第164話 ドワーフ王ガルド3
安宿でダウンしているフォルトは、丸二日間眠り続けた。夢など見ない深い眠りだ。しかし、そう何日も眠れるわけもなく、三人の女性に起こされたのだった。
「御主人様! 朝ですよお」
「うぅ」
「さっさと起きなさい」
「うぅ」
「起きないのなら、いたずらしちゃおうかしらあ」
「う? 頼む」
「起きてんじゃないのよ!」
体に心地よい感触があったので、狸寝入りをしてみた。ルリシオンの言葉に
(しまった。もう少し寝てれば、いたずらされたのに……)
「んんっ! さあ、起きるぞ」
「起きてたでしょ」
「あっはっはっ! しかし、ドワーフの火酒はすごいな」
「だから、小指に付けて飲むといいわよおって言ったわよねえ」
「まあ、怖いもの見たさもあった。あんな一瞬でダウンするとは……」
「ドワーフは毎晩のように飲んでるけどねえ」
「さすがに、人間や魔族には卸してないだろ?」
「一部を卸してるわあ。魔族にも酒豪は居るしねえ」
「あれは、酒豪でも飲めない気が……」
「ふふ。普通のも、ちゃんと売ってるわよ」
「だろうな。そっちでよかったんだが……」
「貴方は見てて飽きないからね。どうするか見たかったのよ」
「そ、そうか。楽しんでもらえて何よりだ」
こうやって
「ふぅ。でも、二日酔いをしなくてよかった」
「スキルを自動で切り替えたと思いまーす!」
「ふむふむ。便利だな、魔人」
「便利って、貴方……。自分の体でしょ」
「そうなんだけどな。経験をして、初めて知るわけだしな」
「まったく、他人の体みたいに。それより、ガルドのところへ行くわよ」
「帰ってきたのか?」
「そうらしいわあ。さっき門衛が来て、教えてくれたわあ」
「ふーん」
ガルドとは、放浪癖のあるドワーフの王だ。フラっと出かけてはフラっと戻ってくる。それを臣下も黙って見過ごしてるあたり、言っても聞かないのだろう。それで王様なのだから恐れ入る。
「どこに居るの?」
「屋敷じゃない? ほら、酒造所の近くよお」
「あの辺か」
「あの酒造所は、ガルドの酒造所だしねえ」
「さすがはドワーフ王。酒と絡んでるな」
「私たちが来てる事は伝わってるから、さっさと向かうわよお」
門衛も律義である。あんな適当な口約束で、知らせてくれるとは思っていなかった。暇だからといってもだ。
そして、宿を出てガルドの屋敷へ向かう。酒造所の前を通るので、またまた酒の匂いが漂いだした。今後、火酒を飲む事はないだろう。
「ところで、俺はどうやって帰ったんだ?」
「カーミラが背負って帰ったわ」
「あ……。悪いな、カーミラ」
「大丈夫ですよお。気持ちよかったですから」
「気持ちよかった?」
(酔いつぶれていても、この悪い手が動いていたようだな。実にけしからん。俺の意識がある時だけにしてくれ)
「フォルトぉ。着いたわよお」
「あ、ああ」
わしゃわしゃと片手を動かしていると、ガルドの屋敷へ到着したようだ。城ではないが大きい。デルヴィ侯爵の屋敷よりも大きいかもしれない。
外観に派手さはなく、落ち着いた雰囲気を
「いい屋敷だな。芸術というのか?」
「そうねえ。ジグロードでも、お目にかかれない屋敷ね」
