第165話 ブロキュスの迷宮1
「おぬしらは、ブロキュスの迷宮へ向かうのか」
やっと本題に入った。このドワーフの集落から一日かけた先にある人工の迷宮がブロキュスの迷宮だ。地下十階層で構成され、魔物の巣窟になっている。
「そうよお。なにか、問題があるかしらあ?」
「問題と言うか、今は魔物の間引きをやっておる」
「あら、それはちょうどいいわね」
「間引き?」
ガルドの話によれば、ブロキュスの迷宮の魔物討伐をしている最中だった。間引きとは、魔物の数を減らして、スタンピードを起こさせない作業の事だ。
魔物は繁殖が早く、放っておくと迷宮や洞窟から溢れ出す。これがスタンピードと呼ばるもので、発生すると大変な騒ぎになるのだ。
そして、発生した地域で対処がやれなければ、さらに被害が大きくなる。そうなれば種族の存亡に関わってくるので、各種族が協力して対処をしているのだ。
「ふーん」
「そういうわけで、フェリアス全域から戦士を集めてやっておる」
「じゃあ、それが終わってから行けばいいのか?」
「マリとルリが居るなら、参加してもらいたいのう」
「参加か……。報酬とかはあるのか?」
「ない事もないがの。スタンピードが発生すれば、報酬どころではあるまい?」
(これは、一種のボランティア活動と言うやつか? でも、わざわざ参加する事はないよな。どうせ地下へ
「それって、誰かの指示を受けたりするのか?」
「まとめてるやつはおる。お主らの目的は、ミノタウロスじゃったな」
「そうよお。だから、奥深くまで行くわあ」
「地下三層まで進んでるようじゃが、遭遇したという話は聞かんな」
「なら、勝手に進んでいっていいかな?」
「うーむ。効率が悪くなる気がするがのう」
「俺たちは、もともと数に入ってないだろ?」
「そうなんじゃがな。マリとルリなら相当な戦力になるのだ」
ガルドが期待するのは、マリアンデールとルリシオンの力だ。姉妹が参加する事で、被害が抑えられる。魔物討伐は、無傷ではやれないのだ。
当然、死人も出る。参加する者たちは、貴重な人材だ。無駄に殺しては、毎回のように討伐へ参加する人数が減っていくだけである。ならば、せっかく戦力になる姉妹が来たのだ。使わない手はないという判断であった。
「でもなあ」
「マリとルリの性格は知っておる」
「なら……」
「では、なるべく多くの魔物を倒してもらえるかのう?」
「そうは言っても、魔物の分布は分からないぞ」
「それなら、現地の司令官に聞いてもらえれば分かる」
「ふーん」
(それぐらいならいいか。回り道をする気はないが、なるべく多くの魔物を巻き込んで倒せばいいだけかな?)
フォルトは考える。現地司令官の言う事を、聞くつもりはない。しかし、邪魔はしてほしくない。もちろん、討伐隊と歩調を合わせるつもりもない。
「じゃあ、なるべく多く倒す感じで」
「むぅ。まあ、いいじゃろ。ただし、他の討伐隊を殺すな」
「マリとルリも、それでいいか?」
「分かってるわよお。それぐらいの分別はあるわあ」
「ガルドは、私たちをなんだと思ってるのかしら?」
「ガハハハッ! 自分たちの胸に聞いてみろ」
「あはっ。善処するわあ」
姉妹はニヤニヤしているが、無差別に殺す事はないだろう。参加している討伐隊の者は、フェリアスの住人だ。敵対する気はないはずだ。
「で、その司令官は?」
「今回はエルフ族の番だから、やつだな」
「やつ?」
「森司祭のセレスじゃ」
「森司祭? ドルイドってやつか」
「それじゃ。弓の腕も天下一品じゃな」
「へえ。司祭で弓使いねえ」
「セレスへ手紙を書いてやろう。後は、やつと相談せい」
「それはありがたい」
(ドルイドのスナイパーかあ。しかも、エルフ。いいじゃないか。会ってみてからだが、ほしいかもしれないなあ)
「嬢ちゃんは、連れていかんのだろ?」
「クエス……。んんっ! 頼み事の最中だからな」
「そうか。服飾師を紹介してくれと言われておってな」
「できれば、頼みたいが?」
「紹介する約束じゃからな。おまえたちが戻るまで、あずかるか」
「ほう。なぜ、そこまでしてくれる?」
ガルドは、変わっているが、ドワーフの王様だ。リリエラと約束をしたらしいが、面識ができて間もない。そこまでする理由が分からない。ドワーフだからで片付けられないだろう。人間であれば、絶対に裏がある。
「ドワーフは約束を守る種族だからな」
「それだけ?」
「他に何がある。と、言うのは冗談じゃ」
「………………」
「嬢ちゃんのおかげで完売じゃからな。その礼じゃ」
「なるほど」
「それに、お主らが迷宮で頑張ってくれるだろ」
「頑張りはしないがな」
「ミノタウロスを倒すのだろ? 放っておいても頑張るわい。ガハハハッ!」
約束を守る種族だけなら、信用しなかっただろう。しかし、取引として考えれば分かる。それにマリアンデールとルリシオンの知り合いだ。ニャンシーも居るので、今は信用するのだった。
「なら、よろしく頼む」
「うむ。今日は泊まっていけ」
「そうか? 宿をとってあるが」
