーヌじゃ駄目か?」

「んっ。触られると、危ないので」

「いいだろ?」


 荷台に居る者たちは、シュンを見ていない。アルディスを置いてきたので、エレーヌで欲望を満足させたいのだ。

 フォルトの家に居た、美少女たちのせいもある。アーシャは恋人だったので、とっくに抱いていた。それとは別に、他の女性たちに欲情していたのだった。


(くそ、おっさんめ。ぜってえ、寝取ってやっからな!)


「やさしく……。ね?」

「ああ、任せろ」

「そ、それで、私では駄目だと思いますよ」

「そうなのか?」

「教えられる魔法も少ないですし、教えたこともないですから」

「そっか。やっぱ、難しいもんなのか?」

「そうですね。ノックスさんなら、基礎を教えてもらえますよ」

「ノックスか。どうすっかな」


 シュンは考える。魔法の習得はしたいが、基本的には前衛だ。騎士として、前線に立つ必要がある。剣技をおろそかにしては駄目だ。

 レイナスの魔法を見たが、焼き付き刃でどうなるものでもなかった。反対属性の火属性魔法を覚えても、通用するとは思えない。


「それでも、基礎は習っておくべきか……」

「シュンは騎士なんだし、防御魔法とかはどうですか?」

「防御魔法か。そういや、魔法を軽減してたな」


(あのクソ魔族に向かってった時に、火属性軽減の魔法を受けたな。もしかして、あのおかげで死ななかったのか? もし、そうなら……)


 シュンは魔法に詳しくない。訓練も剣技ばかりしていた。座学で習った気がするが、よく覚えていなかった。

 そして、ルリシオンとの戦いを思い出し、炎属性軽減のよさを思い出す。炎の壁を突っ切った記憶がよみがえる。最後の『炎獄陣えんごくじん』は別格だったが。


「ノックス!」

「なんだい?」


 魔法に関しては、エレーヌよりノックスの方が詳しい。魔法学園を卒業した、優秀な魔法使いだ。そこで、彼に相談に乗ってもらう。


「防御魔法だと、誰に習えばいいんだ?」

「防御魔法? ああ、レイナスさんとの……」

「察しがいいな」

「なら、神官さんに聞いた方がいいかもね」

「神官?」

「防御魔法のエキスパートだよ」

「そうなのか?」

「信仰系魔法は、身を守る系統に特化してるしね」

「そっか。そうだよな」


 魔法でも防御魔法はある。しかし、修得は難しい。覚える術式が複雑すぎるのだ。初級程度ならいいが、それ以上になると修得が困難だ。

 なぜかと言うと、魔法使いの防御魔法は、信仰系魔法を模倣もほうしているからだ。神の奇跡と言うように、それを魔法へ落とし込むのだ。複雑になって当然である。


「と、いうわけさ」

「よく知ってるな」

「まあね。なんだかんだで、魔法学園を卒業したからね」

「でも、あれだよ?」

「どうした、エレーヌ」

「たぶんだけど、神殿に入信する事になるんじゃない?」

「そうなのか?」

「信仰系魔法の強さは、神への信仰の証と言うしね」

「なるほどなあ。俺は入れるのか?」

「さあ。バルボ子爵に相談してみれば?」

「そうだな。そうしよう」


 本来であれば、ザインに相談をしたい。しかし、商業都市ハンに拠点が変わっており、デルヴィ侯爵の下へ異動させられているはずだ。


「なんだあ? ホストは神を信じんのか?」

「この世界じゃ、実際に居るって聞いたぞ」


 シュンが魔法の話をしてるので、ギッシュが話しかけてきた。彼は強さに関して敏感だ。同じ勇者候補で、ライバルでもある。興味がいたのだろう。


「俺は誰にも頼らねえけどな」

「そうかよ。俺は使えるものなら、なんでも使うぜ」

「かぁ! 情けねえ。でもまあ、しょうがねえか」

「なんだよ」

「あの金髪に負けちまったしな」

「このっ!」

「おっと」


 ギッシュにからかわれたので、胸倉をつかもうとしたが避けられてしまった。軽い冗談だと分かっているが、負けたばかりなので少々悔しい。


「ホストは、それでいいんじゃねえか?」

「お? 珍しいな」

「俺から見ても、ちゃんとリーダーをしてんよ」

「明日は雨か?」

「けっ! チームの生存率を上げんのが、テメエの役割だろうが」

「そうだな」


 たしかに、ギッシュの言う通りだ。チームのリーダーとして、生存率をあげるためにはなんでもする。神を信じて生き延びるなら、いくらでも信じるのだ。


(まあ、俺が生き残るためだけどな。俺は死にたくねえ。あの時も、俺が死なねえために自分を選んだ。アーシャが死んでも、俺が生き残ればいい)


 基本的にシュンは、自分が大好きだ。ライバルになりそうなホストは、なにを使っても蹴落としていた。自分の彼女を使ってでもだ。指名をさせて、支払いをツケにさせる。それから彼女を蒸発させる。この手の事は、いくらでもやった。

 その甲斐があって、人気ホストとしての地位を不動なものにした。そして、人生を楽しんでいたのだった。自分が楽しむためには、なんでもやるのだ。


「神様が俺を受け入れるかどうかは、知らないけどな」

「きっと、大丈夫ですよ」

「エレーヌの御墨付きか。なら、平気かな」

「じゃあ、僕は休むね」

「あ、すまん。ハンに到着するまでに、もっと魔法の事を教えてくれ」

「しょうがないなあ。従者だしね」

「そう言うな。仲間だろ」

「調子がいいなあ。じゃあ、簡単なところからね」


 ノックスを復帰させて正解だったが、もっと座学を聞いておけばよかったと反省した。シュンは今後の事を考えながら、魔法の事を詳しく聞いているのだった。



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