「へえ。マリやルリの屋敷はどうだったんだ?」
「あはっ。私たちの屋敷も負けてないわあ」
「ドワーフに造らせたからね。今は壊されてるだろうから、適当に想像して」
「そっか。それはもったいなかったな」
「あそこから入れるわあ」
ガルドの屋敷は壁に囲まれている。中へ入るには、門にある警備の詰め所に声をかける必要があるようだ。そのあたりは、王国の貴族などと同じだった。
「あれ?」
その警備に声をかけようとした瞬間、後ろから声がかけられた。聞き覚えのある声で、思わず振り向く。
そこには、アルバハードへクエストに出していたリリエラが立っていた。その隣には、一人のドワーフが居る。
「マスター。こんなところで、何をしてるっすか?」
「リリエラか。それはこっちのセリフだな。クエストはどうした?」
「クエスト中っす!」
「そうなのか?」
「なんじゃ、お主は嬢ちゃんと知り合いなのか?」
リリエラを問いただしていると、隣のドワーフが話しかけてきた。見た事もないドワーフだが、どのみち見分けがつかない。
「リリエラ、このドワーフは?」
「ガルドさんっす!」
「ガルド? ガルドって言えば……」
「来てあげたのだから、屋敷に居なさいよ」
「あはっ! ガルドは何をしてるのかしらあ?」
「なんじゃ? マリとルリも一緒ではないか」
やはり、ドワーフ王のガルドで間違いがないようだ。なぜリリエラと一緒にいるかは謎だが、このドワーフに会うのが目的だ。
「マリとルリが、会った方がいいと言うものでな」
「お主、人間じゃろ? マリとルリじゃと?」
「まあ、その話も後でしよう」
「いいじゃろう。中へ入れ。嬢ちゃんもな」
「マスター?」
「いいぞ。リリエラにも話を聞きたいしな」
「分かったっす!」
(なんだか変な組み合わせだ。でも、リリエラが面白い展開になってるな。まさか、ドワーフの集落で会うとは思わなかったが……)
フォルトたちはガルドに連れられて屋敷へ入る。王自らが帰ってきたので、警備が素通りである。何も言わなかったところを見ると、頻繁に抜け出しているのだろう。
「では、ここで待っとれ。うまい酒でも入れてやる」
「い、いや。昼間から酒は……」
「そうか? なら、小一時間ほど待っとれ。用事を済ませてくるわい」
カルドはそれだけを言うと、フォルトたちを客室へ押し込んだ。文字通り押し込んできたのだ。なんとも豪快である。
「おっとっと」
「ガハハハッ! 後で茶でも入れさせるわい」
「ちょっと、ガルド。早くしなさい」
「分かっとる分かっとる。ガハハハッ!」
「放浪癖か……。なんとなく分かる気がする」
「でしょう? じゃあ、中で待ってましょうか」
五人になったフォルトたちは、客室でくつろぐ。小一時間と言っていたので、ゆっくり待つことにした。その間にリリエラと話す。
「なぜ、リリエラがここに?」
「報告しちゃっていいっすか?」
「あ……。そ、そうだったな。最後にまとめてだもんな」
「はいっす!」
(そうだった。クエストの達成報告は、家で聞いて楽しみたいんだった。でも、会っちゃったしなあ。それに、あの袋はなんだ?)