「ガハハハッ! 女将に使いを飛ばしといてやるわい」
「それなら、泊まらせてもらう」
まだ数人のドワーフを見ただけだが、なんとなく分かってきた。ドワーフは陽気で明るい。そして、頑固で律義だ。とても好感が持てる種族であった。
「リリエラ」
「はいっす!」
「クエストの続きをやっておけ」
「了解っす。で、でも……」
「どうした?」
「視線がイヤらしいっす」
「気にするな」
リリエラは、露出の激しいエルフスタイルだ。ドライアドに布を多めに付けた感じである。ドライアド自身が
「俺たちが戻るまでは、ガルド王の世話になっておけ」
「いいんすか?」
「いいって言ってくれたしな。気が引けるなら、適当に働けばいい」
「そうするっす」
「話はまとまったかの? 部屋を用意するから、夕食まで待っておけ」
「そうさせてもらう」
「悪いわねえ、ガルド」
「なに。昔は世話になったからな。その礼じゃ」
「世話をしたの?」
「ふふ。その話は、後でゆっくりとしてあげるわ」
「分かった」
それから用意された部屋で休み、食事をいただいて一泊する。そして、次の日の昼前に起きて、出発するのだった。
◇◇◇◇◇
「こっちで合ってるの?」
お約束のスケルトン神輿に乗って、原生林を進む。フォルトたち四人は、ブロキュスの迷宮へ向かっている最中だった。
「えへへ、合ってますよお。さっき、空から確認しましたあ」
「そうだったな」
スケルトンの指揮権をカーミラに渡しているので、向かっている方角は間違っていない。そして、魔物も寄ってこない。
なぜかというと、大罪の悪魔である、
そして、漆黒と鮮血を表す、黒と赤の天使の翼を六枚持つ。 髪は黒と白のメッシュのロングヘアーで、服装はボンテージである。女王様と呼ぶ男性が多いかもしれない。もちろん、最初に召喚した時の姿を、思い出す事はない。
「ルシファー」
「なんだね?」
「おまえとサタンだと、どっちが強い?」
「決まっているだろう? そんな、分かりきった事を聞くな」
「サ……」
「ふんっ!」
冗談を言おうとしたが、目の前に槍を突き付けられた。それで終わりと思いきや、ルシファーはスケルトン神輿より高く浮き上がる。
そして、上から目線で見下してきた。その口角は上がっており、不敵な笑みを浮かべているのだった。
「直接戦えば、私が負ける」
「ほう。
「私は集団戦に特化した悪魔だ。だから、負けるのだよ」
「へえ。サタンは個人戦向きか」
「そういう事だ。その空っぽの頭でも理解したか?」
「………………」
とても主人に向ける言葉ではない。しかし、不快には思わない。それは、自分の中の
(なんだかなあって感じ。でも、常にマウントを取ろうとしている姿が、かわいいな。欲情はしないが……)
「貴方、そんな悪魔を、ポンポンと出さないでもらえるかしら?」
「どうした、マリ?」
「魔人って事は隠すのでしょ?」
「そうだな」
「そんな悪魔を使役してるのを見られると、バレるわよ?」
「そ、そうだな!」
魔人という事を意識して隠していたが、最近は調子に乗り過ぎたようだ。これというのも、ローゼンクロイツ家を名乗った事と、大罪の悪魔を使役し始めたのが原因だ。ルシファーではないが、
「魔人だとバレると、どうなると思う?」
「あのね。魔王スカーレットは魔人なのよ?」
「魔族は知ってるし、勇者チームの生き残りも知ってるんだっけ」
「魔人の怖さを知ってる者は、少ないだろうけど」
「魔王の怖さは知ってるわあ」
マリアンデールとルリシオンの伝えたい事が、なんとなく分かった。魔人だとバレると、魔王にされてしまうのだろう。いくら魔王をやりたくないとしても、そう周りが見てくれない。
「
「魔導国家ゼノリスを、一夜のうちに滅ぼした魔人ねえ」
「一夜だったんだ」
「あれから噂すら聞かないけどね。現場を見た者は死んでるし」
「そのグリードを、魔王と呼んだ者も居たわよお」
「な、なるほど。そういう事か」
(やはり、魔人だとバレるわけにはいかんな。ただでさえ、ローゼンクロイツ家を名乗っているんだ。そこから魔王なんて格上げをした日には……)
「よし、ルシファー。消えろ」
「心にもない事を言うな。目的地の近くまでは、居てやってもいいぞ」
「今の話を聞いてたか?」
「弱者の戯言など聞こえんな。まあ、私に任せておけ」
「弱者……」
「それとも、消えて魔物を呼び寄せるか?」
「そうだった。とにかく、バレるな!」
「誰にモノを言ってる? 私はルシファーだぞ。ははははっ!」
「………………」
根拠のない
そして、ブロキュスの迷宮に近づいたところで、ルシファーを消す。消すのはおかしいと主張していたが、魔王にされたくない。それでも居座ろうとしたので、同意を取らずに、消したのだった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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