どうしようかを迷っていると、リリエラの持っている袋が目に入った。それほど大きくはなく、小脇に挟んでおける程度のものだった。
「リリエラ、それは?」
「どれっすか?」
「その袋」
「あ、これもっす」
「ああ、クエストの何かか」
「はいっす!」
「うーん」
「聞いちゃえば?」
腕を組んで悩んでいると、マリアンデールが口を挟んできた。確かに聞いた方が早いのだが、もったいない気もする。
「でもなあ」
「いつも通り優柔不断ね。どうせ、ガルドが来るまで暇よ?」
「それもそうだな。じゃあ、リリエラ。報告をしろ」
「いいんすね?」
「いいっすよ」
「マネしないでほしいっす。じゃあ、報告するっす」
1.バグバットの執事から、服飾師を紹介してもらう事になる。
2.執事の用事を済ませるため、先に商人ギルドへ向かう。
3.そこでガルドと出会い、販売する服を見せてもらう。
4.目的の服だったが、値段が高く購入できない。
5.ガルドから、服を販売する手伝いを提示される。
6.執事に紹介される服飾師を断る。
7.手伝いを無事に終え、その報酬として服をもらう(クエスト達成)
8.ガルドから服飾師を紹介してもらう事になる。
9.ガルドとともにドワーフの集落へ到着。(現在)
「以上っす!」
(アルバハードへ置いてきた時から、そんな事があったんだな。でも、王様がアルバハードで出張販売だと? どんだけ遠出……)
リリエラの報告よりも、ガルドの放浪癖の方にインパクトがあった。王様なのに、一人でアルバハードへ行っていたという。よく止められなかったなと、違う意味で感心してしまう。
「そ、そうか。でも、ドワーフの王って知ってたか?」
「知らないっす。さっき、聞いたっす」
「………………」
「ど、どうしたっすか? なにか問題があったっすか?」
「い、いや。で、その脇に抱えてるのが、その服か?」
「そうっす。一部のエルフが着るらしいっす」
「ふむ。見せてみろ」
「は、はいっす……」
リリエラは顔を赤くして、袋から服を取りだした。そして、広げて見せた。その服を見て、思わず目を見開いてしまった。
「そ、それは……」
「これが、エロカワっすよね?」
「近いがな。エロだ」
「やっぱりっすね」
一部のエルフが着る服という話だったが、デザインを抜きにすれば露出が多い。アーシャの描いている絵を想像して、重ね合わせてみる。
すると、狙っていた通りの服だ。これには心が躍ってしまう。さっそくフォルトは、リリエラへ命令をした。
「着替えてみろ」
「え?」
「その服を着てみろ」
「ええっ! マスターは、えっちっす!」
「え、えっち……」
「そうっす! ここで着替えろなんて……」
(そ、そうか。リリエラは、まだ身内じゃなかったな。これこそ、セクハラ以外のなにものでもない。だが、しかし!)
「やれ」
「えええっ!」
「カーミラ、俺に目隠しを」
「はあい!」
カーミラを自分の足に乗せて、柔らかい二つのもので目をふさぐ。感触が素晴らしいが、それに酔っている場合ではない。
「よし、いいぞ」
「わ、わかったっす! カーミラ様、動いちゃ駄目っすよ?」
「はあい! 御主人様、むにゅむにゅ」
「うほっ!」
そのままカーミラを堪能していると、客室の入り口から声をかけられた。
「なにをしておるんじゃ?」
「でへ。っと、誰だ」
「ワシじゃ、用事を済ませて戻ってきたわい」
別れたばかりだと思ったが、ガルドは急いでくれたようだ。今少し堪能したかったが諦める事にする。カーミラを横へ座らせて、目をふさいでいた柔らかいものをはずす。
「リリエラ?」
「はいっす」
「なんだ、もう着替えたのか」
「当たり前っす! マスターはいやらしいっす」
「それにしても……。隠すな!」
リリエラは普通の服だったので、着替えるのは早かった。しかし、恥ずかしいのだろう。着ていた服で前を隠していた。
フォルトの命令で、その服が降ろされる。すると、リリエラのよさが引き出されていた。もっとデザインに凝れば、完璧に仕上がるだろう。
「は、恥ずかしいっす」
「うむ。その服がなあ」
「ガルドさんからの報酬っす」
「なるほど」
「なんじゃ? お主も服に興味があるのか?」
それを聞いたフォルトは立ち上がり、ガルドと向き合う。とても興味がある。しかし、その話をする前にやる事があった。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな」
「うむ。ワシがドワーフ族の王、ガルドじゃ」
「俺は、フォルト・ローゼンクロイツだ」
「ローゼンクロイツ? クローディアの嬢ちゃんが言ってたやつだな」
「そのエルフなら、三国会議で会ったぞ」
ガルドは正装に着替えてきたらしいが、やはり見分けが難しい。それでも、マントや王冠を身に着けているので、王様には見える。
フォルトは自己紹介が終わったところで話を始める。まずは、お互いの疑問点を、解決しておくのだった。
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